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弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

裁判官三浦守の反対意見

裁判官三浦守の反対意見

裁判官三浦守の反対意見は、次のとおりである。
私は、本件規定が本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項の規定に違反する点については、結論において多数意見に賛同するが、本件規定は、遅くとも平成14年改正時までに、憲法の上記各規定に違反していたものと考える。また、国家賠償法1条1項の適用の点については、多数意見と異なり、本件規定は平成14年改正時において憲法の上記各規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものであり、本件立法不作為は同項の適用上違法であるから、本件上告を棄却すべきものと考える。以下、理由を述べる。

第1 事実関係等について

1 平成14年改正に至る経緯等に関し、原審が適法に確定した事実関係等の概要(公知の事実を含む。)は、判示第1の3⑴に掲げるもののほか、2のとおりである。

2⑴ 国際連合は、1982年(昭和57年)、国際障害者年(1981年(昭和56年))の「完全参加と平等」の趣旨をより具体的なものとするため、「障害者に関する世界行動計画」を採択するとともに、1983年(昭和58年)から1992年(平成4年)までの10年間を「国連・障害者の十年」と宣言するなどした。政府は、これらを踏まえ、昭和57年3月、国際障害者年推進本部において、「障害者対策に関する長期計画」を決定するなどした。
そして、政府は、「国連・障害者の十年」終了後も障害者対策をなお一層推進するため、平成5年3月、障害者対策推進本部において、「障害者対策に関する新長期計画」(以下「平成5年計画」という。)を策定した。
平成5年計画は、平成5年度からおよそ10年間にわたる施策の基本的方向と具体的方策を明らかにするものであり、その基本的な考え方として、基本的人権を持つ一人の人間として、障害者自身が主体性、自立性を確保し、社会活動へ積極的に参加していくことを期待するとともに、その能力が十分発揮できるような施策の推進に努めるとともに、障害者を取り巻く社会環境に存在する資格制限等による制度的な障壁等の種々の障壁を除去すること等により障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりを目指すなどとし、分野別施策の基本的方向と具体的方策の中で、福祉の分野において、精神障害、視聴覚障害等障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、必要な見直しについて検討を行うものとした。

⑵ 国会は、平成5年12月、心身障害者対策基本法を改正し(以下、この改正を「平成5年改正」という。)、法律の題名を「障害者基本法」に改めるとともに、同法の目的として、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを目的とする旨を規定し、障害者の定義として、精神障害を明示して規定し、基本理念として、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。」「すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。」と規定するなどした。

⑶ 内閣府に設置された障害者施策推進本部は、平成11年8月、平成11年決定において、資格、免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害を掲げるなどする法令の規定(以下「障害者に係る欠格条項」という。)の見直しを行うこととした。
平成11年決定は、障害者に係る欠格条項について、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、平成5年計画の推進のため、対象となる全ての制度について見直しを行い、障害及び障害者に係る医学の水準、障害及び障害者の機能を補完する機器の発達等科学技術の水準、先進諸外国における制度のあり方その他の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止するものとし、当該欠格条項が真に必要と認められるものについては、①欠格、制限等の対象を厳密な規定に改正する、②絶対的欠格事由から相対的欠格事由に改正する、③障害者を表す規定から障害者を特定しない規定に改正する等の対処を行うものとし、警備業法の警備員の制限に関する規定については、障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には、①及び②の方向で対処するものとした。

⑷ 平成11年整備法に関する国会の審議においては、㋐成年被後見人等に係る欠格条項を撤廃すべきである旨の参考人の意見、㋑同欠格条項を残すと老人や障害者への偏見を助長し、これらの者の社会参加が妨げられる旨の議員の発言、㋒欠格条項が存置された弁護士、弁理士、司法書士、薬剤師等の資格制限の必要性を問う議員の質問、㋓個別法令中に能力を個別に審査する規定を設ければ資格制限として足り、禁治産者や準禁治産者であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから、残存する116種の資格制限についても次の見直しの際に再検討されたい旨の議員の発言等がされた。また、新しい成年後見制度の導入に禁治産や準禁治産という負のイメージを払拭して、皆が負い目を感じずに使うことができる新しい制度を作るという意義があるのであれば、欠格条項で門前払いというよりも、できる限り個別的に判断していくという方が方向性として正しいのではないかという趣旨の議員の質問に対し、政府参考人は、基本的な考え方としては正しいとしつつ、立法上の様々な価値を調和させていく中で複数の欠格条項を存置することになった旨の説明をした。
そして、平成11年11月、参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際、全会一致で、政府等は、新たな成年後見制度の実施に当たり、成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については、更なる見直しを行うこと等について格段の努力をすべきである旨の附帯決議(以下「平成11年附帯決議」という。)がされた。

第2 本件規定の憲法適合性及びそれが違憲となるに至っていた時期について

1 本件規定の憲法適合性に関する判断の枠組みについて

本件規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めており、被保佐人が精神上の障害を有することを理由として、被保佐人を被保佐人でない者と区別して、一律に狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである。そして、被保佐人の精神上の障害は、本人の意思や努力によって変えることが困難であり、個人の生存と切り離すことができないものである。また、狭義における職業選択の自由は、経済活動としての性格が強い営業の自由と異なり、本人の生き方や自己実現としての性格が強く、個人の尊重及び幸福追求と密接に関わるものということができる。
これは、憲法22条1項の要請と14条1項の要請とが重なり合う問題であり、本件規定が上記の各規定に適合するか否かの判断においては、その一方の規定に関する判断において、他方の規定の要請に係る事情をも考慮する必要があり、相互に密接に関連し、考慮すべき事項が共通することから、両規定との関係で合憲性を肯定し得るためには、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解される。
そして、本件規定の目的(以下「本件立法目的」という。)は、判示第2の2⑷のとおり、重要な公共の利益に合致するものであるところ、本件立法目的のために必要かつ適切妥当な規制措置を設けることについて、立法府の判断には一定の裁量が認められるものの、上記のような憲法22条1項及び14条1項の要請により、立法府に広い裁量が認められるものではなく、その裁量の範囲は狭いというべきである。本件規定について、立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱し、憲法の両規定に違反するか否かを判断するに当たっては、具体的な事情に基づき慎重な審査を行う必要がある。
以上のとおり、本件規定の憲法適合性に関する判断の枠組みについては、多数意見に賛同する。
そして、平成11年整備法により本件規定が定められ、平成14年改正により7号規定が定められ、その後、令和元年の一括整備法により本件規定が削除された経緯等を踏まえると、本件規定の憲法適合性については、7号規定という具体的な代替措置を前提として、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的な裁量の範囲を逸脱するか否かが問題となる。

2 本件規定が違憲となるに至っていた時期の検討について

本件においては、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反し、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったという本件立法不作為が、国家賠償法1条1項の適用上違法であるかどうかが問題となるが、それが違法と評価されるためには、ⓐ本件退職時点において、本件規定が憲法に違反するに至っているだけではなく、ⓑその違憲が明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の措置を怠っていることが必要と考えられる。
この場合、ⓑの要件の関係では、遅くとも、本件立法不作為が正当な理由なく長期にわたると評価される時期までに、本件規定が憲法に違反し、その違憲が明白となるに至っていたかどうかが問題となるから、ⓐの要件を満たす場合であっても、遅くとも、本件退職時点より前の上記時期までに、本件規定が憲法に違反するに至っていたかどうかの検討が必要である。
以上の観点から、本件規定の憲法適合性に関し、本件退職時点より前に本件規定が違憲となるに至っ

3 警備業務に必要な能力等について

⑴ 警備業務は、他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有しているため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し臨機応変に適切な対応をすることが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。
他方で、警備業務は、警備業法2条1項各号に区分され、その内容には多種多様なものが含まれるところ、いずれも法律行為を伴わない事実行為として定められており、その具体的な内容に応じ、これを適正に行うために必要な認知、判断及び意思疎通の能力といっても、相当の違いがあると考えられる。また、警備員は、警備業者との雇用契約等に基づきその指揮監督の下に特定の警備業務に従事するものであるから、全ての警備員があらゆる警備業務に求められる高度の能力を備える必要がないことは明らかである。

⑵ 平成11年民法改正による成年後見制度は、明治期に定められた禁治産及び準禁治産の制度を約100年ぶりに改めたものであって、本人の意思や自己決定の尊重、ノーマライゼーションの理念等と本人保護の理念との調和を旨とし、精神上の障害により判断能力が不十分であるため契約締結等の法律行為における意思決定が困難な者について、後見的役割を担う第三者がその判断能力を補うことにより、その権利利益の保護を図る制度である。
そして、被保佐人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者として、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者であり、選任された保佐人が、財産の管理・処分に関する一定の法律行為についての同意権や取消権等により、被保佐人の権利利益の保護を図るものとされる。

⑶ 以上からすると、被保佐人に係る成年後見制度と本件規定とは趣旨・目的を異にしており、保佐開始の審判において審査される能力は、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力とは必ずしも一致するものではなく、被保佐人の中に、警備業務を適正に行うことができる者が一定程度いるということができる。

4 平成14年改正時までについて

⑴ 平成14年改正は、警備業法3条5号のうち精神病者であることを欠格事由とする部分を削除した上で、7号規定を設け、規則3条1項と併せて、精神機能の障害により警備業務を適正に行うことができない者を欠格事由とするものである。
そして、7号規定は、精神機能の障害を有する者を広く対象として、個別の審査により、警備業務を適正に行うことができないと認められる者を警備業務から排除しようとするものであり、この審査は、警備業者が、診断書等の提出や面接調査など、必要な資料の収集等を通じて、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力の有無を個別的、実質的に審査することを前提にするものと解される。
これは、平成5年計画に基づき、平成11年決定が、障害者に係る欠格条項の見直しに関し、真に必要と認められる欠格条項については、当該資格等が要求する具体的な能力の有無を個別的・実質的に審査する手法を定める規定(以下「個別審査規定」という。)に改正するなどの対処を行うものとしたことを踏まえ、警備業に関する様々な実情等を踏まえた行政府の専門的知見等に基づく検討を経たものということができる。
立法府は、行政府による上記検討を前提にして、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものということができる。

⑵ア 多数意見は、7号規定について、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったとしている。

イ 7号規定について、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかという問題は、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性を有するかどうかという問題である。そして、7号規定に係る個別審査は、様々な精神機能の障害を有する者を広く対象としているから、上記個別審査により、警備業務を適正に行うことができない者が適切に排除されないとすれば、7号規定自体が上記実効性を欠き合理性を有しないことになる。
そこで更に検討すると、まず、障害者に係る欠格条項の見直しは、平成5年計画に基づく平成11年決定を受けて、対象となる全ての制度について、種々の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討することを前提にして、行政府の専門的な知見等に基づく検討の下に進められた。7号規定に関し、警備業者による資料の収集、分析及び評価を通じた判断に委ねることの妥当性についても、中小零細企業が多数を占める点を含め、警備業に関する様々な実情を踏まえた検討が行われたものと考えられる。
警備業者としては、診断書や誓約書の提出、面接調査、教育・指導等により、必要な資料を収集して、相応の根拠に基づく分析及び評価を行い、自らの事業の内容や状況等に応じ、その指揮監督の下で特定の警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を有するか否かを実実質的、具体的に判断することができるものと考えられる。そして、この個別審査は、警備業者にとっても、自らの警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者等からの信頼を確保し得る警備員の能力を担保するものであるから、これを適切に行うことは、自らの事業の継続及び発展のために極めて重要であり、それを期待することができる。
行政府としても、7号規定の適正な実施が確保されるよう、公安委員会が警備業者を適切に監督するとともに、必要に応じ内閣府令又は通達・通知等により具体的な措置や指針等を示すなど、適切な措置を講ずべき責務を有する。
上記個別審査が、公的機関による判断ではなく警備業者の自発的判断に委ねられるといっても、適切な監督等の下において、上記実効性に関する問題が現実に生ずる具体的な懸念があるとはいえない。平成14年改正時の国会の審議においても、本件立法目的の達成を懸念する議論はうかがわれない。
立法府は、以上の経緯等を前提として、本件立法目的のため必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものということができる。その施行後も、上記実効性を疑問視させるような事象がうかがわれず、7号規定及びそれに基づく規則3条1項がそのまま維持されていることは、それを裏付けている。

ウ 本件規定がないとしても、7号規定は、本件規定に当たる者を除外していないから、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者が、保佐開始の審判を受けている場合も、それを受けていない場合も、同様に、個別審査を行うことになる。この個別審査において、7号規定と保佐開始の審判とが趣旨・目的も審査の内容も異なることを前提とした上で、上記審判を受けている事実を一つの事情として適切に考慮した判断が、上記審判を受けていない者についての判断と異なり、本件立法目的を達成するのに不十分というべき理由はない。むしろ、現に、警備業者の指揮監督の下で特定の警備業務を適正に行っている警備員が、財産
上の法律行為についての支援を受けるため保佐開始の審判を受けるに至ったとしても、警備業務を適正に行うことができることは明らかであり、本件立法目的のためにその警備業務の継続を禁止することは著しく不合理である。

エ 7号規定及び本件規定は、いずれも被保佐人を対象とする点で重複する部分があり、これについて矛盾する取扱いを定めるものであるが、平成14年改正時の国会の審議において、両規定の関係についての議論が行われたものとはうかがわれないこと等に鑑みると、立法府として、上記重複を認識して放置することを意図しながら、本件規定を維持したものと解することはできない。むしろ、平成14年改正が、精神病者という欠格事由に代えて7号規定を定めるものであるため、7号規定と本件規定の重複を看過し、両規定の関係についての基本的な検討を怠り、漫然と、本件規定を維持したものといわざるを得ない。
このような立法府の判断は、その合理的裁量によるものという実体を欠いている。
⑶ 以上によれば、7号規定は、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として定められたものということができ、平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることが
困難であったというべき理由はない。
平成14年改正時において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないことが明らかであり、上記被保佐人が自由かつ平等な職業選択を制約されることによる不利益は看過し難いものというべきである。
そうすると、平成14年改正時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量を逸脱するに至っていたものである。

⑷ 本件規定は、成年後見制度の導入を内容とする平成11年民法改正に伴い、平成11年整備法により、警備業法3条1号の準禁治産者を被保佐人に改めたものであるところ、平成11年整備法による警備業法の改正時において、本件規定に代えて、平成14年改正と同様の法改正を行うことを妨げる事情はうかがわれない。
そうすると、本件規定は、平成11年整備法による警備業法の改正時において、憲法22条1項及び14条1項に違反していたともいえるが、遅くとも平成14年改正時までに、両規定に違反するに至っていたということができる。

5 平成14年改正後について

⑴ 多数意見は、平成14年改正後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情が変化したとして、判示第2の3⑶のとおり指摘し、こうした変化等により、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとしている。
そして、多数意見は、上記諸事情の変化の一つとして、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したことを指摘した上で、障害者差別解消法等及び利用促進法の施行が平成28年のことであったことからみて、上記のような考え方が確立したのは、本件退職時点とは相当に近接した時期であったことがうかがわれるとしている。
多数意見は、上記時期より前に本件規定が違憲となるに至っていたことを否定するものと理解される。

⑵ア そこで検討すると、まず、4でみたように、本件規定の憲法適合性については、その必要性及び合理性に関し、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性を有するかどうかが問題となる。
平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったとする多数意見に賛同することはできないが、仮に、この多数意見の立場に立つとしても、7号規定の実効性を直ちに見極めることが困難であるかどうかという問題は、その施行(平成15年3月)から平成30年2月の政策評価に至るまで、約15年に及ぶ検討を必要としないことは明らかである。
7号規定の施行により、現に警備業者による個別審査が実施されており、行政府としては、その適正な実施が確保されるよう、警備業者に対する監督その他適切な措置を講ずべき責務を有する。その後、特にその実効性を疑問視させるような事象もうかがわれないことや、7号規定及びそれに基づく規則3条1項がそのまま維持されていること等をも踏まえると、上記個別審査については、警備業務を適正に行うことができない者が適切に排除されないという問題もなく、適正に実施されていたものと考えられる。多数意見の上記実効性に関する指摘も、「直ちに見極めることは困難であった」というものであって、長期間の検討を必要とするような現実的、具体的な内容を含むものでない。
7号規定については、その施行後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題は解消していたというべきである。多数意見は、これを否定する具体的な検討を示していない。
そうすると、仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、上記時期において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないものである。

イ 障害者権利条約は、全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する
包括的、総合的な国際条約であり、その実施は、障害者を取り巻く様々な制度、慣行、意識等の社会的障壁(障害者基本法2条参照)を除去する過程として重要な意義を有する。障害者権利条約を批准するため国内法が整備され、それとともに、社
会における障害の捉え方の変化、福祉や保護を中心とした障害者施策から法的な権利の保障を中心とするものへの転換、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化等が進んだといえるとしても、こうした諸事情の変化は、様々な社会的障壁を除去する過程であり、もとより、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性についての評価を具体的に左右するものではない。
障害者の労働や雇用等の関係についてみても、障害者差別解消法等は、行政機関等又は事業者が事務又は事業を行うに当たっての差別的取扱いの禁止や合理的な配慮の提供等を内容として、障害を理由とする差別の禁止等を定めるものである。これに対し、本件規定は、被保佐人を警備業務から一律に排除するものであるから、事業者による差別的取扱いや合理的な配慮等の問題ではない。障害者差別解消法等の施行に向けた準備の過程において、上記差別の禁止等に関する考え方が周知され確立するに至ったといえるにしても、こうした事情の変化は、7号規定の実効性についての評価を左右するものではない。
多数意見も、上記国内法の整備その他の諸事情の変化について、本件規定を取り巻く諸事情が変化したとするだけであり、7号規定がその実効性を有するに至っていたこととの具体的な関連性を示しているわけではない。
そうすると、上記国内法の整備その他の諸事情の変化は、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連する事情ではなく、それを取り巻く社会的障壁に係る一般的、抽象的な事情というべきものである。こうした変化が進むにつれて、障害者の様々な権利利益を尊重するという要請が高まるといえるにしても、本件規定による制約が問題となる権利は、憲法22条1項及び14条1項が明文で全ての国民に保障する基本的人権であり、障害者権利条約や上記国内法に関わらず、障害者が当該権利の主体であることは当然である。そして、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連しない社会的障壁の除去が進むまでの間、障害者が上記権利の
制約による不利益を甘受しなければならず、立法府がこれを看過してよいというのは、いかにも不合理である。憲法の要請を踏まえた立法府の判断の裁量の範囲が狭いものであることに照らしても、上記国内法の整備その他の諸事情の変化を重視す
る判断に合理性を認めることはできない。

ウ 以上によれば、仮に、平成14年改正時における憲法適合性に関する多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題が解消していたものであって、本件規定は、本件立法目的のために必要かつ合理的な措置とはいえないものであるから、全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する包括的、総合的な法制度が整備・施行されるまでの間、あるいは障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはで
きない。
その間、警備業務を適正に行うことのできる被保佐人が、本件規定により一律に警備業務から排除され、憲法が保障する権利を制約されることによる不利益を甘受すべき理由はない。
取り分け、本件規定が違憲となるに至っていたことやその時期についての判断において、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したという事情を理由とすることは、少数者の権利の保障が多数者の承認を条件とすることにつながりかねない。そのような条件が、基本的人権の保障及び個人の尊重という憲法の基本理念に反することは明らかである。

エ 以上のとおり、仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量を逸脱するに
至っていたものであって、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反していたというべきである。

第3 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について

1 本件規定が、遅くとも平成14年改正時までに、憲法22条1項及び14条1項に違反していたことを前提にして、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かについて検討する。

2⑴ 政府は、国際連合の動向等を踏まえ、平成5年計画において、障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりを目指し、障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、必要な
見直しについて検討を行うものとした。
また、国会は、平成5年改正により、障害者基本法の基本理念として、全て障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するとともに、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる旨を規定するなどした。
平成11年決定は、平成5年計画に基づくものであり、障害者に係る欠格条項について、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、対象となる全ての制度について見直しを行い、種々の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討することを前提に、真に必要と認められる欠格条項については、個別審査規定に改正するなどの対処を行うものとした。
平成11年整備法に関する国会審議においては、成年被後見人等に係る欠格条項を撤廃すべきである旨の参考人の意見や、同欠格条項を残すと障害者等への偏見を助長し、その社会参加が妨げられる旨、個別審査規定を設ければ資格制限として足りる旨等の議員の指摘がされるなどした上、参議院法務委員会において、全会一致で、政府等は成年被後見人等に係る欠格条項について更なる見直しを行うことについて格段の努力をすべきである旨の平成11年附帯決議がされた。
以上の経緯等からすると、国会は、新たな成年後見制度の実施に当たり、障害者基本法の定める基本理念の下に、平成5年計画及び平成11年決定の趣旨をも踏まえ、成年被後見人等に係る欠格条項について、それが障害者の社会参加を不当に阻む要因とならないよう、個別審査規定を設けることを検討するなど、更なる見直しを行う必要があることを認識し、政府に対し、その見直しについて格段の努力をすべきである旨の意思を示した上で、平成11年整備法を成立させたものということができる。
このような事情の下で、個別の審査により当該資格等に必要な能力を有すると判断される者が一定程度いるにもかかわらず、成年被後見人等に係る欠格条項により、これを一律に排除することは、障害を理由として個人の自由かつ平等な活動を法律上制限し、障害者の社会参加を不当に阻むものであって、憲法上の問題があることは、国会議員として容易に認識できる状況にあったというべきである。
もっとも、全ての成年被後見人等に係る欠格条項が当然に違憲というべきものではなく、その憲法適合性については、各欠格条項に係る制度の趣旨・目的及び内容、当該資格等に必要な能力の内容、個別審査規定等の代替措置の可能性等を踏まえ、個別に具体的な検討を行う必要がある。

⑵ 平成14年改正は、平成5年計画に基づく平成11年決定を踏まえ、精神病者という欠格事由に代えて、精神機能の障害により警備業務を適正に行うことができるか否かを個別に審査する規定として7号規定を設けるものであるが、平成11年附帯決議は、成年被後見人等に係る欠格条項について、個別審査規定の検討を含む見直しを求めるものであり、7号規定は、本件規定に代わる個別審査規定とみることができる。
そして、国会は、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものであり、平成14年改正時において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないことは明らかである。
そうすると、上記経緯等に鑑み、平成14年改正時において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反することは、国会にとって明白であったというべきである。
⑶ したがって、本件規定は平成14年改正時において憲法22条1項及び14条1項に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものということができるから、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法である。
3⑴ 多数意見は、平成14年改正後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く事情が変化したこと等により、本件退職時点において、本件規定が違憲となるに至っていたことを前提とした上で、判示第3の2⑵のとおり指摘して、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠ったということはできないから、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとしている。
⑵ア 前記のとおり、本件規定が憲法の規定に違反するに至っていた時期及びその理由については、多数意見に賛同することはできない。
仮に、平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったという多数意見の立場に立つとしても、7号規定の施行により、現に警備業者による個別審査が実施され、その後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題が解消していたものというべきであるから、上記時期において、7号規定という個別審査規定を前提として、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえない。
そして、2006年(平成18年)に障害者権利条約が採択され、2007年(平成19年)に我が国がこれに署名し、その批准に向けた施策が進められる中で、平成22年7月、有識者のほか政府及び裁判所の関係機関の担当者が参加した成年後見制度研究会による研究報告において、成年後見等が開始されたとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないこと、各法令における成年被後見人等に関する資格制限について、その必要性等を慎重に検討する必要があること等の見解が示された。次いで、同年10月、成年後見法世界会議における「成年後見制度に関する横浜宣言」において、我が国の課題の一つとして、成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである、特に後見開始決定に伴う選挙権の剥奪は基本的人権を著しく損なうものであるなどとされた。さらに、障害者権利条約を批准するための国内法の整備のうち、平成23年7月の障害者基本法の改正は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する旨を規定するなど、障害者権利条約に定められる障害者の捉え方や我が国が目指すべき社会の姿を新たに明記するとともに、施策の基本原則を定めるなどし、他の法整備の基礎とされた。
また、平成28年4月制定の利用促進法は、基本方針の一つとして、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されることがないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行う旨を定めており(11条2号)、成年被後見人等に係る欠格条項に憲法上の問題が含まれることを明示している。そして、利用促進法の立案については、平成24年頃から3年以上にわたり、国会議員による検討及び協議が行われ、成案が得られたものであることがうかがわれる。これらによれば、その当時における学説や裁判例等の状況に関わらず、現に、国会議員が上記憲法上の問題を認識したことは明らかであり、この点も、それより早い時期から国会議員が上記憲法上の問題を容易に認識できる状況にあったことを裏付けている。
成年被後見人等に係る欠格条項に関し、平成5年計画、平成5年改正及び平成11年決定等を踏まえ、平成11年整備法に関する国会の審議を経て平成11年附帯決議がされた経緯等(2⑴参照。多数意見は、判示第3において、これらの経緯等に何ら具体的に触れていない。)に加え、その後の上記の経緯等に鑑みると、仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、又は遅くとも平成23年頃までに、本件規定が憲法に違反することは、国会にとって明白であったというべきである。

イ 本件規定は、7号規定と重複する過剰な規制であって憲法に違反することが明白であり、これを是正するためには本件規定を削除すれば足りるものであるから、国会において、速やかに本件規定を削除する立法措置を講ずることが強く期待される状況にあった。
成年後見制度の利用の促進に関する施策として、憲法に違反する規定か否かに関わらず、全ての成年被後見人等に係る欠格条項を対象とする見直しを行うための検討には相応の期間を要するとしても、本件規定が現に憲法上の権利を侵害しており、その是正措置が容易であって、他の規定の整備等も必要としない以上、上記施策に係る検討は、国会が上記立法措置を怠る正当な理由となるものではない。

ウ 以上によれば、仮に、平成14年改正時における憲法適合性に関する多数意見の上記立場に立つとしても、本件退職時点において、本件規定は憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものということができるから、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法である。

第4 結論等

1 以上のとおりであり、本件立法不作為の違法を理由とする慰謝料請求を認めた原審の判断は結論において是認することができるから、本件上告を棄却するのが相当である。

2⑴ 成年被後見人等に係る欠格条項の見直しについては、平成28年制定の利用促進法の定める基本方針に基づき、政府の検討を経て、令和元年、本件規定の削除を含む一括整備法が成立したが、平成11年附帯決議は、上記基本方針と同じ趣旨であるから、その内容が約20年をかけて実現したことになる。障害者に係る欠格条項の見直しが平成5年計画に基づいて行われたことに照らしても、あまりにも遅きに失したといわざるを得ない。
これは、政府が長年にわたり平成11年附帯決議を踏まえた適切な対応を怠り、国会がそのような政府の対応を放置したものというべきであるが、この問題には、昭和23年の優生保護法の制定及びその後の経緯等にみられるとおり、国会及び政府が、更に長い歳月にわたり、精神上の障害を有する者等に関する誤った認識に基づく違法な政策や不当な対応を続けてきたという歴史が重なっている。これらに伴う我が国の社会的障壁を除去するには、国及び地方公共団体をはじめとして、なお格段の努力が必要と考えられる。裁判官及び裁判所も例外ではない。

⑵ 一括整備法による成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに当たっては、同欠格条項の多くについて、その代替措置として、7号規定と同様に、法律において「心身の故障により、業務を適切に行うことができない者として省令で定めるもの」といった個別審査規定が設けられた上で、省令等において「精神の機能の障害により業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」といった規定が設けられている。そのため、現在、個別審査を前提としながらも、精神機能の障害を理由とする欠格条項が数多く存在する。
障害は、機能障害を有する者と社会の障壁との間の相互作用であり(障害者権利条約前文⒠、1条後段等参照)、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないこと(障害者基本法4条2項)や、障害者の雇用の分野においても、事業者において障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないこと(障害者雇用促進法36条の2)等を前提にすると、上記欠格条項は、合理的な配慮の提供との関係が明らかではなく、障害者の機能障害に偏ったものとなっている。
障害者権利条約に基づいて設置された障害者の権利に関する委員会は、我が国に対し、心身の故障に基づく欠格条項等の廃止を勧告しており(2022年(令和4年)10月「日本の第1回政府報告に関する総括所見」)、障害者基本計画(第5次)(令和5年3月)においても、心身の障害等により制限を付している法令の規定(いわゆる相対的欠格条項)については、真に必要な規定か検証し、必要に応じて見直しを行うものとされている。
この問題に関する長い歴史に鑑み、適切な対応が望まれる。


谷直樹

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by medical-law | 2026-02-20 03:16 | 司法