弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1197 )

ガーゼ置き忘れ事故防止のために

毎日新聞「「ガーゼ置き忘れ」警鐘 千葉大病院・近藤特任助教、論文で事例紹介 手術時ミス「国は防止マニュアルを」」(2018年4月12日)は,次のとおり報じました.

「手術で体内にガーゼを置き忘れる事例が後を絶たない。千葉大医学部付属病院の近藤健特任助教(総合診療)は、置き忘れの具体的な事例を紹介し、警鐘を鳴らす論文を米医学誌に掲載。「手術の前後でガーゼの数を数えるなど、国がマニュアルを作るべきだ」と訴えている。【信田真由美】

「近藤特任助教の論文は今年2月、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。取り上げたのは、40代の女性が、6年前と9年前に帝王切開手術を受け、どちらかの手術でガーゼを置き忘れられたとみられる事例。女性は腹部の膨張感を感じて病院を受診し、レントゲンを撮ったところ、二つのガーゼが見つかった。開腹手術でガーゼを取り除くと、膨張感は解消したという。

 女性は帝王切開手術を受けた産婦人科の病院に相談に行ったが、病院はミスとは認めなかったという。一般的に、カルテは法定で義務付けられた5年間しか保管されておらず、他に手術を受けていないことを証明することも難しいという。

 近藤特任助教は取材に、「身体的負担に加え、経済的負担をかけることになったのは悲劇だ。医療の治療法などは発展しているが、安全面は進んでおらず、現在の医療システムに警鐘を鳴らしたい」と話している。 」





先行する研究は少なく,この報告は意義が高いと思います.
ただ,枚数を確認するなどのマニュアルを作成することはもちろんですが,そのようなマニュアルがあっても確認がおざなりになっていると事故は起きます.マニュアルを遵守するよう徹底することも同様に必要と思います.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-04-16 14:32 | 医療事故・医療裁判

「第8回産科医療補償制度 再発防止に関する報告書-産科医療の質の向上に向けて」

公益財団法人日本医療機能評価機構は,2018年3月,「第8回産科医療補償制度 再発防止に関する報告書-産科医療の質の向上に向けて」を発表しました.

今回のテーーマに沿った分析は,「遷延分娩について」と「胎児心拍数陣痛図の判読について」です.

遷延分娩についても産科医療関係者に対する提言は,次のとおりです.
1)分娩進行が遅延していると判断した場合、または分娩進行が遅延することが予測される場合は、以下に留意し分娩管理を行う。
・分娩経過中の胎児心拍数陣痛図における異常波形の有無を確認する。異常波形の種類や持続時間、異常波形出現後に胎児well-beingが健常であると判断される波形となったか否かにかかわらず、異常波形出現からの時間を把握する。加えて、分娩進行の遅延の原因(分娩の3要素の異常、胎児発育状態、母体合併症等)の有無と胎児心拍数波形の変化、分娩の進行状態等を総合的に判断し、適切な医療介入(子宮収縮薬による分娩促進など)、経腟分娩継続の可否を検討しながら管理する。
・パルトグラムは分娩経過中の観察や処置を行った時点で記載し、特に分娩第I期活動期(子宮口開大4cm)以降は、分娩進行が遅延していないかをパルトグラムを確認しながら管理する。遅延していると判断した場合は、原因検索や適切な医療介入の検討に活用する。
・胎児心拍数および陣痛の観察は 「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」 に則して行い、分娩監視装置装着中は胎児心拍数陣痛図を10分区画ごとに判読し、胎児心拍数波形分類に基づき対応と処置を行う。
・子宮収縮薬による分娩促進が必要と判断した場合は、「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」に則して使用する。子宮収縮薬投与中は分娩進行と子宮収縮、胎児心拍数陣痛図の判読所見から、子宮収縮薬の増量・再投与または減量・中止を検討する。
2)遷延分娩または分娩停止となり、重症の新生児仮死が認められた場合は、子宮内感染の可能性があるため、胎盤病理組織学検査の実施を推奨する。
3)分娩経過中に観察した事項、および実施した処置等に関しては、 診療録に正確に記載する。


胎児心拍数陣痛図の判読についてmの産科医療関係者に対する提言,次のとおりです.
1)すべての産科医療関係者は、胎児心拍数陣痛図の判読能力を高めるよう各施設における院内の勉強会や院外の講習会へ参加する。特に遅発一過性徐脈と変動一過性徐脈の鑑別、遅発一過性徐脈の判読、遅発一過性徐脈と早発一過性徐脈の鑑別、基線細変動減少・消失の判読について、正しく判読できるように習熟する。
2)胎児心拍数の波形パターン出現の生理学的な意味を理解し、胎児心拍数陣痛図から胎児状態を推測することができるように習熟する。
3)各トランスデューサーを正しく装着し、正確に胎児心拍数と子宮収縮を計測・記録する。正確に計測・記録されない場合は、原因検索を行い、トランスデューサーの固定位置を確認し、再装着する。
4)分娩監視装置の紙送り速度については、1cm/分または2cm/分で記録すると3cm/分で記録した場合に比し、基線細変動の評価や早発・遅発・変動一過性徐脈の鑑別が難しくなる。基線細変動の評価や一過性徐脈の鑑別に有利であるため、胎児心拍数陣痛図を3cm/分に統一する。
5)胎児心拍数陣痛図の評価は、「産婦人科診療ガイドライン―産科編2017」に則して行い、評価の結果は正常・異常にかかわらず判読所見を診療録に記載する



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-04-06 23:43 | 医療事故・医療裁判

医療版事故調推進フォーラム,街頭署名100回へ

毎日新聞「
」(2018年4月3日)は,次のとおり報じました

「医療事故の遺族らでつくる「医療版事故調推進フォーラム」が、公正な事故調査制度の実現を求めて10年前から毎月続けてきた街頭署名が、8日に100回を迎える。活動は2015年の制度発足の原動力になったが、運用を巡る課題も多い。遺族たちは「被害者の一番の願いは、事故を再発防止につなげること。そのために今後も活動を続けなければ」と力を込める。

記念すべき100回目は,2018年4月8日(日)16:00~17:00,JR山手線駒込駅南口改札前で行うとのことです.



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-04-03 20:44 | 医療事故・医療裁判

クリステレル胎児圧出法による肝臓破裂から出血性ショックで産婦が死亡した事案で和解(報道)

朝日新聞「出産後に死亡、遺族と病院が和解 横浜地裁」(2018年3月31日)は,次のとおり報じました.

「出産時に女性が死亡したのは、助産師が妊婦の腹部に過剰な力を与えたうえ、出血後に医師らが適切な治療をしなかったためだとして、女性の夫(47)や子どもが医療法人産育会「堀病院」(横浜市瀬谷区)を相手に約7540万円の損害賠償を求めた訴訟は30日、横浜地裁で和解が成立した。

 原告側の代理人弁護士などによると、病院側が遺族に解決金6500万円を支払い、出血性ショックに対する診断やその後の処置についての医療体制の整備などに努めることなどが和解条項に盛り込まれた。

 女性は2009年9月18日午後4時10分ごろ、第2子の女児を出産。その際、妊婦の腹部を押して出産を手助けする「クリステレル胎児圧出法」を助産師から施された。出産直後から、女性は気分が悪くなり、約4時間半後に死亡。肝臓破裂による、出血性ショックが原因だった。遺族側は、医師が出血性ショックを見落とし、対応が遅れたなどとして、2013年に病院を提訴した。

 原告側によると、クリステレル胎児圧出法による過失は問わなかったが、出血性ショックの診断が遅れた点に注意義務違反があったことなどが和解の内容に盛り込まれたという。

 女性の夫は「私たち家族は今も深い悲しみの中にいます。このような悲しい出来事が二度と起こらないように、医療従事者の方々には、再発防止に十分努めて頂きたいです」とコメントを出した。」


報道の件は,私が担当したものではありません.
事故が2009年で,提訴が2013年ですから,和解まで長くかかったのですね.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-04-03 09:23 | 医療事故・医療裁判

東京高裁平成30年3月28日判決,脳の病気を疑いCT検査を行う義務を認め,遺族側が逆転勝訴(報道)

朝日新聞「脳ヘルニアで少年死亡、松本市の病院側が逆転敗訴」(2018年3月29日)は次のとおり報じました.

「長野県安曇野市の少年(当時13)が脳ヘルニアで死亡したのは、救急搬送された波田町立波田総合病院(現・松本市立病院)が適切な検査を怠ったためだとして、横浜市の母親が病院側に約7200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が28日、東京高裁であった。杉原則彦裁判長は、請求を棄却した一審・横浜地裁判決を取り消し、松本市と担当医師に約3200万円の支払いを命じた。

 判決によると、少年は2009年、頭痛などの症状を訴え、同病院に救急搬送された。担当医師は急性胃腸炎などと診断し、点滴後に帰宅させた。少年はその後に体調が悪化し、別の病院に搬送され、死亡した。

 杉原裁判長は、脳の病気を疑い、CT検査を行う義務があったのに怠ったと認定。遅くとも退院時に検査して治療を始めていれば救命できた可能性があるとし、「限られた治療を受けただけで帰宅させられた苦しみと無念さは察してあまりある」と指摘した。

 市立病院は「判決文を見ていないのでコメントは差し控えたい」としている。」


報道の件は私が担当したものではありません.
頭部CT検査義務を認めた点,及び頭部CT検査義務と結果との因果関係を認めた点で参考になる判決です.
医療事件は,地裁と高裁で判断が分かれることが結構あります.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-03-29 16:38 | 医療事故・医療裁判

京都地裁平成30年3月27日判決,京田辺市の産科医院の件で因果関係否定(報道)

朝日新聞「無痛分娩時に障害、過失認める 賠償は棄却 京都地裁」(2018年3月27日)は,次のとおり報じました.

「無痛分娩(ぶんべん)時に適切な処置を怠ったため長女が重い障害を負ったとして、京都府京田辺市の夫婦が同市の「ふるき産婦人科」(昨年12月に休院)に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、京都地裁であった。藤田昌宏(まさひろ)裁判長は担当した男性院長(56)の分娩の過程での過失を認めたが、そのために障害を負ったとはいいきれないとし、夫婦の訴えを棄却した。

 判決によると、原告の女性(36)は2011年4月、麻酔で痛みを和らげる無痛分娩で、脊髄(せきずい)を保護する硬膜に細い管で麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔」を受け、その後、陣痛を促す子宮収縮薬を投与された。その後、帝王切開で長女を出産したが、長女は脳性まひなどの重い障害を負い、14年12月に3歳で亡くなった。

 夫婦側は、分娩監視装置を装着していなかったため、胎児の心拍低下を見落として低酸素脳症にさせ、帝王切開も遅れたと主張。一方、医院側は、監視装置は装着していたがデータが残っていないだけで、帝王切開の時期も適切だったと反論していた。

 判決は、合理的な理由がなく多量の子宮収縮薬や高濃度の麻酔薬を投与し、分娩監視装置をつけたのは1度だけで再装着しなかったなどと院長の注意義務違反を認定した。一方、その過失が重い障害につながったとはいえないと判断した。

 判決後、原告の女性は「納得いかない。控訴し、因果関係について争いたい」と代理人弁護士を通じてコメントした。

 長女が脳性まひになった原因を分析した専門医らの委員会は「分娩中に低酸素症を発症し、陣痛促進や吸引分娩が影響した可能性も否定できない」とする報告書をまとめていた。



NHK「無痛分べんで医師の責任認めず」(2018年3月27日)は,次のとおり報じました.

「麻酔で痛みを和らげる無痛分べんで出産した子どもが、脳に障害が残ったのは医療ミスが原因だとして、両親が医師などに賠償を求めた裁判で、京都地方裁判所は、「医師に過失はあったが、脳障害の原因とまでは認められない」として訴えを退けました。
京都府京田辺市の30代の女性は7年前、市内の「ふるき産婦人科」で無痛分べんで女の子を出産しましたが、女の子は脳に重い障害が残り、4年前に死亡しました。
女性と夫は、陣痛促進剤の大量投与や帝王切開の遅れなど医療ミスが原因だとして、医師側に1億円余りの賠償を求めていました。
医師側は「分べんの前にすでに低酸素状態に陥っていて原因が医師にあるとはいえない」などと争っていました。
27日の判決で、京都地方裁判所の藤田昌宏裁判長は「医師は特に理由もなく、多量の陣痛促進剤や高濃度の麻酔薬を投与するなど注意義務違反があった」として医師の過失を認めました。
一方で、「脳障害の原因が医師の過失だとは認められない。両親の割り切れなさは想像に難くないが、因果関係は不明と言わざるをえない」として、訴えを退けました。
「ふるき産婦人科」は、このほか無痛分べんのミスで子どもや母親に重い障害が残ったとして2件の裁判を起こされていて、現在、診療を休止しています。
判決のあと女の子の両親の代理人を務める中田祐児弁護士は記者会見で、「医師の過失を認めたのに障害の原因とは認めないのは、はなはだ不本意で、両親と相談して控訴したい」と話しました。
また、母親は弁護士を通じ、「判決内容に納得できません。控訴して、因果関係の有無について争いたいです」というコメントを出しました。
判決について、医師側の代理人が所属する弁護士事務所は「守秘義務があるためコメントは差し控える」としています。」


 この医院をめぐっては、別の2家族が、無痛分娩や帝王切開の際の麻酔により母子が重い障害を負ったとして提訴し、京都地裁で審理が続いている。(徳永猛城)」


報道の件は,私が担当したものではありません.

過失を認めて,因果関係を否定する判決は,医療事件では少なくありません.
合理的な理由がなく多量の子宮収縮薬や高濃度の麻酔薬を投与し分娩監視装置をつけたのは1度だけで再装着しなかったなどの注意義務違反を主張したのであれば,因果関係認定は難しくなるように思います.
例えば,検査義務違反を過失にする場合,検査していれば結果が回避できたこと(あれなければこれなしの因果関係)の立証は,検査記録がないため,成功しない確率が高くなります.
弁護士によって考え方はいろいろでしょうが,私は,医療事件では,因果関係の認められる可能性の高い過失にしぼって主張立証することが必要ではないか,と思っています.



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-03-28 12:43 | 医療事故・医療裁判

「『早期母子接触』実施の留意点」(2012年10月)後の事案が大津地裁で和解成立

毎日新聞「大津地裁 「カンガルーケア」和解 病院側が両親に解決金」(2018年3月27日)は,次のとおり報じました.

「出産直後に母親が肌を合わせて新生児を抱く「早期母子接触」(カンガルーケア)で脳に重い障害が残ったとして、滋賀県草津市の男児(4)と両親に対して同市内の医療法人側が解決金を支払う和解が27日、大津地裁(西岡繁靖裁判長)で成立した。両親らは約1億6000万円の損害賠償を求めて提訴していたが、解決金額は非公表。原告側代理人によると、病院側の責任を認めた実質勝訴としている。

 訴状などによると、30代の母親は2013年4月、医療法人が経営する市内の産婦人科医院で男児を出産。男児の頭を左腕に乗せ向き合った状態で過ごしていたところ、男児の心肺が停止し、脳性まひを発症した。

 カンガルーケアを巡っては、日本周産期・新生児医学会などが12年10月、事故防止のための「留意点」を公表している。原告側代理人によると、和解内容は、スタッフが付き添うなど十分な観察・管理が必要とする留意点を医療法人側が守っていなかったと指摘した。「ただの添い寝で早期母子接触ではない」とする医療法人側の主張は認められなかった。

 和解成立を受け、原告側代理人は「従来の訴訟では病院の責任を認めないケースが多かった。『留意点』を守らなければならないことが明確になった」と述べ、40代の父親は「もう二度と不幸な事故が起きないようにしてほしい」と語った。【大東祐紀】」



京都新聞「カンガルーケア巡る訴訟、和解 滋賀、医院側が解決金」(2018年3月27日)は,次のとおり報じました.

 
「出生直後から母子が肌を触れ合う育児法「早期母子接触(カンガルーケア)」で適切な安全配慮が行われなかったため男児に障害が残ったとして、草津市内の両親が、産婦人科医院を運営する同市の医療法人に約1億6千万円の損害賠償を求めた訴訟は27日、大津地裁(西岡繁靖裁判長)で和解が成立した。原告側によると、医院側が安全対策を取らなかったとして解決金を支払う内容。

 訴状などによると母親は2013年4月、出産直後の男児と向き合った添い寝状態のまま放置された。その間に、男児が何らかの原因で窒息した可能性があり、心肺停止状態から脳性まひになったとしている。

 早期母子接触は、母子の心身の安定に効果があるとされる。日本周産期・新生児医学会などが12年に作成した早期母子接触のガイドラインでは、出産直後の新生児の呼吸は不安定なため、担当者の付き添いや呼吸状態の観察など実施時の注意点を挙げている。原告側によると、和解勧告では添い寝の状態は早期母子接触に当たり、ガイドラインが挙げる安全策が取られていなかったとしているという。

 男児の両親は「勝訴的和解で気持ちの整理がついたので前を向きたい。今後、私たちのような不幸な例が出ないようにしてほしい」と話した。」



これは,私が担当した事案です.提訴から3年になりますが,勝訴的和解ができました.

いわゆるカンガルーケアの事故が相次ぎ,日本周産期・新生児医学会,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本小児科学会,日本未熟児新生児学会,日本小児外科学会,日本看護協会,日本助産師会は,平成24年10月17日,「『早期母子接触』実施の留意点」を作成し公表しました
本件は,その半年後の事案です

争点は2つありました

1つは,本件が着衣で行われたことから,「早期母子接触」にあたるか,でした.
「早期母子接触」とは,「出生直後に行われる分娩室で行われる母子の早期接触」とされています.
産科医療補償の原因分析報告書も,本件について,「早期母子接触」にあたると結論付けています.
裁判所が和解勧試に際し示したペーパーでも,「留意点」が念頭におくリスクが妥当するとし,広い意味での早期母子接触に含まれるとしています.
そうすると,本件には,「『早期母子接触』実施の留意点」に定める,医療者の監視義務があることになります.つまり,本件は,医療者の監視義務違反が認められる事案となります.

もう1つの争点は,急変発見時の児の態勢で,原告は側臥位を主張し,被告は仰臥位を主張しました.
尋問の結果,原告の主張が通りました.
児が側臥位であったことを否定することはできないし,仮に発見時に極めて近接する時点で仰臥位に変わっていたとしても児の急変の原因が窒息であったことを左右するものではない,というのが裁判所の心証でした.したがって,観察義務違反と児の重度の障害との間の因果関係も認定できることになります.

いままで,いわゆるカンガルーケア訴訟が行われてきましたが,「『早期母子接触』実施の留意点」後の事案は,本件がはじめてでしょう.今後,同種の事故が起きないことを切に願います.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-03-28 07:15 | 医療事故・医療裁判

京都大学医学部附属病院,院内製剤投与後急変死亡事例に係る調査結果について

京都大学医学部附属病院は,平成30年3月26日,「京都大学医学部附属病院における院内製剤事故に係る調査結果について(概要)-高濃度のセレン注射薬(院内製剤)が患者に投与された事例-」を公表しました.

「5 調査結果

(1)事故の概要
セレン注射薬 を交付している患者2名のうち1名の患者から、セレン注射薬 を高カロリー輸液に混合したところ、色調が変化したので投与を中止した、との情報提供があった。薬剤部は、色調変化の原因の調査を行うこととしたが、セレン 注射薬を処方されていたもう1名の患者に連絡せず、セレン注射薬を回収しなかった。翌日、その患者がセレン注射薬の投与を開始したところ背部痛が出現し、投与開始の約12時間後に京大病院救急外来に搬送され、急性循環不全にて死亡された。

(2)死因
患者の血液中のセレン濃度が基準値の20倍を超えていたこと、急性セレン中毒の症状として過去に報告されているような心電図変化や呼吸不全、心筋梗塞様症状を経過中に認めたこと、病理解剖において急性心不全に伴う肺うっ血以外に死亡を説明できる器質的変化を認めなかったことの3点を踏まえ、死因は急性セレン中毒であると結論づけた。

(3)セレン注射薬(事故品)の濃度
事故品には指示の1000倍のセレンが含まれていたと認定した。

(4)セレン注射薬の院内製造における品質管理体制
毒物・劇物の保管・廃棄方法について現場に正しい知識がないまま、運用が継続され、「医薬用外毒物」管理簿は、試薬瓶の残量を正しく記録する形になっていなかった。また、院内製剤記録簿とされている書面は、実態は、院内製剤手順書であり、品質工程の管理として適切な形式ではなく、秤量工程が正しく実施されたか検証することができなかった。品質管理の体制が確保されておらず、不具合品情報への対応手順が策定されていなかった。品質管理体制に不備があったために、高濃度のセレン注射薬が患者へ交付されるに至った経緯の詳細を解明することができなかった。
また、対象患者数が2名であり、実際の使用量を考慮した場合、使用期限を考慮すると残量が多くなってしまうことから、1回あたりの製造量は適切であるとは思えない。院内製剤に関するレシピは状況に応じて適宜見直すことが必要であり、最小限の量とすべきである。
(5)その他の指摘事項
院内製剤と治験との製造・管理のレベルに格差がある中で、患者の利便性を有効性・安全性よりも優先することの合理性は認められない。
(注:セレン注射薬は、現在、治験が進行中である)

6.再発防止策
(1)正確な製剤記録及び実効性のあるダブルチェックの実行
試薬の秤量段階において、製剤記録表(兼手順書)の数値と天秤の数値をダブルチェックにて確認し、実測した秤量値を製剤記録表に記録する。ダブルチェックは形骸化する恐れがあるため、ダブルチェックのみに頼らず、秤量値を直ちに記録することにて、誤りがあっても気づくことができる。また、秤量記録システムを導入し、ヒューマンエラーに気付く仕組みを確立する。

(2)調製実施者の署名記録の実施
製剤記録表が完成した時点で、調製者一人ひとりが製剤工程に不備がなかったか確認し、署名することで、製剤工程のセルフチェックができる。なお、印鑑では形骸化する可能性が高いため、署名を行う。

(3)院内製剤マニュアルの再点検
平成24年7月に発行された日本病院薬剤師会の「院内製剤の調製及び使用に関する指針(Version 1.0)」に準拠し、調製手順について品目ごとに点検して、ヒューマンエラーを管理できる方策を取り入れる。また、調製量についても使用頻度・使用量等を考慮して再点検を行う。現在の院内製剤マニュアルには、有害事象への対応が記載されていないため、新たに追加する。
なお、上記指針には、院内製剤の製造及び品質保証に関する手順等について、「医薬品の安全使用のための業務手順書」に項目立てを行い、記述する、となっていることから、同手順書の見直しも必要である。

(4)医薬品の安全使用のための業務手順書の再点検
「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成19年3月 平成18年度厚生労働科学研究「医薬品等の安全管理体制の確立に関する研究」主任研究者北澤式文)は、患者の安全を確保するために必要な医薬品の管理体制を取ることを目標とするものである。薬剤部内の業務だけでなく、手術部門等の薬剤部門以外での医薬品の安全管理、ならびに、在宅での医薬品の安全管理についても手順を作成することが求められている。
現在、京大病院で作成されている業務手順書には、不足する項目が見受けられる。本事故とは直接関連しないが、医薬品安全管理の意識を高め、実効性のある安全管理のシステムを構築するためにも、業務手順書の再点検が望まれる。

(5)院内製剤の使用適否の判断について
院内製剤の使用適否を検討する際には、治験が実施されているかどうかを考慮の対象とし、院内製剤の必要性を判断する。


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-03-26 20:02 | 医療事故・医療裁判

小松市民病院,慢性副鼻腔炎の手術で右目の側壁を損傷し複視となった患者に1468万円の損害賠償

毎日新聞「医療事故 手術で目を損傷 70代女性に賠償 小松市」(2018年3月24日)は,次のとおり報じました.

「小松市民病院で2016年5月、慢性副鼻腔(びくう)炎の手術を受けた市内の70代女性が目に後遺症を負う医療事故があり、市は過失を認め約1468万円の損害賠償を支払うことを明らかにした。22日の市議会3月定例会で、関連議案2案が可決された。

 病院によると、女性は手術により右目の側壁を損傷するなどして物が二重に見える状態になった。別の病院で治療を受けたが、後遺症が残ったという。

 市は賠償金を全額、保険で賄う。病院は「今後は一層、医療の質の向上と安全な医療の提供を目指し、事故防止に努める」としている。【道岡美波】」

報道の件は,私が担当したものではありません.
手術後に症状がでた場合(時間的密接性)で,手術の箇所と損傷された神経の部位が近い場合(場所的近接性),手術によって神経を損傷したと判断することができます。手術により神経損傷が認定できる場合,過失は事実上の推定が働きます.
医療機関側が医療水準に沿った術式で終始手術手技が行われたことを立証しなければ,過失が認められます.
報道の件は,過失を否定しがたい事案といえるでしょう.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2018-03-24 22:49 | 医療事故・医療裁判

都立病院,インシデントは前年同期比4.9%増、アクシデントは7.6%増

リスク対策.com「都立病院、事案・事故報告数5%増 今年度上期、薬剤が最多で約3割」(2018/03/19)は,次のとおり報じました.

「東京都は14日、「都立病院医療安全推進委員会」の今年度第2回会合を開催。今年度上期(2017年4~9月)インシデント・アクシデントレポートの集計結果を公表した。8都立病院における日常診療の場での「ヒヤリハット」事例である「インシデント」と、患者に変化が生じ、治療や処置を要した「アクシデント」は計1万3969件で前年同期比5.0%増だった。8病院の総病床数は4997床で、1病床あたりのレポート数は5.2%増の2.80件。

レポート数はインシデントが全体の95.13%の1万3289件、アクシデントが4.87%の680件でインシデントが圧倒的に多い。インシデントは前年同期比4.9%増、アクシデントは7.6%増。

レポート総数1万3969件の事象内訳は、誤投与や飲み忘れ・飲み違いといった「薬剤」が31.80%、「転倒・転落」が13.79%、点滴やチューブが外れる「抜去」が13.07%。上位3つで約6割を占める傾向は前年同期とほぼ同じ。診療科別の事象内訳は外科系が最多で32.34%、次いで内科系31.79%、精神科20.14%、小児科13.33%。職種別のレポート提出で圧倒的に多いのは、日常的に患者と接する機会の多い看護師で85.11%。医師・歯科医師は5.19%。

医師・歯科医師に絞ったインシデント・アクシデントは725件。インシデントは79.5%の576件、アクシデントは20.6%の149件。手術など患者の安全に直結する行為が多いことから、全報告と比較してアクシデントの割合が高い。事象別内訳は「薬剤」が38.9%、「手術」が17.4%、「検査」が8.7%。「薬剤」は指示内容の入力ミスなどだという。」



いつもながら,インシデント・アクシデントのトップは薬剤です.



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

by medical-law | 2018-03-19 17:47 | 医療事故・医療裁判