弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2014年 03月 18日 ( 3 )

金沢地裁平成26年3月17日判決,酸素吸入チューブの交換中にけいれんを起こした事案で請求棄却(報道)

読売新聞「北陸中央病院医療事故訴訟 原告側の請求棄却」(2014年3月18日)は,次のとおり報じました.

「小矢部市の北陸中央病院に入院していた石川県内の70歳代女性(2012年7月死亡)が、酸素吸入用の挿管ミスで脳に重い障害を負ったとして、女性の家族が病院を経営する公立学校共済組合に約6920万円の損害賠償を求めた訴訟で金沢地裁は17日、原告側の請求を棄却する判決を言い渡した。

 判決によると、女性は2000年6月、酸素吸入チューブの交換中にけいれんを起こし、低酸素状態に陥って脳に障害が残った。

 判決理由で源孝治裁判長は、再挿管用のチューブを事前に準備していなかったとして組合側の注意義務違反を一部認めたが、障害との因果関係については「けいれん発症までの時間は短く、事前準備があっても酸素吸入できたとは認められない」と否定した。」


医療過誤に基づく損害賠償請求が認められるためには,(1)注意義務違反(過失),(2)因果関係,(3)損害が認められることが必要です.
本件は,(1)注意義務違反(過失)を一部認め,(2)因果関係を否定し,請求棄却とした判決です.
けいれん発症まで何分と認定したか不明ですが,「相当程度の可能性」も認めなかったのですから,裁判所の因果関係立証のハードルは高いという印象をうけます.


弁護士 谷直樹

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by medical-law | 2014-03-18 06:57

横須賀市の病院の肺動脈損傷事故の使用者責任は横須賀市か公益社団法人地域医療振興協会か(報道)

神奈川新聞「医療過誤で患者死亡、遺族らが市に損賠請求/横須賀」(2014年3月13日)は,次のとおり報じました.

「横須賀市立うわまち病院(同市上町)で手術中に医師が誤って肺動脈を損傷して患者を死亡させたとして、遺族が市を相手に、約4058万円の損害賠償請求調停を、横須賀簡裁に申し立てていたことが12日、分かった。

 市議会への説明資料の申し立て概要によると、事故が起きたのは昨年10月15日。市内在住の男性(59)に対し、胸腔鏡という小型カメラを使って左肺下葉の切除手術を行っている際、執刀医が誤って左肺動脈を損傷。男性は出血多量となって多臓器不全を引き起こし、同月26日に亡くなった。

 遺族は、執刀医は市の使用者で、市に使用者責任があるとして、損害賠償金の支払いを求めた。市側は、同病院は公益社団法人「地域医療振興協会」が管理運営しており、市に使用者責任はないとの見解を示している。」


神奈川新聞「過失致死容疑で県警が捜査、横須賀・うわまち病院で患者死亡」(2014年3月18日)は,次のとおり報じました.

「横須賀市立うわまち病院(同市上町)で手術中に執刀医が誤って肺動脈を損傷して患者を死亡させたとされる事故で、横須賀署が業務上過失致死容疑で捜査していることが17日、分かった。

 事故が起きたのは昨年10月15日。市内在住の男性(59)に対し、胸腔(きょうこう)鏡という小型カメラを使って左肺下葉の切除手術を行っている際、女性医師(41)が誤って左肺動脈を損傷。男性は出血多量となって多臓器不全を引き起こし、同月26日に亡くなった。

 同署は事故の直後に病院から連絡を受け、捜査を開始した。カルテなどの提出を受け、司法解剖も実施。医学的見地から調べを進めている。

 この事故では、遺族が市を相手に、約4058万円の損害賠償請求調停を、横須賀簡裁に申し立てている。

 申し立てでは、執刀医は市の使用者で、市に使用者責任があるとして賠償を求めているが、市側は、同病院は公益社団法人「地域医療振興協会」(本部・東京都)が管理運営しており、市に使用者責任はないとの見解を示している。」


横須賀市立うわまち病院の開設者が横須賀市で,運営者が公益社団法人地域医療振興協会です.
使用者責任は,開設者が負うか,運営者が負うか,の争いです.開設者は病院運営の最高責任者ですが,運営者を置いたら開設者にその責任はなくなるのか,という問題です.

横須賀市の主張は,運営者である公益社団法人地域医療振興協会が使用者で同法人を相手方とすべきということなのでしょう.

公益社団法人地域医療振興協会は,どのような考えなのでしょうか.

第715条1項は「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と定め,同条2項は「使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。」と定めています.

病院の開設者(横須賀市)が使用者であるとしても,その場合運営者(公益社団法人地域医療振興協会)が「使用者に代わって事業を監督する者」となりますから,いずれにしても公益社団法人地域医療振興協会は責任を免れないということになりそうです.

裁判所の判断に期待したいですね.

【追記】
産経新聞「胸腔鏡手術ミス認め和解 横須賀市、4千万円賠償」(2015年2月13日)は,次のとおり報じました.

「神奈川県横須賀市は13日、同市立うわまち病院で平成25年に肺の胸腔鏡手術を受けた同市の男性=当時(59)=が死亡したのは手術ミスが原因だったと認め、遺族に4370万円を支払うことで和解したと発表した。遺族が損害賠償を求め、提訴していた。

 市によると、男性は25年10月15日、胸に穴を開けて小型カメラを入れて行う胸腔鏡で、左肺の腫瘍の切除手術を受けた際、大量出血。同26日に多臓器不全で死亡した。

 手術は40代の女性医師が担当。出血は、腫瘍に癒着していた動脈をハサミ型の器具ではがそうとした際、誤って動脈を傷つけたためだった。

 遺族は26年5月、市と病院を運営する公益社団法人「地域医療振興協会」(東京)に約5千万円の損害賠償を求めて横浜地裁横須賀支部に提訴。今年1月13日、和解が成立した。和解金は市と協会が連帯して支払った。県警横須賀署は、業務上過失致死の疑いで任意で捜査している。」


弁護士 谷直樹

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by medical-law | 2014-03-18 06:20 | 医療事故・医療裁判

福井地裁平成16年3月17日判決、気管チューブ抜管後の喉頭浮腫事案で責任肯定(報道)

福井新聞が10年前のきょうでとりあげていましたので,10年前の判決ですが,紹介します
術後の喉頭浮腫による窒息に対し,3.5mmのチューブ,3.0mmのチューブでも再挿管を試みるべきとし,麻酔科医が4.5mmのスタンダードチューブにより挿管を試みた後挿管操作を中断していることについて過失を認めた判決です.

福井新聞「旧国立鯖江病院医療ミスで賠償命令」(2004年3月17日)は,次のとおり報じました.

「旧国立鯖江病院で受けた手術後のトラブルで男児=当時(6つ)=が脳死状態となって死亡したのは、適切な処置をしなかった病院側の責任として、男児の両親=越前町在住=が国を相手に約八千百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十七日、福井地裁で言い渡された。小原卓雄裁判長は「担当医師は適切な処置をすべき注意義務に反した」として、国に約七千万円の支払いを命じた。

 男児は一九九七年二月、同病院で扁桃(へんとう)肥大の切除手術を受けた。終了後に気道を確保していたチューブを抜いたところ、気道が閉塞(へいそく)して呼吸できない状態になった。医師は二度にわたってチューブの挿入を試みたが失敗。気管切開手術でも間に合わず男児は脳死状態で意識不明となり、約一年半後に死亡した。

 男児は手術後、喉頭浮腫(こうとうふしゅ)を起こしていたのに、医師は喉頭けいれんと判断していた。国側は「浮腫は予見不可能」としたのに対し、判決では「チューブを抜いた後に起こる浮腫は、まれとはいえ文献で紹介されている。医師には予見し対処する注意義務違反があった」とした。

 また、医師はチューブが入らないためいったん挿入を中断している点について「異なる細さのチューブを使い、次々挿入を試みる必要があった。細いチューブでも酸素を送ることができるという症例もあり、命を救うのは可能だった」とした。

 男児の父親は「主張が認められ大変感謝している。この判決は大きな意義があると思う。事実を隠したり、否定することからは医療の進歩は望めない。国は控訴しないでほしい」としていた。厚生労働省近畿厚生局は「一部認められなかった点もあり、判決を十分検討して今後の方針を決めたい」とのコメントを出した。

 国立鯖江病院は国立病院・診療所の再編で二○○○年、丹南十市町村でつくる組合に経営移譲された。」


術後の喉頭浮腫による窒息事故は,まれではありません.すくなくとも患者側弁護士がうける相談では。
ただ,裁判となると,裁判所が,医師に具体的にどこまでを求めるか,義務認定についての予測が難しく,弁護士としては苦慮します.そこで,術後の喉頭浮腫による窒息事故は,示談,和解での解決が多いと思われます.この判決は,同種事案の解決の際に参考となっています.
この判決は,確定しており,判例時報1882号99頁に掲載されています.

弁護士 谷直樹

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by medical-law | 2014-03-18 05:34 | 医療事故・医療裁判