弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2020年 03月 16日 ( 2 )

日弁連は黒川弘務東京高検検事長の定年延長について声明をださないのだろうか

会長選挙も終わったのですが,日弁連は,黒川弘務東京高検検事長の定年延長について未だ声明をだしていません.もしこのまま沈黙を続けるつもりなら非常に残念です.
ちなみに仙台弁護士会などの単位会では以下の会長声明をだしています.

大阪弁護士会は3月13日に「検事長の定年延長に関する閣議決定の撤回を求める会長声明」を発表しています.

「東京高等検察庁の黒川弘務検事長は、本年2月7日に定年を迎えることになっていたところ、その勤務を半年間延長するとの閣議決定が、定年直前の本年1月31日に行われた(以下「本閣議決定」という。)。そして、本年2月10日の衆議院予算委員会で、法務大臣は、検察官には国家公務員法第81条の2の定年退職の規定は適用されないが、同条を前提にした同法第81条の3による退職の特例としての勤務延長の規定は適用できると解釈したとして、本閣議決定は適法であると答弁した。
 しかし、本閣議決定は、特別法である検察庁法が一般法である国家公務員法の特例をなすことから、検察庁法に違背する。
 すなわち、検察庁法は、検察官の定年について「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と定め(同法第22条)、国家公務員法との関係については、「検察庁法第15条、第18条乃至第20条及び第22条乃至第25条の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」と定めている(同法32条の2)。これは、定年を定める検察庁法第22条が一般法である国家公務員法の特例をなすので、国家公務員法の適用を受けないことを定めたものである。したがって、本閣議決定は検察庁法に違背する。
 また、1981年(昭和56年)に国家公務員法が改正され、国家公務員の定年とその延長の制度が導入されたが、同法案を審議した当時の衆議院内閣委員会で、人事院事務総局任用局長は、「今回の法案では、別に法律で定められている者を除くことになっている。検察官については、国家公務員法の定年延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されている。」旨を答弁しており、本閣議決定まで30年近く、1981年(昭和56年)の答弁を否定する取扱いはされてこなかった。
 検察庁法第22条が国家公務員法の適用を受けないのは、検察官が、公益の代表者として 刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限が付与されており、準司法的職務を行うことから、行政権の一部に属しながらも、他の行政権力からの独立が要請されるためである。検察官は独任制の機関とされ、訴追などの検察権の行使を公正に行うために身分保障が与えられている。
 本閣議決定は、憲法の基本原理である権力の監視・抑制の理念に沿い、長年にわたり築かれてきた検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の精神に違背することになる。
よって、当会は、三権分立を定める日本国憲法のもとで、行政における法律の遵守を求める立場から、本閣議決定の違法性を指摘し、撤回を求めるものである。」

仙台弁護士会は3月12日に「東京高検黒川弘務検事長の定年延長を行った閣議決定を直ちに撤回することを求める会長声明」を発表しています.

「検察庁法22条は、「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」と定める。東京高等検察庁の黒川弘務検事長は「その他の検察官」にあたり、本年2月7日に退官する予定であった。ところが、安倍内閣は、本年1月31日の閣議で、国家公務員法81条の3第1項の規定を根拠に黒川検事長の定年延長を決定した。
 
国家公務員法81条の3第1項は、任命権者は、定年に達した職員が退職すべきこととなる場合において、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは」、定年退職予定日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で、その職員の定年を延長することができるとしている。                                           
しかしながら、検察官も国家公務員ではあるが、国家公務員の身分や職務に関する一般法である国家公務員法とは別に、検察庁法が特別法として、検察官の定年を定めているのであるから(検察庁法32条の2)、国家公務員法81条の3第1項が検察官に適用される余地はないというべきである。しかも、国家公務員法81条の3が新設された1981年当時の国会審議では、人事院が検察官にはこの規定は適用されないという考え方を示したことを踏まえて同規定を含む法案が可決成立しており、立法者意思は明確に示されていた。条文構造から見ても、国家公務員法81条の3第1項は、「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」とし、同法81条の2(定年による退職)を前提にした勤務延長を規定するが、検察官には同法81条の2の適用はない以上、同条を前提とする国家公務員法81条の3の適用も当然にない。
安倍首相は、本年2月13日の衆院本会議で、上記政府見解の存在を認めた上で、安倍内閣として閣議決定で解釈を変更したことを明言した。しかしながら、上記のとおり、国家公務員法81条の3は検察官には適用がないことを前提に国会で審議され制定されたものである。それをときの内閣の都合で国会の審議も経ずに変更することは、国会の立法権を軽視するものであり、三権分立の趣旨に反する。そもそも、検察庁は「検察の理念」として「厳正公平、不偏不党を旨として、公正誠実に職務を行う」ことを掲げている。刑事司法の一翼を担い、強大な捜査・訴追権限を有している検察官の人事のルールは、国政上の最重要事項の一つであり、全国民を代表する国会の審議・決定をも経ずして、単なる閣議決定で決められるべき事柄ではない。ときの政権の都合で、こうした重大事項についても、立法者意思を無視し、従来の法解釈を恣意的に変更してかまわないということでは、法治主義の否定にほかならない。
したがって、黒川検事長の定年延長を認めた閣議決定は、検察庁法22条に違反し、違法である。

なお、念のため付言すると、仮に閣議決定により解釈変更をして検察官にも国家公務員法を適用して定年を延長できると考えたとしても、それが可能な場合は現行法上、きわめて限定されている。国家公務員法81条の3第1項によれば、定年延長には「その退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由」が必要である。そうした理由が認められる場合を人事院は、その規則で限定列挙している(人事院規則11-8第7条)が、 黒川検事長については、同条の列挙する事由のいずれに該当するかについて合理的な説明がなされていない。したがって、黒川検事長の定年延長を認めた閣議決定は、国家公務員法および人事院規則に違反している疑いが極めて強い。任命権者の恣意的判断でこれらに反する定年延長が許されるとなれば、内閣から独立した立場から国家公務員の政治的中立性と計画的人事を支える人事院の機能が没却されかねない。

 今回の定年延長は、明らかに違法であり、検察の政治的中立性を損ないかねず、国民の検察に対する信頼をも失わせるおそれが大きい。
 よって、当会は、政府に対し、黒川検事長の定年延長を行った閣議決定を直ちに撤回することを求める。」

滋賀弁護士会は3月10日に「検察官に関する不当な人事権の行使に抗議する会長声明」を発表しています.

「政府は、2020(令和2)年1月31日の閣議で、東京高等検察庁検事長の勤務延長を決定した。さらに、2月18日には、半年間の定年延長後に検事総長に任命することも可能であるとの見解を示す閣議決定も行われている。これらの決定は、検察庁法第22条に違反するおそれがある不当な人事権の行使と言わざるを得ない。

そもそも検察官は、その職責上、政治的権力からの独立性が求められる立場にある。

「検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。」(検察庁法第4条)ものとされている。このように、検察官は、司法制度において極めて重要な役割を担うものであり、その職務遂行には高度の公正性が求められる。検察官は、ときには権力を持つ立場の被疑者に対しても適正に捜査権を行使しなければならない。検察官の人事に行政からの介入があれば、政治家に対する公正な捜査が期待できなくなり、国民の信頼を損なうことにもなる。

検察官適格審査会の職務不適格議決等の手続を経なければ検察官をその意に反して辞めさせることはできないといった身分保障があったり、個々の事件の取調又は処分について、法務大臣が直接に検察官を指揮することが禁じられたりしている(検察庁法第14条)のも、検察官の独立を保障するためである。このように、検察官は、行政官ではあるものの、政治的な圧力から一定の距離を置くべき存在なのである。

検察官のこのような特殊な地位に照らせば、行政が、恣意的に、個々の検察官の定年を延長するようなことは、極力避けるべきものと言わざるを得ない。

国家公務員法第81条の3第1項は、「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」と定めている。「前条第一項」とは国家公務員法上の定年を指すものであって、検察庁法上の定年を指すものではないから、文理解釈上も検事の定年延長は想定されていないと解釈するのが自然である。

一方、検察庁法第22条は、「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」と明記している。また、同法附則第32条の2は、「この法律(中略)第22条(中略)の規定は、国家公務員法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」とも規定している。したがって、検察庁法は国家公務員法に対する特別法にあたり、検察庁法第22条は、国家公務員法第81条の3に優先して適用されるものと解釈するのが自然である。

さらに、報道によれば、国家公務員法第81条の3が新設された際の政府の想定問答においても、同条は検事には適用されない旨が明記されているとされる。

このように、検事の定年はあくまでも63歳であって、国家公務員法第81条の3を適用して検事の定年を延長することは許されないと考えるほかない。

検察庁法が制定されたのが1947(昭和22)年であり、国家公務員法第81条の3は、それよりも後、1981(昭和56)年の国家公務員法改正で導入された規定である。そこで、政府は「後法は前法を破る」という法理を根拠として、検察庁法第22条に優先して国家公務員法第81条の3が適用されると説明するもののようである。かりにそのような解釈を認めるとしても、実際の定年延長のためには、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」という要件を満たさなければならない。今回の閣議決定では、具体的にどのような特別の事情があったのか、検事長の退職により公務の運営にどのような著しい支障が生ずるのか、そしてそれらの事情に「十分な理由」があると言えるのか、こうしたことが明らかにされているとは言い難い。

検察官は63歳に達した時に退官するという検察庁法第22条の規定は、従前から例外なく、規定どおりに運用されてきた。今回、検察官の定年延長も許容されるという解釈変更を行わなければならない理由についても何ら具体的に示されていない。

制度上、検察官の人事権が行政府にあることは否定できない。しかし、だからといって、行政府が恣意的に人事権を行使してよいということにはならない。憲法が前提とする三権分立の趣旨に照らせば、司法に関わる人事権は、あくまで公正中立を旨として謙抑的に行使されるべきものである。今回の定年延長問題は、検察人事の公正性、中立性に疑念を招くものであるというほかない。

当会は、司法制度の一翼を担う専門家団体として、司法の独立を害するような、検察官に関する今回の不当な人事権の行使に抗議するものである。」

京都弁護士会は3月5日に「検察庁法に違反する定年延長をした閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明」を発表しています.

「安倍内閣は、本年1月31日の閣議決定で、2月7日に迫った黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年を半年間延長した。検察官の定年が延長されたのは、1947年に検察庁法が制定されて以降初めてのことである。
政府は、本年通常国会において、検察官には国家公務員法81条の2の定年の規定が適用されないが、同法81条の3による勤務延長の規定は適用されるとして、上記閣議決定は適法である旨答弁した。さらに、本年2月13日の衆議院本会議では、これまでの公権解釈では検察官は定年延長ができないとされてきたことを認めたうえで、法解釈を変更したと主張した。
しかしながら、かかる法解釈が認められる余地は無く、今回の定年延長の閣議決定は検察庁法に違反する。
第一に、検察庁法22条は、「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」と明記しており、定年による退職の特例を一切設けていない。この点については、1947年の帝国議会貴族院で検察庁法が審議された際、定年の延長制度についても議論になったが、政府が検察官には定年に例外を認める弾力的な制度とはしない旨の答弁を行ったうえで、現在の定年制度が定められ、実際も例外なく運用されてきた。
第二に、定年及び定年延長を導入する国家公務員法改正案が審議された1981年の衆議院内閣委員会でも、人事院事務総局任用局長(当時)が、検察官には国家公務員法の定年及び定年延長の規定は適用されない旨を答弁している。
第三に、本年通常国会における衆議院予算委員会の2月12日審議でも、人事院事務総局給与局長は、上記の答弁をそのまま援用したうえで、「(現在まで)同じ解釈を引き継いでいる」と答弁している。
以上の経過を見れば、特別法たる検察庁法で延長の例外のない定年制度を設け、後に一般法たる国家公務員法の改正で定年年齢や定年延長等の定年制度を設けた際に、検察官にはこれを適用せず、特別法たる検察庁法の定年制度のみを適用することとしたことは明らかである。
検察官は公益の代表者として厳正な刑事手続を執り行う立場にある。内閣が違法な定年延長によって検察の人事に干渉することを許せば、政権からの独立を侵し、その職責を果たすことができるのかについて重大な疑念が生じることとなる。
当会は、三権分立を定める日本国憲法のもとで、法治主義国家として、行政は国会が定めた法律に基づいて行われるべきものであることに照らし、法を蹂躙した今回の閣議決定に断固として抗議し、撤回を求めるものである。」


静岡県弁護士会は3月2日に「黒川弘務東京高検検事長の定年延長に強い懸念を表明する会長声明」を発表しています.

 「本年1月31日,政府は,2月7日で定年退官する予定だった東京高等検察庁(以下「東京高検」という。)検事長の黒川弘務氏について,国家公務員法第81条の3を適用し,半年後の8月7日まで定年を延長させることを閣議決定した。また,その後の国会答弁によれば,政府は,この閣議決定に先立ち,これまで一貫して「検察官には国家公務員法による定年延長は適用されない」としてきた解釈を,あえて変更したとされている。
しかし,このように唐突な法解釈の変更と,それを前提として黒川弘務氏の定年延長を認めた閣議決定は,法治主義の原則や刑事司法制度に対する信頼維持の見地から,極めて問題が大きい。
そもそも,検察官の定年が国家公務員法の規定によって延長できると解釈する余地があるのかについて,重大な疑問がある。
国家公務員法第81条の3第1項は,定年に達した職員が「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合」において,職務の特殊性や特別の事情により公務に著しい支障があるときは,1年以内なら引き続いて勤務させることができる旨を規定する。また,ここでの「前条第1項」にあたる同法第81条の2第1項には,定年に達した職員は「法律に別段の定めのある場合を除き」定年に達した日以後に到来する定年退職日に退職する旨が規定されている。そして,国家公務員法には定年制度そのものが存在しなかったところ,これらの定年制度や勤務延長(定年延長)制度は,1981年(昭和56年)の法律改正によって初めて導入されたものであった。
もっとも,かかる国家公務員法の改正以前から,検察庁法第22条は「検事総長は,年齢が65年に達した時に,その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と定めていた。つまり,検察官については,他の国家公務員には定年すらなかった当時から,検察庁法に基づく独自の定年退官の制度として同法第22条が適用されていたのである。
このような経過を踏まえれば,検察官の場合には,国家公務員法第81条の2第1項で「法律に別段の定めのある場合を除き」とされている「別段の定め」が,検察庁法第22条であることは当然である。そして,この「別段の定め」である検察庁法第22条により「検事総長は,年齢が65年に達した時に,その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と明確に定められた検察官について,国家公務員法第81条の2及びこれを前提とした同法第81条の3が適用されないのは明白である。
また,実質的にも,刑事訴訟法上の強大な権限を与えられている検察官について,検察庁法は,その任用資格を厳しく制限する(第18条及び第19条)とともに,他の公務員にはない欠格事由(第20条)を定め,さらに,一定の年齢に達したときは当然に退官するという定年退官制度(第22条)を設けており,これらの諸規定は,いずれも「検察官の職務と責任の特殊性に基づいて」国家公務員法の「特例を定めたもの」だと明記されている(第32条の2)。そうすると,検察庁法第22条は,検察官の職務と責任の特殊性を考慮して,そのような職に従事できる者の資格を法律に明定したものと理解され,検事総長以外の検察官が63歳を超えて勤務することを禁じる趣旨と解するべきである。そして,検察官の定年退官は,国家公務員法の規定ではなく,専ら検察庁法の規定により行わなければならないと解釈するべきである。
したがって,今回,黒川弘務氏の定年延長を閣議決定したことは,検察庁法に違反する疑いが強い。
そして,このように解釈すべきことは,国家公務員の人事制度について詳細に記載した『逐条国家公務員法<全訂版>』(学陽書房・2015年)などからも裏付けられる。
同書によれば,国家公務員の定年制度の目的は,①職員の新陳代謝を計画的に行うことにより組織の活力を維持し,もって公務能率の維持増進を図ること,②所定の年齢まで職員の勤務の継続を保障して,安んじて職員を公務に専念させ,職員の士気の高揚を図り,組織の活力を維持すること,とされている。
しかし,「法律に別段の定めがある場合」には,この国家公務員法の定年制度の対象とならない。この点について同書は,「一般職の国家公務員については,原則的には本法に定める定年制度が適用されるが,従来から他の法律により定年制度が定められているものについては,その経緯等に鑑み,それぞれの法律による定年制度を適用しようとするものである。このようなものとしては,検察庁法第22条による検事総長(65歳)及び検察官(63歳)の定年・・・(省略)・・・がある。」とされているのである。
また,1981年(昭和56年)に定年制度の導入に関する国家公務員法改正案が国会で審議された際,人事院は「検察官と大学教員は既に定年が定められ,国家公務員法の定年制は適用されないことになっている」と明確に答弁していた。さらには,当時の国会審議の関連資料として,旧総理府人事局が1980年(昭和55年)10月に作成していた「国家公務員法の一部を改正する法律案(定年制度)想定問答集」と題する文書では「検察官,大学の教員については,年齢についてのみ特例を認めたのか。それとも全く今回の定年制度からはずしたのか」という問いに,「定年,特例定年,勤務の延長及び再任用の適用は除外されることとなる」との回答が明記されていた。
このように,国家公務員法に定年制が導入された際の国会審議では,検察官については,国家公務員法第81条の3による勤務延長(定年延長)を含めて同法による定年制度全般の適用が除外される旨が明確に確認され,それを前提として改正国家公務員法が成立していたのである。
ところが,本年2月13日の衆議院本会議で,安倍首相は,今回の閣議決定に当たって安倍内閣として従来の法解釈を変更したことを明らかにした。すなわち,安倍首相は,当時は検察庁法によって検察官について国家公務員法が適用除外されていたことを認める一方,検察官も一般職の国家公務員であるため検察官の定年延長に国家公務員法の規定が適用されると解釈変更したと述べたのである。
しかしながら,本声明第2項で述べたとおり,このような解釈の変更には無理があり,検察官に国家公務員法による定年延長を適用できるとの解釈そのものが検察庁法に違反する疑いがきわめて強い。
さらに,検察官に国家公務員法による定年延長の適用がないことは,定年に関する国家公務員法改正案が国会で成立した際に明確に確認され,その後何十年にもわたって維持されてきた解釈であるのに,それを,法律の改正によらず,しかも,一検察官の退職日の延長のためだけという理由によって急遽変更するべき必要性は何ら見出し難い。そして,このような政府による恣意的な法解釈の変更を許容してしまえば,国会で決めた法律がどのように運用されるかは全て政府次第となり,法の安定性が揺らぎ,「法治主義」の根幹を揺るがしかねない。
すなわち,今回の解釈変更を前提にする閣議決定は,政府が国会の立法権を実質的に侵害するに等しく,三権分立原則や法律による行政の原則にも違反する疑いが強いものである。
他方で,今回の定年延長は次期検事総長人事をにらんだものとの臆測もあるところ,政府は2月18日の閣議で,定年を延長した黒川弘務氏について,検察トップの検事総長に任命することは可能だとする答弁書を決定した。
法律上は,検事総長を任命するのは内閣である。もっとも,これまでは,前任の検事総長が後任を決めるのが慣例とされ,政治的判断を排除することが,検察の職権行使の独立性の象徴ともされてきた。しかるに,今回の東京高検検事長の定年延長という違法の疑いの強い閣議決定によって,内閣が黒川弘務氏を次の検事総長に指名することになるとすれば,内閣が,その政治的判断によって,実質的にも検察のトップを指名できることになり,これまで検察が至上命題としてきた「検察の独立性」が,「検事総長人事」という中核から事実上崩壊することになる。
検察庁は「検察の理念」として「厳正公平,不偏不党を旨として,公正誠実に職務を行う」ことを掲げている。首相主催の「桜を見る会」や,会の前夜に開いた夕食会について,市民団体や大学教授らが,公職選挙法違反や政治資金規正法違反などの容疑で安倍首相に対する告発状を東京地検に提出している中,検察庁の厳正公平,不偏不党に疑念が持たれれば,国民の信頼はとても得られない。
加えて,そもそも国家公務員の定年延長にしても「特殊な場合についてのみ認められる定年制度上の特例的措置であることから,定年制度の趣旨を損なうことがないよう慎重かつ厳格に適用されなければならないもの」(前掲「逐条国家公務員法<全訂版>」)とされ,恣意的な運用が厳に戒められている。しかるに,政府は,黒川弘務氏の定年を延長しなければならない理由や必要性について,国民が納得するに足りる説明をしているとは到底認められない状況であり,このように恣意的な政府による法解釈・適用の結果として,黒川弘務氏が将来的に検事総長に就任するような事態となれば,刑事司法制度に対する国民の信頼はきわめて大きく損なわれることが深刻に危惧される。
当会は,同じ法曹として,今回の黒川弘務東京高検検事長に関する定年延長の閣議決定は,検察庁法及び国家公務員法の解釈からも,法治主義,検察の独立性及び刑事司法への国民の信頼などの観点からも,極めて重大な問題があるものと言わざるを得ず,ここに強い懸念を表明する。」

【追記】

東京弁護士会は,2020年03月17日,「検察庁法に反する閣議決定及び国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対し、検察制度の独立性維持を求める会長声明」を発表しました.
(日弁連は依然として会長声明をだしていません.)

「1 政府は本年1月31日、2月7日に63歳で定年を迎えることになっていた東京高検検事長の勤務を、国家公務員法の勤務延長規定を根拠に半年間延長するとの閣議決定をした(以下「本件閣議決定」という。)。
 しかし、検察官は一般の国家公務員とは異なり検察庁法によって定年が規定されている。特別法が一般法に優先するのは理の当然であることから、国家公務員法の規定する定年退職の規定(国家公務員法第81条の2)はもとより、勤務延長の規定(同法第81条の3)も検察官には適用されないと解される。これは内閣、人事院の一貫した法律解釈であって、時の政権が閣議決定によってこの解釈を変更することは検察庁法の規定に明白に違背する。

2 検察官が一般の国家公務員とは異なる法律によって規律されるのは、検察官は行政官ではあるものの、刑事事件の捜査・起訴等の権限が付与され司法の一翼を担って準司法的職務を担うことから、政治からの独立性と中立性の確保が特に強く要請されるためである。
 すなわち、検察官は「公益の代表者」(検察庁法第4条)であって、刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限が付与されており、ときに他の行政機関に対してもその権限を行使する必要がある。そのために、検察官は独任制の機関とされ、身分保障が与えられている。にもかかわらず、内閣が恣意的な法律解釈によって検察の人事に干渉することを許しては、検察官の政権からの独立を侵し、その職責を果たせなくなるおそれがある。
 したがって本件閣議決定は、検察官及び検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の基本原理である権力分立と権力の相互監視の理念に違背する。

3 このような違憲・違法というべき法律解釈の変更について、法務大臣が国会内外で厳しく批判されている中で、政府は3月13日、さらに国家公務員法等の一部を改正する法律案(内容として検察庁法の一部改正を含む。)を閣議決定し、これを国会に提出した。
 改正案は、すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げた上、63歳になった者は、検事総長を補佐する最高検次長検事や、高検検事長、各地検トップの検事正などの役職に原則として就任できなくなるが(役職定年制)、「内閣」が「職務遂行上の特別の事情を勘案し(中略)内閣が定める事由があると認めるとき」(検察庁法改正案第22条第5項)に当たると判断するなどすれば、特例措置として63歳以降もこれらのポストを続けられるようにするとの内容である。
 このような法律改正がなされれば、時の内閣の意向次第で、検察庁法の規定に基づいて上記の東京高検検事長の勤務延長のような人事が可能になってしまう。
 しかしこれは、政界を含む権力犯罪に切り込む強い権限を持ち司法にも大きな影響を与える検察官の独立性・公平性の担保という検察庁法の趣旨を根底から揺るがすことになり、極めて不当である。

4 以上の理由により、当会は政府に対し、本件閣議決定に抗議し、撤回を求めるとともに、国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち検察官の定年ないし勤務延長に係る「特例措置」に係る部分を撤回し、憲法の権力分立原理を遵守して検察官の独立性が維持されるよう、強く求めるものである。」


【再追記】
日弁連はようやく2020年4月6日「検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明」を発表しました.内容は以下のとおりです.

「政府は、本年1月31日の閣議において、2月7日付けで定年退官する予定だった東京高等検察庁検事長について、国家公務員法(以下「国公法」という。)第81条の3第1項を根拠に、その勤務を6か月(8月7日まで)延長する決定を行った(以下「本件勤務延長」という。)。

しかし、検察官の定年退官は、検察庁法第22条に規定され、同法第32条の2において、国公法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を定めたものとされており、これまで、国公法第81条の3第1項は、検察官には適用されていない。

これは、検察官が、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しており、犯罪の嫌疑があれば政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならず、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。

したがって、国公法の解釈変更による本件勤務延長は、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものと言わざるを得ない。

さらに政府は、本年3月13日、検察庁法改正法案を含む国公法等の一部を改正する法律案を通常国会に提出した。この改正案は、全ての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げた上で、63歳の段階でいわゆる役職定年制が適用されるとするものである。そして、内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、役職定年を超えて、あるいは定年さえも超えて当該官職で勤務させることができるようにしている(改正法案第9条第3項ないし第5項、第10条第2項、第22条第1項、第2項、第4項ないし第7項)。

しかし、この改正案によれば、内閣及び法務大臣の裁量によって検察官の人事に介入をすることが可能となり、検察に対する国民の信頼を失い、さらには、準司法官として職務と責任の特殊性を有する検察官の政治的中立性や独立性が脅かされる危険があまりにも大きく、憲法の基本原理である権力分立に反する。

よって、当連合会は、違法な本件勤務延長の閣議決定の撤回を求めるとともに、国公法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に反対するものである。 」


谷直樹

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by medical-law | 2020-03-16 09:38

《淡月》

加山又造氏の《淡月》は1996年の作品です. 
東山魁夷氏の《花明かり》はしだれ桜の上に月があったのに対し,《淡月》はしだれ桜の横に月があります.しだれ桜の全容が描かれています.(もちろん,違いはそれだけではありませんが.)

谷直樹

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by medical-law | 2020-03-16 08:41 | 趣味