弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1293 )

腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアの手術で神経損傷し後遺症が残った事案で700万円示談(報道)

岩手日報「水沢病院で16年手術ミス 奥州市、700万円支払いへ」(2019年2月.16日)は,次のとおり報じました.

 「椎手術のミスで、障害が残った同市の70代女性に慰謝料など賠償金700万円を支払う方針を明らかにした。

 市医療局によると、女性は当時60代。16年8月に整形外科に入院し、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症と腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたが、神経の一部が傷つけられ、排尿が不便になった。

 病院側はミスを認め、謝罪。女性は同年11月に退院し、通院治療を続けたが後遺症が残った。18年10月に女性からの申し出を受け、市は顧問弁護士を通じて賠償を協議してきた。」


上記報道は私が担当したものではありません.

一般に医療訴訟では,腰部脊柱管狭窄症,腰椎椎間板ヘルニアの手術による神経損傷であることを立証し,その損傷が不可避の合併症ではなく手技ミスであることを立証する必要もあります.

また,術前から腰部の神経症状がある患者の場合,術後の症状が術前のものとは異なり,原疾患の悪化によるものではなく,手術の際に神経を傷付けたことのによるものであることを立証するがあります.
鹿児島地判平成24年4月11日は,脊柱管狭窄症の除圧手術後の足のしびれ,膀胱機能障害との因果関係を認め約1260万円の支払いを命じました.
他方,横浜地判平成24年8月9日は,開窓部位を取り違えた事案で,取り違えたことの説明気義務違反(顛末報告義務違反)を認めていますが,取り違えたことと腰部不安定,腰部痛との因果関係を認めていません.
事案により,因果関係立証が難易があります.

報道の件は,700万円が支払われたことからすると,過失,因果関係ともに認められる事案なのでしょう.


谷直樹

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by medical-law | 2019-02-20 03:21 | 医療事故・医療裁判

立ったままかん腸し直腸を傷つけ穿孔した事故報告(報道)

産経新聞「かん腸で直腸傷つけ穴 高知医療センターがミス」(2019年2月18日)は,次のとおり報じました.

「高知医療センター(高知市)は18日、80代の男性患者に便秘解消のためかん腸をしたところ、誤って直腸を傷つけ穴が開く事故があったと発表した。男性は今も通院中だが、命に別条はない。

 同センターによると、入院中の男性が慢性的な便秘を訴えたため、昨年11月下旬以降、男性が立った状態で、看護師が長さ約20センチのチューブを肛門から入れかん腸をした。立っていると腹部に力が入り、チューブの先端で直腸を傷つけやすいため本来は寝た状態で処置するべきだったが、看護師は危険性を知らなかったという。」


上記報道の件は,私が担当したものではありません.立位

東京地判平21年2月5日は,浣腸時の体位については,原則的には左側臥位とすることが法的な注意義務の内容となるものと判示しています.

谷直樹

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by medical-law | 2019-02-19 16:48 | 医療事故・医療裁判

腹部大動脈瘤の手術で癒着していた別の血管が裂けて出血死した事案で3680万円和解(報道)

NHK「
」(2019年2月14日)は次のとおり報じました.

「3年前、延岡市にある県立延岡病院で、男性患者が腹部の手術を受けた際、大量に出血し死亡しました。
県は出血を止める処置に過失があったとして、遺族におよそ3700万円の賠償金を支払うことで合意しました。

県によりますと、平成28年6月、県立延岡病院で、当時60代の男性が腹部の大動脈にできた「こぶ」を取り除く手術を受けた際、大動脈と癒着していた別の血管が裂けて大量に出血し、翌日、死亡しました。

手術をしていた医師は出血を止めようとしましたが、どこから血が出ているのかわからなかったということです。

県は、出血で見づらくなる前に正面から腹部を切開し直せば、出血箇所を見つけられた可能性があったのに、そうした処置が遅れたことに過失があったとしています。

県は、遺族に3680万円の賠償金を支払うことで合意したということで、県議会に諮ることにしています。

病院の院長は「誠に残念で申し訳なく思っております。事故を重く受け止め、良質な医療が提供できるよう診療に万全を期したい」とコメントしています。」


上記報道の件は,私が担当した事件ではありません.
出血で見づらくなる前に正面から腹部を切開し直せば出血箇所を見つけられた可能性があったのにそうした処置が遅れたことに過失があったという認定は,本件に限らず出血事故の過失を検討する際に参考になります.


谷直樹

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by medical-law | 2019-02-19 15:33 | 医療事故・医療裁判

チューブに痰が詰まった患者について看護師が迅速に医師を呼ばず吸引を試みた事案で1150万円和解

東海テレビ「看護師が吸引できず…名古屋の病院で医療ミス 患者の呼吸用チューブに痰が詰まり脳に障害残る」(22019年2月12日) は,次のとおり報じました.

 「名古屋市立西部医療センターで医療ミス。患者が呼吸をするためのチューブに痰を詰まらせ脳に障害が残りました。

 名古屋市立西部医療センターによりますと、2016年1月声門癌の合併症で入院していた当時60代の男性が呼吸をするためのチューブに痰が絡んだため、看護師が吸引しようと試みました。

 しかし、吸引できずチューブに痰が詰まったことで患者は、一時心肺停止となりましたが、医師を呼んで緊急手術を行った結果、一命をとりとめました。

 男性は現在、話すことが困難になるなど脳に障害が残っています。

 病院側は「看護師が措置をやめ、迅速に医師を呼ぶかどうかは微妙な判断で責めることはできない」としながらも、救命措置の中で情報共有を迅速にすべきだったとしています。

 この医療ミスで名古屋市側が1150万円を支払うことで和解が成立しています。」


報道の件は,私が担当したものではありません.
看護師がどの時点で医師を呼ぶべきかは具体的な事案により異なりますが,呼吸状態に異変があって病室に駆けつけた看護師は,心肺停止が切迫している緊急事態であることを認識し,迅速に医師を呼ぶべきでしょう.報道の件は,看護師が声門癌の合併症で入院していた当時60代の患者のチューブに痰が詰まった状態で吸引を試みた時間が長すぎたのではないでしょうか.教訓とすべき事案でしょう.


谷直樹

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by medical-law | 2019-02-14 06:06 | 医療事故・医療裁判

県立病院,誤投薬により寝たきりの状態1週間,死亡との因果関係は否定し,300万円で和解(報道)

朝日新聞 「薬取り違え、機能低下 鳥取県立中央病院、家族と和解へ」(2019年1月29日)は,次のとおり報じました.

「鳥取県立中央病院(鳥取市)で2年前、20代の女性看護師が兵庫県新温泉町の90代の女性入院患者=昨年1月に敗血症で死亡=に投与する薬を取り違えていたことが28日わかった。誤った薬の投与で血圧が低下し、運動機能が衰えたとして損害賠償を求めていた患者家族との和解協議がこのほどまとまり、県が発表した。

 県によると、看護師は2017年8月11日、患者に対し、同部屋に入院している別の患者の内服薬を誤って渡した。患者本人に名乗ってもらい、薬の袋に書かれた氏名と確認するマニュアルの手順を守っていなかった。約15分後に別の患者に薬を投与しようとして誤りに気づいたという。

 患者は同年7月、骨折後の食欲不振で入院。誤って服用した薬には血圧を低下させる薬が本来より余分に含まれており、最高血圧は70台まで低下した。正常な血圧に回復するまでの1週間、寝たきりの状態が続いたという。

 患者家族は、この間運動ができず、筋肉が衰えるなど全身の運動機能が低下したと主張。県は「完全に否定するのは困難」としてこの主張を認め、入院費を含む損害賠償金約300万円を支払うことで裁判外での和解協議がまとまった。

 この日、県庁で記者会見を開いた池口正英院長らは謝罪した上で再発防止のためマニュアルの順守を徹底すると説明。薬の誤投与と死亡との直接的な因果関係については否定した。」



時事通信「薬取り違え、遺族と和解へ=県立病院が慰謝料支払い-鳥取」(2019年1月28日)は次のとおり報じました.

 「鳥取県立中央病院(鳥取市)は28日、別の患者と薬を取り違えるミスをめぐり、死亡した入院患者の遺族との間で慰謝料など300万円を支払うことで和解が成立する見通しとなったと発表した。
 同病院によると、看護師が2017年8月、90代の女性患者に対し、誤って別の患者の薬を服用させた。血圧を下げる薬が余分に含まれていたため、女性の血圧は大幅に低下。正常値に回復するまで約1週間を要し、女性は18年1月に敗血症で死亡した。
 遺族側は、血圧が下がった間に運動機能が著しく低下したと主張。病院側は因果関係が否定できないとして、賠償金の支払いを決めた。死亡との直接的な関連については、女性が高齢だった点を踏まえ、双方で争いがなかったという。
 看護師は多忙などを理由に薬と患者の照合を怠ったといい、18年5月に退職した。」



報道の件は,私が担当したものではありません.

2017年8月の誤投薬と2018年1月の敗血症による死亡との間に因果関係(あれなければこれなしの関係)を認めるのは難しいと思います.
高齢者が転倒をきっかけに寝たきりの状態になるなど,高齢者ではすこしのことでも大きな影響がありますので,血圧が下がった1週間で,運動機能が著しく低下することはあり得ることで,予見可能です.運動機能の低下を評価しての300万円の和解と思います.
なお,看護師は多忙のため確認ルールを守らなかったとのことですが,看護師の多忙を解消する方策がとられたのでしょうか.それとも,多忙でも確認ルールを守ることを徹底したのでしょうか.


谷直樹

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by medical-law | 2019-02-01 04:40 | 医療事故・医療裁判

マイトラクリップ手術で患者死亡(報道)

慶應義塾大学医学部出身の医師が東京大学医学部附属病院で行ったマイトラクリップ手術で患者が死亡していたことが報じられました.

NEWSポストセブン「東大病院「心臓手術死亡事故」現役医師たちが覚悟の内部告発」(2019年1月21日)は次のとおり報じました.

 
「国内の心臓疾患患者はおよそ172万人。病状の悪化が死に直結する部位だけに、新たな治療法の確立がいまこの瞬間も待ち望まれている。しかし、患者にとって希望になるべき最新術式を巡って、医療の信頼を揺るがす問題が起きていた。舞台は東大病院。内部告発で暴かれた、手術死亡事故の全容とは──。

◆差出人は〈東大病院有志一同〉

 ここにA4用紙13枚にわたる文書がある。

〈告発状 東京都福祉健康局 医療政策部 医療安全課 〇〇課長 ご机下〉

 そう宛先が書かれた文書は冒頭でこう述べる。

〈東京大学医学部付属病院循環器内科における医療死亡事故隠ぺい事件をここに告発するものである〉

 末尾に〈東大病院有志一同〉と記されたこの告発状は何を訴えるのか──。

 発端は、昨年9月21日に遡る。この日、40代男性のA氏は東大病院のベッドに横たわっていた。

 A氏は心臓が通常より肥大化し、血液を適切に全身に送れなくなる拡張型心筋症と僧帽弁閉鎖不全症を患っていた。原因不明であるケースが多く、悪化すると心臓移植が必要となる難病である。

 そのA氏に施されたのが「マイトラクリップ手術」だ。脚の付け根から心臓までカテーテルを挿入し、左心房と左心室の間にある僧帽弁の先端をクリップで繋ぎ合わせ、血液の逆流を減らす手術で、従来の開胸手術より患者の負担が大幅に軽減される。日本では2018年4月に保険適用が始まったばかりの治療法である。

 手術を担当したのは、同術式の豊富な経験があると医療ニュースサイトなどで紹介される、東大病院循環器内科のK医師だった。だが、手術から16日後の10月7日午後2時5分、A氏は息を引き取った。

 件の告発状では、この処置について以下のように指摘していた。

〈不適切な医療行為により死亡した〉〈その死に至る過程では、単純な過失による医療事故のみでは片づけられない数多くの不適切行為が行われ、無念の悲痛な最後を迎えたのであります〉

 1月初旬、宛先である東京都福祉健康局を訪ねると、担当者はこう述べた。

「告発状の存在は我々も把握しています。すでに東大病院には都として立ち入り調査に入っており、検証が終わるまでマイトラクリップ手術を中止するよう指導してあります。

 この術式は高難度新規医療技術に当たり、保険適用下の治療に際しては慎重な運用が求められる。過去の実施症例において、なんらかの疑義がある状況のままでは、施術が行なわれるべきではないと判断しました」

◆カルテに〈特に問題なし〉と記載

 日本の医療を牽引する名門病院で一体何があったのか──。取材を進めると、内情を知る東大病院循環器内科の現役医師B氏と接触できた。B医師が語る。

「A氏の一件は、手術中に医療ミスが発生し、かつその点を見落として患者を死に至らしめた可能性が高い。カルテにもその形跡が示してあります」

 本誌・週刊ポストはA氏のカルテや死亡診断書、X線写真などを入手し、様々な角度から検証すると、A氏の手術について様々な不可解な点が浮かびあがってきた。

 手術中の出来事について、カルテにはこうある。

〈中隔穿刺を行なったが、中隔の肥厚、(中略)何度通電しても穿刺できず〉

〈可変式カテなどを使用するも穿刺できず、これ以上の手技継続は合併症のriskを考慮し、本日は手技中止とした〉

 昭和大学横浜市北部病院教授で心臓外科手術の権威として知られる南淵明宏医師は、次のように見解を示した。

「心臓にカテーテルを通すには、心房中隔に小さな穴を空ける必要があります。カルテからは、担当医がカテーテルを何度変えても心房中隔に穴を空けられず、結局マイトラクリップ手術を中断した様子がうかがえます」

 中止直後に撮影された胸部X線写真について、B医師が指摘する。

「写真を見れば、右肺部から空気が漏れて肺を圧迫する『気胸』が発生していたのは明らかです。(穿刺が行なわれた)左心房のすぐ隣には肺があります。術中に心房中隔に穴を空けようとして何度もカテーテルを動かした際、誤って肺に穴を空けてしまい、気胸が発生したと考えられます。しかしK医師はカルテに『特に問題なし』と記載していました」(B医師)

 手術翌日のカルテには〈日中にも血痰あり、やや酸素化不良 右呼吸音減弱〉〈CTでも右気胸あり〉との内容が記載されていた。

「血痰は肺が突き破られたことを指す重大なサインです。直後のCTで胸膜腔に血が溜まる血気胸が確認されました。本来なら血気胸を発見した時に補助心臓をつけて外科手術を施すべきでしたが、そうした処置はなされなかった」(B医師)

 その後、A氏の状態は急激に悪化し、10月7日に死亡したのは前述の通りだ。

◆診断書の死因は〈病死及び自然死〉

 A氏の死後、さらに不可解な出来事が起きていた。東大病院が作成したA氏の死亡診断書を確認すると、「死因の種類」という欄は、「病死及び自然死」にチェックが付けられ、「直接死因」は「慢性心不全急性憎悪」と記されている。

 驚くのは、手術の有無を問う欄は「無」にチェックされており、主要所見の欄も空白だったことだ。死亡診断書からは、A氏に手術をした事実が“消えて”いるのだ。

 厚労省の「死亡診断書記入マニュアル」は、「直接死因」や「直接死因の原因」に関係のある手術を実施した場合、術式及び診断名と、関連のある所見(病変の部位、性状、広がり等)の記入を求めている。が、A氏の死亡診断書にはマイトラクリップ手術の実施や、その後気胸が発生した事実が一切記載されていない。

 南淵医師が指摘する。

「もし心臓手術を施した患者が、1か月後に手術が直接の原因とは思えない脳出血で突然亡くなられたとしても、死亡診断書には、手術の詳細を記すことが求められます。A氏の件は手術後に肺に穴が空き、それが死に繋がった可能性が浮上しています。死亡診断書に心臓手術が行なわれたことを記載しないのは、医学界のルールを逸脱しているといえます」

 A氏の死について、東大病院が第三者機関の医療事故調査・支援センターに報告し、実態解明に乗り出したのは、死後2か月経ってからのことだった。

 問題はそれだけでない。そもそもA氏は、マイトラクリップ手術を受けられない患者だったという疑いも浮上したのだ。

 医療機器の承認審査などを行なう医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、マイトラクリップ手術について、心臓の収縮力を示す左室駆出率(EF)が30%以上の患者にしか適用してはならないと定める。それ以下の数値では、手術の負担に心臓が耐えられないリスクがあるからだ。

 事前の検査結果でA氏のEFが17%だったことがカルテに記載されている。だが、カルテには〈転院前の前医で施行したTTE(注・経胸壁心臓超音波検査)ではVisual EF30%であり、保険適応上は問題ない〉と併記されていた。

「Visual EFとは、“超音波画像で見たところこれくらいだろう”と視認した参考値にすぎません。そもそもEF17%という数値は心機能が著しく低下した状態。手術を行なったこと自体が間違いだったのではないか」(B医師)

 A氏が適応外の患者だったことを示す記載は他にもある。PMDAは「強心薬(カテコラミン)依存者」についても、マイトラクリップ手術には不適応とする。

 カルテには、A氏がカテコラミン依存状態であったことが記載されており、手術前にも、持続的に静脈内にカテコラミンを投与する状態だった。

「本来、補助人工心臓の埋め込みか、心臓移植が最適の処置だったはず」(B医師)

 医療問題に詳しい中川素充弁護士が語る。

「死亡診断書に虚偽の記載をしたのであれば虚偽診断書等作成罪にあたる可能性があります。仮に執刀医ではない人間が記載したために、事実を知らずに誤記していたケースであったとしても、同じ院内で報告が行き届いていない状況は問題です。真相解明の機会を奪っていることになる。

 PMDAで定められた基準に反して適応外の患者に治療を施し、死亡させた場合は、業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります」

◆症例集めに〈苦戦しております〉

 なぜ、K医師はこれほどまでにマイトラクリップ手術にこだわったのか。K医師は慶應義塾大学医学部出身で、ドイツのブランデンブルグ心臓病センターに留学経験がある。東大病院のスタッフとなったのは、2018年1月だ。

「医局の教授から『これからK先生がマイトラクリップ手術のイニシアチブを取る』とのお達しがありました。新任ながらいきなり難易度の高い手術を任されただけに、周りの医師は驚きました」(B医師)

 就任の翌月、東大病院でマイトラクリップ手術の開始が決まると、K医師は適応症例集めに励んだ。

「新しい手術法を開始する時にはできるだけ症例を重ねて、他の病院を実績でリードすることが求められます」(B医師)

 だが、症例となる患者はなかなか集まらなかった。2018年5月17日にK医師が循環器内科の医局員に送った以下のメールからは、焦りがうかがえる。

〈MitraClip候補症例については現時点で確定症例がわずかに1例のみと苦戦しております。7月から本治療を開始するにあたり、候補症例を最低7例ストックする必要があり、非常に厳しい状況です〉

〈高齢者でも透析症例でも機能性MRでも適応になります。(中略)このようなお願いばかりで誠に恐縮ではございますが、MitraClip候補症例集めにお力添えを賜れば幸甚です〉

 そんな状況のK医師にとってA氏は“求めていた症例”だったのかもしれない。A氏は独身で一人暮らし。カルテにはA氏の家族について、「母認知症、姉とは30年会っていない」との記述があった。だが、母親は70代で物忘れをすることはあるが、病院で「認知症」と診断された経験はない。

 母親は息子の死について、「本当のことが知りたい」とだけ話した。

 手術のリスクについて、本人や家族への説明は尽くされたといえるのだろうか。本誌は一連の出来事についてK医師に取材を申し込んだが、締め切りまでに回答はなかった。

 東大病院の広報部は書面でこう回答した。

〈当該患者に対する治療が極めてハイリスクであることもかんがみて、治療の是非については、循環器内科内での症例検討会や、循環器内科、心臓外科、麻酔科でのハートチームカンファレンスのみならず、新規診療等検討委員会、臨床倫理委員会でも検討を行い、そのいずれからも治療の許可、賛同を得たうえで、当該患者本人とそのご家族にご説明を行い、そのご意向も踏まえて、最終的に当院でMitraClip治療を行うことを決定しております。
(中略)
 当該患者の死因について、治療にあたった循環器内科としては、原病である突発性拡張型心筋症による慢性心不全の増悪が主であると考えており、原病に対する手術は行っておりませんので、その旨を死亡診断書に記載しております〉

 告発状とは真っ向から主張がぶつかるなか、B医師が胸中を明かす。

「今回の事故について、“検証し、責任の処在を明確にしなければ、患者が次々と危険な目に遭い、病院やマイトラクリップ手術に対する信用も損なわれる。それだけは食い止めなければ”との危機感を持つ現役医師は私だけではありません」

 一刻も早い事実解明が求められる。

●文/伊藤隼也(医療ジャーナリスト)と週刊ポスト取材班
※週刊ポスト2019年2月1日号」


報道の件は私が担当したものではありません.
先端技術を適用しようとするあまりに起きた事故の可能性があります.


谷直樹

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by medical-law | 2019-01-24 12:48 | 医療事故・医療裁判

医療安全情報No.146 「酸素残量の未確認」(第2報)

日本医療機能評価機構は,2019年1月15日,医療安全情報No.146 「酸素残量の未確認(第2報)」を発表しました.
「酸素ボンベ使用中に残量ゼロ」となってしまった事故事例9件のうち5件では,搬送時以外にも酸素ボンベを使用していたとのことです.

医療安全情報No.146 は,再発防止のために,以下の3点の対策を検討するよう求めています.
1 酸素ボンベの使用は「搬送時のみ」として、中央配管がある場所では速やかに切り替える.
2 酸素ボンベ使用中は,「引き継ぎ時」「検査中」「検査終了時」などに酸素の残量を確認する.
3 患者の検査時は,酸素投与量と患者の状態に応じて医師や看護師が付き添う.

谷直樹

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by medical-law | 2019-01-17 23:51 | 医療事故・医療裁判

平成31年1月10日東京地裁判決,千葉大学医学部附属病院の看護師が医師を呼ばす吸引を続けた過誤を認定(報道)

保健師助産師看護師法第5条は,」の法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。」としています.看護師の診療の補助行為について医療過誤が問題になることがあります.
とくに,緊急事態に直面したときの対応,医師への連絡が不適切な場合,責任を問われることがあります.

朝日新聞「医療ミスで植物状態 千葉大に1.5億円の賠償命令判決」(2019年1月10日)によると,平成31年1月10日東京地裁判決(裁判長佐藤哲治氏)は,看護師の注意義務違反を認め、約1億5千万円の支払いを命じた,とのことです.

(事案)
患者は2012年8月、上あごと下あごのズレを矯正する手術を受けた。4日後、チューブにたんが詰まって窒息状態になった。異変に気づいた女性看護師2人が5分ほど吸引したが改善せず、低酸素脳症による重い障害を負った,とのことです.

(判決の認定)
看護師が呼吸の回数や脈拍を確認する義務があったにもかかわらず、男性の様子を十分に把握していなかったと指摘。医師を呼ばずに吸引を続けたのも不適切で、「早く処置をしていれば障害は生じなかった」と認定した,とのことです.

報道の件は私が担当した事件ではありません.看護過誤の例として参考になります.判例雑誌に掲載されたら是非読んでみたいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2019-01-11 07:50 | 医療事故・医療裁判

公益財団法人日本医療機能評価機構,医療事故情報収集等事業第55回報告書公表

公益財団法人日本医療機能評価機構は,平成30年12月,医療事故情報収集等事業第55回報告書を公表しました.
「再発・類似事例の分析」において,「病理診断報告書の確認忘れ」(医療安全情報No.71)と「口頭指示の解釈間違い」(医療安全情報No.102)をとりあげ,それぞれ次のとおりまとめています.

「本報告書では、「病理診断報告書の確認忘れ」(医療安全情報No. 71)について、医療安全情報No. 71の集計期間後の2012年9月以降に報告された再発・類似事例を集計した。さらに、そのうち最も多かった上部消化管内視鏡検査の生検組織診断の事例26件について分析を行った。
各診療科の主治医が内視鏡検査担当医に依頼して上部消化管内視鏡検査が行われ、さらに内視鏡検査担当医が病理医に依頼して病理診断が行われる複雑な流れの中で、病理診断報告書が確認されず長期間が経過した事例が報告されていた。また、病理診断報告書が作成されたことや一定期間未読であることを知らせるシステムがある医療機関においても確認忘れの事例が発生していた。
病理診断は患者の治療方針を決定する上で重要な検査であり、病理診断の結果を、いつ、誰が患者に説明するのかを明確にして、病理診断報告書の内容を確実に確認することが必要である。そのためには、医療機関において「内視鏡検査~病理検査~病理診断報告書の確認~患者への説明」の流れを整理し、業務工程を確立することが重要である。また、病理診断報告書の作成や未確認を知らせるシステムを活用する場合は、通知先を適切に設定し、漏れがないように運用することが望まれる。」

「本報告書では、「口頭指示の解釈間違い」(医療安全情報 No. 102)の再発・類似事例8件を分析した。事例の概要では、薬剤が5件と多かった。また、情報を伝える側が指示した内容と、情報を受け取る側が間違って解釈した内容と誤って実施した内容を整理して示し、主な事例や背景・要因、医療機関の改善策をまとめた。
口頭でのやり取りはできる限り行わないとしている医療機関もあるが、緊急時など状況によっては口頭による指示や依頼が発生する可能性がある。報告された事例の中にも、指示した医師が清潔野で処置をしていた事例があった。しかし、口頭で指示や依頼をする場合、情報を簡便に伝えようとした結果、伝えるべき内容が不足してしまうことがある。また、情報を受け取る側も、周囲の環境や状況によっては聞き取りにくい、指示や依頼を視覚で確認できないなどの要因から、相手が意図した内容とは異なった解釈をしてしまう可能性がある。
情報を伝える側は正確に伝わる言葉を選択することや、情報を受け取る側は受け取った内容の解釈を復唱して、双方の意思疎通ができているか確認する必要がある。また、可能な限り、情報を伝える側は口頭での指示や依頼だけでなく指示を入力したり、情報を受け取る側はメモに記載したりするなど、記憶に頼らない工夫をすることが必要である。」


谷直樹

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by medical-law | 2019-01-07 00:14 | 医療事故・医療裁判

医療安全情報No.145  腎機能低下患者への薬剤の常用量投与

医療安全情報No.145は,「添付文書上、腎機能が低下した患者には投与量を減量することや慎重に投与することが記載されている薬剤を常用量で投与し、患者に影響があった事例が8件報告されています。(集計期間:2014年1月1日~2018年10月31日)」
と注意換気しています.

「・医師は、処方する前に患者の腎機能を把握し、患者の 腎機能に応じた用量で処方する。
・薬剤師は、腎で代謝・排泄される薬剤を調剤する際は、 患者の腎機能を確認する。」
としています.

谷直樹

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by medical-law | 2019-01-06 23:56 | 医療事故・医療裁判