裁判官安浪亮介の意見
1 私は、本件規定が平成29年3月(本件退職時点)において憲法22条1項及び14条1項に違反しており、国会が同時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかった本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとする多数意見の結論については賛同するが、国家賠償法上の違法性をめぐる点において多数意見と一部見解を異にする。その理由は次のとおりである。
2 まず、前提として、私が、本件規定が憲法の上記規定に違反するに至ったと考える時期やその間の経緯等について述べる(本件規定の憲法適合性に関する多数意見の第2の2から4までの説示については異論がない。)。
我が国では、平成19年9月の障害者権利条約の署名を経て(平成26年1月批准)、平成21年12月に障がい者制度改革推進本部が政府に設置され、平成23年7月に障害者基本法が改正され、平成24年6月に障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)が改正され、平成25年6月に障害者差別解消法が制定(平成28年4月施行)され、障害者雇用促進法が改正されるなどした。この障害者差別解消法は、1条において、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」ことを踏まえ、障害を理由とする差別の解消を推進すべきことを定め、6条において、政府はそのための基本方針を定めるべきものとし、7条及び8条において、行政機関等及び事業者に対して「障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と定めるとともに合理的配慮を行うことを義務付けた。
また、成年後見制度についても、適切な利用促進の観点から成年被後見人等に係る欠格条項について見直し等を求める議論が行われたこと(平成22年7月の「成年後見制度研究会」(財団法人民事法務協会)の研究報告の発表や同年10月の「成年後見制度に関する横浜宣言」の採択)を背景に、平成25年東京地裁判決(成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定は憲法15条1項、3項等に違反し無効であるとしたもの)を受けて、成年被後見人に選挙権を付与するために公職選挙法が直ちに改正され、平成28年4月に利用促進法が制定(同年5月施行)されるなどした。この利用促進法は、成年後見制度の利用促進に関する施策を推進することを目的とするものではあるが、3条1項において、障害者差別解消法1条と同じく、「成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと」を基本理念の一つとして定め、11条柱書きにおいて、上記施策は「成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえる」ものとし、同条2号において、「成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと」を基本方針の一つとして定め、9条において、「政府は、(中略)成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正その他の同条(11条を指す。)に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、この法律の施行後3年以内を目途として講ずるものとする」と定めた。
上記のように、国会は、主に平成23年以降、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を着実に積み重ね、障害者差別解消法及び利用促進法が施行された平成28年には、成年被後見人等をはじめ精神上の障害を有する者につき、法律の規定上、正面から「基本的人権の尊重」、「個人の尊厳」、「不当な差別的取扱いの禁止」等といった憲法の人権理念に関わる文言を揃って用いて、その人権が侵害されないように必要な施策を講ずるべきことを国の基本方針として明らかにするに至った。そして、上記のとおり、利用促進法が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを早期に行うべきことを定めたこと(11条2号、9条)の根底には、必要な立法措置が講じられないままでは人権侵害が生ずる場合があるとの認識があったものと捉えるべきである。そのように解するのでなければ、同法が「成年被後見人等の権利に係る制限」といった文言を用いて、成年被後見人等について権利の制限がされている現状について早急にその見直しを行うべきことを求めたことの意義が没却されることになりかねない。さらにいえば、令和元年の一括整備法の制定等によって本件規定を含む多数の権利制限条項が一斉に削除されるに至ったのは、それまでの障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等の推進に関する法整備の積み重ね等を踏まえた国会の合理的判断の下に、利用促進法9条の規定に従い、憲法の人権理念を速やかに実現しようとして行われたものと位置付けて理解すべきであろう。
以上の事情を踏まえて考えると、国会によって上記一連の法整備が進められた平成28年頃の時点では、既存の権利制限条項の中には、憲法の人権理念に反するものが相当数存在する状況になっていたものといわなければならない。
3 そして、本件規定についてみると、平成14年改正によって既に7号規定が設けられ、上記2でみた平成23年以降の法整備の進展状況等を併せて考えれば、平成28年頃の時点では、様々な警備業務がある中で、被保佐人であることだけを理由として一律に警備員の欠格事由と定める本件規定は、職業の選択の自由を害し、不当な差別的取扱いを容認する規定となっており、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと考える。
4 さらに、上記2でみた法整備は、いずれも国会が自ら進めたものであり、平成28年頃の時点では、国会において、成年被後見人等を含む障害者の権利問題等に関する立法行為を積み重ねてきたことにより、憲法の人権理念を更に推し進めて合理的な検討を適切に行えば、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとしてその改廃等を行うべきことが明白になっていたと評価するのが相当である。なお、平成25年、国会は、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定を違憲と判断した平成25年東京地裁判決を受けて直ちに公職選挙法を改正したが、この一例は、国会において、成年被後見人等に対して行われる権利の制限が、権利の内容・性質等によってその制限が裁判所により違憲と判断される場合があり得ることに直面する機会になったということもできよう。
この点について、多数意見は、平成29年3月(本件退職時点)において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできないと判示する。この判示部分からすれば、本件規定の違憲性が国会において明白であったと評価するものであるか否かは必ずしも明確でない。国会においてその違憲性が明白であったとは認められないとするものであるならば、私はこれに賛同することができない。国会は、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を何年にもわたって継続したが、そうした法整備を続けることの意識の根底に基本的人権の尊重、個人の尊厳や平等原則といった憲法の人権理念があり、成年被後見人等を含む障害者の権利保障について更にこれを推進するための立法行為の必要性・重要性を認識していたと考えるべきことは、これまでに述べたとおりである。そして、その間、障害者の権利問題等について社会や国民の意識が高まったが、それを汲み取って立法化していったのは国会自身である。
また、本件規定の違憲性が国会において明白であったとは認められないと評価する立場からすれば、利用促進法の制定についてはあくまで成年後見制度の利用促進を図るためにもっぱらその阻害要因を除去すること等を目的とするものであって、憲法上の問題とは別のものというように理解することになるのかもしれない(多数意見の第3の2⑵イ参照)。しかし、仮に同法制定の主眼がそのようなものであったとしても、同法11条2号が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを行うべきことを定めた意義を決して軽視すべきではなく、同号の規定を憲法の人権理念と切り離されたものとして理解するのは相当ではない。言い換えれば、国会が憲法上の問題の存在について無自覚のままに上記内容を盛り込んだ見直し規定を設けたとは考え難い。
したがって、平成28年頃の時点では、上記のように法整備を推し進めてきた国会において、合理的な検討を適切に行えば、本件規定が、成年被後見人等について職業の選択の自由を害し、不当な差別的取扱いを容認する規定となっており、憲法上の問題があることを当然認識し、本件規定の改廃を行うべき状況にあったものと評価すべきであり、明白性を否定する立場には賛同することができない。
なお、上記明白性をめぐる論点について、私は、本件規定の違憲性が明白になった時期について反対意見のいずれとも見解を異にするものであるが、その理由は、平成28年に利用促進法が制定されることによって、それまでの障害者の権利保障関連の立法により定められた理念に基づき実施すべき各種施策がより具体化したものとなり、しかも目途とはいえ法制上の措置を講ずるべき期限が定められたとの事実を重く評価し、その時点に至り、本件規定の違憲性が確定し、かつ、それが明白になったと考えることにある。そして、このように、私は、本件規定の違憲性が確定した時期と国会においてその違憲性が明白になった時期が同じ頃と考えるものであるが、これは、上記のように国会自らが法整備を進展させ、これに伴って違憲性が確かなものになったという特別な事情の下にあっては、自然なことと考える。
5 以上のとおり、私は、平成23年から平成28年にかけての法整備の積み重ねに基づき、平成28年頃の時点では本件規定の違憲性が確定したものとなり、かつ、同時点では国会において自らの立法行為の継続によってその違憲性が明白になっていたと考える。
もっとも、被上告人の本件退職時点との関係では、平成28年頃から平成29年3月までの間には約1年の期間しかないため、国会において正当な理由なく長期間にわたって本件規定の改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできないと考える。したがって、本件において、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとする多数意見の結論について賛同するものである。
谷直樹
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