弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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医師の病院への請求を棄却した東京地裁判決に添付された労働時間一覧表に計算ミス12か所

NHK「「判決に計算ミス12か所」訂正求め申し立て」(2015年6月22日)は,次のとおり報じました.

「原告の61歳の男性医師は、脳出血で倒れ、勤務先の病院に賠償を求める裁判を起こしています。
東京地方裁判所は、ことし4月に訴えを退ける判決を言い渡しましたが、原告側が控訴して判決を確認したところ、根拠となった労働時間の一覧表に単純な計算ミスが12か所見つかったということです。
倒れる前の1か月間の残業時間が、この判決では実際よりも2時間余り少なく、およそ57時間と認定されているということで、原告側は、「残業が60時間になるとストレスが強くなるという医学的な研究があり、計算ミスは結論に影響を及ぼした可能性がある」として、東京地裁に判決の訂正を求める申し立てをしました。
原告側の代理人を務める川人博弁護士は「あまりにもずさんで司法に対する国民の信頼を損なう」と話しています。」


一覧表12か所の誤りのため26か所に間違いが派生し,曜日なども3か所誤っていたとのことです.

エクセルを使わなかったのでしょうか?
エクセルは,プリントすると行の一部が隠れることがあり日本語との相性があまりよくないのではないかと思いますが,表計算にはとても便利です.

判決には,一般の方が考える以上に,計算違い,誤記その他これらに類する明白な誤りがあります.民訴法第257条第1項は,「判決に計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、いつでも更正決定をすることができる。」と規定しています.「いつでも」ですから,控訴審に係属していても,判決が確定していても更正決定ができます.

谷直樹


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by medical-law | 2015-06-22 23:02 | 司法

知的障害を理由に不妊手術を強制的に受けさせられた女性が日弁連の人権救済申立へ,6月23日院内集会

共同通信「強制不妊手術で人権救済申請へ 50年前、知的障害理由」(2015年6月21日)は,次のとおり報じました.

「知的障害を理由に約50年前、旧優生保護法に基づく不妊手術を強制的に受けさせられたのは人権侵害に当たるとして、宮城県の60代の女性が近く日弁連に人権救済を申し立てることが20日、関係者への取材で分かった。

 1948年に施行された旧優生保護法は「不良な子孫の出生防止」を目的に掲げ、本人の同意を必要とせず知的障害者に不妊手術を施すことを認めていた。女性は「手術は幸福追求権を侵害しており違憲」とし、補償を含む適切な処置を国に勧告するよう日弁連に求める。

 支援する新里宏二弁護士は「障害を理由に手術を受けさせられた女性は少なくない。実態を掘り起こしたい」としている。」



旧優生保護法は,国民優生法(昭和15年制定)を改組し,昭和23年7月13日に制定,昭和24年6月1日に施行されました.
旧優生保護法は,国民優生法を受け継ぎ優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的の1つとするものでした.
旧優生保護法第三条第一項は,
医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。
第一号 本人若しくは配偶者が遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇形を有し、又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有しているもの
第二号 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの
第三号 本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの
(以下略)」
と定めていました.
そして,同法第十四条第三項は,
人工妊娠中絶の手術を受ける本人が精神病者又は精神薄弱者であるときは、精神保健法第二十条(後見人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者が保護義務者となる場合)、又は、同法第二十一条(市町村長が保護義務者となる場合)に規定する保護義務者の同意をもつて本人の同意とみなすことができる。
と定めていました.


優生手術に対する謝罪を求める会」のサイトには,以下の院内集会の案内が掲載されています.

「院内集会のお知らせ☆
「優生手術という人権侵害――子どもをもつことを奪われた人々の訴え」

日時:2015年6月23日火曜 11時~13時
会場:参議院議員会館 101会議室(地下鉄 永田町駅、国会議事堂駅下車)
主催:優生手術に対する謝罪を求める会

日本には 1948年から96年まで、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした「優生保護法」があり、障害や病気を理由に、本人の同意を得ない不妊手術(妊娠しないようにする手術)が行なわれていました(1996年に「母体保護法」に改定)。
 17歳の時に、何も知らされないまま、優生手術の被害者の一人となった飯塚淳子さん(仮名)は、強い憤りを抱きながら生きてこられ、その不当性を国会議員や厚生労働省に訴え続けてきましたが、国からは謝罪の言葉もありません。そこでこのたび、日本弁護士連合会への人権救済の申立てを行うことになりました。                      
 この問題を広く知っていただくために、飯塚さんらとともに活動してきた「優生手術に対する謝罪を求める会」が、集会を開催します。当日は、飯塚淳子さん、人権救済の申立てを担当する新里宏二弁護士、優生保護法について詳しい市野川容孝さん(東京大学教員)ほかのお話を予定しています。
 この問題をご理解して頂きたく、皆様のご参加を呼びかけます。
・会場に入るには、通行証が必要です。当日10時40分から、参議院議員会館入り口にてスタッフが配布いたします。時間に遅れた方は、会館受付から101会議室へ連絡を入れてもらってください。スタッフが通行証を持って、お迎えに参ります。なお、資料準備の関係から、事前に参加お申込みを頂ければさらにありがたいです。
・情報保障を必要とされる方は、6月15日(月)までに、下記あてメールでご連絡ください。当日配布資料を、ワードのファイルで事前にお送りできます。会場の音声情報は、スタッフが交代でノートテイク(パソコン入力または要約筆記)します。
◆院内集会に関する事前申込み・問合わせ先: eメール ccprc79あっとgmail.com
     fax 06-6646-3883(「グループ生殖医療と差別」女性のための街かど相談室ここ・からサロン気付)」



谷直樹


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by medical-law | 2015-06-21 03:12 | 人権

高知県立あき総合病院と高知県立幡多けんみん病院、何れも薬剤医療過誤で和解(報道)

高知放送「県立病院での医療事故損害賠償金で和解」(2015年6月19日)は、次のとおり報じました.

「県によると、2012年11月から12月にかけて、県立あき総合病院で医師が、退院する患者に長く服用していた薬を処方せず、その情報を患者が通う地域の医療機関にも伝えていなかった。患者はその後高度な障害を発症し死亡した。

また、宿毛市の県立はた県民病院では、去年12月、入院していた患者にアレルギー反応のある抗生物質を誤って投与し、患者はアナフィラキシーショックを発症して死亡した。

県ではあき病院の事故については3500万円、はた県民病院の事故については2600万円のあわせて6100万円の損害賠償金を支払い、和解したという。県は「外部の委員が入る調査委員会を立ち上げるなどし再発防止につとめる」とコメントしている。」


何れも私が担当した事件ではありません.詳細は報道された限度でしかわかりませんが、2件の賠償額の差は、主に仕事の有無、収入等によるものでしょう.2500万円前後は、高齢で逸失利益が年金のみのケースが多いように思います.また、一般的に薬剤が関係する医療過誤は結構多いように思います

なお、私は、現在、抗生物質(抗菌剤)によるアナフィラキシーショック事件を担当しています.
病院内で抗生物質(抗菌剤)によるアナフィラキシーショックが発生し患者が死亡した場合は、医師、病院の賠償責任を認めた裁判例が最高裁平成16年9月7日判決ほか多数あります.
歯科医院でのアナフィラキシーショックでは責任を否定した裁判例(青森地裁平成15年10月16日判決)がありますが、アナフィラキシーショックに無防備な歯科医院に通院したいと思う患者はすくないでしょう.現在では,歯科医院ではアナフィラキシーショックにも対応できる体制を整えているところが増えたように思います.
私が通院している歯科医院では、パルスオキシメーターと血圧計をつけて麻酔をします.待合室には「AEDあります」と書いてあります.近くに消防署も内科医院も有名大学病院もありますし、大丈夫と思いながらも、麻酔のときはどうしても身構えてしまいます.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-20 01:29 | 医療事故・医療裁判

平成27年6月19日福岡高裁判決、授乳の際の医療者の経過観察義務を否定し患者側逆転敗訴(報道)

朝日新聞「産後ケアめぐる訴訟、両親ら逆転敗訴 福岡高裁」(2015年6月19日)は、次のとおり報じました..

国立病院機構九州医療センター(福岡市)で生まれた次女(5)の脳に重い障害が残ったのは、助産師らが病室の母子の経過観察を怠ったためなどとして、福岡県内の両親らが同機構に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、福岡高裁であった。大工強裁判長は、病院側の過失を認めて約1億3千万円の支払いを命じた一審・福岡地裁判決を一部取り消し、両親らの請求を棄却する原告逆転敗訴の判決を言い渡した。

 母親は2009年11月、帝王切開で次女を出産。約10時間後、授乳のため助産師が母親の元に次女を連れてきて、それから約1時間20分間、ベッドで母子だけになった。次女は一時呼吸が停止し、低酸素性虚血性脳症の後遺障害が残り、現在も意識が戻っていない。

 一審は、疲労や鎮痛剤などの影響で、母親は次女の様子の急変に的確に対処できないと予見できた、と認定。病院が経過観察をしていれば重度の障害を負う結果を回避できた可能性が高いとして、賠償を命じた。

 一方、高裁は「病院スタッフが経過観察義務を負うのは事故発生を具体的に予見できた場合」と指摘。当時、母子に異常の兆候はなく、病院側は経過観察義務を負っていない、とした。」


毎日新聞「産後経過観察:障害残った家族 国立病院機構への賠償棄却」(2015年6月19日)は、次のとおり報じました. 

「出産後に病院側が経過観察を怠り、次女(5)に重い障害が残ったとして、福岡県内の両親と次女が独立行政法人国立病院機構(東京)に約2億3000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は19日、病院側に約1億3000万円の支払いを命じた1審・福岡地裁判決(昨年3月)を取り消し、両親側の請求を棄却した。

 判決によると、母親は2009年11月20日正午過ぎ、同機構が運営する「九州医療センター」(福岡市)で次女を帝王切開で出産。午後10時に授乳のため助産師が母親に次女を任せた。母親が次女の容体が悪化したことに気付いたのは約1時間20分後で、その後、一時心肺停止になり脳に重い障害が残った。

 大工強(だいく・つよし)裁判長は、午後10時の段階で母子に異常がなく「病院側が事故の発生を予見するのは困難で、経過観察の義務もない」と判断した。1審は、疲労や鎮静剤の影響で母親が睡眠状態になる可能性を指摘し、病院側の注意義務違反を認定したが、大工裁判長は「睡眠状態になっていたとは認められない」とした。【鈴木一生】」


読売新聞「病院側の予見困難」新生児障害、2審は賠償棄却」(2015年6月20日)は,次のとおり報じました.

「出産後に次女(5)が重い障害を負ったのは病院の経過観察が不十分だったためだとして、福岡県の両親らが独立行政法人国立病院機構(東京)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、福岡高裁であった。大工強裁判長は「病院側が経過を観察すべき義務を負っていたとはいえない」として、病院側に約1億3000万円の支払いを命じた1審・福岡地裁判決を取り消し、両親側の請求を棄却した。

 判決によると、母親は2009年11月、国立病院機構が運営する「九州医療センター」(福岡市)で、次女を帝王切開で出産した。約10時間後、助産師が次女を母親のベッドに移したが、その約1時間20分後、次女の容体が急変したことが発覚。心肺が一時停止状態となり、低酸素性虚血性脳症となった。両親側の代理人弁護士によると、次女は現在も入院中で意識がないという。

 1審判決は「帝王切開による疲労などで、母親の意識がもうろうとなり、次女の急変に対応できない可能性を病院側は予見できた」と指摘した。これに対し、大工裁判長は「子の観察は一次的には母親が行うべきものだ」としたうえで、母子同室となった際、母親には特段の異常はなかったと認定。「病院側が事故の発生を具体的に予見するのは困難だった」とした。」


日本経済新聞「産後の母に子預け脳障害、病院訴えた両親敗訴 福岡高裁」(2015年6月20日)は,次のとおり報じました.

「出産直後の次女の脳に重度の障害が残ったのは、意識のもうろうとした母親に預けて経過観察を怠ったことが原因として、福岡県の両親が国立病院機構九州医療センター(福岡市)に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が19日、福岡高裁であった。大工強裁判長は、病院側に約1億3千万円の支払いを命じた一審・福岡地裁判決を取り消し、両親の請求を棄却した。

 一審判決は「病院側は母親が帝王切開による疲労で、次女の急変に対処できない事態を予見できた。経過観察義務に違反した」と判断したが、大工裁判長は「母親には意識があり、特段の異常はなかった」と指摘。「事故の予見は困難で経過観察の義務はなかった」と認定した。

 判決によると、母親は2009年11月20日正午すぎに次女を出産。助産師は同日午後10時ごろ、授乳のため次女を母親に預けた。約1時間20分後、母親は次女の異常に気付いたが、次女は一時心肺停止となり、脳に障害が残った。

 両親側の弁護士は「不当な判決。判決内容を精査して対応を検討する」とコメント。九州医療センターは「主張が認められ、極めて正当な判決だ」とする談話を出した。」


産経新聞「カンガルーケア訴訟で両親逆転敗訴 福岡」(2015年6月20日)は、次のとおり報じました..

「次女の脳に重い障害が残ったのは、国立病院機構九州医療センター(福岡市)が出産直後の母親に女児を抱かせる「カンガルーケア」をしたまま経過観察を怠ったためとして、両親が病院側に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(大工強裁判長)は19日、病院側に約1億3千万円の支払いを命じた1審判決を取り消し、両親の請求を棄却した。」


この報道の件は、私が担当したものではありません.
担当している弁護士は、もともと医療訴訟を数多く手がけている弁護士ではないのですが、カンガルーケア訴訟については、かなり積極的に担当している弁護士のようです.
逆転敗訴となったご両親の心中を察すると心がいたみます.

福岡地裁判決は、経過観察義務を認め、福岡高裁判決は、経過観察義務を否定しました.何が判断を分けたのでしょうか.雑誌に判決文が掲載されたら熟読したいと思います.
 
なお、私は経過観察義務が問題になる裁判を担当していますが、時期(生後早期の不安定な時期)と事案(母が児を観察できない状態であること)がまったく違います.
また,日本周産期・新生児医学会,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本小児科学会,日本未熟児新生児学会,日本小児外科学会,日本看護協会,日本助産師会が,平成24年10月17日,発行した「『早期母子接触』実施の留意点」には,次のとおり記載されています.

「出生直後の新生児は、胎内生活から胎外生活への急激な変化に適応する時期であり、呼吸・循環機能は容易に破綻し、呼吸循環不全を起こし得る。したがって、「早期母子接触」の実施に関わらず、この時期は新生児の全身状態が急変する可能性があるため、注意深い観察と充分な管理が必要である(この時期には早期母子接触の実施に関わらず、呼吸停止などの重篤な事象は約5 万出生に1 回、何らかの状態の変化は約1 万出生に1.5 回と報告されている)」

「早期母子接触が行われる出生後早期は、胎児から新生児へと呼吸・循環の適応がなされる不安定な時期でもある。特に、この時期の循環動態は卵円孔、動脈管などのシャントが残り、寒冷刺激、アシドーシス、低体温などで容易に肺高血圧から右左シャントが惹起され、危急事態が起こり得る。 したがって、早期母子接触の実施の有無にかかわらず、生後早期は不安定な時期であるとの認識は持たなければならない。」

「特に、早期母子接触を実施する時は、母親に児のケアを任せてしまうのではなく、スタッフも児の観察を怠らないように注意する必要がある。」


生後早期の不安定な時期の児については,予見義務が肯定できると考えます.


【追記】

カンガルーケアでの初の最高裁の判断が示されました.
福岡ではなく,大阪の事案です.


朝日新聞「「カンガルーケアで障害」、病院側の責任認めず 最高裁」(2015年9月4日)は,次のとおり報じました.
 
「出生直後の赤ちゃんを母親が肌を合わせて抱く「カンガルーケア」(早期母子接触)が原因で長女(4)が重い脳性まひになったとして、大阪府内の夫婦らが病院の運営法人に約2億7600万円の損害賠償を求めた訴訟で、夫婦らの敗訴が確定した。最高裁第三小法廷(木内道祥裁判長)が1日付の決定で夫婦らの上告を退けた。二審・大阪高裁判決は、一審に続き病院側の責任を否定していた。

 昨年10月の二審判決は、長女は窒息ではなく、原因不明の「乳幼児突発性危急事態」で呼吸停止になったと指摘。カンガルーケアの間に長女の様子を観察していた病院の態勢が「当時の医療水準に照らして相当でなかったとはいえない」とした上で、病院の対応と障害との間に因果関係はなかったと結論づけた。

 二審判決によると、長女は2010年12月、府内の病院で生まれた直後、母親の胸の上で抱かれた。しばらく授乳した後に呼吸が一時停止し、重度の脳性まひが残った。」




谷直樹


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by medical-law | 2015-06-19 23:57 | 医療事故・医療裁判

平成27年度高裁長官,地裁所長及び家裁所長会同における最高裁判所長官挨拶

高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同における最高裁判所長官挨拶は,裁判所の課題と方向性を知るためにとても重要です.

今年の会同における最高裁判所長官挨拶は,以下のとおりでした.

「司法制度改革に向けた構想のための議論がスタートしてから15年, 関連法制の整備が完了してから10 年が経過しました。

裁判所の扱う様々な事件の分野に新たな制度が導入され,この間,運用上の工夫が積み重ねられてきています。民事手続においては,新たに設けられた労働審判がその利用度と成果において高い評価を得ており,目に見える形での効率的紛争解決のモデルとしての位置を築きつつあります。

専門的な事件への対応強化という面においては,専門委員制度の導入などにより適正な解決が迅速に図られるようになっていますし,設立10 年を迎え,国際的な評価を高めつつある知的財産高等裁判所の活動により,知的財産に関する紛争を解決する機能は,格段にレベルアップしたと評されています。

また,刑事手続においては, 戦後における最大の変革といわれた裁判員裁判が導入され,国民の高い意識と誠実な姿勢に支えられて, 刑事手続の標準として定着しつつあります。

このように, より身近で, 頼りがいのある司法を築くことを目指して進められてきた裁判所における諸施策は,着実な成果を挙げつつあり,この間,共に理念の実現を目指してきた裁判現場の皆さんの努力は全体として評価されて然るべきでしょう。

ただ,訴訟のスピードアップにおいては,ここ数年,国民の期待どおりの動きに至らない停滞が見られることも否定できません。加えて,社会経済のさらなる変化を受けて,裁判所の判断が社会経済や国民生活に大きく影響を及ぼす事件など判断が難しい事件が増加傾向にある中で,裁判所が,その使命を十分に果たし,社会の期待に的確に応えていくためには,各裁判体において,事案の実相を捉らえ,事実上及び法律上の争点について多角的な分析を深めた質の高い判断を行って,幅広く納得が得られる解決を示すことができるよう,一層強い問題意識を持った取組が求められています。

そして,これを支える司法行政部門においては,裁判所内の情報伝達や情報共有を有効に機能させ,組織全体として,必要な情報を共有した上で,裁判部門の実情や裁判部門が日々直面している課題を的確に把握し, その環境整備を行っていくことが必要不可欠です。各所長は,裁判部門のいわば中核を構成する「部」の裁判官と日常的にコミュニケーションをとり,実情の把握や課題の発見に努める必要がありますし,各「部」においては, 部総括が,「部」全体の実情や直面している課題を把握し,司法行政部門に伝えていくよう図っていく必要があります。

本庁と支部の関係についても同様であり,支部の実情や直面する課題が,本庁を始めとする裁判所組織全体に共有され, 適切な対応をとれる態勢になっているかどうか目配りを欠かしてはなりません。

各裁判部門の実情をみると,民事の分野では,近時,利害関係が錯綜する事件や対立が根深く解決が困難な事件が増え,裁判所の事実認定や法律解釈において,より説得力のある判断が求められているといえるでしょう。

他方,現行民事訴訟法が施行されてから20 年近くが経過する中で,より良い手続運用を目指そうとする気運が薄れてはいないか省みることも忘れてはなりません。

各庁において,合議体による事件処理の充実や口頭による議論の活性化を始めとする争点中心型審理の再構築に向けた取組が進められていますが,その際には,利用者である国民の視点に立って,民事裁判の在るべき姿について高い問題意識を持つことがまず重要です。
その上で,民事裁判の実情や課題を多角的に分析・検討し,その結果を活かして,適正迅速な紛争解決の実現という裁判本来の役割を改めて見つめ直すとともに,時代の趨勢を見据えた運用改善に努めていく必要があります。


家事の分野では, 家族の在りようの多様化と少子高齢化の進展とが相まって, 成年後見関係事件が急激に増加し,子の奪い合いを背景とする親権者変更事件や面会交流事件が増加するなど, 解決困難な事件の増加をもたらしています。権利意識の高まりにより,家族間の問題であっても,手続の透明性と権利義務の明確化を求める事件が増えているとみることもできるでしょう。裁判官を始めとする家事事件を担当する職員は,このような家事事件をめぐる状況の変化を踏まえ, 常に実情に即した問題意識を持ち,新しい発想と創意工夫を持って, 実務の運営の改善に取り組んでいかなければなりません。
今後とも,各庁において,後見監督についての運営改善や,家事事件手続法の趣旨に則った家事調停の運営改善の努力を,組織的な取組として継続発展させていくとともに,家事審判事件一般や人事訴訟事件についても,実情を適切に把握し,新たな発想による運営改善の努力をしていくことが必要です。

刑事の分野では,施行から7年目を迎えた裁判員制度の運営に係る取組について,自白事件を中心として,争点整理のあり方について議論が進み,分かりやすい公判審理を目指した動きが広がるなど,一定の成果が認められます。
しかし,争点に絞った証拠調べが十分実践できていない事例も未だ多く見られますし,公判前整理手続の長期化や否認事件における争点整理のあり方など,なお検討すべき課題も多く残されています。これらの課題に取り組んでいくためには,今一度,事案に応じた争点及び証拠の整理を経て, 公判で心証が得られる証拠調べを過不足なく行うという刑事裁判本来の姿を再確認する必要があります。その上で,具体的な事案に基づく実証的な検討を重ね,その結果を実務へ還元することを繰り返していくという地道な取組を,裁判所全体で,さらには法曹三者間で,続けていかなければなりません。

裁判所が,直面する諸課題に対応し,適切にその使命を果たしていくためには,裁判官各々の力量を向上させることが極めて重要です。
裁判官には,事件処理に必要な知識や能力を蓄えることはもちろんのこと,広い視野と柔軟な思考力を身に付け,様々な事象に対する洞察力を磨くよう,主体的かつ自律的に,たゆむことなく努力を続けていってほしいのですが,とりわけ組織を支える部総括等を中心に,個々の事件処理にとどまることなく裁判所全体が抱える事件処理を巡る諸課題や組織運営に関する事項への広がりも意識しながら, 職務に当たることを期待します。
そのような力量を備えることを支援するため, 実情をよく把握した上で,研修の充実を含む総合的な取組を続けていく必要があります。
冒頭に述べた司法制度改革は,また,社会に「法の支配」を浸透させる狙いを持った取組とも位置づけられてきました。戦後70年,変化への迅速な対応が求められる今日の社会において「法の支配」の持つ意味は小さくありません。その「法の支配」は,裁判所にとっては,日々の営為を積み重ね,国民の信頼を得ていくことにより現実となっていく理念でもあります。一人一人の職員が国民から期待されている役割を深く自覚し,直面している課題に真摯に向き合いながら, 組織全体として,国民の信頼を得続けていくための努力を重ねていくことこそ,いま求められていることなのです。
各人の着実な,そして積極的な取組を期待して,私の挨拶とします。」


民事裁判の現状と方向性を考えるうえで,つぎの目標は重要と思います.
・「事案の実相を捉らえ,事実上及び法律上の争点について多角的な分析を深めた質の高い判断を行って,幅広く納得が得られる解決を示す」
・「裁判所の事実認定や法律解釈において,より説得力のある判断が求められている」
・「適正迅速な紛争解決の実現という裁判本来の役割を改めて見つめ直すとともに,時代の趨勢を見据えた運用改善に努めていく」
寺田逸郎最高裁長官は,これらが未だ十分には達成されていないと認識しているのでしょう.

その目標実現のために,寺田逸郎最高裁長官は,「裁判官各々の力量を向上させる」必要があることを指摘しています.
最近の枕営業判決などをみると,裁判官各々の力量を向上させる必要を痛感します.

判決は,必ずどちらかの当事者には不利な内容ですから,適切な証拠評価のうえに,事実認定,法律解釈,あてはめについて精緻な論理を展開し,社会常識にそった適正な判決を下す必要があり,そのためにはそれができる裁判官の個々の力量が不可欠です.
多くの裁判官は優秀で力量に不足はありませんが,東京地裁医療集中部の礎を築いた前田順司氏(現甲南大学法科大学院教授・弁護士),福田剛久氏(現高松高裁長官),貝阿彌誠氏(現東京家裁所長),藤山雅行氏(現名古屋家裁所長),千葉地裁医療集中部の礎を築いた一宮なほみ氏(現人事院総裁)らに比べると,最近の裁判官の中には広い視野と柔軟な思考力にやや不安を感じる方もいないではありません.医療事件の多くの判決の結論は適正ですが,患者側敗訴判決の中には疑問を感じるものもないではありません.裁判官各々のいっそうの力量向上に期待します.



谷直樹


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by medical-law | 2015-06-19 01:32 | 司法

遺族からのカルテ開示請求

相続人遺族からのカルテ開示請求に対し消極的な病院が未だにあるようです.

厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では,以下のとおり,遺族による開示請求にも原則として応じる義務があることを規定しています.

「遺族に対する診療情報の提供
 ○ 医療従事者等は、患者が死亡した際には遅滞なく、遺族に対して、死亡に至るまでの診療経過、死亡原因等についての診療情報を提供しなければならない。
 ○ 遺族に対する診療情報の提供に当たっては、3、7の(1)、(3)及び(4)並びに8の定めを準用する。ただし、診療記録の開示を求め得る者の範囲は、患者の配偶者、子、父母及びこれに準ずる者(これらの者に法定代理人がいる場合の法定代理人を含む。)とする。
 ○ 遺族に対する診療情報の提供に当たっては、患者本人の生前の意思、名誉等を十分に尊重することが必要である。」


国立大学附属病院長会議の「国立大学附属病院における診療情報の提供等に関する指針(ガイドライン)第2版」も以下のとおり遺族への診療情報提供を定めています.

「遺族に対する診療情報の提供
○ 医療従事者等は、患者が死亡した際には遅滞なく、遺族に対して、死亡に至るまでの診療経過、死亡原因等についての診療情報を提供するものとする。
○ 遺族に対する診療情報の提供に当たっては、3、7の(1)、(3)及び(4)並びに8の定めを準用する。ただし、診療記録の開示を求め得る者の範囲は、患者の配偶者、子、父母及びこれに準ずる者(これらの者に法定代理人がいる場合の法定代理人を含む)とする。
○ 遺族に対する診療情報の提供に当たっては、患者本人の生前の意思、名誉等を十分に尊重するものとする。」


日本医師会の「診療情報の提供に関する指針[第2版]」は,以下のとおり,遺族に対し診療情報を提供するとしています.

「5-1 遺族に対する診療情報の提供
a 医師および医療施設の管理者は、患者が死亡した際には遅滞なく、遺族に対して死亡に至るまでの診療経過、死亡原因などについての診療情報を提供する。
b 前項の診療情報の提供については、〔3-1〕、〔3-3〕、〔3-5〕、〔3-6〕、〔3-7〕および〔3-8〕の定めを準用する。
ただし、診療記録等の開示を求めることができる者は、患者の法定相続人とする。」


これらの指針に照らし,相続人遺族からのカルテ開示請求には,原則として応じるべきでしょう.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-18 07:02 | 医療

香川県立白鳥病院の腹腔鏡下胆嚢摘出手術のミス,香川県立中央病院の肺癌見落とし,和解(報道)

四国新聞「医療事故2件で計556万円賠償へ/県立病院」(2015年6月17日)は,次のとおり報じました.

「2011年2月、県立白鳥病院で、県内在住の30代女性に腹腔鏡下の胆のう摘出手術を行った際、誤って総胆管の一部を切除し、術後に黄疸(おうだん)の症状が出た。女性は別の病院に転院し、総胆管と小腸とをつなぐ手術を受けた。県は手術ミスを認め、追加の治療費や慰謝料など約406万円を支払うことで女性側と和解した。」

「06年3月、県内在住の50代女性が、間質性肺炎の疑いのため、県立中央病院で受けた胸部CT検査で「異常なし」と診断されたが、07年6月に県立がん検診センターの人間ドックで肺がんが見つかったもの。女性側は中央病院で肺がんの見落としがあったとして、調停を申し立てた。県は解決金150万円を支払うとしている。」


一般に,手術に因って悪しき結果が発生した場合でも,注意しても回避できないものについては過失は問えません.
県立白鳥病院の件について,私は報道の限りでしか知りませんが,腹腔鏡下の胆嚢摘出手術には注意深い操作が求められ,一般に注意深く操作すれば総胆管の一部を切除することは回避できるものと考えられますので,基本的に手術ミス(過失)にあたるものと思います.

私が原告代理人となった東京地裁平成18年4月26日判決(ケースファイル3・140頁)は,肺がんの見落としの生存事案で5年生存率低下による精神的苦痛・不安に対する慰謝料400万円と弁護士費用50万円を認めています.
上記報道の事案でも,肺癌の見落としのため1年3か月の診療の遅れが生じたことになりますので,精神的苦痛・不安は少なくなかったものと思います.記事には書かれていない諸般の事情により150万円での和解となったのではないでしょうか.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-18 00:33 | 医療事故・医療裁判

平成26年の医事関係訴訟,提訴は増加,審理期間は過去最短,認容率(患者側勝訴率)は低下

裁判所の集計によると,平成26年の医事関係訴訟(新受)は877件でした.

平成17年999件,平成18年913件,平成19年944件,平成20年876件,平成21年732件,平成22年791件,平成23年770件,平成24年787件,平成25年805件ですから,最近の減少傾向から一転して増加し平成20年の水準に戻ったと言えます.
これが平成26年だけのことか,数年続くものかは,未だわかりませんが,医療ADRなど裁判外の紛争解決手段が充実してきたにもかかわらず,平成26年に提訴された医事関係訴訟が877件もあったということは,(1)医療過誤の疑いのあるケースが表面化することが増えてきたためと(2)医療過誤の疑いをもった場合に弁護士に相談する事例が増えてきたためではないか,と思います.

平均審理期間は,22.6月と過去最短でした.

平成26年の地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率(原告=患者側が勝訴した率)は,20.4%でした.

平成17年37.6%,平成18年35.1%,平成19年37.8%,平成20年26.7%,平成21年25.3%,平成22年20.2%,平成23年25.4%,平成24年22.6%,平成25年24.7%ですから,過去最低の平成22年に近い数字になっています.提訴までにより慎重に検討・準備することが必要と思います.

平成26年の医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数は,内科187件(平成25年178件),外科114件(平成25年124件),整形外科95件(平成25年90件),歯科89件(平成25年78件),産婦人科60件(平成25年56件)・・・と大きな変化はありませんでした.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-17 02:40 | 医療事故・医療裁判

嘉祥の祝

6月16日は和菓子の日です.

平安初期,藤原北家の藤原良房が権力を掌握しつつある,政情不安な頃の話です.
仁明天皇は,6月16日に16の菓子を神前に供え,疫病除けと健康招福を祈り,「嘉祥」に改元しました.
この故事から,6月16日に疫病除けと健康招福を願う嘉祥の祝が明治まで行われていたそうです.
6月16日は和菓子の日とされています.

なお,仁明天皇は,幼少より病弱で,調剤の知識を有していたといいます.深草に陵があります.
美食家の藤原道長の死因が糖尿病に起因する感染症であったことは有名ですが,飲酒家の藤原道隆,その息子の藤原伊周も糖尿病で亡くなっています.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-16 06:52 | 日常

日弁連情報問題対策委員の弁護士清水勉先生,マイナンバー制度を斬る

高知新聞「マイナンバー制度「違憲」 日弁連情報問題対策委員の清水弁護士に聞く」(2015年6月15日)に,弁連情報問題対策委員の弁護士清水勉先生のインタビューが載っていました.
 
「例えば、レセプト(診療報酬明細書)から差別につながる病歴が分かるかもしれない。リベンジポルノも悲惨だ。画像をマイナンバーと関連させてばらまけば、何十年たっても切り離すことができない」 
「違憲だ。話にならない。個人の意思で変更可能な住基ネットと違い、マイナンバーは生涯不変で、民間企業も入る。プライバシーの侵害性は住基ネットの比ではない」 
「情報漏えいの被害は分かりにくい。だから『どうでもいい』と考える人が圧倒的に多い。切実な問題を抱えている人は少数派で、自分が被害に遭っても恥ずかしくて言えない。個人情報は、個人が幸せになるために使うべきで、人を追い詰めるために使うべきではない。情報はどちらにも使えるので制度設計する側が、慎重に考えなければならない。便利というだけで推し進めるのは根本的に間違っている」


相変わらず舌鋒鋭くマイナンバー制度を斬っていました.
マイナちゃん,怖いですね.

谷直樹


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by medical-law | 2015-06-15 21:50 | 人権