弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2015年 06月 19日 ( 2 )

平成27年6月19日福岡高裁判決、授乳の際の医療者の経過観察義務を否定し患者側逆転敗訴(報道)

朝日新聞「産後ケアめぐる訴訟、両親ら逆転敗訴 福岡高裁」(2015年6月19日)は、次のとおり報じました..

国立病院機構九州医療センター(福岡市)で生まれた次女(5)の脳に重い障害が残ったのは、助産師らが病室の母子の経過観察を怠ったためなどとして、福岡県内の両親らが同機構に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、福岡高裁であった。大工強裁判長は、病院側の過失を認めて約1億3千万円の支払いを命じた一審・福岡地裁判決を一部取り消し、両親らの請求を棄却する原告逆転敗訴の判決を言い渡した。

 母親は2009年11月、帝王切開で次女を出産。約10時間後、授乳のため助産師が母親の元に次女を連れてきて、それから約1時間20分間、ベッドで母子だけになった。次女は一時呼吸が停止し、低酸素性虚血性脳症の後遺障害が残り、現在も意識が戻っていない。

 一審は、疲労や鎮痛剤などの影響で、母親は次女の様子の急変に的確に対処できないと予見できた、と認定。病院が経過観察をしていれば重度の障害を負う結果を回避できた可能性が高いとして、賠償を命じた。

 一方、高裁は「病院スタッフが経過観察義務を負うのは事故発生を具体的に予見できた場合」と指摘。当時、母子に異常の兆候はなく、病院側は経過観察義務を負っていない、とした。」


毎日新聞「産後経過観察:障害残った家族 国立病院機構への賠償棄却」(2015年6月19日)は、次のとおり報じました. 

「出産後に病院側が経過観察を怠り、次女(5)に重い障害が残ったとして、福岡県内の両親と次女が独立行政法人国立病院機構(東京)に約2億3000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は19日、病院側に約1億3000万円の支払いを命じた1審・福岡地裁判決(昨年3月)を取り消し、両親側の請求を棄却した。

 判決によると、母親は2009年11月20日正午過ぎ、同機構が運営する「九州医療センター」(福岡市)で次女を帝王切開で出産。午後10時に授乳のため助産師が母親に次女を任せた。母親が次女の容体が悪化したことに気付いたのは約1時間20分後で、その後、一時心肺停止になり脳に重い障害が残った。

 大工強(だいく・つよし)裁判長は、午後10時の段階で母子に異常がなく「病院側が事故の発生を予見するのは困難で、経過観察の義務もない」と判断した。1審は、疲労や鎮静剤の影響で母親が睡眠状態になる可能性を指摘し、病院側の注意義務違反を認定したが、大工裁判長は「睡眠状態になっていたとは認められない」とした。【鈴木一生】」


読売新聞「病院側の予見困難」新生児障害、2審は賠償棄却」(2015年6月20日)は,次のとおり報じました.

「出産後に次女(5)が重い障害を負ったのは病院の経過観察が不十分だったためだとして、福岡県の両親らが独立行政法人国立病院機構(東京)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、福岡高裁であった。大工強裁判長は「病院側が経過を観察すべき義務を負っていたとはいえない」として、病院側に約1億3000万円の支払いを命じた1審・福岡地裁判決を取り消し、両親側の請求を棄却した。

 判決によると、母親は2009年11月、国立病院機構が運営する「九州医療センター」(福岡市)で、次女を帝王切開で出産した。約10時間後、助産師が次女を母親のベッドに移したが、その約1時間20分後、次女の容体が急変したことが発覚。心肺が一時停止状態となり、低酸素性虚血性脳症となった。両親側の代理人弁護士によると、次女は現在も入院中で意識がないという。

 1審判決は「帝王切開による疲労などで、母親の意識がもうろうとなり、次女の急変に対応できない可能性を病院側は予見できた」と指摘した。これに対し、大工裁判長は「子の観察は一次的には母親が行うべきものだ」としたうえで、母子同室となった際、母親には特段の異常はなかったと認定。「病院側が事故の発生を具体的に予見するのは困難だった」とした。」


日本経済新聞「産後の母に子預け脳障害、病院訴えた両親敗訴 福岡高裁」(2015年6月20日)は,次のとおり報じました.

「出産直後の次女の脳に重度の障害が残ったのは、意識のもうろうとした母親に預けて経過観察を怠ったことが原因として、福岡県の両親が国立病院機構九州医療センター(福岡市)に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、福岡高裁であった。大工強裁判長は、病院側に約1億3千万円の支払いを命じた一審・福岡地裁判決を取り消し、両親の請求を棄却した。

 一審判決は「病院側は母親が帝王切開による疲労で、次女の急変に対処できない事態を予見できた。経過観察義務に違反した」と判断したが、大工裁判長は「母親には意識があり、特段の異常はなかった」と指摘。「事故の予見は困難で経過観察の義務はなかった」と認定した。

 判決によると、母親は2009年11月20日正午すぎに次女を出産。助産師は同日午後10時ごろ、授乳のため次女を母親に預けた。約1時間20分後、母親は次女の異常に気付いたが、次女は一時心肺停止となり、脳に障害が残った。

 両親側の弁護士は「不当な判決。判決内容を精査して対応を検討する」とコメント。九州医療センターは「主張が認められ、極めて正当な判決だ」とする談話を出した。」


産経新聞「カンガルーケア訴訟で両親逆転敗訴 福岡」(2015年6月20日)は、次のとおり報じました..

「次女の脳に重い障害が残ったのは、国立病院機構九州医療センター(福岡市)が出産直後の母親に女児を抱かせる「カンガルーケア」をしたまま経過観察を怠ったためとして、両親が病院側に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(大工強裁判長)は19日、病院側に約1億3千万円の支払いを命じた1審判決を取り消し、両親の請求を棄却した。」


この報道の件は、私が担当したものではありません.
担当している弁護士は、もともと医療訴訟を数多く手がけている弁護士ではないのですが、カンガルーケア訴訟については、かなり積極的に担当している弁護士のようです.
逆転敗訴となったご両親の心中を察すると心がいたみます.

福岡地裁判決は、経過観察義務を認め、福岡高裁判決は、経過観察義務を否定しました.何が判断を分けたのでしょうか.雑誌に判決文が掲載されたら熟読したいと思います.
 
なお、私は経過観察義務が問題になる裁判を担当していますが、時期(生後早期の不安定な時期)と事案(母が児を観察できない状態であること)がまったく違います.
また,日本周産期・新生児医学会,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本小児科学会,日本未熟児新生児学会,日本小児外科学会,日本看護協会,日本助産師会が,平成24年10月17日,発行した「『早期母子接触』実施の留意点」には,次のとおり記載されています.

「出生直後の新生児は、胎内生活から胎外生活への急激な変化に適応する時期であり、呼吸・循環機能は容易に破綻し、呼吸循環不全を起こし得る。したがって、「早期母子接触」の実施に関わらず、この時期は新生児の全身状態が急変する可能性があるため、注意深い観察と充分な管理が必要である(この時期には早期母子接触の実施に関わらず、呼吸停止などの重篤な事象は約5 万出生に1 回、何らかの状態の変化は約1 万出生に1.5 回と報告されている)」

「早期母子接触が行われる出生後早期は、胎児から新生児へと呼吸・循環の適応がなされる不安定な時期でもある。特に、この時期の循環動態は卵円孔、動脈管などのシャントが残り、寒冷刺激、アシドーシス、低体温などで容易に肺高血圧から右左シャントが惹起され、危急事態が起こり得る。 したがって、早期母子接触の実施の有無にかかわらず、生後早期は不安定な時期であるとの認識は持たなければならない。」

「特に、早期母子接触を実施する時は、母親に児のケアを任せてしまうのではなく、スタッフも児の観察を怠らないように注意する必要がある。」


生後早期の不安定な時期の児については,予見義務が肯定できると考えます.


【追記】

カンガルーケアでの初の最高裁の判断が示されました.
福岡ではなく,大阪の事案です.


朝日新聞「「カンガルーケアで障害」、病院側の責任認めず 最高裁」(2015年9月4日)は,次のとおり報じました.
 
「出生直後の赤ちゃんを母親が肌を合わせて抱く「カンガルーケア」(早期母子接触)が原因で長女(4)が重い脳性まひになったとして、大阪府内の夫婦らが病院の運営法人に約2億7600万円の損害賠償を求めた訴訟で、夫婦らの敗訴が確定した。最高裁第三小法廷(木内道祥裁判長)が1日付の決定で夫婦らの上告を退けた。二審・大阪高裁判決は、一審に続き病院側の責任を否定していた。

 昨年10月の二審判決は、長女は窒息ではなく、原因不明の「乳幼児突発性危急事態」で呼吸停止になったと指摘。カンガルーケアの間に長女の様子を観察していた病院の態勢が「当時の医療水準に照らして相当でなかったとはいえない」とした上で、病院の対応と障害との間に因果関係はなかったと結論づけた。

 二審判決によると、長女は2010年12月、府内の病院で生まれた直後、母親の胸の上で抱かれた。しばらく授乳した後に呼吸が一時停止し、重度の脳性まひが残った。」




谷直樹


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by medical-law | 2015-06-19 23:57 | 医療事故・医療裁判

平成27年度高裁長官,地裁所長及び家裁所長会同における最高裁判所長官挨拶

高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同における最高裁判所長官挨拶は,裁判所の課題と方向性を知るためにとても重要です.

今年の会同における最高裁判所長官挨拶は,以下のとおりでした.

「司法制度改革に向けた構想のための議論がスタートしてから15年, 関連法制の整備が完了してから10 年が経過しました。

裁判所の扱う様々な事件の分野に新たな制度が導入され,この間,運用上の工夫が積み重ねられてきています。民事手続においては,新たに設けられた労働審判がその利用度と成果において高い評価を得ており,目に見える形での効率的紛争解決のモデルとしての位置を築きつつあります。

専門的な事件への対応強化という面においては,専門委員制度の導入などにより適正な解決が迅速に図られるようになっていますし,設立10 年を迎え,国際的な評価を高めつつある知的財産高等裁判所の活動により,知的財産に関する紛争を解決する機能は,格段にレベルアップしたと評されています。

また,刑事手続においては, 戦後における最大の変革といわれた裁判員裁判が導入され,国民の高い意識と誠実な姿勢に支えられて, 刑事手続の標準として定着しつつあります。

このように, より身近で, 頼りがいのある司法を築くことを目指して進められてきた裁判所における諸施策は,着実な成果を挙げつつあり,この間,共に理念の実現を目指してきた裁判現場の皆さんの努力は全体として評価されて然るべきでしょう。

ただ,訴訟のスピードアップにおいては,ここ数年,国民の期待どおりの動きに至らない停滞が見られることも否定できません。加えて,社会経済のさらなる変化を受けて,裁判所の判断が社会経済や国民生活に大きく影響を及ぼす事件など判断が難しい事件が増加傾向にある中で,裁判所が,その使命を十分に果たし,社会の期待に的確に応えていくためには,各裁判体において,事案の実相を捉らえ,事実上及び法律上の争点について多角的な分析を深めた質の高い判断を行って,幅広く納得が得られる解決を示すことができるよう,一層強い問題意識を持った取組が求められています。

そして,これを支える司法行政部門においては,裁判所内の情報伝達や情報共有を有効に機能させ,組織全体として,必要な情報を共有した上で,裁判部門の実情や裁判部門が日々直面している課題を的確に把握し, その環境整備を行っていくことが必要不可欠です。各所長は,裁判部門のいわば中核を構成する「部」の裁判官と日常的にコミュニケーションをとり,実情の把握や課題の発見に努める必要がありますし,各「部」においては, 部総括が,「部」全体の実情や直面している課題を把握し,司法行政部門に伝えていくよう図っていく必要があります。

本庁と支部の関係についても同様であり,支部の実情や直面する課題が,本庁を始めとする裁判所組織全体に共有され, 適切な対応をとれる態勢になっているかどうか目配りを欠かしてはなりません。

各裁判部門の実情をみると,民事の分野では,近時,利害関係が錯綜する事件や対立が根深く解決が困難な事件が増え,裁判所の事実認定や法律解釈において,より説得力のある判断が求められているといえるでしょう。

他方,現行民事訴訟法が施行されてから20 年近くが経過する中で,より良い手続運用を目指そうとする気運が薄れてはいないか省みることも忘れてはなりません。

各庁において,合議体による事件処理の充実や口頭による議論の活性化を始めとする争点中心型審理の再構築に向けた取組が進められていますが,その際には,利用者である国民の視点に立って,民事裁判の在るべき姿について高い問題意識を持つことがまず重要です。
その上で,民事裁判の実情や課題を多角的に分析・検討し,その結果を活かして,適正迅速な紛争解決の実現という裁判本来の役割を改めて見つめ直すとともに,時代の趨勢を見据えた運用改善に努めていく必要があります。


家事の分野では, 家族の在りようの多様化と少子高齢化の進展とが相まって, 成年後見関係事件が急激に増加し,子の奪い合いを背景とする親権者変更事件や面会交流事件が増加するなど, 解決困難な事件の増加をもたらしています。権利意識の高まりにより,家族間の問題であっても,手続の透明性と権利義務の明確化を求める事件が増えているとみることもできるでしょう。裁判官を始めとする家事事件を担当する職員は,このような家事事件をめぐる状況の変化を踏まえ, 常に実情に即した問題意識を持ち,新しい発想と創意工夫を持って, 実務の運営の改善に取り組んでいかなければなりません。
今後とも,各庁において,後見監督についての運営改善や,家事事件手続法の趣旨に則った家事調停の運営改善の努力を,組織的な取組として継続発展させていくとともに,家事審判事件一般や人事訴訟事件についても,実情を適切に把握し,新たな発想による運営改善の努力をしていくことが必要です。

刑事の分野では,施行から7年目を迎えた裁判員制度の運営に係る取組について,自白事件を中心として,争点整理のあり方について議論が進み,分かりやすい公判審理を目指した動きが広がるなど,一定の成果が認められます。
しかし,争点に絞った証拠調べが十分実践できていない事例も未だ多く見られますし,公判前整理手続の長期化や否認事件における争点整理のあり方など,なお検討すべき課題も多く残されています。これらの課題に取り組んでいくためには,今一度,事案に応じた争点及び証拠の整理を経て, 公判で心証が得られる証拠調べを過不足なく行うという刑事裁判本来の姿を再確認する必要があります。その上で,具体的な事案に基づく実証的な検討を重ね,その結果を実務へ還元することを繰り返していくという地道な取組を,裁判所全体で,さらには法曹三者間で,続けていかなければなりません。

裁判所が,直面する諸課題に対応し,適切にその使命を果たしていくためには,裁判官各々の力量を向上させることが極めて重要です。
裁判官には,事件処理に必要な知識や能力を蓄えることはもちろんのこと,広い視野と柔軟な思考力を身に付け,様々な事象に対する洞察力を磨くよう,主体的かつ自律的に,たゆむことなく努力を続けていってほしいのですが,とりわけ組織を支える部総括等を中心に,個々の事件処理にとどまることなく裁判所全体が抱える事件処理を巡る諸課題や組織運営に関する事項への広がりも意識しながら, 職務に当たることを期待します。
そのような力量を備えることを支援するため, 実情をよく把握した上で,研修の充実を含む総合的な取組を続けていく必要があります。
冒頭に述べた司法制度改革は,また,社会に「法の支配」を浸透させる狙いを持った取組とも位置づけられてきました。戦後70年,変化への迅速な対応が求められる今日の社会において「法の支配」の持つ意味は小さくありません。その「法の支配」は,裁判所にとっては,日々の営為を積み重ね,国民の信頼を得ていくことにより現実となっていく理念でもあります。一人一人の職員が国民から期待されている役割を深く自覚し,直面している課題に真摯に向き合いながら, 組織全体として,国民の信頼を得続けていくための努力を重ねていくことこそ,いま求められていることなのです。
各人の着実な,そして積極的な取組を期待して,私の挨拶とします。」


民事裁判の現状と方向性を考えるうえで,つぎの目標は重要と思います.
・「事案の実相を捉らえ,事実上及び法律上の争点について多角的な分析を深めた質の高い判断を行って,幅広く納得が得られる解決を示す」
・「裁判所の事実認定や法律解釈において,より説得力のある判断が求められている」
・「適正迅速な紛争解決の実現という裁判本来の役割を改めて見つめ直すとともに,時代の趨勢を見据えた運用改善に努めていく」
寺田逸郎最高裁長官は,これらが未だ十分には達成されていないと認識しているのでしょう.

その目標実現のために,寺田逸郎最高裁長官は,「裁判官各々の力量を向上させる」必要があることを指摘しています.
最近の枕営業判決などをみると,裁判官各々の力量を向上させる必要を痛感します.

判決は,必ずどちらかの当事者には不利な内容ですから,適切な証拠評価のうえに,事実認定,法律解釈,あてはめについて精緻な論理を展開し,社会常識にそった適正な判決を下す必要があり,そのためにはそれができる裁判官の個々の力量が不可欠です.
多くの裁判官は優秀で力量に不足はありませんが,東京地裁医療集中部の礎を築いた前田順司氏(現甲南大学法科大学院教授・弁護士),福田剛久氏(現高松高裁長官),貝阿彌誠氏(現東京家裁所長),藤山雅行氏(現名古屋家裁所長),千葉地裁医療集中部の礎を築いた一宮なほみ氏(現人事院総裁)らに比べると,最近の裁判官の中には広い視野と柔軟な思考力にやや不安を感じる方もいないではありません.医療事件の多くの判決の結論は適正ですが,患者側敗訴判決の中には疑問を感じるものもないではありません.裁判官各々のいっそうの力量向上に期待します.



谷直樹


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by medical-law | 2015-06-19 01:32 | 司法