弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日弁連「法制審議会刑事法(再審関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明」

「要綱(骨子)案」は、再審の道を開くものではなく閉ざすのので、あまるりにもひどすぎます
日弁連は、3026年2月2日、「法制審議会刑事法(再審関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明」を発表しました


「本日、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「再審部会」という。)において、法務省事務当局作成の「要綱(骨子)案」(以下「要綱(骨子)案」という。)を再審部会の意見として法制審議会(総会)に報告することが決定された。

近年、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる袴田事件)や福井事件など、再審により無罪判決が確定するえん罪事件が相次いでいる。しかし、雪冤に至るまでには膨大な労力と年月を要している実情があり、その原因が再審法の不備にあることが明らかとなったため、これを是正する必要があるとして、再審法改正を求める機運が大きく高まっている。このような状況を踏まえ、法務大臣は、2025年(令和7年)3月28日、法制審議会に対して、「近時の再審請求手続をめぐる諸事情に鑑み、同手続が非常救済手続として適切に機能することを確保する観点から」、刑事再審手続に関する規律の在り方を諮問し、これを受けて設置された再審部会において審議が行われてきた。

しかし、本日、再審部会で採択された要綱(骨子)案の内容は、再審法改正の本来の目的に反し、えん罪被害者の救済を迅速かつ容易にするものとなっておらず、かえって今まで以上に困難にしかねない内容を含んでいる。要綱(骨子)案の問題点は多岐にわたるが、主要な点を挙げると以下のとおりである。


第1に、要綱(骨子)案は、「再審の請求についての調査手続」を設け、再審の請求を受けた裁判所が当該請求について調査した結果、「再審の請求の理由がないことが明らかである」と認めるときは、裁判所は事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することを義務付けている。

当連合会としても、充実した審理を行うべき事件を選別するために、およそ再審事由とはなり得ない内容を主張するなど、濫用的な再審請求を早期に手続から外すこと(いわゆるスクリーニング)自体を否定するものではない。しかし、再審請求の理由を当初から的確に構成することは極めて困難であって、再審請求前に裁判所不提出記録及び証拠物の閲覧・謄写ができる制度や国費により弁護人の援助を受ける制度が存在しないことも、その困難を大きなものにしている。過去の再審無罪事件では、再審請求後に裁判所が行う意見聴取や求釈明、裁判所の勧告を踏まえて行われる証拠開示等を通じて再審請求の理由が具体化・実質化され、再審開始・再審無罪に至る場合が多い。それにもかかわらず、「再審の請求についての調査手続」が設けられた場合、調査手続の段階では、裁判所は証拠の提出命令を行うことが禁止され、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないなど、再審請求人に対して十分な手続保障が与えられないまま、書面審査のみで再審請求が速やかに棄却されるおそれがある。

第2に、要綱(骨子)案は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象も「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって、「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。

過去の再審無罪事件から明らかなとおり、証拠開示が必要とされるのは、無罪につながる証拠が捜査機関の手元にあるためである。ただ、当該証拠が無罪につながる証拠であることが裁判所から見て、一見して明らかな場合は少なく、その判断のためには、再審請求人や弁護人による検討と、それを踏まえた主張が欠かせない。したがって、再審請求人や弁護人がその主張立証を準備するために必要な証拠については、幅広く開示されなければならないし、その前提として、証拠開示請求の手がかりが得られるよう、検察官が保管又は保存する証拠の一覧表も開示される必要がある。さらに、裁判所が事案解明を進めるために必要と認めるときは、職権での証拠開示命令制度も必要である。

しかし、要綱(骨子)案によれば、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は、捜査機関が保管する証拠を閲覧・謄写することができない。また、再審請求人には、そもそも証拠を閲覧・謄写する権限が認められていないので(刑事訴訟法40条)、弁護人が選任されていない再審請求人は、証拠にアクセスすること自体ができない。これでは、無罪につながる証拠の発見は極めて困難となる。

しかも、要綱(骨子)案は、弁護人が検察官から提出を受けた証拠を謄写したときは、その証拠に係る複製等を再審の請求の手続又はその準備等に使用する目的以外の目的で他に交付、提示又は提供することを罰則をもって禁止している。しかし、禁止される行為の外延が明確ではないため、例えば新証拠の獲得に向けた活動において開示証拠を支援者に交付するなど、再審請求又はその準備に必要な活動であっても、目的外使用にあたる可能性を懸念し、これを躊躇するなど、再審請求人や弁護人の活動を萎縮させるおそれがあり、えん罪被害者の救済を困難にさせる。

第3に、要綱(骨子)案は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止(廃止)していない。

過去の再審無罪事件から明らかなとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立てそれ自体が、再審請求人にとって防御の負担や手続の長期化などの多大な負担を強いるものとなっている。そもそも、検察官は、再審請求手続の当事者ではなく、公益の代表者として裁判所が行う審理に協力すべき立場に過ぎないので、当然に不服申立てを行う資格を有しているわけではない。しかし、検察官は、再審開始決定に対して、ほぼ全ての事件で不服申立てを行っている実情がある。しかも、福井事件の第1次再審請求では、検察官は、自らの主張と矛盾する重要な証拠を隠したまま、再審開始決定に対して不服申立てを行い、その結果、再審開始決定が誤って取り消されるという事態が生じている。今後、このような事態が生じるのを防ぐためにも、検察官に「公益の代表者」として不服申立てを行う資格を認めるべきではない。なお、再審開始決定は、再審公判の開始を決定するだけであって、有罪・無罪の実体判断は再審公判において行うことが予定されている。そして、検察官は、再審公判において確定判決の正当性を主張することが可能であるから、再審開始決定に対する不服申立てを認めなくても不都合は生じない。

それにもかかわらず、要綱(骨子)案は、これまでどおり、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行うことを無制限に認めている。これは、えん罪被害者の速やかな救済を阻害するものである。

なお、取りまとめられた要綱(骨子)案では、要綱(骨子)案記載の制度の運用や、法整備の対象とされなかった事項について、運用で対応可能であるとして、多くの附帯事項を設けている。しかし、これらは単なる期待・要望に過ぎない上、「適切」な対応・判断等を求める内容にとどまり、具体性に乏しい。これらは、見直しが求められていた従来の実務運用を是認する内容に過ぎず、えん罪被害者の救済を迅速かつ容易にするような運用は期待できない。

当連合会は、2025年(令和7年)12月24日付けで「法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議の進め方に深刻な懸念を表明する会長声明」を公表し、法務省事務当局が意見集約の方向性を示唆する内容で、恣意的に論点の整理・抽出を行い、それに沿った方向に再審部会の審議を誘導しようとしていることに対して深刻な懸念を表明していた。しかし、その後の審議経過を見ても、その内容をほぼ踏襲する形で要綱(骨子)案が作成され、当連合会推薦の委員・幹事以外からは批判的意見が述べられることもないまま、これが再審部会の意見として採択された。

このような経過に照らせば、要綱(骨子)案は、検察官がその要職を占めている法務省事務当局の主導によって取りまとめられたものと評価せざるを得ない。

よって、当連合会は、要綱(骨子)案に強く反対するものである。」



谷直樹

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by medical-law | 2026-02-02 23:55