弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2015年 11月 25日 ( 3 )

裁判官木内道祥の反対意見,12の選挙区については選挙無効とされるべきである

裁判官木内道祥の反対意見は,次のとおりである。

本件規定の憲法適合性

私の意見は,本件区割規定及び本件選挙区割りは,平成25年改正後の平成24年改正法によるものであるが,定数削減の対象外の都道府県には旧区割基準による定数が配分されており,全体として新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備を実現したものといえず,本件選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(以下,違憲状態ともいう)にあったというものであり,この点は多数意見と同じである。

合理的期間内の是正

憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったか否かについては,是正がされなかったとはいえないとする多数意見に賛成することはできない。

国会が憲法上要求される合理的期間内における是正がされたか否かの判定は,国会が立法府として合理的に行動することを前提として行われるべきであり,既に平成23年大法廷判決において,違憲状態の主要な原因である1人別枠方式の廃止と新基準による選挙区割規定の改正という,行うべき改正の方向が示されており,改正の内容についての裁量権はこの範囲に限定されている。司法権と立法権の関係に由来するとされる事項は,事情判決の法理を適用すべきか否かの段階で考慮すべきことであり,合理的期間内の是正の有無の判定について考慮すべきではない。また,定数配分の見直しにそれ以外の政策課題が併せて議論されているというような実際の政策問題も,合理的期間内の是正の有無の判定について考慮すべきではない(平成25年大法廷判決の私の反対意見参照)。

合理的期間の起算点が平成23年大法廷判決の言渡しがされた時点であり,本件選挙施行までの期間が3年9か月弱となる(この点は多数意見も同じである)ところ,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決が憲法上の要求とした投票価値の平等の実現を阻害する1人別枠方式という要因の解消は,平成25年改正後の平成24年改正法による本件選挙区割りにおいても実現していない(このことは,既に,平成25年大法廷判決が示している)のであるから,本件選挙施行時点まで是正がなされなかったことが,合理的期間を徒過したものであることは明らかである。

したがって,本件区割規定は,違憲の瑕疵を帯びるものである。

選挙の効力について

(1) 選挙無効の判決があり得るのかとの危惧

投票価値の平等を害することを理由とする選挙無効請求訴訟についてなされた当審大法廷判決は,参議院議員通常選挙についての昭和39年2月5日のものを最初とし,18回なされている。この中で,いわゆる事情判決の法理が適用されたものは,昭和51年4月14日大法廷判決と昭和60年7月17日大法廷判決の2回であり,それ以外の大法廷判決の多数意見は,定数配分又は選挙区割り規定が違憲とされた場合の選挙の効力という問題については言及していない。しかし,①定数配分又は選挙区割りが違憲状態に至っているか否か,②その場合に,憲法上要求される合理的期間内における是正がなされなかったとして定数配分規定又は選挙区割規定が違憲となっているか否か,③その場合に,選挙を無効とすることなく違法を宣言するにとどめるか否かという3段階の判断枠組みが採られる中で,③の選挙を無効とするか否かは,この種の訴訟において,最も重みのある問題として意識され,その問題を念頭に,前段階の判断もなされてきたと思われる。

従来の大法廷判決の個別意見には,選挙の効力(選挙を無効とすべきか否か)について言及するものが少なからず存在する。

選挙の効力について,違憲とする場合常にいわゆる事情判決の法理を適用せざるを得ないとの意見(横井大三裁判官,昭和58年11月7日大法廷判決),定数訴訟は,議員定数配分規定の違憲を宣言する訴訟として運用し,無効とはしないとの意見(園部逸夫裁判官,平成5年1月20日大法廷判決など)もあるが,いわゆる事情判決の法理を適用した昭和51年4月14日大法廷判決の多数意見の趣旨は「この種の選挙訴訟においては常に被侵害利益の回復よりも当該選挙の効力を維持すべき利益ないし必要性が優越するとしているわけではなく,具体的事情のいかんによっては,衡量の結果が逆になり,当該選挙を無効とする判決がされる可能性が存することは,当然にこれを認めている」(中村治朗裁判官,昭和58年11月7日大法廷判決)と理解されるべきであり,それを前提として,昭和60年7月17日大法廷判決が,再び,いわゆる事情判決の法理の適用を行ったものと解される。

他方,選挙を無効とすることがあり得るといいつつ,実際には選挙を無効とすることはないのではないかという危惧を抱く意見が個別意見において幾つも述べられている。「「将来を約束する言葉の響きを与えながら,期待をふみにじる」結果になり,かえって国民の司法に対する信頼を裏切ることにならないかを,私は危惧する」(斎藤朔郎裁判官,昭和39年2月5日大法廷判決),「違憲の議員定数配分規定により選挙が繰り返し行われ,裁判所がこれに対しその都度,事情判決的処理をもって応対するということになれば,それは正に裁判所による違憲事実の追認という事態を招く結果となることであって,裁判所の採るべき途ではない」(谷口正孝裁判官,昭和60年7月17日大法廷判決)「最高裁判所が…議員定数配分規定を全体として違憲と判断しながら,結論においては事情判決的処理に終始することがあれば,ひいては主権者である国民の有する選挙における平等の権利の侵害が放置されることになりはしないであろうか」(木崎良平裁判官,平成5年1月20日大法廷判決)などのとおりである。

ここで懸念されているように,選挙区割規定が違憲であるにもかかわらず,選挙が繰り返し行われるような場合に,裁判所は違法を宣言するのみで選挙を無効としない判決をただ繰り返すに終始することはできない。また,是正をなすべき合理的期間の幅を広げることにも自ずと限界がある。「選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合」(昭和60年7月17日大法廷判決)をできるだけ少ないものとし,選挙権の侵害を回復する方途を求める必要があるのである。

(2) 一部の選挙区の選挙無効

私は,平成25年大法廷判決の反対意見において「一般に,どの範囲で選挙を無効とするかは,前述のように,憲法によって司法権に委ねられた範囲内において裁判所が定めることができると考えられるのであるから,従来の判例に従って,区割規定が違憲とされるのは選挙区ごとではなく全体についてであると解しても,裁判所が選挙を無効とするか否かの判断をその侵害の程度やその回復の必要性等に応じた裁量的なものと捉えれば,訴訟の対象とされたすべての選挙区の選挙を無効とするのではなく,裁判所が選挙を無効とする選挙区をその中で投票価値平等の侵害のごく著しいものに限定し,衆議院としての機能が不全となる事態を回避することは可能であると解すべきである。」と述べた。

そして,平成26年11月26日大法廷判決の私の反対意見において「各選挙区における選挙人各人の投票価値平等の侵害の程度を考えると,選挙人としての権利の侵害の最も大きな選挙区は議員一人当たりの選挙人数の最も多い選挙区である。しかし,その選挙区の選挙を無効とした場合,投票価値の較差を是正する公職選挙法の改正が行われて再度の選挙が行われない限り,その選挙区の選挙人が選出する議員はゼロとなる。これでは,選挙を無効とすることが,当該選挙区の選挙人が被っている権利侵害を回復することにはならない。法改正により較差が是正されれば,選挙人の投票価値平等の侵害は解消されるのであるから,選挙を無効とする選挙区の選定に当たって考慮すべきは,法改正による較差の是正までの間の選挙人の権利侵害である。このような観点からすると,議員一人当たりの選挙人数が多いことによる選挙人の権利侵害は,その選挙人数の絶対数の問題ではなく,より選挙人数の少ない他の選挙区の選挙人との比較の問題であるから,議員一人当たりの選挙人数が最も多い選挙区の選挙人の権利侵害を著しくしているのは,議員一人当たりの選挙人数が少なくても議員を選出できる選挙区の存在であり,この選挙区の選挙を無効とすれば,残る議員についての投票価値の較差は縮小する。したがって,限定した範囲の選挙区の選挙を無効とすることによって選挙人としての権利の侵害を少なくするためには,議員一人当たりの選挙人数が少ない選挙区からその少ない順位に従って選挙を無効とする選挙区を選定すべきである。議員一人当たりの選挙人数の少ない選挙区の順に選挙無効とする場合,どの選挙区までを無効とするかは,憲法によって司法権に委ねられた範囲内において,この訴訟を認めた目的と必要に応じて,裁判所がこれを定めることができるものである(昭和60年7月17日大法廷判決の4名の裁判官の補足意見参照)。議員一人当たりの選挙人数が少ない選挙区からその少ない順位に従って裁判所が選挙を無効とする選挙区をどれだけ選定すべきかの規律は,選挙を無効とされない選挙区の間における投票価値の較差の程度を最も重要なメルクマールとすべきと思われるが,この規律は,いまだ熟しているということはできない。」と述べ,特定の選挙区の選挙のみを無効とすることは控えることとした。

平成26年11月26日大法廷判決は参議院議員通常選挙についてのものであるが,議員一人当たりの選挙人数が少ない選挙区からその少ない順位に従って選挙を無効とする選挙区を選定すべきであることは,衆議院議員小選挙区選挙についても同様に当てはまる。前回平成24年12月16日施行の衆議院議員選挙については,私は,区割規定を違憲とし,いわゆる事情判決の法理を適用して違法を宣言するにとどめたが,今回の衆議院議員総選挙は,従来の選挙区割りを基本的に維持して行われたものであり,その全てについて違法の宣言にとどめることはできない。

裁判所が選挙を無効とする選挙区をどれだけ選定すべきかの規律は,従来3段階の判断枠組みの第一段階である選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っているか否かの判断基準とは性質が異なる。選挙区割りが違憲状態か否かの判断基準は,区割規定(定数配分規定)が「全体として違憲の瑕疵を帯びる」(昭和51年4月14日大法廷判決,同60年7月17日大法廷判決)か否かについてのものであり,その区割基準が投票価値の平等に反するものか否かが重要であり,一律に較差の一定数値によって定めることは,それに達しない不平等を無条件に是認することとなり,不適切である。これに対し,ここで問題となる無効とする選挙区の選定の規律は,違憲判断の及ぶ範囲を一定程度制限するという司法権に委ねられた権能の行使についてのものである。

具体的にどの範囲で選挙を無効とするかは,個々の選挙によって異なることは当然であるが,本件においては,本件選挙区割りによる295選挙区の選挙人数の違いが後述のとおりであることを考慮すると,衆議院としての機能が不全となる事態を回避することと投票価値平等の侵害の回復のバランスの観点から,投票価値の較差が2倍を超えるか否かによって決するのが相当である。

今回の選挙の結果によると,295の選挙区のうち最も選挙人数の少ないのは宮城県第5区(選挙当日で23万1081人),最も選挙人数の多いのは東京都第1区(選挙当日で49万2025人)であり,その比率は1対2.129である。選挙人数が東京都第1区の選挙人数の2分の1を下回る選挙区は,宮城県第5区以外に11あり,少ない順に挙げると福島県第4区,鳥取県第1区,鳥取県第2区,長崎県第3区,長崎県第4区,鹿児島県第5区,三重県第4区,青森県第3区,長野県第4区,栃木県第3区,香川県第3区である。

したがって,この12の選挙区については選挙無効とされるべきであり,その余の選挙区の選挙については,違法を宣言するにとどめ無効とはしないこととすべきである。この12選挙区について選挙が無効とされると,その選挙区から選挙人が選出し得る議員はゼロとなるが,これは,選挙を無効とする以上やむを得ないことであり,較差を是正する法改正による選挙が行われることにより回復されるべきものである。



これは,無効とするのを一部の選挙区に限ることで混乱を回避しようとするものですが,一部に限ることが論理的かという問題があります.

ただ,やはり,多数意見より弁護士出身の3裁判官の反対意見のほうが読みがいがあります.
違憲状態判決を繰り返すべきではないでしょう.
「仏の顔も三度まで」(京都いろはかるた)と言いますから,4回目の違憲状態判決はないでしょう.


谷直樹


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by medical-law | 2015-11-25 20:20 | 司法

裁判官鬼丸かおるの反対意見,本件選挙についてその違法を宣言することが相当である

裁判官鬼丸かおるの反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見とは異なり,本件選挙時の選挙規定は憲法に違反するに至っており,本件選挙についてその違法を宣言することが相当であると考える。以下にその理由を述べる。

本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの憲法適合性について

(1) 衆議院議員の選挙における投票価値の較差の問題については,多数意見の3(3)アに記載されている判断方法が従前より採用されており,私もこの判断の枠組みは相当であると考えるので,この判断枠組みに従い検討を進める。

(2) 憲法適合性を判断する基本となる投票価値の平等に関する私の考え方は,平成25年大法廷判決において意見を述べたとおりであるが,概要は次のとおりである。
私は,衆議院議員の選挙における国民の投票価値につき,憲法は,できる限り1対1に近い平等を基本的に保障しているものと考える。

その理由は,両議院議員は,日本国憲法の前文,13条,14条1項,15条1項,44条ただし書に規定されているとおり社会的身分等により差別されることのない主権者たる国民から負託を受けて国政を行うものであり,正当な選挙により選出されることが憲法上要請されていると解されるところにある。特に衆議院議員を選出する権利は,選挙人が当該選挙施行時における国政に関する自己の意見を主張するほぼ唯一の機会であって,国民主権を実現するための国民の最も重要な権利であるが,投票価値に不平等が存在すると認識されるときは,選挙結果が国民の意見を適正に反映しているとの評価が困難になるのであって,衆議院議員が国民を代表して国政を行い,民主主義を実現するとはいい難くなるものである。以上の理由により,憲法は,衆議院議員選挙について,国民の投票価値をできる限り1対1に近い平等なものとすることを基本的に保障しているというべきである。

ところで憲法は,両議院議員の定数,選挙区や投票の方法等その他の両議院議員の選挙に関する事項を法律で定めると規定している(43条2項,44条,47条)のであるから,国会が上記事項を決定するに当たり立法裁量権を有することは予定されているところであるが,私は,国会が立法裁量権を行使して両議院議員選挙制度の内容を具体的に決定するに当たっては,憲法の保障する投票価値の平等を最大限尊重し,その較差の最小化を図ることが要請されていると考える。しかし,国会が配慮を尽くしても,人口異動による選挙人の基礎人口の変化や行政区画の変更といった社会的な事情及びその変動に伴ういわば技術的に不可避ともいうべき較差等が生ずることは避け難く,このような較差は許容せざるを得ないものである。したがって,投票価値の較差については,それが生ずる理由を明らかにした上で,当該理由を投票価値の平等と比較衡量してその適否を検証すべきものであると考える。

(3) 平成23年大法廷判決を受けて,国会は,いわゆる0増5減等を内容とする平成24年改正法及びこれを前提とする平成25年改正法を成立させ,選挙区割りを改めたが,この改定は,選挙区間の人口の較差が最大2倍未満となることを目的としたものであって,できる限り1人1票に近い平等を保障するものではなかった。このため,本件選挙時の最大較差は,予測されていたとおり2倍を超えることになったものである。上記の投票価値の平等に関する私の考え方からすれば,選挙区間の人口較差を2倍以内とすることに終始した本件選挙区割りは,憲法の要求する1人1票に近い投票価値の平等に反するものであるといわざるを得ない。

多数意見は,理由は異なるものの,本件選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないとしており,多数意見の本件選挙区割りの合憲性に関する意見の結論部分については,私も賛同するものである。

憲法の要求する合理的期間内における是正について

(1) 次に,本件選挙までに投票価値の平等の要求に反する状態について,憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったか否かを検討する。
なお,合理的期間の始期については,私も,多数意見の3(3)イに述べられているとおり,平成23年大法廷判決の言渡しがされた日である平成23年3月23日であると考える。

(2) 平成25年大法廷判決の多数意見は,3(3)において,「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っている旨の司法の判断がされれば国会はこれを受けて是正を行う責務を負う」と述べ,国会に是正の責務があることを前提にして,さらに,「単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものと解される」として,合理的期間の経過の有無の判断に当たって考慮すべき事項を明確にした。そして,結論としては,この問題への対応や合意の形成に困難が伴うことを踏まえ,憲法上要求される合理的期間を徒過したものとは断ずることができないとしたのである。

本判決の多数意見も,平成25年大法廷判決と同様に,この問題への対応や合意の形成には様々な困難が伴うのであり,国会において是正実現に向けた取組が平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた方向で進められていたことから,憲法上要求される合理的期間内に是正されなかったと断ずることはできないとした。

(3) しかし,私は多数意見に賛同することができない。

国会が平成23年3月23日に投票価値の平等に反する状態にあることを認識し得てから本件選挙までの間に,3年8か月が経過した。これは,衆議院議員の1期分の任期にほぼ等しい期間である。その一方で,同日以降に衆議院において少なからぬ法案が可決されてきた状況に照らすと,期間の長短のみならず是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の考慮事項を総合考慮しても,国会が司法の判断の趣旨を踏まえて適切に衆議院議員の定数配分や選挙区割りの是正に取り組んだならば,上記期間内に,憲法の投票価値の平等の要求するところに沿った定数配分や選挙区割りの是正を行うことは可能であったろうと考えるものである。

衆議院議員の定数配分や選挙区割りの見直しについては,種々の論議があることは容易に想定できることであり,また国会内の合意を得て見直しができるのであれば,それが最も望ましいことであることについては,私も何ら疑念を持つものではない。けれども,どのような法案であっても問題への対応や合意形成に困難がないということは少ないのであり,また全ての法案が国会の合意形成を得て成立するものではないことはいうまでもない。国会は,国民を代表する両議院の議員が論議を交わし一定期間論議した後に多数決の原理に従って議決し立法に至るという代表民主制を具現する場である。衆議院議員の定数配分の見直しや選挙区割りの改革等に関する事項に関しては国会の合意形成を要するとする憲法上の要求はないのであるから,他の立法と異なる取扱いをすることは相当ではないと考える。

一方,当裁判所の大法廷判決において既に2度にわたって,衆議院小選挙区選挙における投票価値の較差は憲法の要求に違反する状態であることを指摘され,これらの判決には国会が是正の責務を負う旨判示されていることに照らせば,是正は国会の急務であって,立法裁量権に配慮しても,合理的期間を緩やかに解することは許されるべきではないであろうと考える。

以上のことから,憲法の予定している立法権と司法権の関係を考慮してもなお,本件選挙時には既に憲法上要求される合理的期間を徒過したものというべきである。

本件選挙の効力について

(1) 本件選挙における各選挙区の中には,議員1人当たりの人口の較差に開きが存在するが,本件選挙区割りはその性質上不可分であるから,憲法に違反する投票価値の較差を生じている選挙区のみではなく,本件区割規定ないし本件選挙区割りが全体として,本件選挙当時において,憲法の要請する投票価値の平等に反していたものであり,違法であったというべきである。そこで本件選挙全部の効力が問題となるところ,選挙を無効と認めるべきか否かについては検討を要するところである。

(2) 本件選挙を全部無効とした場合には,本件選挙により選出された衆議院の小選挙区選出議員全員の当選の効力が失われることになる。しかし,衆議院には,小選挙区選出議員のほかに比例代表選出議員180人が存在するのであるから,比例代表選出議員のみによっても憲法56条の定足数を満たすことができるのであって,定足数等の人数のみに着目すれば,衆議院の機能が直ちに失われることにはならないと考えることができよう。そして,民主主義の根幹である国民の投票価値の平等を尊重した是正が行われず,衆議院議員が国民を代表して国政を行い民主主義を実現しているとはいい難い状況で立法作業が継続されるという事態を一応回避できるといえよう。そうであれば,選挙は,判決と同時あるいは将来に向かって無効とするという結論を採ることもあり得るところである。

(3) しかしながら,小選挙区選出議員全員の当選が無効となった場合に,比例代表選出議員のみによって衆議院の活動が行われるという事態は,衆議院議員の小選挙区比例代表並立制度を定めた公職選挙法も,また衆議院議員選出のために投票した国民も予定しなかった事態であり,予期しない不都合や弊害がもたらされるおそれがあることを否定することはできない。国民は,本件選挙時に,小選挙区選出と比例代表選出の2選出方法による議員を選出することを前提とした投票行為を行っているのであるから,比例代表選出議員のみによって衆議院の活動が行われ,定数配分や選挙区割りが定められる等という状況の出現は,一時的なものにせよ,選挙時には想定していなかったものであり,そのような事態は,国民の負託に沿わないおそれが高いといわねばならない。

そして,多数意見が指摘するとおり,国会においては引き続き選挙制度の見直しが行われ,衆議院に設置された検討機関において投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度を内容とする具体的な改正案等の検討が行われていること等を総合考慮すると,事情判決の制度の基礎に存する一般的な法の基本原則を適用して,本件選挙が違法であることを主文において宣言することが相当であると考えるものである。


判決主文で選挙の違法を宣言するというものですが,事情判決に逃げているところがやや消極的です.



谷直樹


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by medical-law | 2015-11-25 20:19 | 司法

裁判官大橋正春の反対意見,本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とするのが相当である

最高裁判所は,1票の価値に最大で2.13倍の格差があった平成26年12月の衆議院選挙について、憲法が求める投票価値の平等に反する状態だった(違憲状態)とし,選挙の無効を認めませんでした.最高裁派,3回連続で違憲状態にとどまっています.
注目すべきは,弁護士出身の3裁判官の反対意見です.


「裁判官大橋正春の反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見と異なり,平成23年大法廷判決において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとされた旧選挙区割りは本件選挙区割りによっても違憲状態が解消されたことにはならず,したがって憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったもので,本件選挙区割りは憲法の規定に違反すると考えるものであり,また本件では事情判決の法理を適用すべき事情はなく,本件選挙区割りに基づいてなされた本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とするのが相当であると考える。

いわゆる合理的期間の法理に関する私の理解は,平成25年大法廷判決における私の反対意見1項に述べたとおりであり,これを引用する。

国会は,遅くとも平成23年大法廷判決の言渡しによって旧選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていると認識し得たのであり,合理的期間の始期は遅くても言渡しがされた平成23年3月23日ということになる。

ところで,平成25年大法廷判決は,本件選挙区割りについて,「上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県については,本件旧区割基準に基づいて配分された定数がそのまま維持されており,平成22年国勢調査の結果を基に1人別枠方式の廃止後の本件新区割基準に基づく定数の再配分が行われているわけではなく,全体として新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が十分に実現されているとはいえず,そのため,今後の人口変動により再び較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する蓋然性が高いと想定されるなど,1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない。」と判示した。そして,同判決が想定したように,本件選挙当時における選挙区間の投票価値の最大較差は2.129倍となっており,憲法の平等価値の原則に反する状態になっていることは多数意見の指摘するとおりであるから,平成23年大法廷判決が指摘した違憲状態は,現在でもいまだ解消されていないことになる。

平成23年3月23日から本件選挙施行日である平成26年12月14日まで3年8か月が経過しており,国会に認められた選挙制度の構築についての広範な裁量権や議員間で利害が激しく対立する選挙区割りの改正の困難性を考慮しても,3年8か月は国会が旧選挙区割りを憲法上の平等価値の原則に適合するものに改正するのには十分な期間である。したがって,本件では憲法上要求される合理的期間を徒過したものといわざるを得ない。

また,平成24年改正法及び平成25年改正法の成立により本件選挙区割りを制定したことを,漸次的な見直しが行われたとして,合理的な期間の判断に当たって考慮することは相当でないと考える。本件選挙区割りの性格については平成25年大法廷判決の指摘するとおりであり,平成22年当時の国勢調査に基づく選挙区間の人口比較差こそ1.998倍と僅かに2倍を下回るものであったが,その後の人口動向から次の選挙時にはこれが2倍を超えることは相当の確度で予想されていたことであり,現に本件選挙当日における選挙人の最大較差は2倍を超えるものとなっている。したがって,平成24年改正法及び平成25年改正法は,問題の根本的解決に向けての立法府の真摯な努力を前提にした上での当面の是正策であると評価することはできず,合理的期間の経過の判断に際して考慮すべきものではない。

また,本件選挙後の国会における是正の実現に向けた取組については,現在まで具体的な成果を上げているものでなく,現在までに既に4年8か月も経過していることを考慮すれば,合理的な期間が経過しているとの上記の判断を左右するものではない。

本件選挙区割りが違憲であるとした場合には,いわゆる事情判決の法理の適用が問題となる。合理的期間の法理が,選挙制度の仕組みの決定について認められている国会の広範な裁量権を尊重するという司法権と立法権の関係に関わるものであるのに対し,いわゆる事情判決の法理は,行政事件訴訟法の規定に含まれる法の一般原則に基づくものと理解されているが,これはまた違憲判決の効果の範囲・内容を定めるについて裁判所の有する裁量権(最高裁平成24年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁参照)の表れの一つでもある。殊に,定数配分規定や選挙区割りの違憲を理由とする選挙無効訴訟は,公職選挙法204条の選挙の効力に関する訴訟の形式を借りて新たな憲法訴訟の方式を当審が創設したという実質を有するものであり(最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁の裁判官寺田治郎,同木下忠良,同伊藤正己,同矢口洪一の補足意見(以下「昭和60年大法廷判決の共同補足意見」という。)参照),その効果を定めるについて裁判所の裁量を認める余地は大きいということができよう。勿論,憲法上保障される個人の基本的権利の侵害が問題になっている場合には,違憲の効力を制限することには慎重であるべきだが,本件はいわゆる客観訴訟でありそのような問題は生じない。

上記のように考えた場合には,裁判所は,昭和51年大法廷判決のいう違法であることを判示するにとどめて選挙自体は無効としないとすることや,昭和60年大法廷判決の共同補足意見のいう選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するものとすることが可能である。

平成23年大法廷判決から現在まで既に4年8か月が経過しているにもかかわらず国会による是正措置は実現されていないのであり,選挙人の基本的人権である選挙権の制約及びそれに伴って生じている民主的政治過程のゆがみは重大といわざるを得ず,また,立法府による憲法尊重擁護義務の不履行や違憲立法審査権の軽視も著しいものであることに鑑みれば,本件は事情判決により選挙の違法を宣言するのにとどめるべき事案とはいえない。

他方において,選挙無効の効力を直ちに生じさせることによる混乱を回避することは必要であり,本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とすることが相当である。

投票価値の較差の是正が困難であるのは,選挙制度構築の技術性や専門性に由来するものと利害関係の対立,特に直接の利害関係人である現職議員間の利害対立によるものとが考えられるが,国会はこれまで何度にもわたり衆議院議員総選挙の小選挙区選挙に関する定数是正を検討するための審議会等の組織を設置し検討を加えてきたのであるから,技術的・専門的な知識・経験を蓄積してきたものと考えられ,技術性・専門性が是正措置実現の大きな障害であるとは考え難く,主たる原因は現職議員間の利害対立にあるものと考えられる。しかしながら,本件は裁判所が違憲状態にあるとした本件選挙区割りの是正に関わるのであるから,憲法尊重義務を負う個々の議員だけでなく立法府として速やかにこれを是正する法的義務を負っているものといわなければならない。そもそも利害関係を調整して必要な決定を行うのが立法府の役割である以上,利害対立を理由に決定を避けることは許されない。

本件では全選挙区について訴訟が提起されており,平成25年大法廷判決の私の反対意見が指摘した問題は生じない。立法府による本件選挙区割りの是正のための検討作業を前提にすれば,本判決確定後6か月以内に是正措置を採ることを求めるのは不可能を強いるものとはいえない。そして,6か月以内に是正措置が採られた場合には,特別法による選挙か衆議院を解散した上での通常選挙によるか等の具体的方法についての選択肢はあるものの,憲法14条に適合する新たな選挙区割りに基づいた選挙をすることで本件選挙を無効とすることによる混乱は回避することが可能である。



これは,本判決確定後6か月経過の後に無効とすることで,その6か月の間に改正作業を行わせるというものです.
事情判決の法理を適用しない,一部の選挙区に限定しない,という点で,最も実効的かつ最も論理的な反対意見です.

谷直樹


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by medical-law | 2015-11-25 20:17 | 司法