弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

<   2014年 06月 ( 24 )   > この月の画像一覧

勝村久司氏、成長戦略として解禁される「医薬品のネット販売」に消費者はどう対応すべきか

勝村久司氏(元中央社会保険医療協議会委員)の、WEDGE Infinity「成長戦略として解禁される「医薬品のネット販売」に消費者はどう対応すべきか」(2014年06月13日)は、次のとおり指摘しています.

「1000品目ある一般用医薬品のほぼ全てについて、6月12日からインターネットでの販売が解禁されました。これまでインターネットで販売が可能だったのは、一般用医薬品の内の26.2%の品目だけでしたが、それが99.8%になります。」

政府は、これを経済の成長戦略として位置づけています.
 
勝村氏は、
「人口減少時代において、医薬品のネット販売が経済の「成長戦略」として位置づけられるということは、それが、医薬品が不要になるくらい国民の健康度を成長させることとは相反する戦略であることがわかります。」

「もし、経済成長のために医薬品の大量消費が推し進められたら、高度経済成長時代に環境よりも目先の利益を追求したためにさまざまな公害が起きたように、人体の内部の環境破壊が進んでしまわないかと心配になります。」

と指摘しています.

勝村氏は、
「絶対にしてはいけないことは、「患者のいのちや健康よりも利益を優先する」という行為です。消費者側は、作る側や売る側にそういう逸脱がないかどうかをチェックしながら、必要な医薬品を使用していくという姿勢が、これからはますます大切になってくると思います。」
と述べています。

「超高齢化社会における本当に必要な医療の成長戦略は、看護や介護の質と量をあげていくことではないでしょうか? また、少子化時代に本当に必要な医療の成長戦略は、周産期や小児の救急医療や難病対策などを充実させることではないでしょうか。」
と結んでいます.

全文のご一読をお奨めします.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-16 01:03 | 医療

奈良県の病院、看護師の鎮静剤プロポフォール投与後に患者が植物状態になった事案

読売新聞「病院長「看護師の鎮静剤投与、問題ない」」(2014年6月13日)は、次のとおり報じました.

「○○病院で昨年8月、手術を受けた女性(81)が鎮静剤「プロポフォール」の投与後、植物状態になった問題で、院長が13日、院内で記者会見し、「プロポフォールの使用でこのような事態になり残念に思う。患者、家族には誠意をもって対応したい」と述べた。
 鎮静剤の添付文書では医師が専任で患者の状態を注意深く監視することなどを求めている。女性患者に看護師が投与したことなどについて、中谷院長は「医師が少ない中、患者に医師が常に付き添うことは不可能だ。患者の容体は当直医や看護師が定期的に確認しており、病院の態勢や、看護師による投与に問題はなかったと考えている」とした。
 女性が植物状態になったことと投与との因果関係は「高齢で、はっきりしないが、原因であることも否定できない」と話した。」


読売新聞「鎮静剤「細心の注意を」 県が通知へ」(2014年6月14日)は、次のとおり報じました.

「○○病院で昨年8月、手術を受けた女性(81)が鎮静剤「プロポフォール」投与後に植物状態になった問題を受けて、県は13日、プロポフォールの使用にあたっては細心の注意を払うよう求める文書を、来週初めにも県内の医療機関に通知することを決めた。(小林元、守川雄一郎)
 県地域医療連携課は、同病院から同日、「プロポフォールの使用後に意識不明になった高齢患者がいる。原因はわからない」とする報告を受けたことを明らかにした。担当者は「内容を検討したうえで、各機関にこの薬の危険性や、取り扱いに関する注意の周知を図りたい」と話している。

 院長は同日、院内で開いた記者会見で、「女性が気の毒な状態になったことをおわびする」と述べる一方、看護師が投与するなどしていた病院の対応については「ミスがあったとは思わない。やることはやった」と強調した。
 病院側は、女性の容体は急変する20分前までは安定していたと説明した。中谷院長は「プロポフォールの使用は、やむを得なかった。同じやり方(医師の指示による看護師の投与)で、うまくいったケースもある」と述べた。」


報道の件は私が担当したものではありません.
プロポフォールは、マイケル・ジャクソン氏の死亡により一般にも知られるようになった薬です.
最近では、大学病院で、小児への投与が禁忌とされているにもかかわらず、投与され、死亡事故が起きていたことが報じられています.

プロポフォールの添付文書の「重要な基本的注意」の欄に、「本剤の使用に際しては、一般の全身麻酔剤と同様、麻酔開始より患者が完全に覚醒するまで、麻酔技術に熟練した医師が、専任で患者の全身状態を注意深く監視すること。集中治療の鎮静に利用する場合においても、集中治療に熟練した医師が本剤を取り扱うこと。」と記載されています.

最高裁平成8年1月23日判決(民集50巻1号1頁)は、「医薬品の添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者または輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が当該医薬品を使用するにあたって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。」と判示しました.
薬剤は、添付文書の記載どおり使用する義務があり、添付文書の記載どおり使用しない場合はそれについて特段の合理的理由があることを病院側が立証する責任があります.
医師が少ないから、というのは、合理的な理由とはならないでしょう.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-15 23:32 | 医療事故・医療裁判

大学病院,プロポフォールの投与後の死亡新たに12人判明

毎日新聞「禁止鎮静剤投与:親の代理人「こんなに死亡例があるとは」(2014年06月12日)は,次のとおり報じました.
 
「○○病院(東京都新宿区)が禁止された鎮静剤プロポフォールを小児に投与していた問題で12日、新たに12人が死亡していたことが明らかになった。都内で記者会見した病院側は調査に乗り出す方針を示したものの、因果関係は否定した。子どもたちはなぜ命を落としたのか。既に死亡が発覚している2歳男児側の代理人や他の医療事故被害者たちは徹底した真相究明を求めた。

 亡くなった2歳男児の両親の代理人、貞友義典弁護士は「他にもこんなに死亡例があるとは……」と驚きをあらわにした。貞友弁護士によると、プロポフォールの投与後に男児の様子がおかしくなった際、医師は母親に「安全な薬なので安心してください」と答えたという。

 「尿の色や心電図など、明確な異常が何度もあり、適切な処置がなされれば助かったと思われる場面が何度もあった。多くの死亡例を医療スタッフが認識、共有していたら、亡くなることもなかったのでは」と述べた。

 医療過誤遺族らでつくる「医療過誤原告の会」の宮脇正和会長は「あぜんとするしかない。麻酔医は使ってはいけない鎮静剤と分かっていながら使用し、周りのスタッフも分かっていながら指摘せず、長年放置されていたのだろう。病院側は医療行為に責任を持つ体制ができていない」と批判した。

 医療事故で2003年に5歳の長男を亡くし、新葛飾病院(東京都葛飾区)で患者相談や医療安全管理に携わる豊田郁子さん(46)は「12人の死亡でプロポフォールとの因果関係がないと言われても、遺族は疑問を感じるだろう。遺族はまず何が起こったかを知りたいと考える。病院側は今からでも真摯(しんし)な対応が必要だ」と話した。

 記者会見で病院長は、死亡した12人について「多くは感染症で亡くなられているので投与との関係がない可能性が高い。投与から亡くなられるまでに数年たっているケースもある」と説明。

 これまでに「(2歳男児以外の)死亡例がない」とした点については「あくまでも当該科が調べた結果なので、第三者の検証でより精査する必要がある」と述べた。【大迫麻記子、鳥井真平、金秀蓮】」


2009年1月から昨年12月までに15歳未満への使用が63人あったというだけでもひどい話ですが,死亡例がないと言っていたにもかかわらず,実は12人死亡していた,というのは,問題でしょう.12例のなかには因果関係のある例もすくなからずあるのではないか,という疑いを払拭できません.
これまで誠実な対応がなく,むしろこれまで死亡例を隠蔽していたとみられると,○○医大の信用は地に落ちてしまうことになるでしょう.残念です.

【追記】

産経新聞「厚労省と都が○○医大に立ち入り 禁止鎮静剤問題で」(2014年 6月14日)はm次のとおり報じました.

○○病院(東京都新宿区)で2月、男児(2)が手術後に鎮静剤「プロポフォール」の過剰投与で死亡した事故で、厚生労働省と東京都は13日、子供への使用が禁止される同鎮静剤が男児とは別の子供63人に投与された問題について、医療法に基づき同病院を立ち入り検査した。

 厚労省などによると、立ち入りは午前11時から、都と関東信越厚生局の担当者ら十数人態勢で実施。同病院が5月末に同省などに提出した調査報告書には、63人への投与についての記載がなく、病院の担当者から聞き取りを行うなどして事実確認を行った。

 問題は大学の理事長らが12日に行った記者会見で判明。投与された63人のうち、12人が投与後3年以内に死亡していたことなどが明らかにされた。同病院は鎮静剤投与と死亡の因果関係を否定しているが、田村憲久厚労相は閣議後会見で「これだけ常態化して使われているのは特異な例」と指摘。都は「早期に調査を行い、結果を報告するよう病院側に求めた」としている。

 プロポフォール 手術時の全身麻酔や、術後管理時の鎮静などに使う薬。海外で子供の死亡例が報告されたのを受け、厚生労働省が平成13年、集中治療下での人工呼吸中の子供への投与を「禁忌」とするよう製薬会社に指示し、添付文書が改訂された。投与中にまれに起きる循環不全などの特有の重い副作用症状は「プロポフォール注入症候群」と呼ばれる。」


【追記】

東京新聞「医大内紛遺族置き去り 院内調査疑問に答えず」(2014年6月19日) は,次のとおり報じました.

「鎮静剤死亡問題
「子どもの死、道具に」

 ○○病院で二月、人工呼吸中の子どもへの使用が禁止されている鎮静剤プロポフォールを投与された埼玉県の二歳男児が死亡した問題で、両親が病院側に対する不信感を強めている。病院と、手術に関わった一部医師ら大学側が別々に会見し、身内批判も出る異常事態となっているからだ。肝心の調査も不十分なまま。病院側の会見から十九日で一週間となるが、憤りは消えないままだ。 (福田真悟、唐沢裕亮)

 「子どもの死が対立の道具に使われている」。両親は十三日、本紙の取材に痛切なコメントを寄せた。

 前日の十二日には、病院を経営する法人トップの理事長らが会見し、プロポフォール投与が男児の死因であることをようやく認めた。

 しかし、大学の学長らも同日別途会見し、理事長らを批判。五日には、医学部長の教授らも会見で「死亡から四カ月もたつのに、会見を開かない理事長は説明責任を果たしていない」と糾弾した。こうした内紛は、幼いわが子を奪われた両親にとって不毛な「対立」としか映らなかった。

 遺族側が病院のミスとして主に訴えてきたのは、鎮静剤投与のインフォームドコンセント(十分な説明と同意)が不十分▽投与後に親が指摘した顔のむくみや尿の変色といった異常を放置▽院内の病理解剖で「自然死・病死」と診断書に記載し、異状死体の場合に医師法が求める警察への通報が遅れ、司法解剖がされなかった-の三点。

 病院は男児の死亡を受け、原因究明を目指す院内調査に着手。厚生労働省に提出する中間報告書をまとめ、三日に遺族側に示した。しかし「遺族が重要と考える問題について触れられておらず、極めて不十分」(代理人弁護士)な内容にとどまった。男児以外に病院でプロポフォールを投与された十二人の子どもが死亡した事実にも言及していなかった。

 「なぜこんなことが起きたのか。解明したいという気持ちだけ」。涙ながらに訴えた両親の思いとはほど遠い調査結果に加え、被害者を差し置いて身内同士の争いに走る病院や大学トップたちの姿が、不信感を増幅させた格好だ。

 「医療過誤原告の会」の宮脇正和会長は「別々に会見する理事長側と大学側の関係を見ると、一体どこを向いているのかと感じる。病院内がばらばらでは患者の安全は守れない」と指摘している。」


【追記】

NHK「○○医大事故 異変気づかず投薬続ける」(2014年6月30日)は,次のとおり報じました.

「○○大学病院でことし2月、当時2歳の男の子が人工呼吸器を付けた子どもへの使用が原則、禁止されている鎮静薬を投与され死亡した医療事故で、医師らは男の子の異変に気づかず4日間にわたって薬の投与を続けていたことが、病院の関係者への取材で分かりました。

東京・新宿区の○○大学病院ではことし2月、首の腫瘍の手術を受けた当時2歳の男の子が、人工呼吸器を付け、集中治療が行われている子どもへの使用が原則、禁止されている鎮静薬「プロポフォール」を投与され死亡し、警視庁が業務上過失致死の疑いで捜査を進めています。
病院の関係者によりますと、男の子には手術が終了したおよそ50分後から安静を保つためにプロポフォールが投与されましたが、翌日の午後から複数回男の子の心電図の波形に異常が現れていたことが分かりました。
しかし、医師らは当時、男の子の異変に気付かず薬の投与を続けていたということです。
さらに、医師は、薬の累積の投与量を把握しておらず、薬剤師も初めは薬の投与量が多いと指摘したものの、その後は医師の判断に任せていたということで、薬の投与は男の子が亡くなった日の朝まで4日間にわたって続けられていました。
これについて○○大学病院は、「多くの職種が関わる集中治療室ではスタッフの連携やコミュニケーションが非常に重要だがうまくいかなかった」と説明しています。
また、男の子の母親は「子どもの状態を誰も把握していなかったことがショックです。病院には何が起きたのか真相を明らかにしてほしい」と話しています。」

【追記】

毎日新聞「○○医大:2歳児遺族に「投与中止後に透析なら生存」」(2014年7月2日)は,次のとおり報じました.

「 ◇担当医らが心電図異常を見落として投与継続経緯も判明

○待つ病院(東京都新宿区)で今年2月、人工呼吸中の子供への使用が原則禁止されている鎮静剤「プロポフォール」を投与された男児(当時2歳)が死亡した医療事故で、病院が遺族側に対し「投与を中止した日の朝に人工透析をしていれば助かった可能性がある」と説明していたことが関係者への取材でわかった。担当医らが心電図の異常を見落として投与を継続した詳しい経緯も初めて判明した。警視庁は担当医らが救命のために必要な処置を怠った可能性があるとみて業務上過失致死の疑いで捜査を進めている。

 関係者らによると、男児は2月18日午前、首の腫瘍の手術を受けた。終了の約50分後から、集中治療室(ICU)で安静を保つためにプロポフォールを投与された。19日午後から複数回、心電図の波形に異常が表れたが、担当医らは気付かず、投与を続けた。

 担当医らは20日午前になって初めて心電図の異常に気付き、エコー検査を行ったものの、「心臓の動きに異常はない」と判断。同日午後には別の医師が尿の変色を指摘したが、対応は取られなかった。

 その後、21日朝になって詳しい心電図を取って異変に気付き、ようやく投与を中止した。血液検査でも異常が見られたが、担当医らは有効な対策を取らなかった。男児はその後に容体が急変して、同日午後8時前に急性循環不全で死亡した。

 病院は遺族側に、プロポフォールの長期投与で腎機能が低下して死亡に至った疑いがあると説明した上で、「21日朝の投与中止後にすぐ人工透析をしていれば、助かった可能性がある」と伝えたという。透析を実施しなかったのは、担当医らが男児の異常をプロポフォール投与による副作用と認識しなかったためとみられる。

 ○○医大広報室は毎日新聞の取材に「調査内容は遺族の了解がなければコメントできない」としている。【神保圭作】

 ◇プロポフォール

 手術時の麻酔や、集中治療室で人工呼吸中の患者が動かないようにするための鎮静剤として使われる。効果がすぐに表れ、目覚めも良い利点があるとされる。海外での死亡例報告を受け、厚生労働省は2001年、医師向けの説明文書で、集中治療室で人工呼吸中の子供への使用を原則禁じたが、法的な規制はない。子供向けの鎮静剤が少ないという事情もあることから厳格な安全管理の下で投与している病院もある。」


【追記】

宮崎日々新聞「社説 禁止鎮静剤投与」(2014年7月9日)は,次のとおり報じました.

「安易使用は子どもに危険だ

「○○病院が人工呼吸中の子どもへの投与が禁じられた鎮静剤プロポフォールを頻繁に使用し、死亡者を出した問題が波紋を広げている。

 投与が禁止された「禁忌薬」でも、治療上の必要性から医師の裁量で使うことはあり得る。しかし今回の、○○医大のような常態化は異様だ。安易な使い方ではなかったのか。事故の原因や背景の早急な解明が望まれる。

■効果や安全性未確認■

 一方、この問題では6日、病院側の対応を批判していた学長が解任されたが、内紛劇を演じている場合ではない。○○医大はしっかり真相追究に取り組むべきだ。

 問題発覚のきっかけは今年2月、首の手術をした2歳男児が集中治療室(ICU)で人工呼吸器を装着中、プロポフォールを約70時間にわたって投与され、3日後に急性循環不全で死亡した事故だ。病院は院内調査の結果、死亡は投与が原因との見方を示した。

 その後、同病院が過去5年間、63人の子どもに投与を繰り返していたことも判明。病院は投与との因果関係を否定しているが、このうち12人が亡くなっていた。

 プロポフォールは「使い勝手の良さ」が高く評価され、手術時の麻酔薬として子どもにも使われている。だが、長時間、大量の投与になりやすいICUでの使用はリスクが高く、海外で子どもの死亡が報告されたのを機に、添付文書に「禁忌」と明記された。

 医療現場では、添付文書に記載されている効能や効果、用法、用量の範囲外で薬を使うことがある。「適応外使用」と呼ばれ、禁忌薬の使用もこれに含まれる。禁忌といっても法律で禁止されているわけではない。使用の判断は、医師の裁量権の範囲内とされる。

 とくに小児医療は適応外使用なしでは成り立たない実情がある。薬の開発段階で行われる臨床試験(治験)の多くが大人だけを対象とし、子どもでの効果や安全性が確認された薬が少ないためだ。

■問われる医療側意識■

 1999年に厚生省研究班(当時)が国立大病院などを対象に行った調査では、子どもに処方された薬のうち、添付文書に小児への用法・用量が明示されていたのはわずか23.4%。残る76.6%は適応外使用で「禁忌」「原則禁忌」などの薬も4.8%あった。

 多くは、ほかに薬の選択肢がなかったり、最善の治療を行うためにやむを得なかったりしたケースだろう。代替薬があるのに使い勝手という医療側の都合で、漫然と禁忌薬を使い続けるのは疑問だ。

 日本小児科学会や日本小児麻酔学会は昨年、子どもに磁気共鳴画像装置(MRI)の検査を行う際の鎮静法について提言をまとめた。その中に「鎮静薬は気道、呼吸、循環のコントロールという生命を守る機能に作用する。どの鎮静薬も危険」という記述がある。○○医大にはこうした安全への意識が欠けていたのではないか。」


【追記】

NHK「“禁忌”鎮静薬 約20%の病院が使用」(2014年7月14日)は、次のとおり報じました.


「○○医科大学病院で、ことし2月、人工呼吸器を付けた子どもへの使用が原則禁止されている鎮静薬を投与された男の子が死亡した医療事故を受け、日本集中治療医学会が、集中治療室を持つ全国の病院を対象に調べたところ、全体のおよそ20%の病院が同じ薬を使用していることが分かりました。
学会は、研究班を立ち上げ、薬を使用する際の安全性などについて検討を進めることにしています。

東京・新宿区の○○大学病院では、ことし2月、当時2歳の男の子が、人工呼吸器を付け集中治療が行われている子どもへの使用が原則禁止されている鎮静薬「プロポフォール」を投与され、死亡しました。
これを受け、日本集中治療医学会では、集中治療室を持つ全国307の病院を対象に同じ薬の使用状況などについてアンケート調査を行い、106の施設から回答を得ました。
その結果、全体の19%に当たる20の病院でプロポフォールを使用していると回答しました。
子どもの集中治療を専門に行っている病院に限ってみると、37%の病院が使用していました。
薬を使っている病院のうち80%は具体的なルールを設けておらず、使用にあたって親の同意を取っていない病院も85%に上りました。
日本集中治療医学会の氏家良人理事長は「薬の使用実態が初めて明らかになった。研究班を立ち上げて、薬を使用する際の安全性などについて検討したい」と話しています。」



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-12 20:38 | 医療事故・医療裁判

名古屋市の病院,合併症の発見が遅れ820万円で和解(報道)

中日新聞「名古屋の病院で医療ミス 術後の合併症、発見遅れ」(2014年6月11日)は,次のとおり報じました.

「820万円支払い、和解へ

 名古屋市は10日、緑市民病院で2010年、子宮などの摘出手術に伴う合併症の発見が遅れたため、市内の60代女性の左腎臓に障害が残ったと発表した。市が損害賠償金820万円余を支払い、両者の和解が成立する。

 女性は同年6月30日、産婦人科で子宮と卵巣の摘出手術を受けた際、尿管が細くなる合併症が起きた。病院は女性が泌尿器科を受診する11年12月まで合併症に気付かず、治療が遅れた。
 病院は手術翌日に、女性の尿の量が少なくなっていることに気付いていた上、11年5月には別の病気でかかっていた外科で腎臓が萎縮していることを把握していたが、泌尿器科医に相談していなかった。

 女性は、右の腎臓が正常なため日常生活に支障はない。市病院局の服部正総務課長は「早い段階で発見していれば、治療できた可能性が高い。大変申し訳ない」と話した。」


これは,術後の観察が不十分で,さらに医師間の情報共有がなされなかったために,合併症の発見が遅れた事案です.
右の腎臓が正常なため日常生活に支障はない場合における和解金の算定に参考になる事例と思います.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-11 18:27 | 医療事故・医療裁判

春日井市の病院,医師間の情報共有ミスによる肺がん診療の遅れ,名古屋高裁で和解へ(報道)

中日新聞「春日井市民病院の医療ミス 1000万円で和解へ」(2014年6月11日)は,次のとおり報じました.


「情報共有不十分 肺がん治療に遅れ

 愛知県春日井市民病院の医師間の情報共有が不十分で肺がん治療が遅れたとして、70代で亡くなった市内の男性の遺族が市に4944万円の損害賠償を求めた訴訟で、市は10日、市が遺族に1千万円を支払うことで和解すると発表した。17日開会の市議会定例会に議案を提出する。

 病院によると、男性が2008年11月、救急外来で腹部のコンピューター断層撮影(CT)検査をした際、放射線科医師が右肺に結節(しこり)を見つけたのに翌日、男性が消化器科で診断を受けたときにカルテの更新が間に合わず、結節の情報が添付されなかった。

 男性は10年9月、同病院で胸のCT検査を受け、肺がんが発覚。11年9月に亡くなった。遺族は08年に分かった結節の告知や生体検査がないことで治療が遅れたとして、11年11月、市を相手取って提訴。今年3月に名古屋高裁で和解が提案された。

 市民病院管理課は「医師間で情報をしっかり共有したい」としている。」


医療裁判では,ミス(過失)が明らかでも,因果関係が争いとなると,高裁までもつれこむことがあります.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-11 18:11 | 医療事故・医療裁判

山形県立中央病院,小児が心臓手術後脳死状態となり2か月後に死亡した事案で提訴される(報道)

山形県立中央病院,小児が心臓手術後脳死状態となり2か月後に死亡した事案で提訴される(報道)_b0206085_2038485.jpg
山形放送「県立中央病院・医療ミスで訴えられる」(2010年6月10日)は,次のとおり報じました.

「県立中央病院でおととし、心臓の疾患の手術を受けた10歳の女の子が手術後に死亡したのは医療ミスが原因として、村山地方に住む女の子の両親が県を相手取り7000万円余りの損害賠償を求め、提訴した。訴えによると、おととし8月、村山地方の10歳の女の子が山形市の県立中央病院で心房中隔欠損症という心臓の疾患の手術を受けた。手術後、女の子は脳死状態となり、およそ2か月後に死亡した。病院側は、院内に設置した医療事故調査委員会の検証で医師の処置に関して「判断は妥当」、「医療者側に過失があったとは言いがたい」と結論づけた。それに対し、女の子の両親は病院側の医療ミスによって娘は死亡したとして、病院を管理する県に7200万円余りの損害賠償の支払いを求めている。提訴について被告の県側は「訴状の内容を確認し、裁判を通して主張を明らかにしていく」とコメントしている。」


詳しい事情はわかりませんが,院外の第三者委員を含めて患者側も納得できる形態の事故調査が行われていれば,あるいは提訴にはいたらず解決できた事案なのかもしれません.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-11 01:15 | 医療事故・医療裁判

147mmHgの波紋

NHK「人間ドック 日本医師会が新基準を批判」(2014年6月8日)は、次のとおり報じました.

「人間ドック 日本医師会が新基準を批判
日本人間ドック学会が健康な人の血圧などの基準値を新たに示したことについて、日本医師会は「医療現場の混乱を招いている」などと批判する見解を出しました。

日本人間ドック学会は、人間ドックで健康と判定された人1万人以上の血圧や肥満の程度を示すBMIなどを詳しく分析しました。
その結果、健康と判定された人の血圧は、上が147まで、下が94までとなり、上が129まで、下が84までとなっている現在の正常値とは異なる値となりました。
また、肥満度を表すBMIの値も、現在の男女とも、25までが男性は27.7まで、女性は26.1までとなりました。
人間ドックでの判定の際には現在、血圧は日本高血圧学会が、肥満度は厚生労働省が決めた基準値を使っていますが、今回、人間ドック学会として独自の分析を行ったことで、正常とされる基準値が2種類存在すると受け取られるような事態となっています。
このため日本医師会は「医療現場は大きな混乱を来している」などと批判していて、新たな基準値をどう扱うのか関連する学会との間で慎重な検討を行うよう求めました。
日本医師会の今村聡副会長は「本来は生活習慣を改めるべき人が何もせず、病気になることがあってはいけない。医師に数値の意味をきちんと聞いてもらうことが大事だ」と話しています。
一方、人間ドック学会は、「新たな基準値を判定に導入するかは今後、議論していきたい。ほかの学会にも丁寧な説明を行い、理解を得る努力をしていきたい」としています。」


この報道は、やや誤解を招きかねないのではないか、と思います.

日本人間ドック学会が4月に発表したのは、タバコ喫煙、糖尿病、肥満などのリスクのない「スーパーノーマル」の人の血圧は、上が147mmHgまで、下が94mmHgに範囲におさまっていた、というものにすぎません.日本人間ドック学会は、この値が正常値との範囲であるいう意味で発表したわけではないでしょう.

これは、診断基準とはまったく別のものです.
日本人間ドック学会が「基準」を示し、日本医師会がその基準を批判した、というわけではなく、日本人間ドック学会の報告が「基準」であるかの誤解が生じ、混乱が生じていることを日本医師会が批判したということではないでしょうか.

日本人は、一見健康でも血圧が高いことが判明したとうけとるべきでしょう.日本食は塩分が多いですし、とくに外食は味付けが濃いように思います.「スーパーノーマル」でも、血圧が高いと病気になる可能性があるわけです.
現時点で「健康」でも、高血圧の診断基準に該当した場合、食生活の改善や定期的な運動、減量、禁煙など生活習慣の改善が必要です.
それでも、血圧が下がらないとき、はじめて降圧薬による治療が行われます.

血圧は検査するたびに変わりますので、そのとき基準値内であったとして安心はできません.病また、院で測定すると高めにでることもあります.日本人は、一家に一台血圧計を用意し、ときどき朝の血圧を測定したほうがよいのではないでしょうか.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-09 01:18 | 医療

佐世保市立病院,中心静脈栄養カテーテル穿刺で動脈を損傷し高次機能脳障害,約6千万円の損害賠償(報道)

西日本新聞「医療事故で6千万円賠償 佐世保市立病院、脳に障害」(2014年6月6日)は,次のとおり報じました.

「長崎県佐世保市立総合病院は6日、60代の男性患者の静脈にカテーテルを挿入する際に動脈を傷つけ、脳障害で寝たきりになる事故があり、約6千万円の損害賠償を支払うことで家族と和解したと発表した。

 病院によると、男性は2011年6月、盲腸がんの手術を受けた。栄養状態を改善するため右の首からカテーテルを挿入し、栄養投与を始めた翌日、心肺停止になった。カテーテルを抜くと、胸腔(きょうくう)内で大量出血があり、動脈を貫通していたことが分かった。男性は高次脳機能障害になったという。

 江口勝美院長は「深くおわび申し上げる。再発防止に努める」と述べた。」



中心静脈栄養カテーテル穿刺の際に,動脈を損傷し,心停止をおこし,患者が高次機能脳障害となった事案のようです.結果を回避できるポイントはいくつもあった筈です.動脈穿刺に直ちに気づき対処していれば心停止になることはなかった,心停止後すみやかに対処できたなら高次機能障害にならなかった,というように。

医療事故のスイスチーズモデルは,いくつものミスが重なったときに医療事故が発生するというものですが,たしかに単発のミスより,重畳的ミスにより悪しき結果を生じることが多いと思います.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-06 23:12 | 医療事故・医療裁判

函館地判平成26年6月5日,出生前診断結果を誤って伝えられた両親に慰謝料1000万円認める(報道)

毎日新聞「出生前診断:誤報告した函館の医院に1000万円賠償命令」(2014年6月5日)は,次のとおり報じました.

「北海道函館市の産婦人科医院「えんどう桔梗(ききょう)マタニティクリニック」で2011年、胎児の出生前診断結果を誤って伝えられた両親が、人工妊娠中絶の選択権を奪われたなどとして、医院側に1000万円の損害賠償を求めた訴訟で、函館地裁は5日、1000万円の支払いを命じた。

 鈴木尚久裁判長は判決理由で「結果を正確に告知していれば、中絶を選択するか、中絶しないことを選択した場合には心の準備や養育環境の準備もできたはず。誤報告により機会を奪われた」と指摘した。

 判決によると、母親は胎児の染色体異常を調べる羊水検査を受け、ダウン症であることを示す結果が出た。しかし医院の院長は11年5月、母親に「陰性」と誤って伝え、生まれた男児はダウン症と診断され3カ月半後に合併症で死亡した。

 両親側は誤報告により生まれたことで、男児は結果的に死亡したと主張していたが、鈴木裁判長は「ダウン症児として生まれた者のうち、合併症を併発して早期に死亡する者はごく一部」として因果関係は認めなかった。

 判決を受け両親は「ミスの重大性や、生まれた子供の命を否定しなければいけなかった親の心情を深くくみ取ってくれた。この裁判がきっかけとなり、患者や家族に寄り添う医療につながっていくことを願っている」とのコメントを出した。【鈴木勝一、久野華代】

 遺伝情報の扱いに詳しい桜井晃洋・札幌医科大教授(遺伝医学)の話

 出生前診断を含めた遺伝子検査では、患者がなぜ検査を受けるのか、結果をどう受け止めるのかまで考慮した、専門家の目を通して情報が伝えられるべきだ。今回の例は羊水検査の結果を単純に見誤って伝えたものだが、技術の進歩に伴って、検査結果があいまいな形で出るものも増えている。慎重さが求められるという意味で、判決は医療従事者への警鐘になる。]


裁判所が誤報告により選択の機会を奪われたことへの慰謝料を数百万円ではなく1000万円認めたことの意義は大きいと思います.ことの重大性を正当に評価した判決です.

【追記】

主文は,以下のとおりです.

「1 被告らは,原告らそれぞれに対し,連帯して500万円及びこれに対する平成23年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。」



「第3 当裁判所の判断」の部分は,以下のとおりです.

「1 争点1(被告らの注意義務違反行為とδに関する損害との間の相当因果関係の有無)について

(1)羊水検査結果の誤報告とδの出生との間の相当因果関係の有無について

ア 前提事実に加え,証拠(甲B15,B18からB21まで,B26,B27,B34,B35)によれば,羊水検査は,胎児の染色体異常の有無等を確定的に判断することを目的として行われるものであり,その検査結果が判明する時点で人工妊娠中絶が可能となる時期に実施され,また,羊水検査の結果,胎児に染色体異常があると判断された場合には,母体保護法所定の人工妊娠中絶許容要件を弾力的に解釈することなどにより,少なからず人工妊娠中絶が行われている社会的な実態があることが認められる。
しかし,羊水検査の結果から胎児がダウン症である可能性が高いことが判明した場合に人工妊娠中絶を行うか,あるいは人工妊娠中絶をせずに同児を出産するかの判断が,親となるべき者の社会的・経済的環境,家族の状況,家族計画等の諸般の事情を前提としつつも,倫理的道徳的煩悶を伴う極めて困難な決断であることは,事柄の性質上明らかというべきである。すなわち,この問題は,極めて高度に個人的な事情や価値観を踏まえた決断に関わるものであって,傾向等による検討にはなじまないといえる。
そうすると,少なからず人工妊娠中絶が行われている社会的な実態があるとしても,このことから当然に,羊水検査結果の誤報告とδの出生との間の相当因果関係の存在を肯定することはできない。

イ 原告らは,本人尋問時には,それぞれ羊水検査の結果に異常があった場合には妊娠継続をあきらめようと考えていた旨供述している。しかし,他方で,証拠(甲A5)によれば,原告らは,羊水検査は人工妊娠中絶のためだけに行われるものではなく,両親がその結果を知った上で最も良いと思われる選択をするための検査であると捉えていること,そして,原告らは,羊水検査を受ける前,胎児に染色体異常があった場合を想定し,育てていけるのかどうかについて経済面を含めた家庭事情を考慮して話し合ったが,簡単に結論には至らなかったことが認められ,原告らにおいても羊水検査の結果に異常があった場合に直ちに人工妊娠中絶を選択するとまでは考えていなかったと理解される。

ウ 羊水検査により胎児がダウン症である可能性が高いことが判明した場合において人工妊娠中絶を行うか出産するかの判断は極めて高度に個人的な事情や価値観を踏まえた決断に関わるものであること,原告らにとってもその決断は容易なものではなかったと理解されることを踏まえると,法的判断としては,被告らの注意義務違反行為がなければ原告らが人工妊娠中絶を選択しδが出生しなかったと評価することはできないと
いうほかない。
結局,被告らの注意義務違反行為とδの出生との間に,相当因果関係があるということはできない。

(2)羊水検査結果の誤報告によるδの出生とダウン症に起因した疾患によるδの死亡との間の相当因果関係について

δは,前提事実⑶カ及びキのとおり,ダウン症を原因とした各種の合併症を発症し,最終的にはTAMから発症した合併症が原因で死亡しており,原告らが相続したとするδの損害は,この一連の経過に関わるものである。
しかし,ダウン症及びその合併症の発症原因そのものは,被告αの羊水検査結果の誤報告によりもたらされたわけではない。そして,この過失との出生との間の相当因果関係を肯定することが法的に困難であるのは上記のとおりである。さらに,証拠(甲B6,乙7)によれば,ダウン症を有する者のうちTAMを発症するのは,全体の約10パーセントであり,また,早期に死亡するのはそのうちの約20ないし30パーセントである
ことが認められる。このほか,証拠(甲B29)によれば,ダウン症児は必ずしも合併症を伴うものではなく,そのような児は健康な子どもであることが,証拠(甲B33)によれば,ダウン症を有する者の平均寿命は50歳を超えることがそれぞれ認められる。これらの事実からすれば,ダウン症児として生まれた者のうち合併症を発症して早期に死亡する者はごく一部であるといえる。
これらの諸点に照らし,被告らの注意義務違反行為とδの死亡との間に相当因果関係を認めることはできないというべきである。

(3)以上からすれば,δに関する損害については認められない。

2 争点2(原告らの損害額)について

(1)原告βの入通院慰謝料 0円

この損害費目は,原告βが人工妊娠中絶をした場合と比較してその差額を求めるものであるが,前記1⑴の判断のとおり,被告らの注意義務違反行為と原告βによる人工妊娠中絶の不実施との間には相当因果関係が認められないため,原告βの入通院慰謝料については被告らの行為と相当因果関係のある損害とはいえない。

(2)原告らの選択や準備の機会を奪われたことなどによる慰謝料 それぞれ500万円

ア 原告らは,生まれてくる子どもに先天性異常があるかどうかを調べることを主目的として羊水検査を受けたのであり,子どもの両親である原告らにとって,生まれてくる子どもが健常児であるかどうかは,今後の家族設計をする上で最大の関心事である。また,被告らが,羊水検査の結果を正確に告知していれば,原告らは中絶を選択するか,又は中絶しないことを選択した場合には,先天性異常を有する子どもの出生に対する心の準備やその養育環境の準備などもできたはずである。原告らは,被告αの羊水検査結果の誤報告により,このような機会を奪われたといえる。
そして,前提事実に加え,証拠(甲A2,A3,A5,原告γ)によれば,原告らは,δが出生した当初,δの状態が被告αの検査結果と大きく異なるものであったため,現状を受け入れることができず,δの養育についても考えることができない状態であったこと,このような状態にあったにもかかわらず,我が子として生を受けたδが重篤な症状に苦しみ,遂には死亡するという事実経過に向き合うことを余儀なくされたことが認められる。原告らは,被告αの診断により一度は胎児に先天性異常がないものと信じていたところ,δの出生直後に初めてδがダウン症児であることを知ったばかりか,重篤な症状に苦しみ短期間のうちに死亡する姿を目の当たりにしたのであり,原告らが受けた精神的衝撃は非常に大きなものであったと考えられる。
他方,被告αが見誤った原告βの羊水検査の報告書は,分析所見として「染色体異常が認められました」との記載があり,21番染色体が3本存在する分析図が添付されていたというのであるから,その過失は,あまりに基本的な事柄に関わるものであって,重大といわざるを得ない。

イ ところで,証拠(乙1から4まで)及び弁論の全趣旨によれば,被告法人は,原告βの9月1日から同月8日までのζ病院における入院医療費18万4530円及び同月29日の同所における医療費3320円を原告βに代わって支払ったこと,また,δの11月1日から12月16日までのη病院における入院医療費4万5634円を原告らに代わって支払ったことが認められる。もっとも,これらの費目は,本訴において損害として請求されていない。また,証拠(甲A5,乙5,原告β)によれば,被告αは,原告らに対し,11月13日,原告らが毎日のδの
付添いで駐車場代金や交通費を負担していることなどを考慮して見舞金として50万円を,12月18日,香典として10万円を支払ったことが認められる。そうとはいえ,これらの見舞金及び香典は,その内容及び金額に照らし,本訴において損害として請求されていない費目に関するものであるか,原告らの損害を填補する趣旨のものではなく,社交儀礼上交付されたにすぎないものと認めるのが相当である。これらの支払が損害を填補する趣旨であるとの被告らの主張は採用することができないが,慰謝料額の算定に当たって考慮すべき一事情となるのは当然である。

ウ しかし,このような事情があるとしても,先に指摘した事実経過や原告らの精神的苦痛の重大性,被告αの過失の重大性等のほか,本件全証拠及び弁論の全趣旨によって認められる本件に関する一切の事情を総合
考慮すれば,原告らに対する不法行為ないし診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償として,原告らそれぞれにつき500万円の慰謝料を認めるのが相当である。

(3)弁護士費用 それぞれ50万円

本件事案の内容,審理の経緯,認容額等諸般の事情を考慮すれば,本件債務不履行ないし不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,原告らそれぞれにつき50万円と認めるのが相当である。

(4)合計 それぞれ550万円

以上のとおり,原告らの損害合計額はそれぞれ550万円である。
そして,被告らは,5月9日に被告αが原告βに誤った告知をしたことにより原告らの選択し準備する機会を奪ったといえるから,同損害賠償債務が遅滞に陥ったのは同日であるといえる。
なお,原告らは,人工妊娠中絶をした場合にかかる中絶費用を控除して損害額を計算しているが,本件においては,いずれにしろ原告らの一部請求額である1000万円を超える損害額が認められるため,このような計
算方法を採るかどうかは,本訴の結論に影響を及ぼすものではない。」



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-05 21:51 | 医療事故・医療裁判

北九州市立医療センター,手術ミスで神経損傷1800万円の損害賠償(報道)

朝日新聞「手術ミスで後遺障害、1800万円賠償へ 北九州市」(2014年6月 4日)は,次のとおり報じました.
 
「北九州市は4日、市立医療センター(小倉北区)でリンパ節の摘出手術を受けた市内の40代女性に、右腕に力が入らないなどの後遺障害を負わせたとして、1800万円の損害賠償を支払う方針を明らかにした。市が同日、市議会運営委員会で説明した。

 市病院局によると、女性は2010年1月、右首のリンパ節の一部を摘出して腫れの原因を調べるため、耳鼻咽喉(いんこう)科の60代男性医師の手術を受けた。だが、術後は発熱や右腕のしびれなどが治まらずに5日間入院。その後も通院治療を続けたが改善せず、11年にほかの病院で診断を受けた結果、脳から右腕に動きを伝える神経が炎症を起こしていることが確認された。

 病院側は12年7月、女性に手術の際の過失を認めて説明し、示談交渉を進めていた。女性は今も右腕に力が入らない状態という。

 医療センターの有馬透・総括副院長は「手術にミスがあり、後遺障害が起きたことを大変重く受け止めている。より慎重に手術を行い、再発防止に努めたい」と陳謝した。」

本件は,頸部リンパ節生検術で神経損傷が生じた事案のようですが,このような場合は手技上のミスが推認されるのではないかと思います.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-06-04 19:40 | 医療事故・医療裁判