「『持続可能な周産期医療体制のあり方』に関する抜本的検討の場 早期設置のお願い」
「周産期医療従事者は、母子の生命と健康を守るため、国民の理解に基づき、国・地方自治体とともに全力を尽くしてまいりました。国民が求めている安全で安心な地域分娩環境を、全ての地域で高水準に達成するためには、産科診療体制を確保するだけではなく、新生児科、麻酔科、救急医療等の広範な領域との密接な連携体制を構築する必要があります。そのような体制構築に向けた努力の結果、これまでのところ、わが国の周産期医療は、周産期死亡率、妊産婦死亡率等の公衆衛生指標において、世界有数の成績を残しています。私どもは、これからも、安全で安心な周産期医療を安定して提供できる体制を維持し、発展・向上させたいと心から願っています。
しかし、わが国の周産期医療を取り巻く状況は急速に変化しており、以下の理由により、もはやこれまでの取組みの継続では、近い将来に、現行の周産期医療体制の維持や確保が不可能となり、重大な破綻が生じ得ると考えています。
厚生労働省は、既に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」の資料の中で、「中長期的な視点に立った今後の我が国の周産期医療提供体制のあり方については、他の診療科とも関わる地域の医療提供体制全体のバランスの中で捉える必要があり、今後、地域医療構想や医療計画に関する検討の場において、本検討会の意見も踏まえ、検討していく」という方向性を示していますが、これまでのところ、その具体的な進め方については明らかになっていません。
周産期医療は医療計画の 5 疾病 6 事業の一つですが、高齢者の割合が増加し医療需要の増加が見込まれているその他の疾病及び事業とは性格が大きく異なる領域であり、小児医療領域とともに、出生数の急激な減少という状況下においても地域における確実な医療提供が求められる領域です。
今こそ、国民に、周産期医療の重要性および特殊性を認識していただくとともに、現在の危機的状況についてより深く理解していただくことが重要であると考えられることから、「地域医療構想や医療計画に関する検討の場における検討」だけでなく、わが国の将来の周産期医療体制のあり方を、関連領域の専門家と市民代表とともに幅広く検討する場を設け
ることが必要であると考えます。
つきましては、わが国の周産期医療の専門学会・団体として、『持続可能な周産期医療体制のあり方』に関する抜本的検討の場を早期に設置していただき、令和 8 年度の診療報酬改定、令和 9 年度の第 8 次医療計画の中間見直し並びに第 9 次医療計画に向け、本件に関わる医療計画、地域医療構想、医療保険制度等とも連携した検討を開始していただくことを要望します。
【要望理由】
1. 働き方改革推進に伴う周産期医療現場の医師の配置や勤務条件の変化や関連領域の診療体制の変化が、周産期医療提供に及ぼす影響を検討する必要があります。
2. 急速な出生数の減少が地域周産期医療体制に及ぼしている影響を、医療計画整備指針、周産期医療体制の構築に関する指針等に反映させる必要があります。
妊産婦への影響:出生数の減少は、その地域の分娩取扱施設の減少につながることから、結果として、その地域の妊産婦にとり、分娩取扱施設へのアクセスの悪化をもたらします。分娩取扱施設へのアクセスに課題を抱える地域の妊産婦に対し、包括的な支援策の必要性が増大しています。
産科診療所等の状況:わが国の出生数の前年比の減少率は 2016 年以降 2%以上となっており、2022 年、2023 年は 5%以上となっています。出生数の減少率は 2020年以降、分娩取扱医療機関の減少率を上回っています。分娩取扱数において、現場は、もはや「集約化・重点化」から「診療の縮小」に転じているのが実情であり、産科診療所等、産科診療が中心の施設の財務状態の急激な悪化が懸念されます。
周産期母子医療センターの状況:周産期母子医療センターが設置されている大規模施設は、コロナ禍以降、病院全体の財務状態が悪化しており、取扱症例数の減少が見込まれるセンターへの手厚い人員配置に対する負担感が増大しています。
3. 重症産科症例の診療体制上の課題を検討する必要があります。
母体・胎児集中治療室の医師配置要件については、以前より現場の実情との乖離が指摘されています。周産期母子医療センターにおける重症産科症例の診療体制について、抜本的な検討が必要と考えられます。
【わが国の周産期医療の専門学会・団体として検討をお願いしたい課題】
1. 周産期医療の重要性・特殊性に係る国民の認識を深めるための方策について
2. 分娩取扱施設の集約化・重点化のあり方について
3. 妊産婦の医療機関等への受診に伴う負担の軽減策について
妊婦健診:セミオープンシステム、ICT を活用した遠隔健診等
通院・搬送手段の確保:行政による支援策メニューの拡大(タクシー・救急車・ド
クターヘリ等の活用を含む)
先行事例の全国展開策
4. 重症産科症例の診療体制の見直しについて
5. 周産期医療に従事する医師を確保するための方策について
以 上」
谷直樹
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