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弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日弁連、人権保障の観点から高額療養費制度の改定案の抜本的見直しを求める会長声明

日弁連は、2026年3月26日、「人権保障の観点から高額療養費制度の改定案の抜本的見直しを求める会長声明」を発表しました

「2025年12月25日、厚生労働省は、高額療養費制度の見直し案(以下「本改定案」という。)を公表した。高額療養費制度とは、医療機関の窓口でひと月に支払う医療費が高額になり、一定の上限額を超えた場合、その超えた額を患者に支給する制度である。本改定案は、新たに自己負担年間上限を導入することで長期療養者に一定の配慮をしつつも、すべての所得階層で自己負担月額上限を引き上げるものである。

しかし、本改定案による負担増は、多くの患者に対し深刻な生活破綻を来すおそれがある。すなわち、高額療養費制度の利用者の約8割を占める年間1~3回利用の患者(70歳未満で約320万人)は、直近12か月以内に3回以上上限に達した場合に適用される「多数回該当」の軽減措置の要件を満たさない。このように、多数回該当を受けられない患者は、新設される自己負担年間上限(多数回該当金額の約12か月分)の恩恵も受けられず、引き上げられた自己負担月額上限による負担増のみが生じる。たとえば年間収入が200万円から400万円の層では、自己負担月額上限が、月の手取り額から食費、居住費、水道・光熱費等の生活に必要不可欠な支出を差し引いた残額(支払能力)の約60%から95%に達し得るとされる。そのため、手取り額の大半を奪われる短期集中的な負担を強いられ、深刻な生活破綻に陥る患者が多数生じるのである。

また、高額療養費制度における所得区分は原則として前年の所得に基づいて決定される。がんや難病などの重大な疾病に罹患した場合、治療のために休職や退職を余儀なくされ、稼働能力が急激に低下することが一般的であり、本改定案では、更なる負担を課すこととなり、深刻な受診抑制に直結しかねない。

さらに、本改定案による保険料削減効果の政府試算は、患者の受診抑制による削減効果が存在することを前提としつつ、受診抑制により患者に生じる健康上の悪影響の有無について評価・検討していない。医療保険財政の健全化という目的が重要であるとしても、こうした姿勢は、保険財政を維持するために、経済的にも健康的にも過酷な状況にある患者の健康や生活を犠牲にするものであり、看過できない。

当連合会は、2011年(平成23年)10月7日付け「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」、2015年(平成27年)7月16日付け「難病者の人権保障の確立を求める意見書」、及び2023年(令和5年)10月6日付け「人権としての「医療へのアクセス」が保障される社会の実現を目指す決議」など、これまでも一貫して、憲法及び国際人権条約に基づき、経済的理由によって医療へのアクセスが阻害されてはならないと主張してきた。今回の改定案は、最も弱い立場にある患者から必要な医療を受ける権利を実質的に奪いかねないものであり、憲法が保障する生存権(憲法第25条)及び個人の尊厳(憲法第13条)、並びに「到達可能な最高水準の健康を享受する権利」(社会権規約第12条、障害者の権利に関する条約第25条)を脅かしかねない。

よって、当連合会は、政府に対し、本改定案を抜本的に見直し、少なくとも現行制度に準じて令和8年度予算を再検討することを強く求める。」



谷直樹

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by medical-law | 2026-04-07 23:34