弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2020年 02月 28日 ( 5 )

新型コロナウイルス等対策特別措置法検討へ

安倍晋三首相は本日28日の衆院総務委員会で,「法案内容は新型インフルエンザ等対策特別措置法を参考に早急に検討する」と述べたと報じられています.
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の「等」に含むという解釈は,権利を制限する根拠となる法律なので難しいと判断されたのでしょう.
新型インフルエンザ等対策特別措置法第四十五条に相当する規定がほしいのでしょう.

第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

【追記】

3月9日に,以下の「新型コロナウイルス対策のための特措法改正に反対する緊急声明」が出されました.

 「新型コロナウイルスの感染拡大が深刻さを増すなか、安倍政権は現行の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」と略記) の対象に新型コロナウイルス感染症を追加する法改正 (ただし、2 年間の時限措置とする) を 9 日からの週内にも成立させようと急いでいる。
 しかしながら、特措法には緊急事態に関わる特別な仕組みが用意されており、そこでは、内閣総理大臣の緊急事態宣言のもとで行政権への権力の集中、市民の自由と人権の幅広い制限など、日本国憲法を支える立憲主義の根幹が脅かされかねない危惧がある。
 そのような観点から、法律家、法律研究者たる私たちは今回の法改正案にはもちろん、現行特措法の枠内での新型コロナウイルス感染症を理由とする緊急事態宣言の発動にも、反対する。あわせて、喫緊に求められる必要な対策についても提起したい。

1 緊急事態下で脅かされる民主主義と人権
 特措法では、緊急事態下での行政権の強化と市民の人権制限は、政府対策本部長である内閣総理大臣が「緊急事態宣言」を発する (特措法32条1項。以下、法律名は省略) ことによって可能となり、実施の期間は 2 年までとされるものの、1 年の延長も認められている (同条 2 項、3 項、4 項)。
 問題なのは、絶大な法的効果をもたらすにもかかわらず、要件が明確でないことである。条文では新型インフルエンザ等の「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるもの」という抽象的であいまいな要件が示されるだけで、具体的なことは政令に委ねてしまっている。また、緊急事態宣言の発動や解除について、内閣総理大臣はそれを国会に報告するだけでよく (同条 1 項、5 項)、国会の事前はおろか事後の承認も必要とされていない。これでは、国会による行政への民主的チェックは骨抜きになり、政府や内閣総理大臣の専断、独裁に道を開きかねず、民主主義と立憲主義は危うくなってしまう。
 緊急事態宣言のもとで、行政権はどこまで強められ、市民の自由と人権はどこまで制限されることになるのか。特措法では、内閣総理大臣が緊急事態を宣言すると、都道府県知事に規制権限が与えられるが、その対象となる事項が広範に列挙されている。例えば、知事は、生活の維持に必要な場合を除きみだりに外出しないことや感染の防止に必要な協力を住民に要請することができる (45条 1 項)。また、知事は、必要があると認めるときは、学校、社会福祉施設、興行場など多数の者が利用する施設について、その使用を制限し、停止するよう、施設の管理者に要請し、指示することができる。また施設を使用した催物の開催を制限し、停止するよう催物の開催者に要請し、指示することができる (同条 2 項、3 項)。
 外出については、自粛の要請にとどまるとはいえ、憲法によって保障された移動の自由 (憲法22条 1 項) を制限するものである。また、多数の者が利用する学校等の施設の使用の制限・停止や施設を使用する催物の開催の制限・停止という規制は、施設や催物が幅広く対象となり、しかも要請にとどまらず指示という形での規制も加え、強制の度合いがさらに強められており、憲法上とりわけ重要な人権として保障される集会の自由や表現の自由 (憲法21条 1 項) が侵害されかねない。
 また、特措法の下で、NHKは、他の公共的機関や公益的事業法人とならんで指定公共機関とされ ( 2 条 6 号など。民放等の他の報道機関も政令で追加される危険がある)、新型インフルエンザ等対策に関し内閣総理大臣の総合調整に服すだけでなく (20条 1 項)、緊急事態宣言下では、総合調整に基づく措置が実施されない場合でも、内閣総理大臣の必要な指示を受けることとされている (33条 1 項)。これでは、報道機関に権力からの独立と報道の自由が確保されず、市民も必要で十分な情報を得られず、その知る権利も満たせないことになる。
 さらに、知事は、臨時の医療施設開設のため、所有者等の同意を得て、必要な土地、建物等を使用することができるが、一定の場合には同意を得ないで強制的に使用することができる (49条 1 項、2 項)。これも私権の重大な侵害であり、憲法が保障する財産権にも深く関わる措置である (憲法29条)。

2 政府による対策の失敗と緊急事態法制頼りへの疑問
 政府は、特措法改正の趣旨を、新型コロナウイルス感染症の「流行を早期に終息させるために、徹底した対策を講じていく必要がある」(改正法案の概要) と説明している。
 しかし、求められる有効な対策という点から振りかえれば、中国の感染地域からの人の流れをより早く止め、ダイヤモンドプリンセス号での感染を最小限にとどめ、より広範なウイルス検査の早期実施と実施体制の早期確立が必要であった。にもかかわらず、国内外のメディアからも厳しく批判されてきたように、初期対応の遅れとともに、必要な実施がなされない一方で、専門家会議の議論を踏まえて決定されたはずの「基本方針」にもなかった大規模イベントの開催自粛要請、それにつづく全国の小中高校、特別支援学校に対する一律の休校要請、さらに中国と韓国からの入国制限などが、いずれも専門家の意見を聞かず、十分な準備も十分な根拠の説明もないまま唐突に発動されることによって、混乱に拍車をかけてきた。
 本来必要な対策を取らないまま過ごしてきて、この段階に至って緊急事態法制の導入を言い出し、それに頼ることは感染の抑止、拡大防止と具体的にどうつながるのか、大いに疑問である。根拠も薄弱なまま、政府の強権化が進み、市民の自由や人権が制限され、民主主義や立憲主義の体制が脅かされることにならないか、との危惧がぬぐえない。現に、特措法改正を超えて、この際、今回の問題を奇貨として憲法に緊急事態条項を新設しようとする改憲の動きさえ自民党や一部野党のなかにみられることも看過しがたい。

3 特措法改正ではなく真に有効な対策をこそ
 今回の特措法改正はあまりにも重大な問題が多く、一週間の内に審議して成立させるなどということは、拙速のそしりをまぬかれない。私たちは、政府に対し今回の法改正の撤回とともに、特措法そのものについても根本的な再検討を求めたい。加えて、次のことを急ぐべきである。すなわち症状が重症化するまでウイルス検査をさせないという誤った政策を転換し、現行感染症法によって十分対応できる検査の拡大、感染状況の正確な把握とその情報公開、感染者に対する迅速確実な治療体制の構築、マスクなどの必要物資の管理と普及である。感染リスクの高い満員通勤電車の解消、テレワークを可能にする国による休業補償、とりわけ中小企業への支援、経済的な打撃を受けている事業者に対するつなぎ融資や不安定雇用の下にある人々や高齢者、障がい者など生活への支援を必要とする人々への手厚いサポートが必要である。そのため緊急にして大胆な財政措置が喫緊である。
 強権的な緊急事態宣言の実施は、真実を隠蔽し、政府への建設的な批判の障壁となること必至である。一層の闇を招き寄せてはならない。

    2020年 3 月 9 日

    梓澤和幸 (弁護士)
    右崎正博 (獨協大学名誉教授)
    宇都宮健児 (弁護士、元日弁連会長)
    海渡雄一 (弁護士)
    北村 栄 (弁護士)
    阪口徳雄 (弁護士)
    澤藤統一郎 (弁護士)
    田島泰彦 (早稲田大学非常勤講師、元上智大学教授)
    水島朝穂 (早稲田大学教授)
    森 英樹 (名古屋大学名誉教授)
    (*あいうえお順)」


【再追記】

3月13日に,新型コロナウイルスを新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に加える改正法が13日の参院本会議で、自民、公明両党や立憲民主党などの賛成多数で可決、成立し,14日に施行されることになりました.
首相は,緊急事態宣言を出したいのでしょう.

谷直樹

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by medical-law | 2020-02-28 16:43 | 医療

鼻の手術で内直筋を損傷し後遺障害8級相当の障害の』事案で市が4640万円支払い義務認める(報道)

京都新聞「医療ミスで右目筋肉損傷 後遺障害、市が4640万円支払いへ 滋賀県・近江八幡」(2020年2月28日)は次のとおり報じました.

 「近江八幡市立総合医療センター(滋賀県近江八幡市)で2016年12月、県内の40代男性が鼻の手術を受けた際、右目の筋肉を傷つけられ、後遺障害8級相当の障害を負っていたことが27日分かった。市は医療ミスと認め、男性に損害賠償金を支払う方針。

 関係者によると、男性は手術後に物が重複して見えるなどの異常を感じ、検査したところ、右の眼球を動かす内直筋の損傷が分かった。京都市内の病院で内直筋をつなげる手術などを受けたが、障害が残ったという。

 市は4640万円の支払い義務を認め、既に930万円を支払った。残りは市議会に提案中の本年度一般会計補正予算案に追加計上する。

 京都新聞社の取材に対し、同センターは「被害者の個人情報に配慮し、何も言えない」としている。」


上記報道の件は私が担当したものではありません.
鼻の手術で内直筋を損傷するのは回避不可能な合併症ではありません.
8級の労働能力喪失率は45%で,後遺症慰謝料は830万円です.

谷直樹

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by medical-law | 2020-02-28 15:15 | 医療事故・医療裁判

臨時休校要請の波紋,新宿区の学童が学校休み期間中朝から対応できるか

北海道では2月27日から小中学校の臨時休校が始まりましたが,臨時休校の影響で170人看護師が出勤できなくなり,帯広厚生病院が予約や救急以外の外来患者の診療を休止することが報じられています.

NHK「臨時休校要請『学童保育などは原則開所を』厚労省が通知 」(2020年2月28日)は,「学童保育は、感染の予防に留意したうえで夏休みなどと同様、1日8時間、開所するなどの柔軟な対応を呼びかけています。学童保育は平日は原則、放課後からの開所で、日中も開所するためには、休校の措置が始まる週明けまでに人員の確保など早急な態勢づくりが求められることになります。厚生労働省は「職員の確保が困難な場合は関係団体に協力を要請するなどしてほかの施設から職員が確保されるよう必要な対応をお願いしたい」としています。」と報じています.

小学校より狭い学童で感染がおきないのか,安倍晋三首相の場あたり的な指示にみえます.
そもそも新宿区の学校休みの間の学童の開設時間は午前8時~午後7時です.新宿区の学童が人手を確保し3月2日からこの時間帯開所することができるのでしょうか.また政府の方針に変更があるかもしれません.万一学童に預けられない場合は,事務所に小学生を連れての出勤をお願いするしかありませんが,通常どおりの勤務は難しいでしょう.仮に小学生の子はなんとかなっても,幼児を保育園に預けられない場合は,事務局を休ませるしかないのです.裁判所が休みにならないと法律事務所は休めないのですが,事務局は休ませることになりそうです.

谷直樹

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by medical-law | 2020-02-28 09:23 | 事務所

「新型コロナウイルス感染症」を診断することの意味

政府のPCR検査の制度設計は,新型コロナウイルス感染症患者の接触歴か渡航歴がない場合でも,重症であれば検査を行う,というものです.
その「重症」の程度ですが,集中治療室に収容し人工呼吸器による管理が必要な患者には限定されていません.肺炎が疑われる程度であれば,十分「重症」と判断されるはずです.
肺炎が疑われれば入院が必要であり,入院先を決めるためには,新型コロナウイルス感染の有無を判断する必要があるからです.

〈1〉風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く〈2〉強いだるさや息苦しさがある――のどちらかに当てはまる人が「新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター」に電話し,運良く電話がつなかった場合,同センターは,何らかの要件を充たす人には新型コロナ外来受診を指示し,要件を充たさない人には自宅療養継続を指示します.この線引きの要件は明らかにされていません.(同センターへの電話がつながらない,新型コロナ外来受診指示の要件が不明確などの事態は,直接病院を受診する発熱患者をふやし,医療現場の混乱を招きます。また,4日間の受診抑制のため,インフルエンザ患者に対する発症48時間以内の抗インフルエンザ薬投与は不可能となっています.)
そして,高いハードルを超えて,新型コロナ外来を受診して,胸部CT検査,胸部レントゲン検査で異常が認められ,CRP・白血球数上昇が認められると,医師から重症と判断されPCR検査を指示されます.PCR検査を指示された人は,PCR検査を受けることができるはずでした.

ところが,医師が検査必要と判断しても保健所が検査を断っている,と報道されています.
PCR検査を指示された人がPCR検査を受けられないということは,制度設計が破綻したことを意味します.(4日間の自宅療養という制度設計は,適切な時期に鑑別診断を行い,感染拡大を防止し,治療を行うという,という通常の考え方に反していますが,その設計は重症者にPCR検査を行うためだったはずです.)

もし,その患者が一般病院に入院すると,もし新型コロナウイルス感染者であった場合,院内感染を引き起こしかねません.これは由々しきことです.そこで,本来入院が必要な患者にやむなく自宅療養が指示されることになると,(新型コロナウイルス感染者であってもなくても)十分な治療が受けられず,病態が悪化することにもなりかねません.

PCR検査可能件数は1日3800件と発表されていたのですが,その後の報告によると1日約900件程度しか実施されていません.
重症度をあまりに厳格に解釈しすぎて対象者を絞り込みすぎたのでなければ,どちらかの件数が誤りでしょう.
厚生労働大臣が「幅広い医療機関で検査が受けられるよう来週中にも公的保険の適用対象とする」という方向を示唆したことからすると,現状の検査可能件数が低すぎるのでしょう.

PCR検査が受けられないために,本来入院が必要な患者にやむなく自宅療養を指示され,十分な治療が受けられず,病態が悪化することは避ける必要があります.

谷直樹

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by medical-law | 2020-02-28 07:11 | 医療

《2台のピアノのための組曲 第1番 「幻想的絵画」 Op.5》

セルゲイ・ラフマニノフ氏の《2台のピアノのための組曲 第1番 「幻想的絵画」 Op.5》は20歳のときの作品です.
第1曲 舟歌
第2曲 夜と愛と
第3曲 涙
第4曲 復活祭
ウラディーミル・アシュケナージ氏とアンドレ・プレヴィン氏の演奏が素晴らしいです.
今日は昨年亡くなったアンドレ・プレヴィン氏の命日です.

谷直樹

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by medical-law | 2020-02-28 05:41 | 趣味