徳島弁護士会、「国際刑事裁判所(ICC)の独立性・公平性を堅守することを求める会長声明」
国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)は、20世紀に多数の児童、女性及び男性が人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶する残虐な行為の犠牲者となったことを背景に、「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」たる、ジェノサイド犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪の四つの犯罪(core crimes:コア・クライム)について、その責任を負うべき個人に対して刑事責任を追及するために設置された常設の国際刑事司法機関(裁判所)である。
ICCの使命は、「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」の被害者の苦難に光を当て、法に則った司法手続を行うことで、人類全体の平和と安全、そして人間の尊厳を維持することにある。
日本は、2007年のICC加盟以来、これまで3名の裁判官(現在のICC所長である赤根智子判事を含む)や職員を輩出し、最大の分担金拠出国となるなど、ICCの活動を支援し、その使命を実現すべく人材面・財政面で多岐にわたる貢献を行ってきた。
ところが近年、ICCに対する非協力的な活動や制裁が活発化しており、ICCの活動が重大な危機に直面する事態となっている。
具体的には、2023年3月、ICCはロシアのウクライナ侵攻に関連する一部の行為についてコア・クライムに該当するとして、ロシアのプーチン大統領らに対する逮捕状を発付した。これに対し、ロシアはICCの検察官や当該逮捕状の発付に関与したICC予備審判部の判事ら(赤根智子現ICC所長は当時、ICC予備審判部判事であった)に対する逮捕状を発付し、指名手配とした。
さらに2024年11月、ICCはパレスチナ自治区ガザにおける武力紛争に関連する一部の行為についてコア・クライムに該当するとして、イスラエルの指導者らに対し逮捕状を発付した。これに対し、米国は2025年2月、ICCの職員らに対する資産凍結や入国禁止、ICC関係者との資金授受の禁止等を内容とする大統領令を発した。
このようなICCに対する非協力的な活動や制裁は、法に則った司法手続きによって刑事裁判権を行使する司法機関に対し、人による不当な圧力・干渉を加え、国際秩序である司法の独立や法の支配を歪めかねないものであり、ICCの独立性・公平性を損なわせるものである。さらには、ICCの有する役割である「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」の責任を追及し、人類全体の平和と安全、そして人間の尊厳を維持するという極めて重要な活動を停滞させかねない。
赤根智子現ICC所長は、上記米国の大統領令に対し、「ICCの独立性と公平性を損なうものであり、深い遺憾の意を表明する」との声明を発表した。
また、英国、フランス、ドイツなど ICC締結国125カ国及び地域のうち79カ国及び地域も、「法の支配を脅かす」との共同声明を発表した。
しかしながら、日本政府は上記のとおりICCの使命を実現すべくこれまで支援活動を行ってきたにもかかわらず、この共同声明に加わらなかった。
日本国憲法は前文において国際協調主義を掲げ、98条において国際法規の遵守を定めている。ICCは国際法に基づき存立する司法機関であり、日本国憲法の定めや理念に照らしても、日本政府が上記共同声明に加わらなかったことは看過できない問題である。
よって当会は、日本政府に対し、以下の事項を強く求める。
1.ICC締結国として、ICCの司法判断を支持し、徹底的に尊重することを対外的に明確に表明すること。
2.ICCに対するあらゆる非協力的な活動及び制裁の実施に明確に反対する立場を表明し、既に発動された非協力的な活動及び制裁を直ちに撤回するよう求めるとともに、新たな制裁等が発動されないよう各国に働きかけること。
3.今後もICCの使命を実現すべく、ICCの活動を積極的に支援し、人材面・財政面から貢献を継続すること。
同時に、当会は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門家団体として、ICCの取組を広く支援することをここに改めて表明する。
谷直樹
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