弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2015年 06月 14日 ( 2 )

産科における胎児死亡の場合の賠償額

医療過誤に因り人が生まれてまもなくり死亡した場合,つまり0歳児が死亡した場合,その児の損害として逸失利益,慰謝料,葬儀関連費用等を計上でき,その損害賠償請求権を相続人である両親が相続した,という法律構成になります.それ以外に両親について近親者固有の慰謝料も損害として計上できます.

これに対し,出生前の胎児が死亡した場合の損害賠償の法律構成は異なります。
日本の民法第3条1項は,「私権の享有は、出生に始まる。」としています.
つまり,人は生まれてはじめて権利義務の主体としての人となるので,生まれる前の胎児は権利義務の主体ではありません.

裁判上,胎児死亡の場合の損害は,権利義務の主体である両親の損害として算定されます.

大分地裁平成9年2月24日判決(判例タイムズ953号250頁)は,子宮破裂により胎児が死亡した事例につき,慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円合計2200万円の支払いを命じました.
東京地裁平成14年12月18日判決(判例タイムズ1182号295頁)は,帝王切開により娩出された胎児が死亡した事例につき早期に帝王切開を実施すべき義務等に違反した過失があったとして産婦人科医と病院側の不法行為責任を認め,慰謝料2800万円,葬儀費用100万円及び弁護士費用300万円合計3200万円の支払いを命じました.
このほか,1000万円を超える賠償を認めた裁判例もあります.

或る弁護士の「交通事故&医療事件に関するブログ」に「胎児死亡の場合の慰謝料」(2008年03月21日)という題で,「これまでに胎児死亡の場合で、もっとも高い金額を認めているのは、東京地裁平成11年6月1日判決(交通民集32・3・856)のようです。この判決は、妊婦(母)が受傷したことにより妊娠36週の胎児が死亡したケースで、胎児死亡による慰謝料として 母親 700万円 父親 300万円 が認められています(総額1000万円)。」と書かれています.
交通事故を念頭においた記載なのでしょうが,これを読んだ一般の人が,出産間近の医療事故についても1000万円を超える賠償額を認めた裁判例がないと誤解をしなければよいのですが...

産科事故に因り胎児が死亡したけれども,その産科事故が無ければ胎児が死亡せず,元気に生まれたと推認できる場合,0歳児の死亡と極限的に接近することから,0歳児の死亡の場合の損害賠償額に近づけることが合理的と考えます.
産科医師は妊娠何週であるかを認識していますので,出産間近の医療事故で責任を負う場合,0歳児の死亡とほぼ同様の賠償額としても予想外ではないはずです.
両親の慰謝料という法律構成をとるにしても,実質的に0歳児の死亡の損害賠償額に近づけることは可能であり,むしろ合理性があると考えます.出産直前に産科医師の注意義務違反により待望の子を失った両親の精神的苦痛は出生後の新生児が死亡した場合となんら異なることはなく,その苦痛と悲しみは極めて深く大きいというべきだからです.

産科事故に因り胎児が死亡した場合の賠償額について,患者側の弁護士は,0歳児の死亡の場合の賠償額に近づける努力をしてきています.
私が原告ら代理人をつとめた東京地裁平成14年12月18日判決(判例タイムズ1182号295頁)以降,それを上回る判決はでていませんが,和解では高額のものもあると思います.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-14 10:59 | 医療事故・医療裁判

厚生労働省,高血圧症治療薬ブロプレスの誇大広告で武田薬品工業株式会社に対し改善命令の行政処分

厚生労働省は,2015年6月12日,「医薬品医療機器法違反業者に対する行政処分について」を発表しました

「厚生労働省では、本日付けで、武田薬品工業株式会社に対し医薬品医療機器法第72条の4第1項の規定に基づき、別紙のとおり行政処分を行いましたので、お知らせします。
今般の処分は、同社が作成した広告が誇大広告と認められることから、業務改善命令を行うものです。
なお、誇大広告により、医薬品医療機器法第66条違反で行政処分を行うのは、今回が初めての事例です。」


「違反事実
武田薬品の高血圧症治療薬「ブロプレス」(注1)に係る広告(「CASE-J 試験」(注2)の結果を活用した広告等)が、医薬品医療機器法で禁止している「誇大広告」に該当すること。(医薬品医療機器法第66 条第1項違反)
(注1)ブロプレス錠(一般名:カンデサルタン)の効能・効果:高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全(軽症~中等症)
(注2)「ブロプレス」と既存の治療薬「アムロジピン」とを比較した大規模臨床試験

違反広告の内容
・ 自社製品と他社製品の脳卒中等の発現率のグラフについて、統計的な有意差がないにもかかわらず、自社製品を長期間服用した場合の発現率が他社製品を下回る(他社製品のグラフと交差する)ことを強調するため、交差部分に「矢印」を用い、これを「ゴールデン・クロス」という最大級の表現で強調した。
・ 広告で用いたグラフは、正しいグラフに比べずれており、自社製品の脳卒中等発現率が低くみえる。
・ 「切り札」という強い表現で、「糖尿病」など本来の効能効果でない副次的効果を端的に提示。

処分内容
第一種医薬品製造販売業の改善命令(医薬品医療機器法第72 条の4第1項)
① 広告等の審査体制について、内部職員による社内審査に止まらず、外部の有識者等も含めたものに整備すること。
② 上記審査体制の下、新規に作成する広告等だけではなく、過去に作成した広告等についても、外部有識者の意見等も踏まえ最新の知見に基づく見直しが速やかかつ継続的に行われる審査体制・社内体制を整備すること。
③ 再発防止のため、広告等の作成・審査に携わる社員及び管理職の者に対し、医薬品医療機器法を始めとする法令、通知及び業界自主基準を改めて周知徹底するとともに、適切な教育訓練の一層の充実を図ること。
④ 上記1から3までの再発防止に係る改善計画については、改善命令発出後1か月以内に、厚生労働省に提出すること。」


武田薬品は,誇大広告にあたらないとしていましたが,ついに誇大広告と認められ,やっと改善命令がでました
CASE-Jそのものについても,京都大学大学院医学研究科の由井芳樹氏らから重大な疑義を指摘されています.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-14 09:02 | コンプライアンス