弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

旭川地方裁判所令和7年4月11日判決、10年後の提訴でも逸失利益を認める

旭川地裁令和7年4月11日判決(上村善一郎裁判長 司法修習55期)は、10年後の訴えで逸失利益を認めたとのことです。
12年前に市立旭川病院で、体に埋め込まれていた脊髄を刺激する装置を交換する手術を受けた当時45歳の男性が右手や右腕などにしびれや痛み、筋力の低下などが光視症が生じた事案で、2年前に提訴された件で、判決は、「病院の医師らには注意義務違反があり、男性には手術によって後遺障害が残ったと認められる。訴えは時効の成立によって退けられるべきだが、男性の逸失利益を認めるのが相当だ」などどとして、旭川市に対して2500万円余りの賠償を命じた、とのことです。

NHK「手術で後遺障害 市立旭川病院に2500万円余賠償命じる判決」(2025年4月11日)ご参照

報道の件は私が担当したものではありません。
逸失利益は、基本的に後遺障害の症状固定日の翌日から起算して10年と考えられていたと思いますが、この旭川地裁の判決は、1つの債務不履行から生じる請求権であっても、逸失利益については時効の起算点を個々に構成したのでしょう。興味深い判決です。
ちなみに、最高裁第三小法廷令和3年11月2 日判決は、不法行為における短期主観的消滅時効の起算点をについて、「交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても、被害者が、加害者に加え、上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行するものと解するのが相当である。なぜなら、車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは、これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても、被侵害利益を異にするものであり、車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は、身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権であると解されるのであって、そうである以上、上記各損害賠償請求権の短期消滅時効の起算点は、請求権ごとに各別に判断されるべきものであるからである。」と判示しています。

上記旭川地裁令和7年4月11日判決は、最高裁判決の事案とは異なり身体障害という1つの法益侵害の事案です。債務不履行の債権についてですが、逸失利益請求権の時効の起算点を個々に判断する構成をとったのではないでしょうか。
何れにしても正確に理解するために判決文を読みたいです。

(ご参考)

債務不履行の債権の消滅時効について、現行民法は次のとおり規定しています。

第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

第167条
 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。

債務不履行では「権利を行使することができる時」が客観的起算点です。
債務不履行では「権利を行使することができることを知った時」が主観的起算点です。

経過規定があり、「施行日前に債権が生じた場合」は旧民法が適用されます。
旧民法は「生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」を別扱いにしていません。
旧民法には、167条に相当する規定はなく、166条1項1号に相当する規定もありませんでした。
166条1項2号(客観的起算点)に相当する規定のみでした。旧民法では、債務不履行の債権について権利を行使することができる時から10年の消滅時効が規定されていました。

不法行為の時効について、現行民法は

第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

と規定しています。

不法行為では「損害及び加害者を知った時」が主観的起算点です。

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20250411/7000074701.html


谷直樹

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by medical-law | 2025-04-13 09:17 | 医療事故・医療裁判