弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書(案)

10月29日の「第5回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」に「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会報告書(案)」が提出されました。とくに「4.今後の方向性」は重要です。

「4.今後の方向性

(1)医療機関における医療安全管理体制

(重大事象把握の質向上)
○ 医療機関において発生した重大事象を医療安全管理委員会等が確実に把握できるようにする観点から、厚生労働科学研究において検討された患者への影響度が高く、かつ回避可能性が高い 12 の事象(補足資料5ページを参照)について、病院等において医療安全管理委員会等に報告すべき重大事象に含めることが適当である。
○ 同研究において患者への影響度が高いが回避可能性は必ずしも高くないとされた 12 の事象(補足資料6ページを参照)についても、院内で集積・傾向を把握し必要時に分析・対応することにより医療安全の向上に寄与し得るため、病院等において医療安全管理委員会等に報告すべき重大事象に含めるよう努めることが適当である。

(報告分析・改善策立案の質向上)
○ 医療機関全体の安全管理を担当する者を明確にし、組織として医療安全に取り組む体制の整備を推進する観点から、医療安全管理者を、医療安全管理委員会と連携し、当該医療機関の医療安全に責任を持つ者またはその責任者から指示を受けて業務を行う者として、医療法の制度上に位置づけ、その役割等を明確化すべきである。
その際、医療機関の規模等に応じて提供している医療の内容、医療安全に係る資源が異なることや、医療安全管理部門等において事務職等の医療有資格者ではない者が各医療有資格者の調整役を担う形で組織の医療安全向上に効果的な役割を果たしている場合もあること等を踏まえ、医療安全管理者の要件については、医療有資格者であることや特定の研修を修了すること等を求めず、多くの医療機関がその機能に応じて適切に医療安全管理者を配置できるようにすることが適当である。
○ その上で、大半の病院で医療安全管理者が既に配置されている現状や入院・入所施設を有する診療所や助産所でも医療安全管理委員会の設置が医療法で義務づけられていることに鑑み、入院・入所施設を有する全ての病院等(病院・診療所・助産所)に対して医療安全管理者の配置を求めることが適当である。
○ なお、医療安全管理者は医療機関内で発生した重大事象の分析、調査等において専門的な知識・技能等が求められる場合もあることから、必要に応じて医療安全管理者指針に則った研修の受講が推奨されるべきである。また、厚生労働省において、研修を受講しやすい環境整備を推進することも重要である。
○ 継続的な学習の機会を確保し、医療安全管理者の能力を維持、向上させるため、厚生労働科学研究等において適切な医療安全管理者の継続学習の内容に関して検討が行われることが望まれる。

(管理者によるガバナンスの強化)
○ 医療機関で重大事象が発生した際に、管理者が適切にガバナンスを発揮し、対応を進められるよう、必要に応じて管理者が医療安全管理委員会等と連携しながら、個別の診療の継続の可否(手術の一時停止の必要性等)の判断を含めて、必要な対応を行えることを明確化すべきである。

(改善策への取組の強化)
○ 医療安全管理委員会で検討された取組等を実際の現場に周知し、機能的に実践できる組織体制の構築を推進するため、厚生労働科学研究等を活用しながら医療安全管理委員会の構成員の役割、医療安全推進担当者の位置づけ及び役割等の現状を把握し、これらの明確化を検討することが望まれる。

(医療安全に係る外部からの支援の充実)
○ 各医療機関の有する知見や医療安全に係る資源を有効活用する観点から、一部の医療機関で行われている医療機関同士が相互に医療安全の取組を評価し改善する取組については、特定機能病院も含めてさらに推進することが重要である。
加えて、一部の地域で行われている複数の医療機関がネットワークを作り、医療安全に関する情報交換や相互支援等を行う取組についても、地域の実情に則して推進するべきである。

(2)医療事故調査制度

(医療事故判断の質向上)
○ 医療機関において医療事故が疑われる事例を適切に抽出し、効率的かつ機能的に医療事故報告を行う体制を強化するため、全死亡・死産事例のスクリーニング方法や医療事故判断のための検討会議の開催手順といった、医療法施行規則に基づき医療機関が把握した全死亡・死産事例をチェックし、医療事故に該当する可能性のある事例を抽出、必要に応じて支援団体等へ支援を求め、最終的にその該当性を判断するまでのプロセスを各医療機関において整備し、医療安全管理指針に記載することを求めるべきである。
併せて、医療事故判断について事後検証を可能とする目的で、そうした各プロセスにおける判断結果および理由等に関する記録及びその保存を求めるべきである。
○ 加えて、上記のプロセスには、センターからの伝達を含め遺族等から医療事故ではないかと申出があった場合に、その申出に対して改めて医療事故への該当性を組織として判断し、その結果を遺族に説明するプロセスが含まれるべきである。
併せて、判断結果及びその理由ならびに遺族等への対応についても記録し保存するよう求めるべきである。
○ 医療事故かどうかを適切に判断するためには、医療事故の判断に携わる者が制度を十分に理解していることが不可欠であることから、管理者等の医療機関で医療事故の判断に携わる者に対し、医療事故調査制度に関する研修を受講することを求めるべきである。研修を受講する者は管理者が望ましいが、管理者以外の者が研修を受講する場合には、その者が管理者の医療事故判断を支援することを求めるべきである。
なお、こうした研修を求める医療機関は、医療事故の発生の傾向を鑑みて、病院及び手術(分娩含む)を行う入院・入所施設を有する診療所・助産所とすることが適当である。ただし、その他の医療機関においても医療事故の判断に携わる者が同研修の受講していることが推奨されるべきである。
また、研修を受講する者として管理者が望ましいことから、厚生労働省は厚生労働科学研究等を活用し、管理者が受講すべき研修の内容を整理するとともに、管理者が研修を受講しやすい環境の整備に努めるべきである。
○ 管理者が医療事故の該当性を判断する際の参考情報を充実させるため、センターは蓄積されたセンター合議の事例を検証し、一般化・普遍化した情報を医療機関等に提供するべきである。

(院内調査の質向上およびセンター調査の透明性向上)
○ 院内調査において一定の質が確保されるために、支援団体等が示す院内調査にかかる指針や研修等のさらなる充実が図られるべきである。また、院内調査の担当者がこうした研修を受講することや院内調査を行う際にこれらの資料を活用することが推奨されるべきである。
○ センター調査については、その透明性を向上させる観点から、センターにおいて一定の整理を行い、第三者を含めて議論した上で、将来的にセンター調査マニュアルの提示を目指すことが適当である。また、当該マニュアルの提示と併せ、参考例として複数の架空事例報告書の作成及び提示を行うことが適当である。
センターは自らの持つ医療安全に関する資源が社会で広く有効活用されるよう、その活動内容について、医療界を含め国民の理解が広く得られるような形で情報発信を進めていくことが重要である。
○ センター調査結果報告書の公表については、本検討会において様々な意見があったことから、論点を整理した上でさらなる検討が必要と考えられる。

(再発防止による医療安全向上の促進)
○ センターに蓄積された情報を再発防止へさらに活用していく観点から、センターが作成する提言等について、それらの医療機関や学会等への周知、関係する安全対策の医療機関における実装、企業による製品の改善・開発への活用等がさらに推進されるべきである。
また、センター調査結果報告書についても一般化・普遍化したうえで、再発防止に 活用することができることを明確化すべきである。

(支援団体による支援の充実)
○ 制度開始から 10 年が経過し、各支援団体における支援継続の意向、提供可能な支援の内容等に変化があることも想定されることから、改めて各支援団体に体制等の現状及び今後の意向を確認した上で支援団体を再整理すべきである。
○ 支援団体による支援体制をより強化するため、支援団体における医療事故判断や調査全般の支援を提供できる人材の育成を推進すべきである。これらの支援を適切に行うためには一定の知識や技能等が求められることから、支援団体で支援を行う者を対象とする教育機会が拡充されるとともに、一定の知識・技能に基づく支援の実績が可視化されることも重要である。
○ 事例ごとに適切な支援団体を医療機関に紹介・情報提供するために、各地方協議会が管内の支援団体の情報を把握できる体制を構築すべきである。また、支援団体に対して、提供可能な支援内容や活動実績等に関して協議会と厚生労働省に
定期的な情報共有を行うことを求めるべきである。
○ 地方協議会及び中央協議会において、支援の質確保に向けた各支援団体の取組や支援を提供する上での課題等に関する支援団体間の情報共有や意見交換が活発に行われることが望ましい。

(国民への制度に関する周知促進)
○ 本制度が国民に広く周知、理解されることは、制度の円滑な運用の上で最も重要なことである。そのため、センターに加えて医療関係者、患者、行政等の幅広い関係者が協力して、本制度の医療従事者を含む国民への普及啓発を推進すべきである。
○ 医療安全支援センターについては、全都道府県の他、保健所設置市や二次医療圏など合計 394 カ所(令和6年9月1日現在)に設置されており、医療安全に係る情報発信に大きな役割を果たしていることから、本制度の普及啓発をさらに促進するため、医療安全支援センターが行う普及啓発の例示に医療事故調査制度を加えるべきである。」



谷直樹

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by medical-law | 2025-11-05 02:20 | 医療事故・医療裁判