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弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

佐賀県弁護士会が佐賀県警科捜研技術職員によるDNA型鑑定での不正行為い対し会長声明

佐賀県弁護士会は、2025年9月10日、「佐賀県警科捜研技術職員によるDNA型鑑定での不正行為に対し最大限の非難をするとともに、不正行為の詳細と調査結果を開示し、第三者による調査を求める会長声明」を発表しました。

「佐賀県警科捜研技術職員によるDNA型鑑定での不正行為に対し最大限の非難をするとともに、不正行為の詳細と調査結果を開示し、第三者による調査を求める会長声明

本年(2025年)9月8日、佐賀県警察(佐賀県警)は記者会見において、科学捜査研究所(科捜研)に所属する技術職員が7年余りにわたりDNA型鑑定で実際は行っていない鑑定を行ったように装う等虚偽内容の書類を作成する等の不正行為(以下「本件不正行為」という。)を繰り返していたことを公表した。佐賀県警によると、本件不正行為は130件確認され、うち16件の鑑定結果は証拠として佐賀地方検察庁に送られていたとのことである。

虚偽証拠による裁判はそれ自体が再審事由となるものであり(刑事訴訟法435条1号)、虚偽証拠の作出、顕出は憲法の保障する適正手続をないがしろにし、刑事訴訟法の目的である事案の真相を明らかにすることを妨げる行為であって、当該証拠の捜査・公判への影響の有無や程度を問わず到底許されるものではない。特にDNA型鑑定などの科学鑑定は捜査の基礎となる情報
であり、その内容や結果が信頼されるのは高度の専門性と中立性に担保されるものであるが、本件不正行為はかかる科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものであって、前代未聞かつ極めて重大な不祥事である。本件不正行為は、確認された130件のみならず、佐賀県警科捜研が行った科学鑑定すべてに対する信頼を失墜させ、刑事司法における適正手続や真実発見を害する行為であって、弁護士会として最大限の非難を行うものである。

また、報道によると、佐賀県警は本件不正行為につき再鑑定の実施や佐賀地方検察庁・佐賀地方裁判所の協力を得て調査を行い、本件不正行為すべてにつき捜査・公判への影響はなかったと説明しているが、捜査機関内部のみで実施された調査結果に到底信を措くことなどできない。各事件の元被疑者・被告人やその弁護人であった者に対する調査はいっさいなされておらず、元被疑者・被告人及びその弁護人であった者のほか、被害者等の関係者への説明や謝罪もなされていない。このように内部調査のみによって問題が無かったと結論付けたことは、本件不正行為の重大性を見誤っているほか、佐賀県警の組織全体の適正手続遵守の意識の低さが如実に表れており、刑事司法軽視も甚だしいといわざるを得ず、極めて遺憾である。

さらに、DNA型鑑定は被疑者の特定や犯人との同一性を証明するうえで極めて有力な証拠とされており、仮に本件不正行為による鑑定結果が公判に証拠として提出されておらず、あるいは終局処分の決定に使用されていなかったとしても、当該鑑定結果の存在及び内容が個々の捜査や被疑者の身体拘束の判断に影響を及ぼした可能性は否定しがたく、佐賀県警・佐賀地方検察庁による「捜査や公判に影響はない」との見解はおよそ信じがたい。そして、刑事司法における当事者である元被告人やその弁護人であった者に対する調査をいっさい行わずに、いわば身内だけで出された結論であって、そもそもの公正さを欠き、およそ信用に値しない。

また、報道によれば、佐賀県警は実際には鑑定せず過去の資料をもとに「DNA型が検出されなかった」としていた事例では「再鑑定の結果でも検出されなかった」と説明し、実際とは違う数値を添付していた事例でも上司の決裁を得やすくするため鑑定結果に影響しない範囲だったとし、いずれも捜査への影響がないとの見方を示したとある。

しかしながら、再鑑定の実施にあたり鑑定試料が残存していたのか、鑑定試料が残存していたとして保存状況は適切だったのか等
再鑑定が適正になされたかどうかの情報は明らかにされていない。また、上司の決済を得やすくするために実際とは違う数値を添付していたのであれば、鑑定結果に影響が及んでいないとは考え難い。鑑定は鑑定人の意見である結論のみが重要なのではなく、客観的な数値こそが鑑定結果としての重要性を有するのであり、数値を改ざんしながら結果に影響がないということはあり得ない。そして、数値の改ざんが鑑定の結論を左右しないとしても、改ざんされた数値をもとに令状請求や被疑者取調べがなされたのであれば、誤った証拠に基づいて捜査が行われたに他ならず、鑑定の結論それ自体が正しいとしても手続上の問題はまったくクリアされていない。佐賀県警が捜査への影響が無いとするのは自己保身の詭弁・強弁の類であり、適正手続のなんたるかを毫も理解していない。
もとより、被疑者の特定や犯人との同一性等を捜査する必要があったからこそDNA型鑑定が実施されたはずであって、当該職員が「上司に自分の仕事ぶりをよく見せるため」「失敗や悪い成果が発覚し、上司から指摘されるのを避けるため」などと説明していることに照らせば、捜査機関側に都合のよいように改ざん等がなされた可能性が高く、そうであれば、改ざんされた鑑定結果をもとに、虚偽自白やえん罪を現に生じさせていなかったという確証も得られないはずである。
改ざんされた鑑定書が公判に提出されれば、弁護人の意見にかかわらず、伝聞例外の規定(刑事訴訟法321条4項)の準用により証拠として採用され得るものであるところ(最高裁昭和28年10月15日第一小法廷判決・刑集第7巻10号1934頁)、これは捜査機関の嘱託に基づく科捜研の鑑定書(刑事訴訟法223条)が、高度の客観性と特信性が担保されているからにほかならず、今回の不祥事はこのような刑事訴訟法の前提を根底から覆すものである。

本件不正行為は警察職員による職務犯罪であることはもとより、被疑者・被告人の適正手続に基づく捜査・公判を受ける権利を害したものであって、国賠法上も違法となり得る行為である。

これは、適正手続を期待する権利というかどうかはさておき、結果として捜査・公判に影響がなかったとしても同様である(佐賀地方裁判所令和7年3月7日判決参照)。また、虚偽証拠に基づき不起訴方向での終局処分がなされていたとすれば、被害者の権利を害したともいえる。

そして、7年余りもの間本件不正行為が看過されてきたこともゆゆしき問題であり、鑑定の存在や内容のチェック体制の不備や当該職員に本件不正行為を行い続けさせるに至らしめた組織風土の問題も軽視できない。本件不正行為は職員個人の問題ではなく、佐賀県警の組織的な問題であるといわざるを得ない。佐賀県警は本件不正行為を真摯に反省し、本件不正行為がなされた130件すべてについて事件の元被疑者・被告人や被害者等の関係者に説明と謝罪を尽くすとともに、本件不正行為を防止できなかった原因の究明と徹底した再発防止策の策定・実施のため、事案の詳細と再鑑定結果を含む調査結果の全部を公表し、併せて第三者機関による調査を実施することを強く求める。

また、佐賀地方検察庁に対しても、本件不正行為を見抜けなかったことに対する原因究明及び虚偽証拠が検察庁に送致されていた16件について、その詳細を明らかにするとともに、本件不正行為にかかる鑑定結果が捜査・公判に影響を与えなかったと判断した理由の詳細を公表し、少なくとも元被疑者・被告人及びその弁護人であった者や被害者等の関係者への情報の提供と説明を強く求める。身内だけの判断で捜査・公判に影響がなかったなどと不祥事に蓋をするのではなく、公益の代表者として堂々と再審公判で検証しなければならない。

佐賀地方裁判所においても、佐賀県警からどのような要請を受け、どのようにして調査に協力したのかを具体的に明らかにするとともに、当該調査協力が司法権の独立(憲法76条3項)に反しないことの説明をすべきである。

最後に、本件不正行為は刑事司法の根幹を脅かす極めて重大かつ深刻な犯罪であり、全国の科学捜査に対する信頼を失墜させるものである。警察庁・検察庁・法務省および各都道府県警察は過去にも捜査機関による証拠の偽造、または偽造が強く疑われる事態が幾度となく発生してきたことをふまえ、本件不正行為のような問題が全国でも現に起こっているとの最大限の緊張感を持った上で、同様の事態が発生しないように十分な施策、及び、科学鑑定に使用した鑑定試料の保存義務を課すなど事後的な検証のための施策をそれぞれ講じることを強く求める。」

佐賀県警は、科捜研の仕事は出鱈目をやっても捜査に影響がない、被疑者・被告人の適正手続に影響しない、と本気で考えているのでしょうか。
なお、家族が繰り返し相談していたにもかかわらず、佐賀県警の不適切な対応により被害者が殺害された事件がありましたが、そのときの事後の調査内容は不明のままです。

谷直樹

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by medical-law | 2025-09-11 02:17 | 弁護士会