弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日弁連、「菊池事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

日弁連は、2026年(令和8年)1月28日、「「菊池事件」再審請求棄却決定に関する会長声明」を発表しました
「不当判決」という言葉をよく聞きますが、まさにこの判決には「著しい不当判決」という言葉がぴったりと思います
裁判長は、大崎事件の第4次再審請求を棄却する決定をおこなった46期の判事です


「本日、熊本地方裁判所は、いわゆる「菊池事件」について、再審請求を棄却する決定(以下「本棄却決定」という。)を行った。

菊池事件とは、1952年7月、熊本県で発生した殺人事件について、ハンセン病とされた被告人の刑事裁判が菊池恵楓園及び菊池医療刑務所内のハンセン病隔離法廷で行われ、被告人の無実の訴えにもかかわらず、1953年8月に死刑判決が下され(1957年8月、最高裁で確定)、1962年9月に死刑執行がなされた事件である。その後、被告人の死刑執行から60年近くが経過した2021年4月に初めて遺族が再審請求を行った。

当連合会が2017年10月6日付け「ハンセン病隔離法廷における司法の責任に関する決議」で述べているとおり、ハンセン病隔離法廷は、ハンセン病患者に対する偏見・差別に基づき個人の尊厳を根本から冒すものであって、明らかに不合理な差別であり、また、実質的に公開されたとは評価できず、憲法13条(個人の尊厳)、14条1項(平等原則)及び37条1項・82条1項(公開原則)違反であった。菊池事件のハンセン病隔離法廷でも、消毒液の匂いが立ちこめ、裁判官・検察官・弁護人はいずれも「予防衣」と呼ばれる白衣を着用し、長靴を履き、手袋を付けた上で調書や証拠物を火箸等で扱うという極めて屈辱的で非人間的な扱いがなされた。また、被告人が否認しているにもかかわらず、一審の弁護人は公訴事実を争わず、検察官請求証拠を全て同意するなど適正な刑事弁護を受けられなかった。さらには、再審請求棄却翌日、被告人に対して即時抗告の機会も与えずに死刑執行がなされた。このように、刑事司法手続全体を通じて適正性を欠いており、個人の尊厳が著しく侵害された。

最高裁判所事務総局が2016年4月に公表した「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書」においても、ハンセン病患者の裁判について、裁判所外の法廷を定型的に指定してきた運用を認め、遅くとも1960年以降は、合理性を欠く差別的取扱いであったことが疑われ、裁判所法に違反し、ハンセン病患者に対する偏見・差別を助長して、ハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけたことについて謝罪している。また、最高裁判所裁判官会議も、ハンセン病患者・元患者に対する謝罪談話を発表している。

その後、菊池事件は隔離法廷における憲法違反の審理によって死刑判決が下されたえん罪事件であり、公益の代表者である検察官が再審請求しないことは国家賠償法上違法であるとして、全国ハンセン病療養所入所者協議会等の代表者らが提起した国家賠償請求訴訟において、2020年2月26日、熊本地方裁判所は、菊池事件の開廷場所指定及び審理について、明確に憲法13条及び14条1項に違反し、憲法37条1項、82条1項に違反する疑いがあると認め、さらに一審弁護人の誠実義務違反による憲法37条3項違反の疑いも指摘していた。

本棄却決定は、菊池事件の刑事裁判について憲法13条及び14条1項に違反し、37条1項及び82条1項に違反する疑いがあるとしながら、「これら憲法の各規定に適合し、公開法廷における審理を実施したとしても確定判決の証拠関係等に変動はないから、これらの憲法違反が確定判決の事実認定に係る重大な事実誤認を来すものとは認められない」として、憲法違反を理由とする再審開始を認めなかった。そして、実体的再審事由についても新証拠(法医学鑑定書・供述心理学鑑定書)の明白性を否定して、再審請求を棄却したものである。

しかし、憲法上の手続規定は、適正な事実認定のために不可欠な権利を被告人に保障したものであるから、これらの権利が保障されなかったこと自体が事実誤認の徴表といえる。そもそも、憲法的価値が踏みにじられていることが明らかな場合に再審でこれを是正しないことは、えん罪被害者の人権保障を目的とする現行の再審制度の理念にも反することから、当連合会は2023年2月17日付け(同年7月13日改訂)「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」において、手続の憲法違反を再審事由として追加するよう求めている。

菊池事件においても、前記のようなハンセン病隔離法廷における審理の在り方自体が、憲法13条、14条1項に違反するのみならず、憲法37条1項及び82条1項という憲法上の手続規定にも違反することが明らかであり、確定判決の事実認定には判決に影響を及ぼす重大な疑義が残ると言わざるを得ない以上、再審事由を柔軟に解釈・適用することにより、再審請求を通じた是正措置が図られるべきである。本件について再審の門戸を閉ざすことは、憲法違反の刑事裁判による死刑執行を容認することになり、断じて許容できない。

当連合会は、引き続き、死刑制度の廃止及び手続の憲法違反を再審事由として規定することを含めた再審法の改正等、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して最大限の努力を続けていくとともに、ハンセン病隔離法廷問題の教訓を心に刻んで人権感覚を研ぎ澄ませ、将来、二度と同じような過ちを繰り返さないように、憲法の定める基本的人権を擁護する使命を果たすことを改めて固く決意する。」


谷直樹

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by medical-law | 2026-01-29 15:14 | 人権