弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2019年 09月 22日 ( 1 )

医療裁判における「因果関係」

民法第709条は,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています.
最初の「よって」は責任成立要件としての因果関係,次の「よって」は損害賠償の範囲としての因果関係を定めたものです.
つまり,「よって」という文言から,「因果関係」が損害賠償の要件であることが分かります.
医療過誤に基づく損害賠償を請求するためには,単に過失(医療ミス)があるだけでは足りず,「損害」と「因果関係」があることが必要です.

「因果関係」とは,特定の結果が特定の事実によって生じた関係です.原因と結果の関係にあることです.あれなければこれなし,という条件関係は,事実的因果関係そのものではなく,条件関係自体の立証は必要ありません.条件関係の前提となる事実的因果関係の存在を立証することが必要とされています.

医療裁判では,悪しき結果が医師の過失行為(作為ないし不作為)によるものとの帰責判断(これは法的価値評価です)を行う前提として,「因果関係」の立証が求められています.したがって,そのために必要な範囲での経過を主張・立証すれば足ります.一連の因果の経過のすべてを立証することまでは求められていません.医学的なメカニズム・機序と因果関係はイコールではないのです.
医師の原因行為から患者に生じた悪しき結果までの因果の経過について,その基本的な骨格部分を主張・立証すれば足りる,とされています.

損害賠償の要件として求められている「因果関係」は,一般的な言葉では「関連性」とほぼ同じことを意味することになります.
立証責任が原告(患者)側にあることから,関連性は否定できない,というレベルでは立証は十分ではありませんが,自然科学的に関連性を立証することまでは求められていません.

最判昭50・10・24(民集29巻9号1417頁,ルンバール事件)は,「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」と判示しています.
最判昭50・10・24は突然の痙攣を伴う意識混濁で始まった発作とその後の病変が化膿性髄膜炎の再燃ではなくルンバールによって生じたものと認定しました.

ルンバール判決はルンバールという作為の事案ですが,より「因果関係」立証が難しい不作為の事案でも同様に考えられています.
最判平11・ 2 ・25(民集53巻2号235頁,肝細胞癌早期発見義務違反事件)は,最判平11・ 2 ・25を引き,「右は、医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断においても異なるところはなく、経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、医師の右不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると、医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは、主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき由であり、前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない。」と判示しました.

医療裁判における「因果関係」立証はとても大変です.

谷直樹

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by medical-law | 2019-09-22 16:41 | 医療事故・医療裁判