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弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

裁判官宮川美津子の反対意見

裁判官宮川美津子の反対意見は、次のとおりである。

私は、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反していたという多数意見の判断については賛同するものであるが、多数意見とは異なり、遅くとも平成14年改正当時には、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っており、また、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には、本件規定が憲法の規定に違反することが国会にとって明白となっており、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるべきものであると考える。その理由は、以下のとおりである。

1 本件規定の憲法適合性について

⑴ 判断枠組み等

本件においては、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かが問題となるが、私も、多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決(再婚禁止期間違憲事件判決)等の判断枠組みに基づいて違法性を判断することに異存はない。そこで、本件立法不作為が違法の評価を受けるか否かについて判断するためには、どの時点で本件規定の違憲性が明白となり、その時点から本件退職時点まで国会が正当な理由なく長期にわたり本件規定の改廃を怠ったといえるかを検討することになるが、本件規定の違憲性が明白になった時期を判断する前提として、本件規定が違憲となった時期についても検討する。
そして、本件規定の憲法適合性に係る判断枠組みについても、多数意見の第2の2に説示されたところに異存はない。この点については、多数意見が挙げる事情のほか、職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動というだけでなく、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものであり(多数意見が引用する最高裁昭和50年4月30日大法廷判決)、平成5年改正障害者基本法(平成14年改正当時に適用された障害者基本法)が掲げた、すべての障害者が、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする基本理念(同法3条2項)は、職業選択の自由を国民に保障した憲法の理念に沿ったものと評価できることを指摘することができる。
多数意見は、本件退職時点において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする一方、平成14年改正の当時においては、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできないと判示する(多数意見第2の3⑵)。しかし、私は、遅くとも平成14年改正の当時には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと考える。そのように判断するに当たり考慮した平成14年改正に至る経緯、障害者のための施策に関する国内外の動向、我が国の立法状況等は、多数意見第1の3⑴及び三浦裁判官の反対意見第1に記載されているとおりである。

⑵ 本件規定の立法目的

本件規定の目的は、多数意見が判示するとおり、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあると解される。このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものといえる。

⑶ 本件規定の必要性、合理性

ア 平成11年整備法により禁治産者及び準禁治産者であることを欠格事由とする規定の見直しが行われ、参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際に附帯決議(以下「平成11年附帯議」という。)がされたことは、多数意見第1の3⑴イに記載のとおりである。これに加えて、改正前の禁治産・準禁治産の制度は、「治産を禁ずる」という用語の否定的な意味合いや、多数の法律中の禁治産者等に係る欠格条項の存在から、利用者を社会から排除する制度であるかのように国民に誤解され、また利用者である知的・精神障害者等に対する社会的な偏見を助長するものと批判されていたのに対し、平成11年の成年後見制度は、精神上の障害(精神障害、知的障害、認知症等)により判断能力が不十分な者について、自己決定権の尊重、残存能力の活用、障害者が障害を持たない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念等、障害者のための施策についての新しい理念を取り入れて創設された制度であったことを指摘することができる。
ところが、かかる新制度の発足を受けて行われた平成11年整備法による禁治産者や準禁治産者に係る欠格条項の見直しでは、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする158の規定のうち、結果として116が「成年被後見人」、「被保佐人」に名前を変えて、旧来通り絶対的欠格条項として残置されたのである。平成11年整備法の国会審議の経過を補足すると、衆議院及び参議院の各法務委員会においては、このような政府の方針に対し、複数の委員から、それぞれの法令の中に能力を個別に審査する規定を設ければ足り、禁治産者等であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから、残存する116項目の欠格条項についても次の見直しの際に再検討されたい旨の発言や、欠格事由を残すと老人や障害者への偏見を助長し、社会参加が妨げられるとの批判が出ているとの発
言があった。さらに、成年後見制度の意義として、禁治産者、準禁治産者という負のイメージを払拭して、皆が負い目を感じずに使える新しい制度を作ろうということであれば、欠格条項ではなく、できる限り個別に判断していこうという方向性が正しいのではないかとの質問に対して、政府参考人から、基本的にはそのような考え方で正しいと思うが、個別の具体的な問題になると、立法的には様々な価値があるので、それを調整させた結果が現在の整備法の内容であるとの回答があった。このような審議の結果として、政府及び最高裁判所は、新たな成年後見制度の実施にあたり、成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については更なる見直しを行うこと等についての格段の努力をすべきである旨の平成11年附帯決議が全会一致で可決されたのである。

イ その後、平成11年決定に基づく障害者に係る欠格条項の見直し作業の一環として、平成14年改正により警備業法の「精神病者」に係る欠格条項の見直しが行われたことは、多数意見第1の3⑴ウのとおりであるが、平成14年改正法の国会審議の経過を補足すると、同国会では、障害者に係る欠格事由の多くは、憲法13条や14条、また国連の様々な宣言や障害者基本法の理念に反するとの意見が出され、また政府参考人から、昭和57年警備業法改正当時、精神病者であることを欠格事由とした理由は、精神病者等が他人の生命、身体又は財産を侵害することも考えられ、適正な業務運営が期待できないという判断によるものであったが、現在(平成14年改正の審議当時)の政府の考え方として、精神病者一般について、適正な警備業務の管理運営、実施を期待し得ないという考えは全く持っておらず、あ
くまでも個別具体的なケースに応じて能力を判断していくべきものと考えている旨の説明があった。また、「精神病者」に係る欠格条項は改正ではなく廃止すべきであるとの議論の中で、政府としては、警備業者等が人の生命、身体又は財産を守る業務に直接携わるものであることから、一定の欠格事由は国民生活の安全を守るためにも必要と考えること、しかし、今回の改正では、精神病者を一律に排除するということではなく、業務を適正に行うことができるかどうかという点に着目して相対的な欠格事由に変更するという立場であることが説明されている。

ウ 平成14年改正によって7号規定が設けられた後は、保佐の制度の対象となる「精神上の障害」(民法11条)を持つ者は、7号規定の対象となる「精神機能の障害」を持つ者に含まれるということができるのであるから、警備業者が警備員を採用する際には、被保佐人についても、保佐の制度を利用していない障害者と同様に7号規定により個別審査を行って、警備業務を適正に行う能力があるかどうかを判断することが可能となった。したがって、平成14年改正で7号規定を追加したことにより、警備業者が警備員を採用する際に、保佐の制度を利用していない精神機能に障害を有する者を7号規定で個別に審査する一方、被保佐人であれば、警備員として適切に業務を行う能力を有する者も含め、本件規定で一律に排除するというような区別をする合理的な理由は認められなくなり、本件規定の必要性や合理
性は失われたと考えられる。

エ 多数意見は、7号規定は、規則3条1項の規定を併せて考えると、精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関により判断されるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきであるから、平成14年改正の当時においても、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできないと判示する。
しかし、保佐開始の審判が公的機関による判断であるといっても、保佐を含む成年後見制度は、財産管理・身上監護に関する制度であり、家庭裁判所は財産管理能力の有無を審査するのであって、保佐開始の審判において判定される能力は、法律行為の利害得失を判断することのできる能力の有無及びその程度であり、それ以外の能力については判断されていない。成年後見制度の下で要求される財産管理能力と事実行為である警備業務を適切に遂行する能力とは質的に異なるものである。したがって、保佐開始の審判において、警備業務を適切に遂行する能力を的確に判定し得るものではない。本件規定は、警備業務に必要とされる能力の内容に応じて個別的・実質的な審査を行う代わりに、家庭裁判所により後見開始の審判を受けた事実を借用するもので、本件規定があれば、被保佐人を全て警備員から排除することにより、警備業者の個別審査の在り方や正確性を問わず警備員としての能力に欠ける者が採用されることを防止できるであろうという安心感から利用されているといえるが、警備業務には多様な業務が含まれており(警備業法2条1項各号)、被保佐人であるからといって全ての警備業務が適切に遂行できないというわけではない。実際、被上告人は、軽度の知的障害を有しながら、同法3条7号に該当しないとの診断書を提出して警備員に採用され、警備会社との雇用契約に基づき、交通誘
導に係る警備業務に従事していたが、保佐開始の審判が確定したことにより雇用契約が終了したのである。したがって、本件規定については、警備業務を行う能力のある被保佐人を警備員から排除する可能性を含み、過剰な規制になっていたといえる。
また、平成14年改正の国会審議において、多数意見が挙げるような7号規定の実効性への懸念が示されていた形跡はうかがわれない。そして、本件規定があることでどれだけの不適格者をスクリーニングできていたのかは明らかではなく、仮に平成14年改正の時点で本件規定が削除されたとした場合に、それまで排除されてきた不適格者がどの程度排除できなくなっていたのかも明らかではない。そもそも、保佐の制度の対象者となり得る精神上の障害者のうち、実際に保佐の制度を利用している者の数はかなり少ないと認められることから、平成14年当時、被上告人のように、知的障害を持ちながら保佐の制度を利用していない者が警備員への就労を希望するケースがあったことは十分考えられ、その場合、警備員としての適格性は警備業者の自発的判断に委ねられていたのである。そのような警備業者の個別審査の結果、精神上の障害を持つ不適格者が採用され、事件や事故を起こしたといった事実は本件では提示されていない。
国会が7号規定による警備業者の自発的審査の実効性に対する懸念から本件規定を残置したのであれば、それは、警備業者の審査能力を不当に過小評価するものである。警備業者は、警備業法に基づき、公安委員会の監督の下に置かれ、所要の法的規制を受けているところ、欠格事由に該当する者を警備業務に従事させてはならないとされており(警備業法14条2項)、警備員が欠格事由に該当しないことについて、一般私人として可能な範囲で必要な調査をしなければならない。公安委員会は、警備業者又はその警備員が、警備業法若しくは同法に基づく命令等に違反した場合等において、警備業務の適正な実施が害されるおそれがあると認められるときは、当該警備業者に対し、当該警備員を警備業務に従事させない措置その他必要な措置をとるべきことを指示することができ(48条)、また、当該警備業者の営
業の全部又は一部の停止を命ずることができる(49条1項)。さらに、罰則(56条から60条まで)により警備業者が警備業法その他の法令を遵守することや公安委員会の監督の実効性を担保している。そして、一定の前科のある者や暴力団関係者等を警備業者の欠格事由とすることに加え、「最近5年間に、警備業法の規定や、同法に基づく命令の規定等に違反した者」を欠格事由とすることによっても(3条3号)、警備業者による法令遵守を担保している。したがって、国は、本件規定がなくとも、警備業法に基づき、警備業者に対し適切な規制、監督を行うことにより、警備業者が、警備業務を適正に行うことができない者を警備員として採用しないよう確保することも十分可能であったといえる。実際、平成14年改正の後、警備業者は、その営業所において、警備員の欠格事由に該当しないことを誓約した書面に加え、当該警備員が欠格事由に該当しないことを確認するために講じた措置を記載した書類を備え付けることとされ(警備業法45条、警備業法施行規則(昭和58年総理府令第1号)66条1項2号)、欠格事由に該当する者が警備員として警備業務に従事することの防止が図られている。
多数意見が指摘するように、警備員の適格性を警備業者の自発的判断に委ねると、不適格な警備員が採用され、利用者の安全や財産を害するおそれがあるとしても、それがどの程度のものであったか明らかではなく、平成14年改正当時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることに関する立法府の判断の合理性を肯定し得るような事情や立法事実は認められない。

オ 以上を総合考慮すると、遅くとも平成14年改正当時において、本件規定を存続させる必要性及び合理性は失われており、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることに関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていたと考える。
したがって、本件規定は、遅くとも平成14年改正当時には、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至り、本件退職時点においても違憲であったというべきである。

2 本件立法不作為の違法性について

⑴ 判断枠組み等

本件立法不作為が国家賠償法1条1項の規定の適用上違法と評価されるべきか否かの判断枠組みについては、私も、多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決等の判断枠組みに基づいて検討することに異存はない。
しかし、多数意見は、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできず、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないと判断しており、この点については賛同できない。

⑵ 違憲の明白性

ア 尾島裁判官の反対意見3⑵及び沖野裁判官の反対意見2⑸に示されているように、違憲であることの明白性は、個々のあるいは多数の国会議員の主観的認識ではなく、唯一の立法機関である国会を構成する国会議員が、憲法遵守義務を負う合理的立法者として、違憲の法律を是正するために、付与された権限を行使しなければならない客観的状況があったか否かという観点から判断される規範的なものと考えるべきである。そして、本件において違憲の明白性の判断をするに当たっては、本件規定により侵害される憲法上の権利の性質、本件規定によるその侵害の内容・程度、本件規定及び関連する他の法令(条約を含む。)の制定及び改正経緯、国会での議論等の状況、関連する学会、研究会等の研究報告や意見表明等を考慮して、本件規定の違憲性が明白であるといえるかを判断することができる。

イ 平成14年改正が国会において審議された際には、障害者に係る欠格事由の多くは憲法13条や14条、また国連の様々な宣言や障害者基本法の理念に反するという意見が出され、政府参考人も、同時点において精神病者一般について適正な警備業務の実施が期待できないという考え方は持っておらず、個別具体的なケースに応じて能力を判断していくべきものとの立場を表明している。ところが、その国会において、「精神病者」に係る欠格条項の見直しの議論に関連して、本件規定について問題提起がされることはなかった。本件規定が、平成14年改正時に検討対象とされなかったのは、平成11年決定が、障害者を表す身体又は精神の障害を理由とした欠格条項を見直しの対象としていたため、「被保佐人」であることを理由とした欠格条項は見直しの対象とされていなかったというだけでなく、被保佐人が障害者であることに加えて公的機関により判断能力が著しく不十分と判定された者であり一定の資格や職業には不適格であるとの社会的な認識が影響していたのではないかとも考えられる。このような社会的な認識の誤りが指摘されるのは、後述する平成22年7月公表の成年後見制度研究会の研究報告を待たねばならなかった。
同報告には、「成年後見の類型は、主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められるのであるから、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない。」との指摘がある(同報告書第2章第4の1⑵ア)。したがって、私は、平成14年改正の当時、本件規定は違憲となっていたものの、国会においてその違憲性が明白になっていたとはいい難いと考える。

ウ そこで、平成14年以降の障害者権利条約の署名及びその批准に向けた国内法の整備等の経緯、成年後見制度の利用の促進に関する法律の制定等の経緯(多数意見第1の3⑵及び⑶)を検討した結果、私は、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には、本件規定の違憲性が国会にとって明白になっていたといい得ると考える。
我が国は、平成19年9月に障害者権利条約に署名し、その批准に向けて、同条約の基本的な理念に沿った形で、国内法の整備及び国内制度改革を行った。そして、平成23年7月に、我が国の障害者施策に関する基本法となる障害者基本法を大幅に改正した。この改正は、障害者権利条約の批准に先立ち、障害者権利条約が締約国に求める障害者の権利の実現や差別の禁止等の理念を取り込むもので、同改正により、障害者基本法は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、かかる施策の基本となる事項を定
めること等により、かかる施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とすることが明示された(1条)。また、平成16年の障害者基本法改正により基本理念として追加された障害を理由とする差別禁止規定(3条)が、平成23年改正法では「差別の禁止」として独立した条項とされ、何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないこと(4条1項)、社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって、前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないこと(4条2項)が定められた。
このような障害者権利条約への対応と並行して、平成22年7月に公表された成年後見制度研究会による研究報告及び同年10月の成年後見法世界会議による横浜宣言において、成年被後見人等に係る欠格条項の問題点が指摘されていた(多数意見第1の3⑶ア及びイ)。

エ 以上の経緯を踏まえ、私は、平成11年整備法を可決する際に参議院法務委員会が平成11年附帯決議を行ったにもかかわらず、その後見直しが進展するどころか、成年被後見人等に係る欠格条項が増加していたという状況にあって、成年後見制度研究会の研究報告や成年後見法世界会議の横浜宣言により、成年被後見人等に係る欠格条項が、国会が検討すべき事項として再認識される機会を得たと考える。そして、我が国の障害者対策の基本法である障害者基本法が改正され、全ての国民が障害の有無にかかわらず等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念を掲げ、障害を理由とする障害者に対する差別その他の権利利益の侵害行為を禁止するとともに、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないことを国民に明示した平成23年7月頃までには、国会において、本件規定が障害者の職業選択の自由を過度に制限し、保佐の制度を利用した障害者に不合理な差別を行うものとして、その違憲性が明白となっていたというべきである。

オ なお、多数意見は、本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、裁判所において本件規定や本件前身規定の憲法適合性について判断がされたことがなかったこと、その他の成年被後見人等に係る欠格事由については、成年被後見人の選挙権に関する平成25年東京地裁判決があるものの、職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはなかったことを、国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかった事情の一つとして挙げている(多数意見第3の2⑵イ)。
もちろん、裁判所において違憲である旨の判断がされていれば、国会はそれらの内容を精査し、必要な是正措置をとるべきであるが、そのような判断がないとしても、それが違憲性の明白性を否定する積極的な事情になるとは思われない。訴えが提起されなければ、裁判所は判断もできないが、事案によっては、裁判という手段をとるのが困難な者もいる。警備員に就きたいと希望する知的・精神障害者は、本件規定が存在する以上、保佐制度の利用を断念するか警備員という職業を断念するかの二者択一を迫られることになる。本件のように、職を失うことになるにもかかわらず保佐制度を利用し、本件規定の違憲判断を得るために裁判に訴えるという選択肢は、個人の経済的・精神的負担の重さを考えると、容易にとり得るものではない。本件は、その意味で稀有の事例であって、先例となる裁判例がないのは事案に
鑑みて当然のことである。それゆえに、本件の判断において、裁判例がないことを国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかったことの理由の一つとして挙げるのには躊躇を覚える。

⑶ 長期にわたる不作為

ア 本件規定の違憲性が国会において明白になっていた平成23年7月の障害者基本法改正当時から本件退職時点である平成29年3月までの間に、国会が本件規定の改廃を行わなかった本件立法不作為は、この間の本件規定をめぐる以下の諸事情を考慮すると、正当な理由なく長期にわたって本件規定の改廃の立法措置を怠ったものであるということができる。
障害者権利条約の批准及び国内法の整備等の経緯、利用促進法の制定等の経緯のうち、平成23年7月以降に生じた事情については、多数意見第1の3⑵イ、同3⑶エからカまでに記載のとおりである。また、多数意見第1の3⑶ウに記載のとおり、平成25年3月に平成25年東京地裁判決が出され、僅か2か月後の同年5月には公職選挙法が改正され、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定は削除されている。平成25年東京地裁判決が出されたからとはいえ、この迅速な対応は、本件規定の削除に要した時間の長さを浮き立たせるものである。
そして、平成26年1月の障害者権利条約の批准、同年2月の同条約の発効により、我が国は、障害者に対する差別となる既存の法律等を修正し、廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認め、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続等)に関し、障害に基づく差別を禁止するための適当な措置(立法を含む。)をとること等が責務となっていた。したがって、同条約批准・発効後は、国会はより速やかな本件規定の改廃措置をとるべき状況だったといえる。

イ 多数意見は、170余の法律に設けられた成年被後見人等に係る欠格条項の全てについて見直しを行うに当たっては、欠格条項を設けている各種制度の間の整合性にも配慮しながら検討を進める必要があり、本件のみ先行して見直しを行うことを要するような事情が存在したとはうかがわれないと判示する(多数意見第3の2⑵ウ)。しかし、本件規定により制約を受けている権利は、職業選択の自由と法の下の平等という国民の重要な憲法上の権利利益であるから、合理的な理由なしに違憲である状態を継続することを容認できないと考える。特に、警備業法については、既に7号規定が設けられているため、本件規定が違憲である状態を解消するためには、本件規定を削除するだけで足り、立法技術的に困難を伴うものでなかったことは明らかである。一括整備法の対象となった法律は170余に上り、所管の府
省庁も16に及び、欠格事由により制限される資格等は多岐にわたる。例えば、国家公務員、自衛隊員等の公務員、医師、公認会計士等の士業、医療法人、学校法人の役員等各種法人役員、薬局開設の許可、貸金業の登記、旅館業の許可等の営業許可、及び法人営業許可に関わるものが一括整備法の対象となっている。このように性格の異なる多種多様な資格や業務に関する欠格条項についてすべての検討作業が完了するのを待って、それらと同時に本件規定の改廃を行う必要性は見当たらない。したがって、国会は、本件退職時点まで、正当な理由なく長期にわたり本件規定の改廃を怠ったものと認められる。

⑷ 結論

以上によれば、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には本件規定の違憲性が国会において明白となっていたにもかかわらず、国会が本件退職時点まで本件規定の改廃を怠ったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるものと考える。
よって、被上告人の請求を一部認容した原判決は妥当であり、上告人の上告は棄却されるべきである。


谷直樹

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by medical-law | 2026-02-21 05:38 | 司法