弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1197 )

加西市の介護療養型医療施設,元介護職員が患者虐待の疑いで送検へ

b0206085_21161988.jpg神戸新聞「高齢入院患者に虐待か 加西の医療施設」(平成23年9月13日)は次のとおり報じています.
 
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「加西市の介護療養型医療施設で、高齢の入院患者10人以上から、何者かの暴行によるとみられる打撲傷や切り傷などが見つかっていたことが12日、関係者への取材で分かった。兵庫県警捜査1課と加西署が、高齢者虐待の疑いもあるとみて施設関係者から事情を聴いたところ、40歳代の元男性介護職員が「世話にいらいらして暴行した」と供述。県警は、裏付けが取れた一部について、傷害容疑で書類送検する方針。

 捜査関係者などによると、元職員は昨年末までこの施設に勤務し、入院患者の入浴補助など身の回りの世話を担当。昨年秋、夜間のオムツ交換の際、患者の女性の顔を押さえつけ、軽傷を負わせるなどした疑いが持たれている。

 女性は寝たきりで、意思疎通ができない状態だったという。県警の調べに、元職員は容疑を認めているという。

 昨年末、施設側から「入院患者に不自然なけががある」と通報があり、県警が捜査を開始。元職員が夜間勤務に入るようになった昨年夏以降、暴行された疑いのある患者が目立つようになったといい、勤務シフトや目撃者の証言などから容疑を裏付けたという。

 加西市医師会によると、この施設は1987年開業。長期間の療養が必要な高齢者が入院しており、病床数は120。施設の事務長は、神戸新聞の取材に対し「すべて警察に任せており、現段階で話せることは一切ない」などとしている。」


職員がストレスから患者虐待を行う,というケースが時々報道されます.
基本的にはその職員の資質の問題と思いますが,ストレスが多い職場であって,患者が抵抗できない状態におかれていることは他の施設でも同様ですから,このようなことが他の施設でも起きていないとは言えません.

【追記】
時事通信「病院元職員を書類送検=患者2人に傷害容疑-兵庫県警」(平成23年9月20日)は,次のとおり報じました.

「兵庫県加西市の介護療養型医療施設「米田病院」で、高齢の入院患者数人が顔にけがをしていた事件で、兵庫県警捜査1課などは20日、傷害容疑で同県福崎町、同病院の元介護職員の男(49)を書類送検した。「おむつ交換のときに抵抗され、腹が立った」と容疑を認めているという。
 送検容疑は昨年10月と12月、80代と90代の寝たきりの女性入院患者の下あごを手で押さえつけ、軽傷を負わせた疑い。
 同病院は、看護師らから昨年12月上旬、「患者がけがをしている」との報告を受け調査。元職員は同年末に退職したという。


谷直樹
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by medical-law | 2011-09-13 09:53 | 医療事故・医療裁判

名古屋高裁金沢支部平成23年9月12日判決,過失を認めた1審判決支持(高岡市民病院飛び降り自殺事件)

b0206085_9263451.jpg◆ 報道

KNB北日本放送「病院側の過失を認めた判決支持、控訴を棄却」(平成23年9月12日)は,次のとおり報じました.

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「高岡市民病院で3年前に女性患者が飛び降り自殺したのは病院側の安全管理が不十分だったためとして遺族が高岡市を訴えた裁判の控訴審で、名古屋高等裁判所金沢支部は12日、病院側の過失を認めた1審判決を支持し、控訴を棄却しました。

 この裁判は、平成20年5月に自殺を図ったとして高岡市民病院の精神病棟に入院した女性患者(当時36歳)が、翌日、看護助手が鍵を開けたベランダから飛び降りて死亡したのは病院側に安全管理などの面で過失があったとして遺族が高岡市に損害賠償を求めているものです。

 1審の富山地方裁判所は去年9月に、病院側の看護体制の過失を認めて病院を運営する高岡市に請求の半額となるおよそ3450万円の支払いを命じました。

 高岡市側と遺族側の双方が控訴していた控訴審で、名古屋高等裁判所金沢支部は12日、1審判決を支持し、控訴棄却を言い渡しました。

 これに対し高岡市民病院の沢崎邦広病院長は「判決文が届いていない現段階では、コメントは控えたい」としています。」


◆ 感想

本件は,自殺を図ったという重要な情報が周囲の職員に共有されていなかったことから看護体制の問題を指摘した富山地裁高岡支部平成22年9月28日判決後,高橋市長が,臨時市議会を召集し,「市が主張してきた基本的な事項が認められていない厳しい判決で,このままでは病院の信頼関係に影響が及ぶため,やむを得ず控訴する」と述べ,全会一致で控訴することが決まった,という経緯がありました。

しかし,本件は,自殺を図ったとして精神科病棟に入院した36歳の女性患者が,入院翌日,看護助手が鍵を開けたベランダから飛び降りて死亡した事案ですので,病院側に過失ありと判断されたのは至極当然と思います.

予見可能性については,具体的な診療に即して検討されねばなりませんが.自殺企図があって入院しているので,患者の自殺念慮について注意深く観察する必要があり,注意深く観察していれば再び自殺を試みることは予見できたのではないか,と思います.(なお,もし,注意深く観察することができないような病院の体制であったとすれば,それ自体に義務違反があると言えるでしょう.)

回避義務については,患者の自殺念慮が高まっているとみられるときは,医師や看護師が患者と静かに話をし,患者を落ち着かせることが必要です.患者を放置してはいけないと思います.

また,精神科の病棟では,屋上や高い階にあるベランダへの出入り口は,通常施錠されています.容易に自殺できる状況が与えられると,その状況が自殺の誘引となる可能性があるからです.
面倒でも,施錠を開けたらその都度閉めることが必要です.
本件で,看護助手がベランダの鍵を開けたままにしてあったことから,看護助手の注意義務違反といえるかもしれませんが,私は,むしろベランダへの出入り口の施錠が周知徹底されていなかったことから病院の安全管理体制に問題があったと考えます.病院の管理体制の問題が大きいと思います.

地裁判決は,飛び降り自殺に至る具体的な事情を考慮し,賠償額を半額とし,高裁もそれを支持していますが,それが本当に適切な判断か否かはかなり微妙と思います.看護助手の行為より,病院の安全体制に目を向ければ,全額賠償のほうが適切だったのではないか,と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-13 02:58 | 医療事故・医療裁判

新潟県立がんセンター新潟病院,和解勧告受諾(心臓カテーテルで血管内膜を傷つけ,急性心筋梗塞の事案)

b0206085_9271948.jpg◆ 報道
読売新聞「医療ミスで1350万支払い 県立がんセンター検査手術で血管損傷」(平成23年9月10日)は,以下のとおり報じました.

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「県は9日、県立がんセンター新潟病院(新潟市)で2004年3月、狭心症の検査をした胎内市の男性患者(当時60歳代)の手術で血管内膜を傷つけ、心筋梗塞になる医療ミスがあり、患者に1350万円を支払うことを決めたと発表した。

 発表によると、男性は、心臓を取り囲む動脈2か所で血管が狭くなっているのが見つかった。血管にカテーテルを挿入して血管を広げる手術をしたが、その際に血管内膜を傷つけてしまったという。この結果、男性は急性心筋梗塞を発症した。

 患者側は05年3月、県を相手に約2200万円の損害賠償を求める訴訟を新潟地裁に起こした。

 同病院は「早期解決の必要性などを総合的に判断した。結果として患者に身体的、精神的苦痛を与えたことを重く受けとめている。安全な医療の提供に努めたい」としている。」


◆ 感想

記事には,「検査」,「手術」という表現がありますが,本件は「検査」や外科が行う「手術」ではないでしょう.
「血管にカテーテルを挿入して血管を広げる」と書いてありますから,経皮的冠動脈インターベンション(PCI,percutaneous coronary intervention))の事案だと思います.

PCIは,冠動脈の狭窄部位を広げるため,カテーテルを冠動脈入り口まで挿入し,細いワイヤーで狭窄部位や閉塞部位を通し,ワイヤーに沿ってバルーンを進め,バルーンをふくらませて血管を拡張し,その部分にステントを留置する,という手順で行われる血管内治療です.

医師には,バルーンなどで血管を広げる際に,注意深く操作し血管内膜を傷つけない,という手技上の注意義務があります.
記事の「その際に」の意味がやや分かりにくいのですが,血管を広げる際に注意深く操作しないで血管内膜を傷つけたとすれば,注意義務違反があります.

そして,血管内膜を傷つけてしまった結果急性心筋梗塞を発症した,というのですから,注意義務違反と心筋梗塞発症との間の因果関係もあります.

したがって,新潟県が,裁判所の和解勧告を受け容れたのは,適切な判断です.

◆ 裁判例

PCIの手技ミスについての裁判例を振り返ってみます.

以前は,PCI後の異変に対する発見の遅れ,不適切な対処を捉えて,注意義務違反を認めていた裁判例が多く,PCIの手技ミスの注意義務違反を認めた裁判例がありませんでしたので,裁判所にPCIの手技ミスで注意義務違反を認めさせるのはかなりハードルが高い,とみられていました.

ただ,裁判所は,PCIで血管を広げる際に血管内膜を傷つけないように操作するという注意義務の存在自体を正面から否定したことはありませんし,棄却判決の内容をみると,穿孔したという事実を否定(東京地裁平成2年3月16日判決)するなど,事実認定の問題で患者側が敗訴しているようにもみえました.

その後,大阪地裁平成16年2月16日判決は,中心静脈カテーテルの先端で右心房底部を突いて心膜内壁を穿孔し,心タンポナーゼを合併させて心停止及びこれに伴う低酸素脳症に基因する遷延性意識障害を発生させた事案で,注意義務違反を認めました.

これが認められるなら,PCIでも同じことが言えるのではないか,と考えられ,実際,東京地裁所平成17年4月27日判決は,PCIの手技ミスを注意義務違反と認定しました.
「出血の主原因については、ガイドワイヤーが目的としていた左前下行枝の真腔を捉えず、対角枝方向へ向かい、しかも偽腔に入っていたため、偽腔内においてバルーンを拡張した結果、冠動脈を裂いて出血を招いた可能性が高いものと認められる」と,出血を医師Bの手技に起因するものと認定しました.
ただ,判決は,同時に「「被告(医師)Aが、ガイドワイヤーの先端によって血管を穿孔させた可能性も相当程度認められる」とも認定しています.
A医師の注意義務委違反は詳細に認定され,国立病院東京災害医療センターの賠償責任が肯定されました.

その後も,棄却判決(東京地裁平成18年5月18日判決)が出ていますが,それは断裂した右肺動脈の付近でバルーンを膨らませたという事実が立証できなかったためです.断裂した右肺動脈の付近でバルーンを膨らませたという事実が立証できれば,結論が変わってくる可能性があったと理解できます.

患者側がPCIの手技ミスを立証することは結構大変で,その立証ができる事案の多くは,判決に至らず,示談,和解で解決しているように思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-11 02:13 | 医療事故・医療裁判

神戸地裁平成23年9月8日判決(神戸拘置所で医師の診察を受けさせず凍死,国に賠償を命じる)

b0206085_9342026.jpg◆ 事案

男性(死亡当時29歳)は,平成16年12月に児童福祉法違反罪で起訴され神戸拘置所に勾留中の平成17年末ごろから体調が悪化し,平成18年1月7日顔や手足に凍傷を負った状態で死亡しました.男性の日記には「寒い」と書かれていました.

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◆ 判決

判決は,付近で氷点下を観測した死亡前の夜間,独居房の窓が開けられていたことなどから,男性が低体温症で昏睡状態になり,嘔吐物による窒息を反射的に防ぐ咳をすることができなかったとして,凍死と認定しました.
裁判所は,死亡前の21時間を記録した監視カメラの映像が証拠採用し,6日夕刑務官が男性が嘔吐しているのを確認している様子が監視カメラに映っていたことなどから「男性が嘔吐するなど異変があったのに,職員は医師の診察を受けさせるなどの措置を講じなかった」と過失を認め,国に約4360万円の支払いを命じました.

読売新聞「拘置所の独房で凍死、国に4360万円賠償命令」(平成23年9月8日)
産経関西「凍死認定 国に4400万円支払い命令 拘置所で被告死亡」(平成23年9月8日)
毎日新聞「神戸地裁:「被告凍死、拘置所の過失」国に賠償命令」(平成23年9月8日)
朝日新聞「「零下に窓開放…拘置所で凍死 神戸地裁、国に賠償命令」(平成23年9月9日)

◆ 感想

身柄を拘束されている人の医療を受ける権利は,侵害されることがしばしばあります.
弁護士会の人権擁護委員会がたびたび勧告していますが一向に改まりません.
この判決を機会に改善に向かうことを期待いたします.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-10 09:04 | 医療事故・医療裁判

日本病理学会,9月23日市民公開講座「医療安全と解剖」

9月23日に,日本病理学会主催の市民公開講座「医療安全と解剖」 が開催されます。
事前申し込みが必要です.⇒ 日本病理学会

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【日時】9月23日(祝)14:00~17:00 
【会場】東京大学 本郷キャンパス山上会館

【内容】
座長:深山正久氏(東京大学大学院医学系研究科 病理学講座 人体病理学・病理診断学分野)      
   黒田誠氏(藤田保健衛生大学医学部 病理診断科)

1. 「日本医療安全調査機構」が目指すもの
   原義人氏(日本医療安全調査機構 中央事務局長、青梅市立総合病院 院長)

2. 死亡原因調査と再発防止を目的にする第三者機関の設立を
  永井裕之氏(医療の良心を守る市民の会 代表)

3. 診療関連死調査制度に求めるもの(報道及び遺族の視点から)
   原昌平氏(読売新聞大阪本社)

4. 安全な医療をめざして ~患者の立場から
   加藤良夫氏(栄法律事務所)

5. 診療関連死と病理解剖
   黒田誠氏(藤田保健衛生大学医学部 病理診断科)

6. 診療関連死と監察医制度
   福永龍繁氏(東京都監察医務院 院長)

7. 診療関連死と法医解剖
   吉田謙一氏(東京大学大学院医学系研究科 法医学講座)

【主催】日本病理学会
【後援】東京都福祉保健局、日本法医学会、日本医療安全調査機構、医療事故情報センター、医療の良心を守る市民の会

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-09 23:59 | 医療事故・医療裁判

名古屋大学医学部付属病院,事故調査委員会報告に基づき謝罪(救急外来研修医の腹膜炎見落とし死亡事案)

b0206085_9151085.jpg<◆ 報道

読売新聞「腹膜炎を便秘と診断後に死亡…病院が遺族に謝罪」(平成23年9月8日)は,次のとおり報じました.

「名古屋大学医学部付属病院(名古屋市昭和区)は8日、2009年2月に救急外来を受診した名古屋市の70歳代女性の腹膜炎を発見できずに帰宅させ、翌日に死亡する医療事故があったと発表した。

 同病院によると、女性は同月10日、腹痛や吐き気を訴えて来院。医師になって3年目の40歳代の男性研修医がレントゲン撮影などをしたうえで「習慣性の便秘」と診断し、薬を処方して帰宅させたが、女性は翌11日朝に自宅で意識を失い、別の病院で死亡した。

 女性は来院した時点ですでに大腸に直径1・5センチ程度の穴があいていた疑いが強く、レントゲンにも腹腔(ふくくう)内に空気が漏れ出ている様子が写っていた。

 外部識者らによる事故調査委員会は「研修医の知識・技量では発見できなかったのはやむを得ない」とする一方、「経験豊富な医師なら異常に気付いた可能性が高い」と指摘。国の指針を基にした当時の救急外来部門の取り決めでは、研修医でも3年目からは一人で診療を行い、患者の帰宅の可否を判断できることになっていたため、「救急専門医らが研修医の経験不足を補ったり、指導したりする体制を強化すべき」などと提言した。

 名大病院は体制の不備を認めて遺族に謝罪し、今年8月に示談が成立。救急部門の指導医や専従医師を事故当時の3倍の計21人に増やすなどして再発防止を図っているという。女性の長女は8日、弁護士を通じ、「同じことが起きないように委員会の提言を守ってほしい」とコメントした。」


◆ 感想

経験の少ない医師と経験豊富な医師では,同じものを見ても,その判断が大きく異なることがあります.
さらに,救急外来では,本件のように,医師の判断が治療の遅れを招き,不幸な結果に至ることもままあります.

私が取り扱っている救急の事案でも,他の病院の医師から意見を聞くと,経験の少ない医師の誤った判断が患者の死亡を招いている,と考えられました.

もちろん,単に損害賠償金を得るだけなら病院を被告に裁判を行えばすむことですが,それでは,その医師個人の判断ミスの問題だけにとどまり,病院が経験の少ない医師に任せきりにしている現状を真に反省し,事故を教訓にした再発防止ができるかは不確実です.
病院自らが公正な事故調査を行うことで真の反省が生まれ,実効的な再発防止につながると考え,私は,病院に,事故原因を究明し再発防止のために,外部委員をいれた公正な院事故調査委員会設置を求めています.

なお,名古屋大学医学部付属病院の事故報道が多いように感じられるかもしれませんが,同病院が積極的に事故調査を行い,公表しているためで,他の大学病院より医療の質が劣るわけではありません.
同病院では,このように,事故調査に基づき具体的実効的な再発防止策がとられることにより.患者の安全と医療の質が向上していく,と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-09 01:43 | 医療事故・医療裁判

市立旭川病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)補足

b0206085_14515466.jpg◆ 或る疑問について

「市立旭川病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)」で,私は「酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れたことは,注意義務違反にあたります.」と書きました.

これに対し,「挿入後の確認を普通行うべきところを怠ったというならそれは別ですが、誤挿入だけで注意義務違反だという人は、準委任契約の基本を理解していないのではないか、弁護士能力として如何なものかと疑います」というツイッターがあったようです.

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医師の義務について,●●する義務,●●しない義務,という表現をすることがありますが,それは医療契約が病気の治癒を約束するものではなく,通常の診療を行うことを約束するものであることと矛盾するものではありません.

このツイッターの方は,おそらく,医師が通常の注意を払っていても誤挿入は避けられない,と考えるのでしょう.
しかし,(あまり考えられないですが奇形で通常気管のある位置に食道があったなどという場合でない限り)医師が通常の注意を払うことで誤挿入は避けられるはずで,避けねばならない,というのが法の立場である,と考えます.いくら気管と食道の位置が近いといっても,医師はその位置関係を十分承知しているはずです.

医師には,挿管に際し,(食道ではなく)気管に正しくチューブを挿入するという注意義務があります。挿管が難しいからと言って,この注意義務がないということにはなりません.
医師がその注意義務に反し誤挿入した場合は,その医師に注意義務違反があると言えます.

◆ 確認について

いったん誤挿入をしたが,ただちに誤りに気づいて,気管に正しく挿入し,何らの問題が生じなかった,という場合は,医療過誤として責任を問われることはありません.この場合,結果(損害)が発生していないからです.

次に,医師Aが誤挿入をし,医師Bが誤挿入にただちに気づかず気管に正しく挿入し直したが,結果(損害)が生じたという場合を考えてみましょう.

挿管しても,呼吸状態が改善しないという場合,複数の原因が考えられます.誤挿入の可能性も考えねばならないでしょうが,まさか誤挿入しているとはすぐに思えない場合もありますし,挿管やり直しにもある程度の時間がかかります.
誤挿入に気づくまでの時間,挿管やり直しにかかった時間がそれぞれ合理的なものであれば,医師Bに注意義務違反はありません.
この場合,医師Aの誤挿入が結果と因果関係のある注意義務違反となります.

これに対し,医師Bにも注意義務違反が認められる場合は,「医師Aの注意義務違反と結果との因果関係」,「医師Bの注意義務違反と結果との因果関係」がそれぞれ具体的事案に即して問題になります.

◆ 私見

ただ,何れにしても,「挿管後に呼吸状態が改善しないときは誤挿入の可能性も含めて確認行為が行われ,誤挿入しても,確認行為後に正しく挿入され直されるから誤挿入自体は注意義務違反ではない」という主張があるとすれば,その主張は謬論でしょう.

また,診療契約は準委任契約で,結果を約するものではないから,誤挿入しない,という注意義務がない,という主張があるとすれば,これも謬論でしょう.
チューブを挿入するとき注意して正しい場所に入れるという義務があるはずです.気管内挿管で,注意してチューブを気管に入れる注意義務がないとは,私には到底考えられません.

【追記】

福岡地裁平成11年7月20日判決は,新生児の誤挿管(食道挿管)の事案で,麻酔科医師には気管内挿管を的確に行う注意義務があること,産科医師には挿管後に肺の酸素化ができていることを確認する義務があること,をそれぞれ認めています.

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by medical-law | 2011-09-07 14:37 | 医療事故・医療裁判

西福岡病院の医師,業務上過失致死容疑で書類送検される(胃瘻チューブ交換ミス)

b0206085_22221236.jpg◆ 報道

msn産経「男性死亡で医師を書類送検 チューブ交換ミスの疑い 福岡」(平成23年9月6日)は,次のとおり報じました.

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福岡県警西署は6日、福岡市西区の西福岡病院で平成21年3月、腹部に開けた穴から胃に流動食を送る「胃ろう」チューブの交換ミスで、入院中の同市博多区の無職男性=当時(70)=を腹膜炎による多臓器不全で死亡させたとして、チューブを交換した男性医師(53)を業務上過失致死容疑で書類送検した。

 送検容疑は、糖尿病などで入院していた男性の胃ろうチューブを交換する際、チューブが胃の内部にまで届いていないことに気付かず、看護師に栄養剤の注入を指示。栄養剤を男性の腹腔内に漏れ出させて腹膜炎を発症させ、21年3月16日に多臓器不全で死亡させたとしている。

 西署によると、チューブは長さ20センチ、直径約1センチのシリコン製。男性は17年9月に入院し、4カ月に1回チューブを交換していた。男性医師は容疑を認めているという。」


◆ 感想

胃瘻チューブの交換の際には,十分注意をはらってほしいですね.
注意義務違反の疑いがありますので,警察が,業務上過失致死容疑で書類送検するのは当然です.
検察が略式起訴すれば,医師は罰金に処せられるでしょう.

医師の業務上過失致死容疑については,警察が事件を抱えている期間が長くなる傾向があります.
慎重になるのはわかりますが,被疑者,被害者双方のために,できるだけすみやかに対処してほしいと思います.

【追記】

毎日新聞「医療事故:患者死亡で書類送検の医師不起訴 過失程度小さく /福岡」(2012年3月31日)は,次のとおり報じています.

「福岡地検は30日、業務上過失致死容疑で書類送検された西区の「西福岡病院」の男性医師(53)を不起訴処分(起訴猶予)にしたと発表した。処分は29日付。地検は「過失の程度が比較的小さく、遺族の処罰感情などを考慮した」としている。

 医師は09年3月、栄養剤を注入するチューブが胃に入っていないのに看護師に栄養剤投与を指示して男性患者(当時70歳)を死亡させたとして昨年9月、書類送検されていた。」


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by medical-law | 2011-09-06 22:07 | 医療事故・医療裁判

無過失補償制度,北海道新聞社説,『医療事故補償 原因の究明あってこそ(9月5日)』 

b0206085_17535941.jpg無過失補償制度は,「原因究明と両輪」か,それとも「被害者の口封じ」か,考え方が分かれています。
北海道新聞は,本日の社説で,「補償だけでなく、謝罪や原因追及があってこそ、被害者や家族は心にひと区切り付けられる」「医療界も原因を究明できなければ、再発防止に役立たない」ということから,前者の考えから以下の社説を述べています.

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「医療事故で死亡するか、重い障害が残った患者とその家族に、医師の過失の有無にかかわらず補償金を支払う無過失補償制度の検討が厚生労働省で始まった。

 医療事故は患者側が損害賠償を求め民事訴訟を起こすにしても、立証に時間や労力がかかるのが悩みだ。
裁判を経ずに補償されれば、患者側の負担も減り、支払いも迅速になる。補償条件や金額、手続きなど具体的な制度設計を急ぐべきだ。
無過失補償はあらゆる医療行為が対象となる見込みで、患者側は認定する機関に申請し、基準に基づいて補償金を受け取る。支払いを優先し、事故責任は追及しない方向だ。

 産科の一部では2009年から、無過失補償を導入した。出産をめぐり訴訟になる例が多かったためだ。
出産事故で脳性まひとなった子どもの家族に、3千万円を支払っている。7月末までに192件の補償が決定するなど制度が定着してきた。

 問題は補償の財源だ。
産科では、運営組織の財団法人が出産1件当たり約3万円を保険料として病院から徴収。病院は健康保険の支払いで賄っている。
今回の制度はすべての医療行為が対象となるだけに、産科と同じ仕組みとはいかないだろう。
日本弁護士連合会は、国や医療機関、医療機器メーカーなどからの拠出を提案している。
巨額の財源を想定するならば、関係者が相応の負担をする考えは検討材料の一つになる。ただ、産科が実質、健康保険で補償していることとの整合性をどう取るのか。さらに議論を深める必要がある。

 無過失補償に対しては、患者から「金で口封じされるのでは」との懸念も出ている。産科補償を受けた患者が事実経過の説明が不十分として、提訴した例があるからだ。

 補償に重きを置くあまり、原因究明や再発防止策がおろそかになることがあってはなるまい。

 政府は08年、業務上過失致死で起訴された産婦人科医が無罪となった福島県立大野病院事件を受け、捜査機関によらない「医療版事故調査委員会」を検討した経緯がある。
しかし、カルテ改ざんなど悪質なケースについて、委員会による警察への通報を認めたため、医師の一部が反発し、法案化が棚上げされた。

 補償だけでなく、謝罪や原因追及があってこそ、被害者や家族は心にひと区切り付けられるという。

 医療界も原因を究明できなければ、再発防止に役立たないだろう。

 政府は事故調の権限や内容について医療関係者と早急に議論すべきだ。無過失補償と原因究明は、車の両輪であることを肝に銘じてほしい。」


谷直樹
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by medical-law | 2011-09-05 17:42 | 医療事故・医療裁判

市立旭川病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)

b0206085_11422213.jpg◆ 報道

北海道新聞「医療ミスで植物状態に 市立旭川病院、5400万円賠償で合意」(平成23年9月5日)は,次のとおり報じました.

「市立旭川病院(青木秀俊院長)で昨年2月、医師が手術直後の男性患者に対し、酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れる医療ミスがあり、患者が植物状態になっていることが4日分かった。旭川市が損害賠償として約5400万円を患者側に支払うことで合意した。

 旭川市は6日開会の定例市議会に関連議案を提案する。同病院は「あってはならないミスで大変申し訳ない。医師の技術向上を図り、再発防止に努めたい」(事務局)と話している。」

◆ 感想

経管栄養チューブの気管支への誤挿入事故で罰金30万円(盛岡略式命令平成14年12月17日),罰金50万円(富良野略式命令平成16年4月2日)に処せられた例がありますが(飯田英男氏著『刑事医療過誤Ⅱ増補版』),この逆の例をはじめて知りました.逆の場合は,普通すぐに気がつくのではないかと思いますが,本件は酸素がいっていないことに気付くのが遅かったようです.

酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れたことは,注意義務違反にあたります.
その注意義務違反に因っていわゆる植物状態になったのですから,因果関係も認められます.
したがって,市立旭川病院を開設している旭川市には損害賠償義務があります.
このような医療過誤があったことは残念ですが,示談によって早期に解決できたことはよかったと思います.

【追記】
朝日新聞「酸素チューブ誤挿入 市立旭川病院、賠償」(平成23年9月6日)は,次のとおり報じました.

 「旭川市立旭川病院は5日、医療ミスで男性患者が植物状態になったとして、患者側に損害賠償として約5400万円を支払う方針を明らかにした。市は同日の市議会運営委員会に報告、6日開会の市議会に関連議案を提出する。

 病院によると、昨年2月18日、30代の男性患者が内臓手術を受け、いったん意識が戻った後に突然呼吸困難になった。医師が酸素を送るチューブを気管でなく、過って食道に挿入していたことに気づき、約8分後に気管に入れ直したが、患者は昏睡(こんすい)状態になった。

 患者はその後も意識が戻らず、昨年10月に植物状態である遷延性意識障害と診断された。病院は医療ミスを認め、患者側に謝罪。示談の話し合いを続け、生涯給や慰謝料などを考慮し5476万円を支払うことで1日に合意した。

 西野泰史事務局長は「医療態勢を強化し、再発防止に努めたい」としている。」


医師には,挿管に際し,(食道ではなく)気管に正しくチューブを挿入するという注意義務があります。挿管が難しいからと言って,この注意義務がないということにはなりません.奇形で通常気管のある位置に食道があったなどという場合でない限り,医師が通常の注意を払うことで誤挿入は避けられるはずです.いくら気管と食道の位置が近いといっても,医師はそのことを十分承知しているはずです.
医師がその注意義務に反し誤挿入した場合は,その医師に注意義務違反があると言えます.

いったん誤挿入をしたが,ただちに誤りに気づいて,気管に正しく挿入し,何らの問題が生じなかった,という場合は,医療過誤として責任を問われることはありません.この場合,結果(損害)が発生していないからです.

次に,医師Aが誤挿入をし,医師Bが誤挿入にただちに気づかず気管に正しく挿入し直したが,結果(損害)が生じたという場合を考えてみましょう.

挿管しても,呼吸状態が改善しないという場合,複数の原因が考えられます.誤挿入の可能性も考えねばならないでしょうが,まさか誤挿入しているとはすぐに思えない場合もありますし,挿管やり直しにもある程度の時間がかかります.
誤挿入に気づくまでの時間,挿管やり直しにかかった時間がそれぞれ合理的なものであれば,医師Bに注意義務違反はありません.
この場合,医師Aの誤挿入が結果と因果関係のある注意義務違反となります.

これに対し,医師Bにも注意義務違反が認められる場合は,「医師Aの注意義務違反と結果との因果関係」,「医師Bの注意義務違反と結果との因果関係」がそれぞれ具体的事案に即して問題になります.

ただ,何れにしても,「挿管後に呼吸状態が改善しないときは誤挿入の可能性も含めて確認行為が行われ,誤挿入しても,確認行為後に正しく挿入され直されるから誤挿入自体は注意義務違反ではない」という主張があるとすれば,その主張は謬論でしょう.

また,診療契約は準委任契約で,結果を約するものではないから,誤挿入しない,という注意義務がない,という主張があるとすれば,これも謬論でしょう.チューブを挿入するとき注意して正しい場所に入れるという義務があるはずです.気管内挿管で,注意してチューブを気管にいれる注意義務がないとは,私にはとうてい考えられません.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-05 11:36 | 医療事故・医療裁判