弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2019年 05月 14日 ( 2 )

福岡高裁平成31年4月25日判決,術後再出血で脳に重い障害を負った事案で賠償額を増額し約1億7千万円の支払を命じる(報道)

西日本新聞 「福大筑紫病院の術後ミス、二審も賠償命令 福岡高裁 3医師と病院に1.7億円」(2019年4月26日)は次のとおり報じました.

福岡大筑紫病院(福岡県筑紫野市)で手術後のずさんなケアにより重い脳障害を負ったとして、40代の男性患者と家族が福大と医師ら5人に約6億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が25日、福岡高裁であった。矢尾渉裁判長は、一審福岡地裁に続いて大学と医師3人の過失を認めた上で、将来の介護費用などを考慮して賠償額を約800万円増額し、約1億7千万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は2009年5月、腸に炎症などを起こす難病「クローン病」治療のため腹部手術を受けた際、6千ミリリットルの大量出血をした。手術後の午前0時に医師全員が帰宅したが、夜勤の看護師が患者の異変に気付き、午前5時半に医師1人を呼び出した。再手術が行われたものの、患者は再出血して脳に重い障害を負った。

 判決理由で矢尾裁判長は、主治医3人の看護師に対する指示について「(出血量の指標とされる)脈拍数や血圧について具体的な指示をしておらず不適切」と指摘。「適切な指示があれば脳障害は回避されたと推認できる」とした。

 看護師に関しては「出血性ショックを疑わせる異常を確認した段階で、医師へ報告する義務があった」として過失を認めた一方、脳障害との因果関係は否定。看護師、執刀医への請求は一審に続き棄却した。

 福岡大筑紫病院は「判決文を精査し、適切に対応したい」とコメントした。」


共同通信「二審も1億円超賠償命令 福岡大病院で手術、後遺症」(2019年4月26日)は次のとおり報じました.

「福岡大筑紫病院(福岡県筑紫野市)で手術を受け重い後遺症を負ったとして、難病のクローン病患者の男性と親族が大学側に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は25日、一審福岡地裁に続いて主治医らの過失を認めた上で賠償額を増額し、約1億7千万円の支払いを命じた。

判決によると、男性は2001年にクローン病を発症。09年5月に手術を受けて翌日腸から出血し、出血性ショックによる低血圧で脳や運動機能に障害が残った。

矢尾渉裁判長は、出血の可能性を念頭に置いた術後管理が必要だったと指摘。「血圧に異常が認められれば直ちに報告するよう看護師に指示すべきだった」と述べた。

一審の賠償命令額は約1億6千万円だったが、高裁は男性の余命をより長く見積もり、将来の介護費用などを増やした。

福岡大筑紫病院は「判決文を精査し、適切に対応したい」としている。

この医療事故では県警が13年、主治医ら5人を業務上過失傷害容疑で書類送検。14年に全員が不起訴処分となっている。」


報道の件は私が担当したものではありません.
術後管理(血圧に異常が認められれば直ちに報告すること)についての医師の過失を認めた判決です
クローン病患者の生命予後は正常集団に比べやや低下することを考慮し,平均余命までの介護費用は認められないが,平均余命より大幅に低下する蓋然性が高いとも言い難い,と判示し,症状固定からの余命を28年として損害を計算しています.
矢尾渉判事は最高裁調査官も歴任している優秀な判事です.また,私が司法修習生のとき,とても丁寧に起案を添削いただきました.

谷直樹

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by medical-law | 2019-05-14 12:21 | 医療事故・医療裁判

『きのう何食べた? 第6話』の偏見

5月10日放送のテレビドラマ『きのう何食べた? 第6話』で,司法修習生が「医療訴訟って弁護士にとって確実にお金が入るいい仕事なんですよね.」と言うと,筧史朗弁護士は,「そうやって家族を失ってやりきれない気持ちでいる人を焚きつけて弁護士がバンバン訴訟しまくった結果産科医と小児科医のなり手が減った.最近の医師不足の原因の半分は闇雲に稼ごうとする弁護士にあると俺個人としては思うよ.そんなこと言いながら俺も医療訴訟は引き受けんだけどね.1件あたりの賠償額が大きければこっちの取り分も大きいし.」と言います。

患者側弁護士に対する偏見は根強いものがあると思いました.私は,患者家族、そして医療にたずさわるすべての人の権利が実現され、患者家族、患者団体、医療にたずさわるすべての人の願いである安全なより良い医療を実現するために,医療事件を取り扱っています.

平成29年の医療訴訟の平均審理期間は24.2月で,認容率は20.5%です.
時間と労力を要し5件に1件しか勝てないのが医療訴訟です.当事務所は事務所外の弁護士との共同受任でも着手金は合計50万円(当事務所に入るのは25万円)ですから,報酬金が入らなければ時間と労力に見合いません.医療訴訟は「確実にお金が入るいい仕事」では決してありません.また,賠償額が大きなものばかりではありません.医療過誤だけを取り扱う弁護士が少ないのは,「確実にお金が入るいい仕事」ではないからです.

診療科別に医師の人数をみると,平成28年12月末日時点で,1位が内科医で60,855人(20.0%)、2位が整形外科医で21,293人(7.0%),3位が小児科医で16,937人(5.6%)です.産婦人科医は,10,854人(3,6%)です.
平成29年の地方裁判所の医事関係訴訟既済件数753件のうち,小児科は10件,産婦人科は54件です.
産科医と小児科医の減少が医療訴訟によるものとは考えにくい数字です.
また,医学部の定員によって医師の総人数が決まります.医学部の定員を絞れば医師の総人数は少なくなりますし,定員を増やせば医師の総人数は増えます.仮に医療訴訟のために医師を辞める人がいたとしてのごく少数ですので,医療訴訟の件数は医師の総人数に影響しません.
医療訴訟の多い地域に医師が多く,医療訴訟の少ない地域に医師が少ないことから,医療訴訟が医師の偏在をもたらしていないことは明らかです.
診療科における医師の偏在も,地域における医師の偏在と同様に,医療訴訟以外の影響が大きいと思います.

つまり,ドラマの筧史朗弁護士の台詞は根拠のない偏見です.残念です.

谷直樹

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by medical-law | 2019-05-14 02:28 | 医療事故・医療裁判