弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

<   2012年 08月 ( 55 )   > この月の画像一覧

日弁連,発達障害のある被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決に関する会長談話

大阪地方裁判所第2刑事部(河原俊也裁判長)は,2012年7月30日,発達障害がある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において,検察官の求刑(懲役16年)を超える懲役20年の判決を言い渡しました.
アスペルガー症候群を危険視し,長期間刑務所に収容することが反省と社会秩序維持に資する,という観点から下された判決です.河原俊也判事は,大阪地裁に赴任する前は司法研修所教官・新司法試験考査委員でもあった人で,その前は最高裁家庭局第二課長でした。エリート裁判官の一人と言ってよいでしょう.アスペルガー症候群に対する無理解と偏見は非常に残念です。

日本弁護士連合会(日弁連)は,2012年8月10日,「発達障害のある被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決に関する会長談話」を発表し,次のとおり判決の問題点を指摘しました.

「本年7月30日,大阪地方裁判所第2刑事部において,発達障害がある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において,検察官の求刑(懲役16年)を超える懲役20年の判決が言い渡された。

「本判決は,本件犯行について,「犯行動機の形成過程は通常人には理解に苦しむものがあり・・・被告人にアスペルガー症候群という精神障害が認められることが影響している」と認定し,かつ,被告人が未だ十分な反省に至っていないことについても同症候群の影響があり「通常人と同様の倫理的非難を加えることはできない」と認定しながら,「いかに精神障害の影響があるとはいえ,十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば・・・被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される」こと及び「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし,その見込みもない」ことを理由として,「被告人に対しては,許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり,そうすることが,社会秩序の維持にも資する」として,有期懲役刑の上限にあたる量刑を行った。

しかし,第1に,犯行動機の形成過程及び犯行後の情状に精神障害の影響を認定しながら,これを被告人に不利な情状として扱い,精神障害ゆえに再犯可能性があることを理由に重い刑罰を科すことは,行為者に対する責任非難を刑罰の根拠とする責任主義の大原則に反する。社会防衛のために許される限り長期間刑務所に収容すべきだという考え方は,現行法上容認されない保安処分を刑罰に導入することにほかならない。

第2に,本判決は,発達障害であるアスペルガー症候群について十分な医学的検討を加えることなく,これを社会的に危険視して上記のような量刑を行っており,発達障害に対する無理解と偏見の存在を指摘せざるを得ない。発達障害に対応する受け皿についても,発達障害者支援法による支援策など,発達障害者に対する社会的な受け皿が徐々に整備されてきており,全ての都道府県に発達障害者支援センターや地域生活定着支援センターが設置され,発達障害のある受刑者の社会復帰のための支援策が取られつつある。本判決はこうした現状を看過しており,極めて遺憾である。

第3に,刑事施設における発達障害に対する治療・改善体制や矯正プログラムの不十分な実態からすれば,長期収容によって発達障害が改善されることは期待できない。
当連合会は,以上のとおり本判決の量刑及び発達障害の理解について問題点を指摘し,裁判員裁判においても鑑定手続等により量刑判断に必要な医学的・社会福祉的情報が提供され,評議で裁判長から適切に法令の説明や解釈が行われるよう求めるものである。」


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-12 02:09 | 弁護士会

大学と指導担当医師の准教授が,長時間労働強要,暴力行為,支払い強要等で院生に訴えられる(報道)

西日本新聞「「長時間労働のうえ暴力」 院生が○○大を提訴 」(2012年8月10日)は,次のとおり報じています.

「長時間勤務を強要され、暴力をふるわれた結果うつ病になったとして、○○大大学院の男子学生(31)が○○大と指導担当医師の准教授に慰謝料など計1800万円の損害賠償を求め、10日までに松山地裁に提訴した。

 訴状によると、男性は准教授に早朝から深夜までの労働を強制され、帰宅できず大学病院のいすで寝ることもあった。

 准教授は男性の腹部を蹴ったり頭を殴ったりしたほか、2009年6月ごろ、男性のミスを理由に支払いの義務がないのに、実験で使う器具や試薬の費用計約25万円を無理やり支払わせた。」


注目の裁判です.
大学側の反論,コメントはないのでしょうか.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-11 01:16 | 医療事故・医療裁判

愛知県の病院,気管カニューレが外れた事故の外部の医師らの報告書(報道)

msn産経「危機意識の共有に課題」 脳性まひ男児死亡事故で報告書」(2012年8月10日)は,次のとおり報じています.

「愛知県春日井市の県心身障害者コロニー中央病院で1月、のどを切開して気管に気道確保のための器具を挿入した9カ月の男児が死亡した事故について、外部の医師らによる事故調査委員会は10日までに「治療対応に過誤はなかったが、危機意識の共有に課題があった」とする報告書をまとめた。

 県によると、男児は脳性まひのため自力呼吸が困難で、のどの切開手術を受けて「気管カニューレ」と呼ばれる器具を装着していたが、1月22日夜、体を硬直させて反り返らせる症状を見せた後、低酸素状態になり、翌23日に死亡した。

 報告書では、器具が外れたことが原因で男児が亡くなったと断定。気管カニューレを装着する治療法については「標準的な術式で問題なかった」としたが、器具が外れる恐れがあることを考え、体を反り返らせる症状を緩和させる治療を同時に行うことも検討すべきだったとした。」


心身障害者コロニー中央病院医療事故調査委員会報告(概要)は,以下のとおり,事故の再発防止及び改善策を提言しています.

「(1)患者情報の十分な収集と情報共有についての提言
① 転院等で治療方針が変更になった場合は、前医からの情報提供を共有し、治療方針についての認識の統一、意思決定の確認をする必要がある。
② 有用な情報共有のためには、これから何をするのかについて足並みを揃えること(ブリーフィング)や、処置後に全員で手を止めて検証すること(ディブリーフィング)の併用が有用とされる。今後はこのような情報共有の工程を意識し、関係診療科や職種間の連携を促進しながら、NICU後方支援病床受け入れ体制の整備を病院として整える必要がある。

(2)危機意識の共有についての提言
① コミュニケーションを向上させ、伝達事項の均一化が必要であり、また、報告文化の成熟に向けてチームでウイークポイントをサポートしていく必要がある。
② 「コミュニケーション不足」や「情報伝達の精度の低さ」を防止するために開発されたツールのひとつにSBARがある。SBARは報告行動の標準化を意図したものであり、SはSituation(状況)、BはBackground(背景)、AはAssessment(評価)、RはRequest and Recommendation(提案)を意味する。今後は、このような教育ツールを職員研修などに取り入れ、危機意識を医療者間で共有するシステムを構築する事が重要である。

(3)家族へのインフォームドコンセントの徹底と文面化について
① 患者家族の理解および同意とチーム医療を実践するために、医師の治療法の選択理由や、治療成績、安全性及び危険性について十分な説明と文面化を徹底する必要がある。
② 今後の在り方として、適切な時期に個別の症例に見合った内容のインフォームドコンセントを実施し、その内容をより具体的にカルテに記載する事が望まれる。手術に関する説明においては、特に術中から術後における重大な合併症や、御家族からの質問の有無、それに対する回答なども記載されるべきである。

(4)術後管理における医師のバックアップ体制、マニュアル化について
① ハイリスク患者の術後管理においては、それに伴う合併症に対応できる医師の常駐や、当直医に対する具体的な申し送り及び考えられる事態に対する対応についてのマニュアル化が必要である。

(5)医療安全管理システムの改善について
① 過失の有無や届け出の必要性については、まずは院内の第3者的立場である医療安全管理室に報告し、客観的な検証の下で病院として判断されるべきものである。今後は医療安全管理室への報告や、警察および保健所への届出、あるいは調査分析モデル事業などへの届け出の判断がスムーズにできるように、医療事故防止対策指針を早急に改定することが必要である。」


外部委員は,長尾能雅先生(名古屋大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部教授),鈴木達也先生(藤田保健衛生大学医学部小児外科教授),柴田義朗先生(弁護士 柴田・羽賀法律事務所)です.
このようにしっかりした外部の医師・弁護士を含めて調査すると,事故原因・背景事情が解明され,しっかりした提言がなされるのですね.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-10 16:41 | 医療事故・医療裁判

日本初のBerlin Heart製補助人工心臓EXCOR手術成功

PRN=共同JBN「◎東大で日本初のBerlin Heart製補助人工心臓EXCOR手術成功」(2012年8月6日)は,次のとおり報じています.

「日本の歴史上初めて8月2日、東京大学の医師がBerlin Heart(ベルリンハート)社の補助人工心臓である心室拍動支援装置EXCOR(登録商標)の助けを借りて重症の心臓病に罹った幼児を救うことができた。医学的観点からして、生後14カ月の少女はこの心拍支援装置がなければ今後数週間生き残ることができるだけだった。今回は人工心臓が完全に機能低下した心臓の拍動機能を引き継いでいる。体重僅か7キロのこの少女に提供される心臓が見つかるまで、機械的人工心臓を頼りにすることになる。

この幼い患者は恐らく日本で行われる臓器移植を待って、あるいはほかの国に移送されて移植されることで、機械的支援を受けずに生き残れる可能性がある。EXCOR(登録商標)VAD(補助人工心臓)装置の支援を受けて、彼女は移植手術を待つことができるほど容態が安定することになろう。

ドイツのBerlin Heart社製の心室支援装置EXCOR(登録商標)は1990年に初の移植手術以来、これまでに世界で1100人余りの子供たちに埋め込まれて成果を得てきた。同装置は新生児から子供、成人まですべての患者を支援できる唯一のシステムであり、心臓移植手術が行われるまで生命を維持することができる。EXCOR(登録商標)VADは、臓器提供されるまでのしばしば長い待ち時間を橋渡しするため、34カ国の138医療センターで使われている。欧州では57.5%の患者が新たな心臓の提供を受けるため1年以上待っている。心臓は時にはまたこのような機械的支援によって十分回復する可能性もあり、支援装置は外部移植も可能で、患者は自分の心臓で生き延びることができる。

心臓移植は東京大学の小野稔、村上新両教授の手で行われ、ワールデン教授(ピッツバーグ小児科病院)、ドイツと米国のBerlin Heart社臨床専門医らの医学的助言を得た。この手術は同時に、日本におけるEXCOR(登録商標)Pediatric(小児科)VADの認可研究の始まりとなる。認可研究の目標は、小児科患者のすべてにこの療法を提供できることである。欧州、米国、そして南米、アジアの多くの国では、このシステムは既に患者に適用されている。

今回の幼児は術後経過が順調であることは、臨床回覧報告書で発表されている。

▽Berlin Heartについて
Berlin Heart GmbHは、あらゆる年齢層と身体サイズの心臓疾患患者の身体に、移植可能な心室支援装置および外部に設置できるシステムの双方を開発、製造、販売している世界で唯一の企業である。INCOR(登録商標)、EXCOR(同)Adult装置およびEXCOR(登録商標)Pediatricは、心臓の短期間および長期間の拍動機能を支援するので、患者の生命を救う治療法になる可能性がある。さらにこの装置の利用者は、24時間の臨床的、技術的なサポートを受けることができる。Berlin Heartはドイツと欧州のこの分野のマーケットリーダーである。


このようなニュースに接すると,やはり,外国製でもよいものは使用すべきと思います.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-10 16:20 | 医療

小山市の病院,患者の健康なほうの腎臓を摘出した事故で和解(報道)

2010年2月10日に,小山市民病院の泌尿器科長が手術個所のマーキングを怠り、さらに別の泌尿器科の医師もCT写真を裏表間違えて掲示し,患者の健康な左の腎臓を摘出する,という医療事故が起きました.
この医療事故について,小山市側が患者側に賠償金4200万円を支払うことで合意した,とのことです.

下野新聞「4200万円賠償で和解 小山市民病院のじん臓摘出ミス」(2012年8月9日) は,次のとおり報じています.

「小山市民病院が2010年2月、腎臓摘出手術の際に誤って正常な腎臓を摘出した医療ミス事故は、市側が患者側に賠償金4200万円を支払うことで和解に合意した。8日の市議会議員説明会で同病院が明らかにした。9月議会に議案を提出する。

 市によると、患者は市内に住む男性(72)で、ミスに気付いた同病院が摘出した腎臓を戻す移植手術をしたが、正常に機能せず、別の病院で再度摘出手術を受けた。男性はその後入退院を繰り返し、現在は自宅から通院しているという。事故後の治療費はすべて同病院側が負担している。

 説明会で島田和幸病院長は「原因は皮膚へのマーキングを怠った上、(手術個所を写した)写真の表裏が逆だったことに気付かなかったこと。重大な警鐘と受け止め、各段階での手順確認徹底など、再発防止に努めている」とした。賠償金や負担した治療費は、同病院が加入する病院賠償責任保険から給付されるという。」


治療費のほかに4200万円を支払うという合意です.本件の過失は明らかと思いますが,それでも和解まで2年半かかっています.

【追記】

刑事事件は,次のとおり,それぞれ罰金100万,罰金30万円で決着しています.

毎日新聞「手術ミス:2医師に罰金100万と30万円 小山簡裁略式命令 /栃木」(2012年10月10日)は,次のとおり報じています.

「小山市民病院で患者の腎臓の左右を誤って摘出したとして、業務上過失傷害罪に問われた男性医師2人に対し、小山簡裁は執刀医の男性医師(50)=下野市=に罰金100万円、執刀補助の男性医師(42)=同市=に同30万円の略式命令を出した。2日付。

 略式命令によると、2人は10年2月10日、右の腎臓がんで入院していた男性患者(当時69歳)の手術の際、裏表を逆にしたX線フィルムを見て誤って左の腎臓を摘出し、回復不能の傷害を負わせた。【松本晃】」


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-09 22:25 | 医療事故・医療裁判

日本医師会,定例記者会見で「今後の認知症施策の方向性に関する報告書」を批判

昨日8月8日は,日本医師会の定例記者会見の日で,日本医師会のサイトにはその資料がのっています.
 
キャリアブレイン「厚労省の認知症報告書「一方的な官僚主導」-日医が批判」(2012年08月08日)は,次のとおり報じています.

「日本医師会の三上裕司常任理事は8日の記者会見で、厚生労働省内のプロジェクトチームが今後の認知症施策の方向性に関する報告書を取りまとめたことについて、「作成過程が不明確。医療現場の真摯な対応の軽視、理想論のみの反映など、一方的な官僚主導によるものだ」と厳しく批判した。

 三上常任理事は、「厚労省内の縦割りを排除し、認知症対策に取り組むこと自体には賛同する」と述べ、藤田一枝厚労政務官を主査とするプロジェクトチームを設置したことに一定の評価を示しながらも、省内での議論により報告書を取りまとめたことを疑問視。「現場の意見を反映しない強引な施策は、約7年前に突然打ち出された介護療養病床の廃止方針と同様、現場に混乱を来すのみで実効を伴わないことは明らかだ」と断じた。
 その上で、「地域で認知症対策にかかわっている人々の意見を真摯に聞き取り、実態を的確に把握した上で、円滑に稼働するシステムを構築していただきたい」と求めた。

 報告書の具体的な内容では、かかりつけ医と連携して、そのバックアップ機能を担う「身近型認知症疾患医療センター」の整備について、「唐突に記載されており、具体的にどのような医療機関を想定しているか不明だ」と指摘した。【高崎慎也】」


日本医師会は,「今後の認知症施策の方向性に関する報告書」を批判していますが,日本精神科病院協会とは一線を画しているようです.

すなわち,公益社団法人日本精神科病院協会の,2012年7月26日の「平成24年6月18日 厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチーム(主査:藤田一枝厚生労働政務官)の取りまとめ 「今後の認知症施策の方向性について」の反論」は,次のとおりです.

「•4疾病5事業に新たに精神疾患が加わり、5疾病5事業となった。精神疾患の中で特に優先順位の高い対象として急増する認知症やうつ等がある。新たに医療連携体制を構築し、医療計画に明示しなければならない。

•厚生労働省の4局長、障害保健福祉部長、各課の課長がメンバーとなり取りまとめられた「今後の認知症施策の方向性について」は精神疾患である認知症に対し、ケア中心の施策であり、医療、特に精神科医療への関与を極力抑えるような文言が目立ち、到底受け入れられる内容ではない。

•昭和63年、わが国にはじめて認知症専門病棟が設置され、認知症患者デイ・ケアも行われた。以来今日まで認知症専門医療機関として精神科病院が社会に果たしてきた役割は大きい。

•取りまとめの中で、これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」というような不適切な「ケアの流れ」と表現しているが、我々は常に「病院→地域→自宅」という流れを推進した。しかし、地域の受け皿や自宅での介護支援の不足が大きな障害となり困難を極めていた。これは国の認知症施策の貧困によるものである。

•現行の認知症疾患医療センター(地域型・基幹型)に加え、新しい類型の身近型を作ろうとしている。より身近なセンターを目指し300ヶ所設置する予定である。多くは診療所が中心になると考えられるが、なるべく精神科病院に入院させない危機回避支援機能なども負わされることになる。偶然にせよ激しい行動・心理症状(BPSD)が発現した時は精神科医療機関で対応しなさいというのは、本人、家族に対してもあまりに無責任である。認知症は早期より精神科医療が関わらなければならない疾患であることを忘れてはならない。

•認知症専門医以外の医師が不適切な薬物使用をしないように「薬物治療に関するガイドライン」を策定することは重要である。「認知症初期集中支援チーム」「認知症ライフサポートモデル」など医療と介護・福祉が協働することは大切であるが、くれぐれも本人と家族の意思を尊重した施策を提供してもらいたい。

•地域の認知症ケアの拠点としてグループホームの活用を推進し、より重度化した者や看取りの対応まで行わせようとしているが、運営に関する監査体制は不十分であり、法的に人権に配慮しているとは言えない。認知症患者の人権に対して格別の配慮を法的に行っているのは精神科医療だけである。また、我々は若年性認知症研究を行い提言をしている。しかし、国はそのまま今日まで対策を考えてこなかったのである。

•精神科医療では、早期から終末期までの長い経過の治療を家族の支援とともに行ってきた。精神科病院では入院に際しては早期退院を目指し、入院クリニカルパスを作成、退院後にはデイ・ケアのクリニカルパスを作成し運用している。さらに地域連携パス「オレンジ手帳」を作り、かかりつけ医、ケアマネジャー、地域包括支援センター等と情報を共有している。精神科医療の関与がなくして認知症施策は成り立たないのである。医療計画の策定等、実効ある施策でなければならない。」


日本精神科病院協会は,精神疾患である認知症に対し医療,特に精神科医療への関与を極力抑えるような文言が目立ち、到底受け入れられる内容ではない,精神科医療の関与がなくして認知症施策は成り立たない,という強硬意見です.

加藤一郎元東大学長は,民法の学者でしたが,認知症になりました。その長女である小宮山洋子厚生労働大臣は,認知症患者の扱いについて思うところがあったはずです。厚生労働省内で検討が行われ,精神病院へ認知症の人たちを収容していた方針を転換し,認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けられる社会の実現をめざす方針が打ち出されました.これが上記報告書です.

これに対し,日本精神科病院協会からは上記のとおり強い反発反論があり,日本医師会からは,上述のとおり医療現場の真摯な対応の軽視,理想論のみの反映などという批判があったわけです.

認知症患者といえども,患者の意思を尊重することが基本です.そして,理想を実現するために医療現場の理解を得ることが必要で,住み慣れた地域で暮らし続けられるためには具体的にどのような態勢を構築べきか,さらに関係者の意見交換が必要でしょう.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-09 02:02 | 医療

プレジデント社がプレジデント誌2012年7月16日号の編集後記の内容について謝罪

厚生労働省が精神障害者の採用を企業に義務付ける方針を固めたとの報道に関して,プレジデント誌2012年7月16日号の編集後記は,「『幻覚を見て、何を言っているかわからない』人と一緒にどうやって仕事をするのでしょう」というものでした.

私の依頼者にも,精神に障がいをもちながら働いている人がたくさんいます.一部の疾患の一時期の症状をとらえ,「『幻覚を見て、何を言っているかわからない』人と一緒にどうやって仕事をするのでしょう」というのは,あまりにも無理解,無責任な発言です.
当然,公益社団法人日本精神科病院協会などが,抗議を行いました.公益社団法人日本精神科病院協会の抗議文は以下のとおりです.

編集後記「編集長から」の記事について(抗議文)

 本協会は、昭和24年発足の医療法人形態が主体の民間精神科病院1208病院(平成24年8月現在)が加入している、我が国において精神医療福祉サービスを提供する最大の団体であり、長年にわたって、精神疾患を有する患者の治療と社会復帰を進めてきた公益社団法人であります。この立場から、貴社発行の雑誌『プレジデント』2012年7月16日号の編集長鈴木勝彦氏の編集後記「編集長から」の発言は、真摯に社会復帰を願っている患者に対する冒涜であり、本協会としても断じて許すことのできないものであります。

 編集後記には、鈴木編集長の無知と偏見に満ちた発言が述べられていますが、特に、「厚労省は、精神障害者の企業に義務づける方針を固めた」という朝日新聞の記事を「にわかには信じ難い報道でした。」と述べ、「幻覚を見て、何を言っているかわからない人と一緒にどうやって仕事をするのでしょう。異常とは何なのかわからなくなってきます。」という文言は、精神障害者に対する偏見に満ちた無知蒙昧の極みの発言であり、国民の世論形成に社会的責務を負っているマスコミの発言として余りに無責任な発言であると言わざるを得ません。

 精神障害者の雇用は、2012年6月1日現在で従業員規模56人以上の民間企業で実雇用率に算定されている精神障害者保健福祉手帳所持者は、実人数で1万1千人を越えており、ハローワーク障害者相談窓口の精神障害者の紹介就職件数は、2010年度で1万4千人件を超え、知的障害者の就職件数を上回っております。このように精神障害者の雇用促進は着実に拡大し、社会復帰の道が大きく開かれつつあります。

 このような背景下にあって、鈴木勝彦氏の発言は、時代錯誤も甚だしいうえに、精神障害者の社会復帰の道を閉ざし、精神障害者を路頭に迷わせかねない暴言であります。

 ついては、本協会は、精神障害者に対する偏見を助長するこのような鈴木編集長の暴言を認可掲載した貴社に対して、断固抗議するとともに、雑誌『プレジデント』誌上及び貴社ホームページ等にて、記事の訂正と謝罪の掲載を早急に行うよう、要請します。」


これに対し,株式会社プレジデント社は,2012年8月6日,以下のとおり謝罪しました.

 「弊社プレジデント誌2012年7月16日号の編集後記の内容につきまして、精神障害に関して誤解を招く不適切な表現があり、そのことについて社団法人 日本精神保健福祉士協会、一般社団法人 日本精神保健福祉事業連合、公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会、公益社団法人 日本精神科病院協会からもご指摘を頂戴しました。
 関係者の皆様に不快な思いを与えてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。」

これで1件落着とはなりましたが,精神障がい者への偏見,差別を痛感した事件でした.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-09 00:23 | 医療

『治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会報告書』

厚生労働省は,2012年8月8日,「治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会」の報告書を取りまとめ,そのサイトに公表しました.

「治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会報告書」は,「「治療と職業生活の両立」とは、病気を抱えながらも、働く意欲・能力のある労働者が、仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また、治療の必要性を理由として職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら、生き生きと就労を続けられることである。」」としています.

報告書「3 支援のあり方」は,次のとおり,指摘します.

「3 支援の在り方
(1)関係者が取るべき対応、連携の在り方
○ 上記の基盤整備のために、関係者が連携を図りながら、以下のような取組を進めていくことが必要である。

<企業(人事労務担当者)>
まずは、健康診断の実施、産業医の選任をはじめとする労働安全衛生法上の措置を徹底することにより、労働者の疾病の早期発見・早期治療や重症化防止に努めること。また、職場における疾病に対する理解を高め、治療と職業生活の両立に理解のある職場風土を形成するために、産業医・産業保健スタッフ、地域産業保健センターや地域の保健機関等を活用しながら、労働者及び管理監督者の教育に努めること。

早期の職場復帰及び復帰後の治療と職業生活の両立を促進するため、時間単位の有給休暇制度や短時間勤務制度等を導入すると同時に、個々の事案に応じた対応ができるよう、柔軟な雇用管理の取組を進めること。

<産業医・産業保健スタッフ>
労働者の健康確保のため、人事労務担当者と協力し、治療開始の促しや治療中断に対するアプローチなど確実な定期健康診断後のフォローアップを行うこと。
また、労働者の職場復帰や復帰後の治療と職業生活との両立に関しても、専門的知識の蓄積を図るとともに、有する知識、ノウハウ等を活かし、積極的に医療機関と連携を図りながら、人事労務担当者の役割を補助すること。
特に、保健師は、産業医以上に労働者への身近な相談相手としての立場を活かし、積極的に労働者本人と接触し、産業医や人事労務担当者、医療機関との連携を図ること。
治療と職業生活の両立に関する相談に十分に対応できる機関がないことから、地域の保健機関と並んで、労働者及び管理監督者にとって身近な相談窓口としての役割を一層果たすこと。

<医療機関>
医療資源が限られている中でさまざまな困難はあるものの、保健師や看護師等の就労に関する制度等の知識の向上や、ピアサポートグループの活用を図ること等により、職場復帰や復帰後の治療と職業生活との両立に関する相談体制を整備するよう努めること。
患者の就業状況を把握した上で、治療方針の決定に際し、可能な範囲で仕事を休まずに治療を受けられるよう配慮すること。
企業の行う職場復帰の判断に役立つよう、主治医は、患者の就業状況を考慮した上で、職場復帰が可能な程度まで回復しているかどうかに関する診断を行うこと。

<労働者>
健康診断の受診の機会等を通じて、日頃から、疾病の予防、早期発見及び重症化防止に努めること。
労働者自らが積極的な情報収集を行い、また、労働者の職場復帰や復職後の治療と職業生活の両立を促進するための企業と医療機関の情報共有・連携に協力すること。

(2)行政の役割
○ 関係者の取組を促進するため、行政の役割として、どのようなことが考えられるか。
まずは、「治療と職業生活の両立」について、社会的な認識を向上させる必要がある。
また、問題の大きさを正確に把握するため、支援を要する労働者の規模や具体的なニーズ、関係者の取組状況(企業や医療機関内の相談対応窓口の整備、教育研修・情報提供の有無等)等について、実態把握を行う必要がある。
○ さらに、各関係者に対しては、今後、以下のような取組を行うことが望まれる。

<企業(人事労務担当者)向け>
治療と職業生活の両立を支援するために、企業がどう取り組むべきかを示したガイドラインやマニュアル等を作成し、周知・徹底を図ること。
個別事案も含めた、企業の人事担当者等からの相談に対する支援体制を整備すること。また、相談支援体制の整備とあわせて、企業の人事担当者等が相談できる機関が分かるよう周知を図ること
先行的に取組を進めている企業について、事例の収集・発信や表彰制度を設けるなど、企業の自発的な取組の促進を図ること。

<産業医・産業保健スタッフ向け>
メンタルヘルスに関する復職支援の手引きを参考に、疾病全般を対象とした両立支援のためのガイドラインを作成すること等により、両立支援に取り組む産業保健スタッフを支援すること。
産業保健推進センターを活用して、治療と職業生活の両立の支援に関する研修を実施し、両立支援に理解のある産業医・産業保健スタッフを育成すること。

<医療機関向け>
治療と職業生活の両立を支援するために、医療機関がどう取り組むべきかを示したガイドラインやマニュアル等を作成し、周知・徹底を図ること。
がん診療連携拠点病院・肝疾患診療連携拠点病院の相談支援センター等の相談窓口について、患者からの就労に関する相談に対する支援体制を強化すること。
医療機関が企業の産業医・産業保健スタッフに対して、両立支援を目的とした患者情報の提供を行うことにインセンティブが働くよう検討すること。
労災病院においては、引き続き、治療と職業生活の両立を図るモデル医療や、就労形態や職場環境が疾病の発症や治療、予防に及ぼす影響等に関する研究・開発、普及に取り組むこと。

<労働者向け>
相談支援体制の整備とあわせて、労働者が相談できる機関が分かるよう周知を図ること。
さらに、こうした取組とあわせて、患者の立場に立って、企業と医療機関を結びつける仕組みや、地方自治体が行う地域保健と企業の行う職域保健の連携強化についても検討することが望ましい。

(3)留意すべき事項
○ 上記のような取組・連携を進めていくにあたっては、関係者が問題意識を共有し、一体となって進めていくことが望ましいが、個々の企業、医療機関や労働者の雇用形態の違いにも留意する必要がある。例えば、中小企業の場合、大企業と比較すると、長期にわたって休職中の労働者を支援することに対する経済的負担が大きいことや、人事労務担当者や産業医・産業保健スタッフの体制も十分でないことが挙げられる。
医療機関についても、個々の医療機関間の違いは大きく、一律な取組を求めることは現実的ではない場合がある。
取組が遅れがちな非正規雇用者については、雇用管理の改善のための取組を進める中で、両立支援についても配慮することが重要である。

○ また、関係者が情報共有・連携を進めるにあたっては、個人のプライバシー保護に留意する必要がある。

○ さらに、病気を理由として職を失った労働者に対する再就職支援の問題についても、今後、取組を進める必要がある。」


「4 おわりに」で,「○ 「治療と職業生活の両立等の支援」は、行政として、既存の仕組み・施策を活用しながら、今後対策を重視しなければいけない課題であるが、この課題の解決には、縦割り行政を排除し、一元的な取組を進める必要がある。
本検討会が、この問題と支援の必要性について、広く国民一般が認識する契機となり、今後、行政の一元的な取組のもと、関係者の取組がより一層進むことを期待する。」
と結んでいます.

報告書(PDF:327KB)
報告書概要(PDF:121KB)
参考資料集(PDF:732KB)

この厚生労働省の検討会報告書に基づき,治療と職業生活の両立が実際の政策として実現されることを期待いたします.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-08 20:29 | 医療

堀康司先生のHPが新しくなりました

名古屋の堀康司先生(愛知県弁護士会所属)のホームページが新しくなりました。
堀康司先生は,私と同じく司法修習49期で,私と同じく医療過誤事件(含む薬害事件)の患者さんの代理人という仕事に専従しています.
愛知県・岐阜県・三重県・静岡県西部及びその周辺の方は,私ではなく,堀康司先生へ御相談をお願いいたします.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-08 06:31 | 医療事故・医療裁判

シアトル小児病院,「猫どっぷりプロジェクト」

シアトル小児病院は,骨髄移植手術を受けた16歳の女性入院患者のために,フェイスブックで呼びかけ3000枚の猫の写真を集め,猫のゴロゴロ喉を鳴らす音を付けてスライドショーを作成し,患者にプレゼントしました.CNNでその動画が見られます

CNN「3000匹の「猫」、がん患者を激励 米シアトル小児病院」(2012年8月7日)は,次のとおり伝えています.

「病院によれば、がん患者が免疫力の低下のために何カ月も病室から出られないことは珍しくないという。「猫どっぷりプロジェクト」を初体験した患者は「世界から切り離されて、言いようのない孤立感を感じる時もある。そんな時にこういう猫の写真を見ると元気になれる。ありがとう、ありがとう」とブログにコメントしている。」

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2012-08-08 06:05 | 動物