女性差別撤廃条約批准 40 年にあたって
「日本が「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(いわゆる女性差別撤廃条約)を批准したのは、1985年6月25日です。本年は、それから40年の節目にあたります。この間、我が国においても、条約の趣旨に則り、女性の権利の保障と差別の是正に向けた取組が一定程度進められてきました。
近年では、性暴力被害者の声を反映した刑法改正が実現し、2023年には不同意性交等罪が新設されました。これにより、被害者が明確に拒否の意思を示すことが困難な状況下であっても処罰が可能となるなど、刑事司法における被害者の保護が一歩前進しました。また、2022年には婚姻開始年齢が男女ともに18歳に統一され、2024年には女性に限って定められていた再婚禁止期間が全面的に撤廃されました。これらの民法改正は、法制度上の男女平等を実現する重要な一歩であり、条約の実現に資する成果として評価されるべきものです。
しかしながら、こうした前進にもかかわらず、日本におけるジェンダー平等の実現は依然として不十分であり、構造的な課題が残されています。2025年6月12日、世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数において、日本は2024年と同順位の118位(146か国中)と発表されました。特に政治分野及び経済分野における女性の参画の遅れが顕著であり、国会議員や企業の管理職に占める女性の割合はいまだ低水準となっています。また、雇用・労働の分野における男女間の賃金等の格差も、依然として解消されていません。これは、制度的整備の遅れにとどまらず、政策の実効性の欠如や、社会的・文化的な慣行の根強さといった構造的要因の存在を如実に示しています。
国連女性差別撤廃委員会は、我が国に対しこれまで繰り返し勧告を行ってきました。政府による第9回報告に対する2024年10月の総括所見においては、女性の政治参画を促進する暫定的特別措置の一環として、国会議員に立候補する際に必要な供託金(300万円)の削減が勧告され、重要なフォローアップ項目として明示されました。
また、これまでの総括所見において繰り返し指摘されてきた、民法750条が夫婦同姓を義務付けている問題は、当会としても深刻な課題であると捉えています。現行制度の下では、婚姻に際して夫婦がいずれかの姓を選択しなければならず、実際には9割以上の女性が改姓を余儀なくされています。これは、個人の尊厳やアイデンティティ、職業上の不利益に深く関わる問題であり、性別に基づく構造的差別の典型例といえます。夫婦別姓訴訟に対する2015年及び2021年の最高裁の判決・決定は、現行制度を違憲ではないとしつつも、立法府による議論の必要性を指摘しましたが、その後も制度改正に向けた具体的な進展は見られず、現在、第三次夫婦別姓訴訟が提起されるに至っています。
さらに、女性差別撤廃条約の司法的実効性の欠如も看過できない課題です。我が国では、条約の国内的効力に関する法的基準が不明確なままであり、裁判実務において条約の規定が援用・適用される例は極めて限られています。とりわけ、前述の夫婦別姓訴訟においても、最高裁において女性差別撤廃条約に関する判示が正面からされることはなく、国際人権法としての意義が十分に司法の場に反映されているとは言い難い状況にあります。また、個人が条約違反を国際的に訴える手段となる選択議定書(個人通報制度)も未だ批准されておらず、国内救済手段が尽きた後の救済ルートが閉ざされたままであることも深刻な問題です。
女性差別撤廃条約は、単なる法形式上の平等ではなく、実質的な平等の実現を各国に求めています。批准から40年となる今こそ、日本はこの国際的責務を真摯に受け止め、条約の理念に基づいた抜本的な法制度改革を推し進めるべきです。 当会としても、今後も引き続き、すべての人の人権が等しく保障される誰一人取り残さない社会の実現をめざし、女性差別の撤廃に取り組むとともに、政府及び立法府に対し、条約の趣旨を踏まえた実効的な制度改革を強く求めていく所存です。」
谷直樹
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