弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2018年 03月 02日 ( 2 )

無痛分娩事故の被害者遺族が,厚労省研究班への要望書を提出しました。

2015年9月2日に神戸市西区のクリニックでおきた無痛分娩事故により妻と子を亡くした被害者遺族が,本日,厚労省の「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究班」(海野班)に要望書(別紙)を郵送提出しました。
 要望は,以下の3点です。
(1) 妊産婦の視点に立って検討いただきたく、そのために妊産婦対象の無痛分娩についてのアンケート調査実施の方向性を示してください。
(2) 専門医認定制度の導入は、妊産婦にとってはメリットですから、導入の方向を示してください。
(3) 今後無痛分娩事故で人が亡くなることがないように、現状をよしとせず、世界標準と同レベルの安全な無痛分娩のために必要な人的物的体制を提言してください。

要望書は,以下のとおりです.

貴研究班が昨年8月23日に立ち上がり、「『医療安全に関してはダブルスタンダードは社会的に許容されない』という認識のもと、世界標準と同等のレベルの、病院・診療所で共通の安全対策の標準的方法に関するコンセンサス形成をはかる。」という基本方針が示され、研究班の任務として、諸外国のガイドライン等の検討を行ない、安全対策に関するコンセンサスを形成し、標準的方法を提示する、とのことで、私は期待を抱いて注視してきました。
貴研究班は、無痛分娩実施医療機関に対しては、「無痛分娩実施施設に関する情報公開の促進のための提言」(検討中)への積極的な対応を求めるとのことで、私は情報公開が進むものと期待しています。
ただ、討議の過程をみると、十分とは思えないところもありますので、貴研究班が提言をとりまとめ、平成30年度以降の方向性を示すに際し、以下のとおり、要望いたします。

1 実態把握について
日本産婦人科医会のアンケート調査が行われましたが、医師へのアンケートという性格上、必ずしも正確な実態が把握されたとは言いきれない面があるように思います。
妊産婦側の視点を欠いては一面的なものになりますので、妊産婦へのアンケート調査も必要と考えます。
妊産婦側が無痛分娩をどのようなものと認識し、妊産婦希望による無痛分娩がどのようにして行われているのか、無痛分娩に対するニーズの内容、とくに安全な無痛分娩のために何を望んでいるのか、を調査していただきたく思います。

2 安全管理体制の構築について
(1)認定制度の導入等
貴研究班は、関係学会・団体に対して「産科麻酔関連の認定制度等」の導入の要否に関する検討を要望する、とのことで、専門医認定制度導入自体についてすら積極的な方向を示していません。
貴研究班は、専門医制度・技術認定制度等の導入のメリットとして「わが国の産科麻酔・無痛分娩の質の向上につながる」、「妊産婦及び社会に対して無痛分娩実施施設のレベルを判断する基準を提供できる」点をあげました。
デメリットしては、「現に無痛分娩を実施している医療機関・医師が資格を新たに取得することは難しい」、「資格取得が無痛分娩実施の条件となってしまうと、無痛分娩を提供できる医療機関が激減することになる」点をあげました。
しかし、これは、専門医の資格を取得できないような医師が無痛分娩を実施している現状を認めた上で、現状を変えることをデメリットと言っていることになります。
安全な無痛分娩のためには、人的物的に体制が整っていない医療機関で無痛分娩が行われている現状を変える必要があると考えます。上記の点は妊産婦にとってはデメリットではありません。妊産婦にアンケートを行えば、専門医認定制度導入に賛成する意見が圧倒的に多数だと思います。
なお、必ずしも資格取得を無痛分娩実施の条件とする必要はありません。妊産婦に情報を提供しその選択に委ねることも十分考えられます。硬膜外無痛分娩(脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔を含む)の件数は年間1から20件の施設が最も多いことが報告されました。その件数で産科医が無痛分娩に熟練しレベルを維持できるのか、を考えると、仮に年間1~20件の施設が無痛分娩を止めることになったとしても、デメリットは生じないと思います。
亡き妻は、無痛分娩のリスクを知らされていませんでしたが、仮に知らされていたら無痛分娩を選択しなかったでしょうし、選択するとしても設備や体制の整った医療機関を選んだはずです。妊産婦に無痛分娩のリスクが知らされていなかったために無痛分娩の件数が増えてきたとすれば、リスクについての情報提供がなされれば、今後も同じように無痛分娩の件数が増え続けるとは考えられません。
さらに、「産科麻酔研修プログラム(仮称)」とそれに基づいた「産科麻酔の実施・実技」研修のコース及び講習会等の企画、実施が方向性として示されるようですが、研修を実効的なものとするためには、専門医の資格取得と関連付けたほうがよいと考えます。

(2)安全な無痛分娩のために必要な人的物的体制
硬膜外麻酔後の適切な観察がなされず、急変時に適切な対応がなされていなかったために、私の妻と息子は亡くなりました。安全な無痛分娩のためには、麻酔後に見守りができ、急変に対応できる人的物的体制(産科医、麻酔科医らの24時間常駐と機器の準備)が確保されていることが必要と考えます。無痛分娩は硬膜外麻酔等が行われることから、少なくとも専門医認定制度がない現状では、麻酔科医の関与が必要と思います。

3 要望
(1) 妊産婦の視点に立って検討いただきたく、そのために妊産婦対象の無痛分娩についてのアンケート調査実施の方向性を示してください。
(2) 専門医認定制度の導入は、妊産婦にとってはメリットですから、導入の方向を示してください。
(3) 今後無痛分娩事故で人が亡くなることがないように、現状をよしとせず、世界標準と同レベルの安全な無痛分娩のために必要な人的物的体制を提言してください。


      (連絡先)
〒160-0003東京都新宿区四谷本塩町3番1号四谷ワイズビル1F
谷直樹法律事務所 電話 03(5363)2052


なお,第1の要望書(2017年7月14日)は,http://medicallaw.jp/youbou1.pdf
第2の要望書(2017年8月8日)は,http://medicallaw.jp/youbou2.pdf
をそれぞれご参照ください。


谷直樹

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by medical-law | 2018-03-02 12:23 | 無痛分娩事故

大津地裁平成30年3月1日判決,病理解剖契約にもとづく病理解剖記録の写しの交付義務否定

京都新聞「病理解剖記録の開示、遺族の訴え棄却 大津地裁判決」(2018年3月1日)は次のとおり報じました.


 「大津市の男性が、死亡した妻=当時(26)=の病理解剖をした滋賀医科大付属病院に解剖記録の開示を求めたのに拒否され精神的苦痛を受けたとして、同病院に慰謝料など154万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が1日、大津地裁であり、西岡繁靖裁判長は原告の請求を棄却した。
 判決によると、原告は2016年、妻の病状を見過ごした疑いがあるとして別の病院の責任を追及しようとしたところ、その病院から病理解剖記録の提出を求められた。
 西岡裁判長は判決で、滋賀医科大付属病院は解剖の結果を遺族側に伝えていることから、説明義務は履行されたと指摘。遺族が希望する解剖記録の写しを同病院が交付しなかったとしても債務不履行は認められず、請求には理由がないとした。」


病理解剖契約にもとづく病理解剖記録の写しの交付義務が争われた裁判です.
裁判所は,病理解剖契約締結の事実は認めましたが,その契約の内容として,病理解剖記録の写しの交付が契約当事者間で合意されていたとは認められない,と判断しました.この解釈が適切とは思えませんが,この解釈を前提にすれば,今後,病理解剖記録の写しがほしいと思う遺族は,病院が病理解剖記録の写しの交付を明確に約束したときのみ病理解剖を依頼することになるでしょう.

なお,国立大学法人の文書開示手続きを経た場合に,病理解剖記録の写しを開示することは,全く別の問題です.
この裁判で否定されたのは,あくまで病理解剖契約にもとづく病理解剖記録の写しの交付義務です.

谷直樹

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by medical-law | 2018-03-02 12:12 | 医療