弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2018年 03月 05日 ( 2 )

熊本地裁判決,肺血栓塞栓症の手術の麻酔後に低酸素脳症となり死亡した事案について患者側敗訴(報道)

産経新聞「帝王切開手術後に死亡、賠償請求棄却 「医師が取った救命措置は妥当」熊本地裁」(2018年3月5日)は,次のとおり報じました.

「熊本赤十字病院(熊本市)で平成22年、手術を受けた女性=当時(28)=が死亡したのは医療ミスが原因だとして、熊本県阿蘇市の遺族が病院に計約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁(遠藤浩太郎裁判長)は5日、請求を棄却した。

 判決によると、女性は22年4月下旬、熊本市内の別の病院で帝王切開によって出産し、その後、肺に血栓が詰まる肺血栓塞栓症を発症した。熊本赤十字病院に転院し手術を受けたが、全身麻酔をした直後に低酸素脳症となり、翌月に死亡した。

 遺族側は「低酸素脳症を回避するための適切な医療機器を使わなかった」と主張したが、判決は「医師が取った救命措置は妥当だった」とし、過失を認めなかった。」


上記報道の件は,私が担当した訴訟ではありません.
上記記事には,「適切な医療機器を使わなかった」としか書いていませんが,肺塞栓摘出手術にPCPSを積極的に用いている施設では手術成績は良好であると報告されていることから,PCPS使用義務を主張したのでしょうが,適切な医療機器を使わなかった過失は簡単に認められるものではありません.ほかに過失があるということはないのでしょうか.

谷直樹

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by medical-law | 2018-03-05 22:35 | 医療事故・医療裁判

「市民公開講座~無痛分娩の安全性について」を傍聴して

共同通信「無痛分娩「リスク差ない」 厚労省研究班が見解示す」(2018年3月4 日)は,次のとおり報じました.

 「無痛分娩の実態把握のため、厚生労働省が設置した研究班が4日、普通のお産と無痛分娩のリスクについて「大きな目で数字を見た感じでは、そんなに差がなさそうだと言える」との見方を示した。東京都内で開いた公開講座で、代表の海野信也・北里大病院院長が市民からの質問に答えた。研究班が安全評価を公言するのは初めて。

 研究班は死亡事故を受けて設置され、2017年8月から無痛分娩の安全管理体制構築の議論を進めていた。年度内に提言をまとめる。

 10年以降に無痛分娩を受けた14人が死亡したことについて、海野氏は「同期間の妊産婦死亡者271人に占める割合は5.2%。分娩全体での無痛の実施率も14年度からの3年間で4.6%から6.1%に伸びており、ほぼ同じ割合で死亡するケースも起きている」と説明。ただ「だから大丈夫というわけではない。もっと細かく調べなければならない」と付け加えた。

 「死亡したケースをみると、麻酔薬が脊髄に入り込む合併症によるものが多い」とし、蘇生設備を整備し、医師らが研修やトレーニングを受けて緊急時に対応できるようにすれば、死亡・後遺症を防ぐことができると主張。妊婦が実施施設を選べるよう、施設側が医師の実績など情報公開を進める必要性も指摘した。〔共同〕」


NHK「無痛分べんのリスクを正しく知る市民講座」(2018年3月4日)は,次のとおり報じました.

「麻酔を使って陣痛を和らげる無痛分べんのリスクを正しく知ってもらおうと、東京で医師による市民講座が開かれました。

無痛分べんは、出産の際に麻酔をかけ、陣痛を和らげる分べん方法で、妊婦が死亡するなど重大な事故が起きていることから、厚生労働省の研究班が対策を協議しています。

無痛分べんのリスクを正しく知ってもらおうと4日、研究班のメンバーが東京・千代田区で市民講座を開き、出産を考えている女性などおよそ90人が参加しました。

この中で、加藤里絵医師は、無痛分べんの際に、背中の「硬膜外腔」と呼ばれる場所に局所麻酔をしたとき、誤って脊髄の通る場所や、血管に入ってしまうと呼吸がしづらくなり、最悪の場合、心臓が止まる危険性もあると説明しました。

一方で、こうした事態は、医療者が妊婦の様子を注意深く見て、けいれんが起きるなどの初期症状を見逃さず適切に対処すれば、防ぐことができると伝えました。

厚生労働省の研究班によりますと、去年明らかになった無痛分べんの重大な事故で、原因を特定できた6件のうちの4件は、麻酔が誤って脊髄の通る場所に入ったケースだったということです。

研究班では今後、無痛分べんを安全に行うための具体的な手順を示すほか、全国の医療機関に対し、無痛分べんの実績や、麻酔を扱う医師の研修履歴をホームページで公開するよう求めていくことにしています。」



読売新聞「妻子を亡くした神戸の遺族、無痛分娩事故の再発防止を要望」(2018年3月5 日)は,次のとおり報じました.

「神戸市西区の診療所で出産の痛みを麻酔で和らげる無痛 分娩 を巡る2015年9月の事故で、妻子を亡くした男性(33)が2日、安全対策を検討する厚生労働省研究班に、再発防止に向けた要望書を提出した。

 要望書では、これまでの研究班の検討内容を不十分と指摘。安全な無痛分娩のために望む点などを妊産婦にアンケート調査することや、無痛分娩の麻酔に習熟した医師の認定制度導入を、近くまとめる研究班の提言に盛り込むことなどを求めた。

 厚労省研究班は、重大事故の続発を受け、昨年夏に設置された。医療機関への実態調査の分析や、情報公開の方法などを検討してきた。先月の最終会合では、認定制度の導入の是非について関係学会・団体に検討を委ねる方針が示された。」


読売新聞は,「麻酔を担う医師の要件など望ましい体制を示したものの、出産と麻酔を1人の医師が行うことを容認するなど、実施要件の厳格化に反対する診療所に配慮した形で、続発する事故の歯止めとなるかは不透明だ。」と書いています.

無痛分娩を行うと,ときに全脊麻(硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬が脊髄くも膜下腔に投与されておきます)になることがあります.
医師はこのようなことが起きないように注意していますが,どんなに注意深く適切に行っても,ときに全脊麻になること自体は防止できません.
無痛分娩で全脊麻になっても,適切な体制がとられていて人工呼吸なども含め呼吸循環動態を維持するよう適切に対応すれば,亡くなったり後遺症を残すことはありません.

ところが,無痛分娩事故として報道された8件中7件が麻酔が原因で,4件が全脊麻でした.
つまり,日本では,現在,無痛分娩で妊産婦が全脊麻になったときに,必ずしも適切な対応がとられる体制になっていません.無痛分娩で妊産婦が全脊麻になったときに,適切な対応がとられる医療機関と適切な対応がとられない医療機関があります.そして,無痛分娩を受けようとする妊産婦は,現在,適切な対応がとられる医療機関かそうでない医療機関かを知る手がかりがありません.

(リスクが変わらないという推定自体,全体の実施件数が増えていることからの大雑把なもので正確性が疑わしいですし,仮に妊産婦死亡率が無痛分娩を実施した場合とそうでない場合で異なるというエビデンスがなくても)誰もが,この状況はよくない,改善しなければならない,と考えているはずです.
安全安心に無痛分娩が行われる体制をつくるべきです.

研修も情報公開も安全安心な無痛分娩のためには有用ですが,それだけでは十分ではないでしょう.
研修は,専門医認定制度とリンクして,実効性のあるものになります.専門医認定制度は,医師が研修を受ける動機付けになります.
また,妊産婦からすると,専門医認定制度があったほうが医療機関選択が容易です.

専門医認定制度に反対する理由は,現在無痛分娩を行っている医師が無痛分娩を行えなくなるのは無痛分娩へのアクセスが悪化しよくないということのようです.
しかし,法的に専門医資格がなくても無痛分娩を行い得るとすることは可能ですし,現在無痛分娩を行っている医師が専門医資格を取得できないために,無痛分娩希望の妊産婦が事実上その医師のところでは無痛分娩を受けないことになることは,安全安心でない無痛分娩を排除することになり無痛分娩の普及のために必要なことで,妊産婦の安全のためにはむしろよいことと考えます.

無痛分娩を受けると,くじ引きのように全脊麻に当たるかもしれません.諸外国では全脊麻に適切に対応して死亡するようなことはないのに,日本では全脊麻に適切に対応できない施設であったなら死亡するかもしれません.妊産婦は,このリスクを知ったとき,安全安心な無痛分娩よりアクセスの容易さを優先するとは思えません.

研究班のとりまとめが,無痛分娩の安全な体制作りの方向への舵取りになることを期待します.

谷直樹

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by medical-law | 2018-03-05 09:07 | 無痛分娩事故