弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:人権( 65 )

日弁連,新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)に対する会長声明

b0206085_1434967.jpg日本弁護士連合会(日弁連)は,2013年3月22日,新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)に対する会長声明を発表しました.

「本年2月18日、政府は、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)の概要(以下「施行令案」という。)を発表した。

新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)について、当連合会は、2012年3月22日、科学的根拠に疑問がある上、人権制限を適用する要件も極めて曖昧なまま、各種人権に対する過剰な制限がなされるおそれを含むものであるとして、成立に反対する会長声明を発している。特措法は第180回国会において可決成立したが、参議院において、「本法の規定に基づく私権の制限に係る措置の運用に当たっては、その制限を必要最小限のものとするよう、十分に留意すること。」、「新型インフルエンザ等緊急事態宣言を行うに当たっては、科学的根拠を明確にし、恣意的に行うことのないようにすること。」との附帯決議がなされており、人権の制限が過度にわたることのないよう厳格な運用が求められる。ことに、特措法は、人権制限の具体的要件の定めを大幅に政令に委任していることから、政令は、人権を制限する権力行使を適切にコントロールしうるものとすることが重要である。

しかるに、施行令案は、特措法において多くの人権制限の前提となっている新型インフルエンザ等緊急事態の具体的要件を定めているが、その内容は極めて緩やかであり、かつ曖昧不明確であって、過度の人権制限を招来する危険性が高い。」

まず、特措法の定める、新型インフルエンザ等が「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるもの」であるという要件について、施行令案は、その具体的要件を、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度がいわゆる季節性インフルエンザにかかった場合に比して「相当程度高いと認められること」としているが、「相当程度高い」との要件は極めて緩やかかつ曖昧に過ぎる。また、「認められる」との要件についても、どの程度情報の蓄積が得られた段階で、どの程度の確度を要求するのか明らかでない。新型インフルエンザについては病原性を早期の段階で判断することは不可能であることが専門家により指摘されているところであり、国内発生初期の情報の不十分な時点で、明確な科学的根拠のないまま本要件に該当するとの判断がなされるおそれがある。特措法の上記要件は、極めて病原性の強い新型インフルエンザが発生した場合に限定する趣旨と考えられるが、施行令案の定める具体的要件はそのような場合に限定する機能を果たしていない。

また、特措法の定める、当該新型インフルエンザ等が「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」との要件については、施行令案は、①確認された新型インフルエンザ等の感染者(症状等から感染が疑われる者も含む。)に対し新型インフルエンザ等を感染させた原因が特定できない場合、または②新型インフルエンザ等の感染者が不特定の者に対して新型インフルエンザ等を感染させる行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合、のいずれかに該当することで足りるとしている。すなわち、感染原因を特定できない感染者が1人でもいたり、感染後に人混みを歩いたり混雑した電車に乗ったりした感染者が1人でもいれば要件を充たすことになるが、新型インフルエンザ等の発生時にかかる事態が発生しない方が稀と考えられるのであり、これでは、特措法が新型インフルエンザ等緊急事態を限定するために前記のような要件を課した意味が全くない。

以上のとおり、施行令案の要件が緩やかかつ不明確であることにより、特措法の定める上記要件を逸脱する場合にまで新型インフルエンザ等緊急事態の成立が認められかねないものとなっている。これは、前記の参議院附帯決議の趣旨にも反する。

施行令における新型インフルエンザ等緊急事態の具体的要件については、極めて病原性の高い新型インフルエンザ等の感染が大規模に発生する差し迫った危険が生じた場合に適切に限定されるよう、より厳格かつ明確な要件を定めるべきである。」


重大な人権侵害のおそれ施行令なのに,反対の盛り上がりに欠けるのが気になります.


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-25 02:29 | 人権

労働政策審議会の障害者雇用分科会,精神障害者を障害者雇用促進法に基づく雇用義務の対象とすべき

日本経済新聞「精神障害者「雇用義務化を」 厚労省審議会」(2013年3月14日)は,次のとおり報じました.

「厚生労働省の労働政策審議会の分科会は14日、精神障害者を障害者雇用促進法に基づく雇用義務の対象とすべきだとする意見書をまとめた。これを受け、同省は改正法案を作成し、21日に開かれる分科会で議論する。分科会で合意が得られれば改正法案を今国会に提出し、5年後の2018年4月に施行したい考え。

 ただ企業側からは「精神障害者の雇用支援策を充実させ、効果を確認してから義務化に踏み切るべきだ」などと慎重な声も出ており、法改正の見通しは不透明だ。

 厚労省が雇用義務の対象と想定するのは精神障害者保健福祉手帳を持つ統合失調症、そううつ病、てんかんなどの患者。近年は精神障害者の就労意欲が高まり、大企業を中心に採用が増えている。

 障害者雇用促進法は企業や国、自治体などに一定割合以上の障害者を雇用するよう義務付けている。現行法は身体障害者と知的障害者が雇用義務の対象。企業の法定雇用率は1.8%で、今年4月から2.0%に引き上げられる。精神障害者の雇用が義務化されると、法定雇用率がさらに上がることになる。

 昨年6月時点の企業の障害者雇用率は1.69%。法定雇用率を満たさない企業は、国に納付金を支払う必要がある。」


労働・雇用分野における障害者の権利に関する条約は,障害者雇用率制度について積極的差別是正措置を講じることを求めています.
法改正実現までは紆余曲折があるでしょうが,とりあえず一歩前進です.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-14 19:54 | 人権

徳田靖之先生,「人権活動の原点」

昨晩,徳田靖之先生(大分県弁護士会)のご講演「人権活動の原点」を拝聴いたしました.小さな窃盗事件の弁護が人権活動の原点でした.とてもとてもよいご講演でした.次回,4月12日の坪井節子先生(東京弁護士会のご講演も拝聴したいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-02-02 07:42 | 人権

水銀に関する水俣条約

熊本日日新聞「水俣は評価と不満交錯 水銀規制条約交渉合意」(2013年1月20日)は,次のとおり報じました.

「水銀規制条約をめぐる国連の政府間交渉が19日、合意に達し、条約名は「水俣条約」に決まった。これまで条約の名称や内容をめぐって議論が続いてきた地元水俣市では、評価の声と不満の声が交錯した。

 水俣条約との命名を求めてきた宮本勝彬水俣市長は「身の引き締まる思い。世界各国に水俣病の経験と教訓をしっかり伝える。環境に関する市の取り組みも情報発信したい」とコメントした。

 命名を支持してきた水俣病資料館語り部の会の緒方正実副会長は「被害者の命の重さを受け止めてくれた結果。水俣の悲惨さを世界に伝えることで、水銀に対する規制は十分できる」と条約の実効性に期待した。

 一方、命名に反対していた水俣病被害市民の会や水俣病互助会など5団体は「合意内容は不十分」とする声明を発表。「このままでは水俣病の悲劇が繰り返されることが予想される。条約のさらなる充実を働き掛ける」と訴えた。

 市民の会の山下善寛事務局長は「水俣と名付けた以上、責任は重い。命名にふさわしい内容にすべきだ」。互助会の上村好男さんも「未認定患者救済や埋め立て地の水銀ヘドロなど問題は残っており、これで問題が解決するわけではない」と強調した。

 「風評被害が続く」との理由で昨年末、命名に反対する意見書を可決した水俣市議会。真野頼隆議長は「命名は残念。国や県は、風評被害につながらないような対応を責任を持って進めてほしい」と求めた。

 水俣条約は10月、熊本、水俣両市で開かれる国際会議で採択される。蒲島郁夫知事は「水俣病の歴史と再生に向かう現在の水俣の姿を見てもらい、水俣病を二度と起こしてはならないという思いで採択してもらうのは意義深い」とコメント。熊本学園大の丸山定巳教授(環境社会学)は「10月の国際会議は、水俣病が終わっていない現実を直視してもらう好機。決して解決したかのようにごまかしてはならない」とくぎを刺した。(辻尚宏、石貫謹也)」


水俣条約は水俣病条約ではありませんし,「条約法に関するウィーン条約」「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」のように締結地の名前を冠する条約は結構ありますし,「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」がラムサール条約と呼ばれることもありますので,水俣で採択された多国間条約という意味では,「水俣条約」は不適切ではないでしょう.前文に水俣の教訓が書き込まれるわけですし.
ただ,水俣では反対している人もいますので,敢えて「水俣条約」とすることもないように思います.

政府間交渉で合意した,輸出は輸入国が書面で同意した場合に限る,電池や血圧計など使用製品の製造を年限を決めて禁止する,鉱山からの採掘は発効から15年以内に廃止するなどの規制は決して十分とは言えませんが,規制条約が発効することで,将来の被害防止が期待できます.

水俣病の解決が遅れたのは,原因物質の解明が遅れたからではありません.国は,水俣湾産の魚介類が原因食品であると知りつつ,すべての魚介類が有毒化しているという明らかな根拠が認められないと言い続けてきたのは,解決を遅らせるためでした.そして,水俣病は,未だ解決しておりません.解決していないものを解決したものとして扱おうとするところが現時点の問題です.国際的に注目されるなかで,水俣病の真の解決へ向けた動きがあることを願います.

【追記】

環境省「「水銀に関する条約の制定に向けた政府間交渉委員会第5回会合」の結果について(お知らせ)」(2013年1月22日)によれば,条約の内容は以下のとおりです.


「条文の主な内容は以下のとおりです。なお、説明中の条文番号及び附属書番号は議長テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3)に従ったものであり、今後整理されます。

(1) 前文
水銀のリスクに対する認識や国際的な水銀対策の推進の必要性、水銀対策を進める際の基本的な考え方について、包括的に盛り込まれた。
水銀対策の重要な背景である水俣病の教訓として、特に水銀汚染によって引き起こされた人の健康及び環境への深刻な影響、水銀の適切な管理の確保の必要性及び同様の公害の再発防止が我が国の提案に沿って盛り込まれた。

(2) 目的(第1条)
水銀及び水銀化合物の人為的な排出から人の健康及び環境を保護すること。

(3) 水銀供給の削減と国際貿易の削減(第3条)
水銀の一次鉱出(水銀を鉱出することを一義的な目的とする鉱出活動)に関して、新規鉱山開発については条約発効後に禁止し、既存の鉱山からの鉱出については条約発効から15年後に禁止。
水銀の貿易(金属水銀の貿易に限定し、水銀化合物の貿易は対象外)について、水銀の輸出は、1)条約上で認められた用途、2)環境上適正な保管(第12条)に限って認める(水銀廃棄物の輸出は第13条とバーゼル条約に従う)。
水銀の輸出時にあたっては、輸入国(締約国・非締約国に限らず)の事前同意が必要。ただし、輸入同意意思をあらかじめ事務局に登録した輸入国への輸出は、当該同意意思に基づいて輸出が可能。
水銀の輸入規制は、非締約国からの輸入のみを対象として、輸出国に対して、輸出される水銀が1)新規の一次鉱山からのものでないこと、2)閉鎖した苛性ソーダ製造設備からのものでないことの証明を要求する。

(4) 製品への水銀使用の削減(第6条・8条)
電池、スイッチ・リレー、一定含有量以上の一般照明用蛍光ランプ、石鹸、化粧品、殺虫剤、局所消毒剤、非電化の計測機器(血圧計、体温計、気圧計など)など附属書Cに掲げる水銀含有製品について、2020年までに、その製造、輸出、輸入を禁止する(ただし、一部の用途等を除く)。また、交換部品、研究用途、チメロサール含有ワクチンなどについては対象外とする。
歯科用アマルガムについて、使用等の制限のための措置を講ずる。
締約国は、禁止された水銀含有製品を組立製品に組み込むことの抑制、水銀を利用した新規製品の製造と販売の抑制、そのような製品の情報の事務局への登録、締約国の提案に応じた附属書の見直し等の措置を講ずる。

(5) 製造プロセスにおける水銀使用の削減(第7条・8条)
苛性ソーダ製造プロセスでの水銀の使用を2025年までに、アセトアルデヒド製造プロセス*での水銀の使用を2018年までに禁止。(*水俣病の原因となったプロセス)
塩化ビニルモノマー、ポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀の使用を削減するための措置を講ずる。
新規のプロセスにおける水銀利用の抑制、締約国の提案に応じた附属書の見直し等の措置を講ずる。

(6) 小規模金採掘(第9条)
小規模金採掘(ASGM)が実施されている締約国はその使用や環境中への放出を削減、可能であれば廃絶するための行動を行う。
小規模金採掘が実施されている国は、事務局にその旨通報した上で、条約発効後3年以内、あるいは事務局への通報後3年以内に国家行動計画を策定・実施するとともに、3年ごとにレビューを実施する。

(7) 大気への排出(第10条)及び水・土壌への放出(第11条)
大気への排出:石炭火力発電所、非鉄金属精錬施設等を対象に、排出削減対策を実施する。新設施設には、BAT(利用可能な最良の技術)/BEP(環境のための最良の慣行)を義務付ける。既存施設には、[1]排出管理目標,[2]排出限度値、[3]BAT/BEP,[4]水銀の排出管理に効果のある複数汚染物質管理戦略及び[5]代替的措置から1つ以上を選択し、実施する。
水・土壌への放出:各国が放出削減の対象となる放出源を特定する。新規・既存施設とも、[1]放出限度値、[2]BAT/BEP、[3]水銀の放出管理に効果のある複数汚染物質管理戦略、[4]代替的措置から1つ以上を選択し、実施する。
各国が自国内の対象排出・放出源の排出・放出インベントリを作成する。
締約国会議(COP)でBAT/BEP等に関するガイダンスを採択する。

(8) 水銀の環境上適正な一時保管・水銀廃棄物・汚染サイト(第12~14条)
水銀・水銀化合物の一時保管は、COPで作成されるガイドライン等に従って、環境上適正に行う。
水銀廃棄物は、バーゼル条約に基づくガイドラインを考慮し、またCOPが定める必須条件に基づいて、環境上適正に管理される。
汚染サイトは、COPで策定されるガイダンスに基づいて管理される。締約国は汚染サイトの同定と評価のための戦略の構築に努める。

(9) 資金・技術支援(15・16条)
条約のもとで資金支援を行うための制度(資金メカニズム)を設置する。資金メカニズムには、[1]GEF(地球環境ファシリティ)信託基金及び[2]能力強化及び技術支援を支援するための特定の国際的なプログラムが含まれる。
COPは、プログラムの優先順位、資金へのアクセスや利用に関する適格性基準に関するガイダンス、資金援助の対象となるカテゴリーのリスト等を作成するほか、定期的に資金の規模等を検証する。
締約国は、協力して途上国、特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国に対する能力強化、技術支援、技術移転を実施する。COPは、定期的に代替技術に関する情報収集、途上国におけるニーズの把握、技術移転の課題の特定を行う。

(10)健康面の対策(20条bis)
締約国は、水銀のリスクにさらされている人々に対する健康面での対策として、リスク情報の提供、必要な健康管理の促進等を行うことを奨励される。

(11)その他
締約国は条約上の義務の実行のために、国内実施計画を策定し、実施することができる。
条約の補助機関として実施・遵守委員会を組織し、各国の実施の促進、遵守の管理等を行う。
条約は50カ国が批准してから90日後に発効する。」


谷直樹

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by medical-law | 2013-01-21 02:00 | 人権

人権週間と「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者」

b0206085_17431330.jpg国際連合は,世界人権宣言の採択日である12月10日を「人権デー(Human Rights Day)」と定めています.
アムネスティは,12月10日,上智大学四谷キャンパスをメイン会場に四ツ谷駅前広場で,手作りのランタン1万個に明かりを灯し,人権問題についてアピールするそうです(シャイン・ア・ライト).

日本では,法務省と全国人権擁護委員連合会が「人権デー」を最終日とする1週間(12月4日から10日)を「人権週間」と定めています.

法務省,全国人権擁護委員連合会の平成24年度の標語は,「みんなで築こう 人権の世紀 ~考えよう 相手の気持ち 育てよう 思いやりの心~」です.強調事項は,次のとおりです.

(1)女性の人権を守ろう 
(2)子どもの人権を守ろう 
(3)高齢者を大切にする心を育てよう 
(4)障害のある人の自立と社会参加を進めよう
(5)部落差別をなくそう 
(6)アイヌの人々に対する理解を深めよう 
(7)外国人の人権を尊重しよう
(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう 
(9)刑を終えて出所した人に対する偏見をなくそう 
(10)犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう 
(11)インターネットを悪用した人権侵害をやめよう 
(12)北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう  
(13)ホームレスに対する偏見をなくそう 
(14)性的指向を理由とする差別をなくそう 
(15)性同一性障害を理由とする差別をなくそう
(16)人身取引をなくそう
(17)東日本大震災に起因する人権問題に取り組もう

国の責任を脇において「・・・をなくそう」「・・・に取り組もう」と言われることには,違和感を感じます.
医療における人権侵害が問題になっていますが,患者の権利,健康を享受する権利は,「(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう」以外は強調事項になっていません.「非喫煙者の受動喫煙被害を受けない権利」も,侵害されている状況にありながら,強調事項になっていません.残念です.

ところで,日本は,国連人権理事会に2013年1月から復帰します.
アジア枠は,改選5カ国で,立候補国も5カ国でした.事前調整は望ましくないように思います.国連総会で一応投票が行われ,日本の得票数は5カ国中3位です.アラブ首長国連邦,カザフスタンに負けています.日本の人権水準はどの程度とみられているかを示唆する結果です.

その国連人権理事会の「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者」アナンド・グローバー氏が,2012 年11 月15 日~26 日,日本を訪れ,原発事故後の人々の健康に関する権利が守られているかを調査し,日本政府を厳しく批判しました.

国連広報センター「プレス・ステートメント」から抜粋ご紹介いたします.

「日本政府が被害にあわれた住民の方々に安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布もしなかったことを残念に思います。」

「当初の避難区域はホットスポットを無視したものでした。これに加えて、日本政府は、避難区域の指定に年間20 mSv という基準値を使用しました。これは、年間20 mSv までの実効線量は安全であるという形で伝えられました。また、学校で配布された副読本などの様々な政府刊行物において、年間100 mSv 以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない、と発表することで状況はさらに悪化したのです。」

「私は日本政府に対して、住民が測定したものも含め、全ての有効な独立データを取り入れ、公にすることを要請いたします。」

「健康を享受する権利に照らして、日本政府は、全体的かつ包括的なスクリーニングを通じて、放射線汚染区域における、放射線による健康への影響をモニタリングし、適切な処置をとるべきです。」

「日本政府に対して、健康調査を放射線汚染区域全体において実施することを要請いたします。」

「調査範囲が狭いのです。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用しておらず、また、低線量放射線地域、例えば、年間100 mSv を下回る地域でさえも、ガンその他の疾患の可能性があることを指摘する疫学研究を無視しているためです。
健康を享受する権利の枠組みに従い、日本政府に対して、慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施し、長時間かけて内部被ばくの調査とモニタリングを行うよう推奨いたします。」

「自分の子どもが甲状腺検査を受け、基準値を下回る程度の大きさの嚢胞(のうほう)や結節の疑いがある、という診断を受けた住民からの報告に、私は懸念を抱いています。検査後、ご両親は二次検査を受けることもできず、要求しても診断書も受け取れませんでした。事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです。残念なことに、これらの文書を入手するために煩雑な情報開示請求の手続きが必要なのです。」

「多くが短期雇用で、雇用契約終了後に長期的な健康モニタリングが行われることはありません。日本政府に対して、この点に目を背けることなく、放射線に被ばくした作業員全員に対してモニタリングや治療を施すよう要請いたします。」

「日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。」

「一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われているのは残念なことです。」

「日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。」

「健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。」

「健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。」

「日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。」

「私は日本政府に対して、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。」


もっともな指摘と思います.
人権は,人,市民の国に対する権利として発生し,発展してきました.今でも,まず国による人権侵害を警戒する必要があり,国に人権保障を求める必要があると思います.

谷直樹

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by medical-law | 2012-12-05 06:25 | 人権

死刑執行から50年の藤本事件(菊池事件),検察官による再審請求を求める動き

熊本日々新聞「再審へ活動本格化 ハンセン病元患者の死刑事件」(2012年9月16日)は,次のとおり報じています.

「県内のハンセン病元患者の男性が殺人罪に問われ、無実を訴えながら死刑になった「藤本事件」。死刑執行から50年を迎え、15日、合志市の国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園で男性の追悼集会が開かれた。

 集会は、ハンセン病患者への差別が生んだ冤罪[えんざい]との指摘がある同事件を再検証し、再審請求につなげようと入所者らが1年かけ展開した企画の最終回。今後、再審請求に向けた活動が本格化する。

 集会で、入所者の長州次郎さん(85)は、同園内などの特別法廷であった男性の裁判について「周囲に幕が張られ、中の声も聞こえない。来る人を追い払うかのようだった」と証言。「公開裁判を受ける権利がありながら、人権を顧みない裁判が行われた」と怒りをにじませた。

 男性の教誨[きょうかい]師だった坂本克明さん(80)は別のハンセン病患者の裁判を傍聴したことがあるという。「被告本人の発言もほとんどない。患者であるがゆえに、ずさんな裁判が行われた」と指摘した。

 再審弁護団は、男性の裁判を「憲法違反」と問題視。再審請求に慎重な遺族の代わりに検察官による再審請求を求める方針だ。11月上旬にも熊本地検に要請書を提出。全国で署名活動も展開する。

 徳田靖之弁護団長は「検察庁が本気で再審請求を考えるような運動を全力でやり抜きたい」と決意を語った。(楠本佳奈子)」


刑事訴訟法第四百三十九条1項は「再審の請求は、左の者がこれをすることができる。」とし, 「一 検察官」と規定しています.

谷直樹

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by medical-law | 2012-09-17 07:10 | 人権

小宮山洋子厚生労働大臣,ハンセン病:療養所職員に歯止めをかけ13年度は実質増員を目指すことを約束

毎日新聞「ハンセン病:療養所職員、厚労相が「増員へ努力」」(2012年8月24日)は,次のとおり報じています.

「国立ハンセン病療養所の入所者たちが職員の削減に抗議してハンガーストライキを計画している問題で、小宮山洋子厚生労働相は23日、厚労省で入所者代表と面会し、来年度は職員が実質的に増員になるよう努力することを表明した。入所者側は「踏み込んだ発言で、一歩前進」と評価。今後もハンストなどの実力行使は構えつつ同省と交渉を続けていくことになった。

 全国ハンセン病療養所入所者協議会が7月、国家公務員の定員削減計画によって療養所職員が減り続け、医療や介護の質が大幅に低下しているとして、ハンストなどの抗議行動を決定。高齢の入所者の実力行使を回避しようと、超党派の国会議員懇談会が8月1日、定員削減計画の対象から療養所を外すよう、藤村修官房長官に申し入れ、官邸と同省、総務省が協議してきた。

 面会は非公開で、厚労省によると、小宮山厚労相は「削減計画の対象外にはできないが、毎年大幅に減る状況に歯止めをかけ、充実した介護体制を確保するよう最大限努力したい」と説明し、13年度は実質増員を目指すことを約束した。【江刺正嘉】」


とりあえず,ほっとしました.

谷直樹

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by medical-law | 2012-08-26 00:11 | 人権

8月25日,もがれた翼Part19 教育虐待 ~僕は、あなたのために勉強するんじゃない~

日 時 2012年8月25日 
昼の部:15時00分開演(14時30分開場)、夜の部:18時30分開演(18時00分開場)
場 所 豊島公会堂(東京都豊島区東池袋1-19-1) JR山手線池袋駅東口下車 徒歩約5分
入 場 各800名、入場無料、全席自由、予約不要


こどもたちと弁護士がつくるお芝居「もがれた翼」は,今年も,豊島公会堂で上演されます.
「もがつば」に出演する弁護士は,しっかり厳しいリハーサルを繰り返して本番にのぞんでいると聞いています.⇒動画

今回のテーマは,教育虐待です.東京弁護士会・子どもの人権と少年法に関する特別委員会のサイトによると,以下のとおりです。

「今回のお芝居では、そんな教育の名を借りた虐待の深刻さを皆さんと一緒に考えたいと思います。

親たちが、子どもたちを、そこまで追い詰めてしまう背景には何があるのでしょうか。
現在、学校自体が管理され、学校現場は生き残りをかけた過剰な競争を余儀なくされています。競争を制するための至上命題は学力向上。教職員もそれぞれ厳しく能力を評価され、競わされています。
他方で、教育予算削減のために、強力に公立学校の統廃合が推し進められている現実もあります。そのような中で、「遠くの学校や私立の学校には通わせられない。」そんな学校を選択する余力のない家庭の子どもたちにもしわ寄せが来ています。

教育は、誰のためのものなのか?子どもを真ん中にした教育とは、どのようなものなのか?

もがれた翼パート19「教育虐待」、皆さまとご一緒に考える機会となれば幸いです。」


谷直樹

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by medical-law | 2012-08-20 02:10 | 人権

草津楽泉園とみちのくの子どもをつなぐ会,草津楽泉園サマーキャンプ

東京新聞「福島の子ら人権の尊さ学ぶ 草津町でキャンプ ハンセン病回復者と交流」(2012年8月6日)は,次のとおり報じています.

「草津町の国立ハンセン病療養所「栗生楽泉園」で、福島県の小中学生を招いたサマーキャンプが開かれており、回復者と交流している。参加者は罪のない多数の犠牲者を出した懲罰施設「重監房」の跡などを回り、人権の尊さを学んでいる。

 同園によると、子どもの団体が泊まるこのような企画は初めて。同園の自治会、高崎健康福祉大、鳥取大、埼玉大、県内外の支援者らによる「草津楽泉園とみちのくの子どもをつなぐ会」が昨年末から準備を進めた。

 回復者と交流のある鳥取大の卒業生が、支援する福島県の小中学生に放射性物質の心配がない豊かな自然環境で夏を過ごしてもらおうとしたのがきっかけだ。同県白河市、福島市の小学四年~中学二年の女子十人が参加している。

 一行は三日に到着し、レクリエーションを開催。回復者の藤田三四郎さん(86)は病気について解説し、「私たちは皆さんと同じように風評被害を受けている。若い皆さんと会い、つらかった過去を思い出す一方、明るい希望を与えられた」とあいさつ。谺(こだま)雄二さん(80)は「子どものころから病気の正しい知識を身に付けてほしい」と語った。

 福島市の中学二年、鈴木由萌果(ゆめか)さん(14)は「思ったよりも明るい感じの場所。病気は感染しないこと、治ったのに差別があることが分かった」と実感を込めた。

 参加者は四日、スタンプラリー形式で園内を回り、重監房跡のほか、差別のために引き取り手のない無縁仏が眠る「納骨堂」なども見学し、回復者四人に聞き取りもした。五、六両日はハイキングなどを楽しみ、七日に帰宅する予定。 (菅原洋)」


上毛新聞「福島の子どもと野反湖ハイク 栗生楽泉園拠点に活動 」(2012年8月6日) は,次のとおり報じています.

「福島第1原発事故で被災した福島県の小中学生が5日、中之条町入山の野反湖でハイキングを楽しんだ。草津町の国立ハンセン病療養所栗生楽泉園の入園者自治会などで作る「草津楽泉園とみちのくの子どもをつなぐ会」が企画した催しで、7日まで同園を拠点にさまざまな活動を行う。

 子どもたちに外で思い切り遊んでもらうのが目的。3日から4泊5日の日程で、福島市と白河市の小学4年から中学2年までの10人が参加している。高崎健康福祉大や鳥取大、埼玉大の学生も参加し、交流する。

 5日は同園で昼の弁当を作り、ハイキングを行う野反湖へ向かった。子どもたちは、地元の山本茂さん(74)らの案内を受けながら、弁天山に登り、野反湖を眺めながら昼食。標高約1500メートルの澄んだ空気の中、湖畔を一生懸命歩いた後、スイカ割りやバーベキュー、花火などを楽しんだ。

 参加した子どもたちは「ハイキングは疲れたけど楽しかった。野反湖がとてもきれいだった」と笑顔で話した。6日には草津町内を観光するほか草津白根山に登り、7日に帰省する。」


楽しく,ためになる,企画ですね.

谷直樹

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by medical-law | 2012-08-06 21:05 | 人権

水俣病は,水銀汚染魚を食べて起きた食中毒事件,鹿児島県でも届出

毎日新聞「水俣病:症状訴える出水の女性、「食中毒」で届け出−−県内初 /鹿児島」(2012年8月1日)は,次のとおり報じています.

「医師で岡山大大学院の津田敏秀教授が7月30日、水俣病の症状を訴える出水市の女性(58)について、八代海の魚を食べて起きた食中毒事件として県出水保健所に届け出た。津田教授はこれまでも同様の届け出を熊本県で行っているが、鹿児島県では初めて。

 食品衛生法は食中毒を確認した医師の保健所への届け出と、保健所の調査を義務づけている。

 津田教授は「水俣病は水銀汚染魚を食べて起きた食中毒事件。食品衛生法に基づき汚染魚の漁獲禁止などの手を打てば被害拡大は防げたはず」として、これまでも同様の届け出を熊本県で行っている。しかし、同県では調査は実施されていない。

 県生活衛生課は「水俣病は一般の食中毒という扱いはしていない。国の見解を照会して、対応を決める」と話している。【村尾哲】」


食品衛生法は,「食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする」(同法1条)法律です.

水銀汚染魚を食べて起きた水俣病は,飲食に起因する衛生上の危害の発生にあたるでしょう.
食中毒事件として,食品衛生法の適用を妨げる合理的事情はないでしょう.

谷直樹

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by medical-law | 2012-08-01 19:48 | 人権