弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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産科における胎児死亡の場合の賠償額

医療過誤に因り人が生まれてまもなくり死亡した場合,つまり0歳児が死亡した場合,その児の損害として逸失利益,慰謝料,葬儀関連費用等を計上でき,その損害賠償請求権を相続人である両親が相続した,という法律構成になります.それ以外に両親について近親者固有の慰謝料も損害として計上できます.

これに対し,出生前の胎児が死亡した場合の損害賠償の法律構成は異なります。
日本の民法第3条1項は,「私権の享有は、出生に始まる。」としています.
つまり,人は生まれてはじめて権利義務の主体としての人となるので,生まれる前の胎児は権利義務の主体ではありません.

裁判上,胎児死亡の場合の損害は,権利義務の主体である両親の損害として算定されます.

大分地裁平成9年2月24日判決(判例タイムズ953号250頁)は,子宮破裂により胎児が死亡した事例につき,慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円合計2200万円の支払いを命じました.
東京地裁平成14年12月18日判決(判例タイムズ1182号295頁)は,帝王切開により娩出された胎児が死亡した事例につき早期に帝王切開を実施すべき義務等に違反した過失があったとして産婦人科医と病院側の不法行為責任を認め,慰謝料2800万円,葬儀費用100万円及び弁護士費用300万円合計3200万円の支払いを命じました.
このほか,1000万円を超える賠償を認めた裁判例もあります.

或る弁護士の「交通事故&医療事件に関するブログ」に「胎児死亡の場合の慰謝料」(2008年03月21日)という題で,「これまでに胎児死亡の場合で、もっとも高い金額を認めているのは、東京地裁平成11年6月1日判決(交通民集32・3・856)のようです。この判決は、妊婦(母)が受傷したことにより妊娠36週の胎児が死亡したケースで、胎児死亡による慰謝料として 母親 700万円 父親 300万円 が認められています(総額1000万円)。」と書かれています.
交通事故を念頭においた記載なのでしょうが,これを読んだ一般の人が,出産間近の医療事故についても1000万円を超える賠償額を認めた裁判例がないと誤解をしなければよいのですが...

産科事故に因り胎児が死亡したけれども,その産科事故が無ければ胎児が死亡せず,元気に生まれたと推認できる場合,0歳児の死亡と極限的に接近することから,0歳児の死亡の場合の損害賠償額に近づけることが合理的と考えます.
産科医師は妊娠何週であるかを認識していますので,出産間近の医療事故で責任を負う場合,0歳児の死亡とほぼ同様の賠償額としても予想外ではないはずです.
両親の慰謝料という法律構成をとるにしても,実質的に0歳児の死亡の損害賠償額に近づけることは可能であり,むしろ合理性があると考えます.出産直前に産科医師の注意義務違反により待望の子を失った両親の精神的苦痛は出生後の新生児が死亡した場合となんら異なることはなく,その苦痛と悲しみは極めて深く大きいというべきだからです.

産科事故に因り胎児が死亡した場合の賠償額について,患者側の弁護士は,0歳児の死亡の場合の賠償額に近づける努力をしてきています.
私が原告ら代理人をつとめた東京地裁平成14年12月18日判決(判例タイムズ1182号295頁)以降,それを上回る判決はでていませんが,和解では高額のものもあると思います.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-14 10:59 | 医療事故・医療裁判

厚生労働省,高血圧症治療薬ブロプレスの誇大広告で武田薬品工業株式会社に対し改善命令の行政処分

厚生労働省は,2015年6月12日,「医薬品医療機器法違反業者に対する行政処分について」を発表しました

「厚生労働省では、本日付けで、武田薬品工業株式会社に対し医薬品医療機器法第72条の4第1項の規定に基づき、別紙のとおり行政処分を行いましたので、お知らせします。
今般の処分は、同社が作成した広告が誇大広告と認められることから、業務改善命令を行うものです。
なお、誇大広告により、医薬品医療機器法第66条違反で行政処分を行うのは、今回が初めての事例です。」


「違反事実
武田薬品の高血圧症治療薬「ブロプレス」(注1)に係る広告(「CASE-J 試験」(注2)の結果を活用した広告等)が、医薬品医療機器法で禁止している「誇大広告」に該当すること。(医薬品医療機器法第66 条第1項違反)
(注1)ブロプレス錠(一般名:カンデサルタン)の効能・効果:高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全(軽症~中等症)
(注2)「ブロプレス」と既存の治療薬「アムロジピン」とを比較した大規模臨床試験

違反広告の内容
・ 自社製品と他社製品の脳卒中等の発現率のグラフについて、統計的な有意差がないにもかかわらず、自社製品を長期間服用した場合の発現率が他社製品を下回る(他社製品のグラフと交差する)ことを強調するため、交差部分に「矢印」を用い、これを「ゴールデン・クロス」という最大級の表現で強調した。
・ 広告で用いたグラフは、正しいグラフに比べずれており、自社製品の脳卒中等発現率が低くみえる。
・ 「切り札」という強い表現で、「糖尿病」など本来の効能効果でない副次的効果を端的に提示。

処分内容
第一種医薬品製造販売業の改善命令(医薬品医療機器法第72 条の4第1項)
① 広告等の審査体制について、内部職員による社内審査に止まらず、外部の有識者等も含めたものに整備すること。
② 上記審査体制の下、新規に作成する広告等だけではなく、過去に作成した広告等についても、外部有識者の意見等も踏まえ最新の知見に基づく見直しが速やかかつ継続的に行われる審査体制・社内体制を整備すること。
③ 再発防止のため、広告等の作成・審査に携わる社員及び管理職の者に対し、医薬品医療機器法を始めとする法令、通知及び業界自主基準を改めて周知徹底するとともに、適切な教育訓練の一層の充実を図ること。
④ 上記1から3までの再発防止に係る改善計画については、改善命令発出後1か月以内に、厚生労働省に提出すること。」


武田薬品は,誇大広告にあたらないとしていましたが,ついに誇大広告と認められ,やっと改善命令がでました
CASE-Jそのものについても,京都大学大学院医学研究科の由井芳樹氏らから重大な疑義を指摘されています.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-14 09:02 | コンプライアンス

九州大学病院,UCD患者の肝生検後のアンモニア値検査不実施,死亡事案,3500万円で和解(報道)

毎日新聞「医療事故:女児遺族、九州大と和解」(2015年6月12日)は,次のとおり報じました.
 
「九州大病院(福岡市東区)が適切な検査を怠ったため、尿素サイクル異常症の女児(当時3歳)が死亡したとして、遺族が病院を運営する九大に約5300万円の損害賠償を求めた訴訟は12日、福岡地裁(青木亮裁判長)で和解が成立した。九大が和解金3500万円を支払う。

 訴状によると、女児は2012年5月28日、肝移植を検討するため、肝臓に針を刺して細胞を取る肝生検(かんせいけん)を受けた。母親は、女児が嘔吐(おうと)した翌日午前2時過ぎ、医師にアンモニア値を計る血液検査の必要性を尋ねたが実施されず、3日後に亡くなった。

 遺族側は「検査で高いアンモニア値が出れば対処法があり、検査が遅れた過失がある」と訴えた。九大側は「緊急性はなかった」としていたが、地裁は「検査を怠った過失が認められる可能性は極めて高い」と和解を勧めていた。

 尿素サイクル異常症は、毒性の強いアンモニアを無毒な尿素に変える肝臓の酵素が先天的に欠けるため、アンモニア値を正常に保つ必要があり、肝移植も治療法の一つ。

 女児の30代父親は「和解しても娘は戻ってこない。病院は娘の死を忘れず治療に生かしてほしい」と話した。九大は「コメントはない」としている。【山本太一】」


本件は,尿素サイクル異常症(UCD)患者肝生検実施後の血液検査の必要性,重要性について注意を喚起した和解です.
本件は,私が担当した事案ではありません.
東京地裁では,正当な理由なく公表しない,等の非開示条項がつくことも多く,和解事案をマスコミ公表できないことが多いのです.しかし,和解事案から学ぶことも多いので,むしろマスコミ公表を原則とすべきではないかと思います.

秋吉仁美判事編著「医療訴訟」162頁[浜秀樹判事執筆]では,
 「被告・医療機関側から,和解の成立及び内容等について,非開示条項を加えることを求める場合がある。和解は,紛争を最終的に解決するための合意であり,和解の内容等が公然と広まり,その対応等に追われることを懸念して,非開示条項を求める事情も理解できないわけではないから,相手方との調整を経て,可能であれば,条項に加えることも検討されるべきであろう。
なお,そのような場合,「正当な理由がない限り,第三者に公開しない。」などと,状況に応じた適切な対応の道を残す条項にする場合が多い。
 和解条項に非開示条項が含まれる場合,これを理由に,訴訟記録に秘密が記載されているとして,当該部分の閲覧等の制限を求める(民訴92条)ことが考えられるが,和解条項中の非開示条項の趣旨と,上記閲覧等の制限の要件とは必ずしも一致しないから,別途,検討することになるものと思われる。」

と記載されていました.

高橋譲判事編著「医療訴訟の実務」610頁[鶴岡捻彦判事執筆]では,
「和解による解決の前提として、被告側から、訴訟や和解の内容を外部に公表しない旨の条項を入れることを求められることが少なくない。原告側か、このような条項を入れることを全面的に拒絶することはほとんどないが、これまで相談してきた第三者や、支援者等に、和解により解決をしたことを報告することもできないのは困るといった反応をすることはしばしばある。このような原告の反応には、もっーともなところがあるので、和解条項としては、正当な理由なく公表しないといった文言にするのが妥当な場合が多いであろう。そこで、たとえば、当事者双方は、本件および本和解の内容を、第三者に正当な理由なく公表しないことを相互に約束する。などといった条項を入れることになる。
 なお、この条項に違反があった場合、違反をした当事者に損害賠償義務が発生する可能性はあり得よう。しかし、違反の立証は一般的には困難であろうし、損害についても立証が必要であろうから、その法的効力はそれほど強いものではないと言わざるを得ない。したがって、この条項に過大な期待を抱かせないよう配慮する必要はあると思われる。」

と記載されていました.

これに対し,最近の福田剛久判事(現高松高裁長官)ら編著「医療訴訟」241頁[森冨義明判事執筆]では,
「医療機関側が,マスコミ等による報道やインターネット上の書込みにより,信用が低下し,経営等へのダメージを被ることを防止するため,「原告と被告は,本和解に至る経過及びその内容を正当な理由なく第三者に公表しないことを相互に約束する」との文言(非開示条項)を入れるよう求めることがあり,インターネットによる情報発信が容易になったこともあって,そのような傾向は強くなってきているように思われる。
 何が「正当な理由なく」であるのか一概に判断し得ないこともあって,患者側が非開示条項を入れることに反対することもあるが,和解成立後のインターネット上の書込みが新たな紛争を招来することも想定されることから,非開示条項を入れたとしても,患者側において,親族や協力医に対し,訴訟が和解により終了したことを報告することまで禁止されるわけではない旨(医療機関側においても,当該医療機関の医療従事者や関係行政機関,保険会社等への報告が禁止されるわけではない。)を説明して,当事者の理解を得るようにしている。」

とややニュアンスが変わっているようです.

医療事故については,その事案を適切に解決するのみならず,その解決を医療現場(医師・患者家族)に返すことにより再発を防止することも視野にいれるべきで,「非公表により新たな事故・紛争が生じる可能性」と「公表により新たな紛争が生じる可能性」を比較検討すべきと思います.
私は,基本的に,新たな事故が生じることを防止する目的で公表することは正当な目的にあたり,その手段が相当であれば,「正当な理由」にあたると考えます.

患者さんに満足され医療人も満足する医療の提供ができる病院を目指すはずの九州大学病院が「コメントはない」は,医療者としてどうなんでしょうか.
「和解しても娘は戻ってこない。病院は娘の死を忘れず治療に生かしてほしい」という父親の気持ちに真摯に応えていただきたい,と思います.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-13 02:04 | 医療事故・医療裁判

夏虫色と臙脂色

「さしぬきは、むらさきのこき もゑぎ なつはふたあひ いとあつきころ なつむしのいろしたるもすゞしげなり」(枕草子)
(指貫は紫の濃き 萌黄 夏は二藍 いと暑き頃 夏虫の色したるも涼しげなり)

夏虫色自体は,涼しい色です.
この夏虫色に臙脂色をあわせた本のカバーがあります.
夏草色と臙脂色は,補色関係にあり,強烈で,目立ちます.出版社が書店に置いたときの効果を狙ったのでしょう.
しかし,購入して書棚に置くと落ち着きません.

私が学生の頃読んだ法律の本,我妻榮氏の「民法講義」,團藤重光氏の「刑法綱要」,兼子一氏の「新修民事訴訟法体系増訂版」などは,内容にふさわしい格調高い立派な装丁でした.
時代は変わりました.本は購入したらカバーを捨てるものなのでしょう.

夏虫色と臙脂色のカバーの本は,福田剛久判事(現在高松高裁長官),高橋譲判事と中村也寸志判事の編著「医療訴訟」(最新裁判実務体系第2巻)です.
昨年8月に発刊された本で,現時点のスタンダードです.実際の医療裁判は,判例の集積の上に行われていますので,このように判例を収集・分析した書籍は,必読です.内容は充実しています.補色で目立たせなくても,購入される本です.

野菜煎餅で知られる京菓子司末富本店に暖簾はかかっていません.派手すぎず斬新であること,意匠にはいろいろな要素を加えながらも見た目がスッキリしていて上品であることを追求し,池田遥邨画伯が到達したのが「末富ブルー」の包装紙です.

なお,いささか手前味噌になりますが,前掲「医療訴訟」に廣谷章雄判事が執筆した「注意義務違反」の項の参考文献には,私が書いたものもあげられています.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-11 04:38 | 医療事故・医療裁判

石川県立中央病院,椎間板ヘルニアの手術で神経根を傷つけ痺れ・痛み残した患者に980万円賠償へ(報道)

中日新聞「県立病院で腰手術 後遺症患者に賠償 県側980万円支払いへ」は,次のとおり報じました.

「石川県立中央病院(金沢市)で、腰の手術を受けた患者が後遺症を負ったとして、県側が患者に対し、慰謝料など約九百八十万円の損害賠償を支払うことが分かった。県は九日に開会した県議会の六月定例会に関連議案を提出した。

 病院の説明によると、患者は名古屋市名東区の五十代男性。金沢市内に住んでいた二〇一二年三月、椎間板ヘルニアを再発し、同病院で手術を受けた。その際、担当医が誤って神経根を傷つけたという。

 これにより、男性は尻や太ももにしびれや痛みを発症。二年間にわたり、通院したが、完治しなかった。

 県側は、手術と後遺症との因果関係を認め、損害賠償をする方針を決めた。

 病院の担当者は本紙の取材に、手術前に後遺症のリスクについて説明しているとした上で「医療事故に万全を尽くすのは当然で、一定の過失は間違いない。今後は事故防止に一層、努めていく」と話した。 (前口憲幸)」



本件は私が担当したものではありませんが,私も同様に神経損傷の事案を担当したことがあります.
賠償請求のためには,第1に,誤って神経根を傷つけたという注意義務違反(過失)を,担当医が認めている,または客観的に立証できることが必要です.
第2に,神経根の損傷は,坐骨神経痛を生じ,神経根の支配領域である下肢の痺れ・痛みを生じさせますので,下肢の痺れ・痛みが,時間的近接関係等により神経根を傷つけたことに因るものであることを立証できることが必要です.
第3に,下肢の痺れ・痛みを金銭的に評価する必要があります.金銭的評価は裁判所が用いる方法による必要があります.
医療過誤の基づく損害賠償については,このように,注意義務違反(過失),因果関係,損害という3つの要件を立証できることが必要です.
この3要件の立証が見込まれる場合は,話し合いで,このように示談が成立することも少なくありません.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-10 22:25 | 医療事故・医療裁判

沼津市立病院,カリウム製剤急速静注による患者死亡で2100万円賠償へ(報道)

朝日新聞「賠償額2100万円、沼津市が提案 市立病院の誤注射死亡」(2015年6月10日)は,次のとおり報じました.

「沼津市立病院(同市東椎路)で昨年10月、入院中の女性(当時88)が男性看護師のカリウム製剤の誤注射で死亡したことについて、沼津市は9日、開会した6月定例市議会に損害賠償額として2100万円を支払うための議案などを提案した。

 男性看護師は昨年10月3日夕、主治医の指示で女性にアスパラカリウムを投与する際、誤って希釈せず原液のまま注射し、女性を不整脈で死亡させた。沼津署は今年3月、男性看護師を業務上過失致死の疑いで書類送検している。

 市は昨年11月、男性看護師を停職6カ月の懲戒処分にした。男性はすでに依願退職している。

 後藤信昭病院長は「患者様、ご家族のみなさまには改めて深くおわび申し上げます」との談話を発表した。」


カリウム製剤の添付文書には「カリウム製剤を急速静注すると、不整脈、場合によっては心停止を起こすので、点滴静脈内注射のみに使用すること。」と記載されていますが,最近でもこのような事故が起きています.
本件は私が担当した事件ではありませんが,私も,以前,カリウム製剤の急速静注事件の裁判を担当したことがあります.
過失については争う余地がない類型ですが,医療側が損害を(ときに因果関係も)争うことがあります.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-10 20:06 | 医療事故・医療裁判

「保健医療2035提言書」と「たばこフリー」社会の実現

厚労省は,2015年6月9日,「保健医療2035提言書」を公表しました.その提言書には,以下のとおり「たばこフリー」社会の実現が記載されています.

「「たばこフリー」社会の実現
・ 喫煙予防への介入は、疾病や死亡のリスクの減少や介入の費用対効果に関する科学的根拠が確立している。WHO は、2040 年までに「たばこのない世界」の実現を掲げているが、我が国は、その前倒しを図り、2020 年の東京オリンピック開催までに、受動喫煙のない「たばこフリー」オリンピックを実現することを目指す。このため、東京都と連携し、そのための法律的整理を速やかに行う。また、2035 年までの早期に喫煙者自体をゼロに近づけるため、たばこ税増税、たばこの広告・パッケージ規制、喫煙者に対する禁煙指導・治療、子ども防煙教育のさらなる促進などのあらゆる手段を講ずる。」


たばこ規制法まで視野にいれていただきたかったですが,それでも,喫煙者自体をゼロに近づけることが入ったのはよかったと思います.2020 年までに受動喫煙のない世界を実現したいですね.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-10 08:41 | タバコ

社会福祉法人仁生社江戸川病院,肝生検後の患者死亡で提訴される(報道)

テレビ朝日「「見殺しです」検査2日後に死亡…医療ミスか」(2015年6月9日)は,次のとおり報じました

 「おととし、東京の「江戸川病院」で、25歳の男性が検査を受けた2日後に死亡しました。遺族は、病院に医療ミスがあったとして損害賠償を求めて提訴しました。

 東京・葛飾区の佐藤雅英さんは十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)による出血のため、おととし12月、江戸川病院に検査入院しました。病院で肝臓組織の一部を切り採って調べる「肝生検」の検査を受けましたが、その2日後に死亡しました。
 雅英さんの父親・博義さん(57):「検査後にあっという間に死んでしまった。我々にとって残酷な仕打ち。インフォームド・コンセントですか、一切、ありませんでした」
 死因について病院側は悪性リンパ腫としていますが、遺族は血液中の血小板の数値が低いにもかかわらず、肝生検を実施したため、出血性ショックで死亡した可能性があるとしています。
 雅英さんの父親・博義さん:「(病院側が)何の止血処置もせず、見殺しですよね」
 遺族は6日、病院側を相手に1億2500万円余りの損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。江戸川病院は取材に対し、「訴状を見ていないのでコメントできない」としています。」


本件は,上記報道からは,肝生検を実施すべきではないのに実施したことを過失とする趣旨か,出血性ショックの治療が遅れたことを過失とする趣旨か,判然としません.
前者とすれば,東京地裁平成22年1月22日判決は,以下のとおり,肝生検を実施すべきではない症例で肝生検を実施すしたことを過失と認定しましたので,ご参考になると思います.

「争点(2)(被告B3が肝穿刺を実施したことについての過失の有無)について

原告らは,①肝穿刺実施前のA4の状態は,DICの状態が継続しており,肝穿刺の実施は急激な肝内出血を助長する危険が大きかったこと,②A4のWBC・CRPの数値などの事前のデータからしても,上記腫瘤(腫瘍)が膿瘍である可能性は極めて乏しく,これが胆汁瘻である場合にも,排泄する必要は乏しいことなどからすると,被告B3には,上記腫瘤を膿瘍と誤診し,肝内出血が進行していたA4に対し,急激な肝内出血を助長する危険が大きく,必要性のない肝穿刺を実施した過失がある旨主張するので,以下検討する。

前記1⑶ないし⑸で認定した事実及び証拠(甲B9,12,証人T,鑑定の結果)によれば,A4の前記臨床経過,腹部CT検査(単純CT,造影CT)及びMRI検査からすると,3月1日の肝穿刺が実施された際には,上記肝内腫瘤(腫瘍)は,肝膿瘍や胆汁瘻である可能性も否定できないものの,血腫であることが最も疑われるところであったこと(当時の放射線科医師へのコンサルトの結果では,H医師は,上記肝内腫瘤は,造影CTに高吸収域があり,血腫が最も疑われるとの意見であり,I医師は,MRI検査の結果では,胆嚢の吸収域と近く,胆汁瘻の可能性もあるとの意見であって,MRI検査の結果は,血腫が疑われるとの造影CT検査の所見と矛盾するものではないこと)が認められる。
なお,I医師作成の3月2日付けのMR検査報告書(乙A1の146頁)には,肝前区域に直径7cmの嚢胞性塊があり,その内容は,MRI上,血性とはいえず,外傷機転であれば胆汁性肝嚢胞が疑われ,周囲肝組織の浮腫所見は認められず,膿瘍としては非典型であるとの記載があり,I医師は,MRI検査からは,外傷機転としては肝内胆管損傷による胆汁瘻の可能性が高いと診断するのが妥当であり,次に疑われるものとしては膿瘍の可能性であり,血腫の可能性が高いとは診断できない(乙A12)とするが,これらの証拠はいずれも前記認定と矛盾するものではない。

ところが,被告B3らは,上記肝内腫瘤(mass)は,血腫や肝膿瘍の可能性があるものの,感染を伴う胆汁瘻が最も疑わしいと判断し,A4が感染を伴っており,それによる発熱や疼痛がみられる状態であれば,化学療法等の影肝穿刺実施前に肝内の腫瘤(腫瘍)は血腫であることが最も疑われていたため,響によってWBC数が更に減少していくことが予想され,感染症により重篤な事態に陥る危険性が高く,化学療法の継続も難しくなることから,感染を伴う胆汁瘻や肝膿瘍であれば緊急に穿刺して排出する必要があると判断して,A4に対する肝穿刺を決定したのであり,被告B3らが,上記のとおり肝内腫瘤は血腫であることが最も疑われるにもかかわらず,感染を伴う胆汁瘻が最も疑わしいと判断し,A4に対する肝穿刺を実施したことは不適切であったといわざるを得ない。

そして,仮に被告B3らが上記肝内腫瘤は血腫であることが最も疑われると判断した場合には,診療経過等に照らすと,A4はDICあるいはDICの疑いがあり,オルガラン(血液凝固阻止剤)を継続的に投与されている状態であるにもかかわらず,遅発性の出血が生じていることが疑われ,A4に出血傾向がある可能性が高いことになるから,3月1日の時点では肝穿刺を実施すべきではなく,実際にもこれを実施しなかったものと認められる。
このことは,前記のとおり,被告B3は,肝穿刺の実施により上記肝内腫瘤が血腫であることを確認した後,原告A1に対し,血腫の疑いがあり,このまま保存的に経過観察すること,血腫が増大傾向ならば,血管造影,手術等をも考慮すること,今後感染等があり,肝膿瘍へ移行する可能性があり,その際には穿刺することを説明したこと,B2病院のF医師も,原告A1及び原告A3に対し,CT,MRIからは,80から90%血腫が考えられ,事前にこれらをみていたら,穿刺は指示せず,経過観察を指示したと思うと述べていることからも,明らかというべきである(なお,A4の2月14日のDICスコアは7点,2月15日のDICスコアは8点であったこと,被告B3らは,3月1日のDICスコアは5点であり,白血病及び類縁疾患,再生不良性貧血,抗腫瘍剤投与後などの骨髄巨核球減少が顕著で,高度の血小板減少をみる場合に当てはめた場合には6点となり,DICの疑いがある状態と判断していたこと(乙A9,被告B3)は前記認定のとおりである。また,鑑定人U1の鑑定意見では,3月1日の時点で,A4は,FDPが上昇し,プロトロンビン,凝固の機能が低下していることから,DICの状態にあったとされている。)。

本件における鑑定の結果をみても,鑑定人U2の鑑定意見では,肝内腫瘤(腫瘍)について血腫の可能性が高く,背景にDICがあり,抗凝固剤が投与されている状態で,出血しやすい肝穿刺をするのは,相当の理由がないと許されないとされているところであり,血腫が感染している可能性があるとしても,抗生剤の投与によって対応し,肝穿刺を実施すべきではなかったとされている。

また,鑑定人U1の鑑定意見でも,A4の場合には,血腫が鑑別診断の第一に挙げられ,肝穿刺を実施した場合には,そこからの出血と腹腔内出血等の合併症が起きる可能性が高いことからすると,肝穿刺を行う前に,より侵襲の少ない血管造影検査あるいはMR胆道造影などによる質的診断を行うべきであり,そして,感染症の可能性に関しても,本件における肝膿瘍の起炎菌は基本的に腸管から由来する菌であり,スペクトルも決まっているため,必ずしも肝穿刺を実施して菌を同定しなくとも,抗生剤で対応することができ,リンパ腫の影
響によるWBCの低下についても,G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)投与により対応できた可能性が高いから,肝穿刺を実施したことは不適切であり,このことは仮に血腫が感染している可能性がある場合も同様であるとされている。

さらに,鑑定人U4の鑑定事項に対する意見の要旨では,肝穿刺の適応については不適切とはいえないとされているものの,鑑定意見では,A4の発熱が以前から認められていたこと,CRPが2.3程度の軽度の上昇にすぎなかったことから,緊急に3月1日の夕方に肝穿刺を行う理由は乏しく,血管造影を実施したり,抗生剤を投与したりすること等による,保存的治療(内科的治療)も可能である,仮に血腫が感染している可能性がある場合も同様であり,肝穿刺を実施する前に,動脈性出血が否定的であること,発熱の原因が肝内血腫の
感染以外に考えられないことを確認すべきであるとされているところである。

これに対し,鑑定人U3の鑑定意見では,肝穿刺を行わずに保存的治療を行う選択もあり,後からみれば,もう少し穏当にやっていた方がよかったという意見が大勢を占めるのはやむを得ないが,その時点の主治医の判断を尊重したいとして,被告B3が肝穿刺を実施したことは適切であると結論されるものの,3月1日のA4の感染の症状について,発熱に関しては以前からあり,この発熱をもって感染症が進行したとはいえない,CRPの上昇もわずかであることを考えると,この時点で,非常に重篤な感染症があったと判断するだけの材料はないが,その日に感染の兆候が明らかでないとしても,A4は全身状態が悪い状態であることからすると,血腫に感染があり,数時間の経過で病状が変わらないとは断言できないから,感染の可能性が高く,穿刺の必要性があるといった主治医の判断は,少し後からみると問題なしとしないが,瑕疵があるというほど責められる判断ミスではないとされている。したがって,鑑定人U3の鑑定意見は,その結論はともかく,その前提となっている医学的知見及び医学的評価については,他の鑑定人らの鑑定意見と対立するものではないというべきである。

加えて,3月1日午前6時30分ころに採取された血液の培養検査の結果では,そのうちの1本からR-CNS(メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)が検出されているところ,鑑定人U2の鑑定意見では,血液をボトルに入れる際に検体外から菌が入ってしまうコンタミネーションということがしばしばあり,特に上記菌は肝膿瘍の起因菌として主要なものでなく,コンタミネーションがあり得る菌であるから,そのことを積極的な根拠として肝膿瘍を強く疑うことはしないとされているところであり,他の鑑定人らの意見もこれと同趣旨である(なお,被告らは,各鑑定人の鑑定意見は,実際と異なり,肝穿刺により得られた血腫からの血液培養であることが前提となっている旨主張するが,鑑定人U2の鑑定意見では,MR-CNSは肝膿瘍の起因菌として主要なものではなく,血液をボトルに入れる際に生じたコンタミネーションであると指摘されているところであり,これは必ずしも肝穿刺の手技を前提とするものではないから,被告らの上記主張は,鑑定人U2の上記意見の相当性を左右するものではない。)。

これらのことからすれば,それまでの臨床経過,腹部CT検査,MRI検査の結果等からすると,A4の肝内病変(肝内腫瘤)は,胆汁瘻や肝膿瘍である可能性も否定できないものの,血腫であることが最も疑われる状態であり,仮にA4に感染の可能性や疑いがあったとしても,抗生剤の投与等により対応可能な状態であり,緊急に肝穿刺を実施しなければならない必要性は必ずしも高くなく,他方で,A4はDICあるいはDICの疑いがあり,オルガラン(血液凝固阻止剤)を継続的に投与されている状態であり,しかも,A4の肝内病変は血腫であり,遅発性の出血が生じていることが疑われることから,肝穿刺を実施した場合,これにより腹腔内出血等の合併症が生じる高度の危険性があり,少なくとも3月1日の時点では,抗生剤の投与等による保存的療法(内科的治療)を行い,肝穿刺を実施すべきではなかったといえる。したがって,それにもかかわらず,被告B3らが,A4の肝内病変(肝内腫瘤)は感染を伴う胆汁瘻が最も疑わしいとして,A4に対する肝穿刺を実施したことには,当時の医療水準に照らしても,過失があるというべきである。

なお,被告らは,①A4はHPSを合併したSPTCLに罹患し,その治療目的でCHOP療法を行っていたことから,WBCが減少しており,肝内腫瘤(腫瘍)が胆汁瘻又は肝膿瘍であった場合,感染症等の発症から敗血症への移行が予想され,致死的な状態に陥ることに加えて,3月1日午前に採取された血液培養からR-CNSが検出されており,感染の可能性が極めて高かったこと,②肝穿刺を行った時点でのA4の凝固能は肝生検を行った時点よりも改善しており,更に血小板輸血まで実施して肝穿刺を行っており,リスクが大き
いものではなかったことなどからすると,被告B3が肝穿刺を実施したことに過失はない旨主張し,証拠(乙A9,14,乙B3,4,被告B3)にはこれに沿う部分がある。

しかし,これらの証拠はいずれも,A4の臨床経過,腹部CT検査,MRI検査の結果等によれば,胆汁瘻や肝膿瘍である可能性は否定できないものの,最も疑わしいのは血腫であること,A4はDICあるいはDICの疑いがあり,オルガラン(血液凝固阻止剤)を継続的に投与されている状態であることなどの前記認定事実を前提としないものであって,にわかに採用することができないというべきである。加えて,上記で認定判断したとおり,3月1日当時のA4の病態は,仮にA4が感染症に罹患していた可能性があるとしても,必ずしも肝穿刺によって菌を同定しなくとも,抗生剤の投与等により対応できる可能性があったと認められるから,少なくとも,3月1日の時点において,血腫であることが最も疑われるA4の肝内病変(腫瘤)に対して,腹腔内出血等の合
併症が生じる高度の危険性がある肝穿刺を実施する必要性があったとは認めることができない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
以上によれば,被告B3が肝穿刺を実施したことには過失があるというべきである。」


「争点(4)(各過失と結果(A4の死亡)との間の因果関係の有無)について

被告B3が肝穿刺を実施した過失とA4の3月2日の死亡との間の因果関係について検討する。

まず,前記1⑷,⑸で認定した事実によれば,A4は,肝穿刺後,腹腔内出血が生じていることが認められるところ,腹腔内出血の原因について,鑑定人U2の鑑定意見では,解剖の結果,穿刺部位以外に出血源がないことから,肝穿刺がA4の腹腔内出血の原因であるとされ,鑑定人U1及び同U4各鑑定意見でも,腹腔内出血の原因は,肝穿刺であるとされているところである。また,鑑定人U3の鑑定意見では,心肺蘇生措置の際に肝血腫が破綻した可能性が高いとされているものの,肝穿刺との関連性は否定できないとされている。
前記解剖の結果のほか,上記各鑑定意見からすると,A4の腹腔内出血は,被告B3が実施した肝穿刺が原因となって生じたと認めるのが相当である。

次に,A4の死亡原因について,鑑定人U2の鑑定意見では,3月1日のA4の夜の急変時の臨床所見はショックであるが,昇圧剤への反応がないこと,HGBが3.2と著明に低下していること,解剖所見上,穿刺部に一致した肝表面の出血とそれに連続する肝内の比較的新鮮な血腫があり,その他に出血がなかったことから,A4の死亡原因は,肝穿刺が原因の腹腔内出血によるショック死であるとされているところであり,鑑定人U1の鑑定意見においても,腹腔内出血によって,急速にHCTが低下し,循環不全となって死亡したものと考えられるから,A4の死亡原因は,肝穿刺による腹腔内出血であったと考えるのが合理的であるとされている。鑑定人U4の鑑定意見では,剖検では腹腔内に1550mℓ の出血が認められているものの,この程度の出血量では,基礎疾患のない症例であれば,出血性ショックの状態には陥っても急死するには至らない可能性も十分あるが,急速な出血であれば高度の血圧低下から急性心不全へ進行してもおかしくないと考えられ,本症例では,A4に重篤な基礎疾患があり,それに対する化学療法が施行された状態で,全身状態が不良であったと考えられ,そこに出血性ショックが加わったため短時間に死に至ったと考えられるとされており,臨床経過的に悪性リンパ腫の増悪やDICの悪化による多臓器不全や化学療法の有害事象による死亡は否定的であるし,剖検所見でも他に急変死の原因となる疾患の存在は否定的であるとされているところであり,死亡原因は,肝穿刺が契機となった腹腔内出血による出血性ショックであるとされている。さらに,U3鑑定人の鑑定意見では,本件における死亡の原因は,SPTCLによる腫瘍死であるとされているが,これ,SPTCLという腫瘍があった故に起きた事象であり,最後の一瞬起きた事象だけをとらえてそれが死因であるというのは違和感を感じるからそのように判断したものであって,死に至った引き金が腹腔内出血によるショックであり,出血性ショックが心停止に関連していたことを否定するものではないとされているところである。

これらの事情からすれば,A4は,被告B3が実施した肝穿刺による腹腔内出血が原因となって死亡したと認めるのが相当である。

さらに,肝穿刺とA4の死亡との関係について,鑑定人U2の鑑定意見では,一般的に,リンパ腫は化学療法に反応することが多い上,化学療法実施後のA4のLDHの下がり方からすると,化学療法による寛解が期待できる可能性があり,A4が感染により死亡する危険性は取り分け高いわけではなく,A4が現在生存している可能性もあったとされている。鑑定人U1の鑑定意見では,非常に低い確率ではあるが,肝穿刺をしなくとも出血した可能性はあるが,肝穿刺をしていなければ,化学療法がある程度は奏効して,A4は3月2日に死亡せず,数か月生存した可能性が高いとされているところである。鑑定人U4及び同U3の鑑定意見でも,肝穿刺を実施なくとも腹腔内出血に至っていた可能性はあるものの,肝穿刺が実施されていなければ,3月2日の時点でA4が生存していた可能性は高いとされている。

以上のことからすると,被告B3が,肝穿刺を実施していなければ,A4が死亡した3月2日の時点においてなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当である。なお,A4の病態等に照らすと,肝穿刺を実施しなくとも,腹腔内出血が生じて死亡した可能性があることは否定できないとしても,本件腹腔内出血が生じて死亡した可能性があることは否定できないとしても,本件では肝穿刺によって腹腔内出血が生じたと認められる以上,上記認定判断を左右するものではない。

これに対し,被告らは,①1550mℓ という腹腔内の出血量からは,腹腔内出血が死亡の原因となったとは考え難いこと,②HPSを合併したSPTCLによる影響が強く示唆され,CHOP療法により肝組織に浸潤していた腫瘍が縮小することにより出血した可能性もあり,DICあるいはDIC疑いの状態にあったことから,穿刺部以外からの出血の可能性も否定できないこと,③HPSを合併したSPTCLを罹患したA4の肝生検後の遅発性血腫の予後は好ましくないことなどから,肝穿刺とA4の死亡との間に因果関係はない旨主張し,証拠(乙A9,14,乙B3,4,被告B3)にはこれに沿う部分がある。

しかし,上記の認定判断に加え,被告ら提出にかかる乙B第4号証においても,臨床経過から本件患者の死亡原因はSPTCLによる腫瘍死を第一に考えるが,直接的な死因としては,腹腔内出血による出血性ショックと評価されると結論し,解剖において確認された腹腔内出血量はそれ自体では致死的な量とはいえないが,本件患者の場合には,SPTCL(HPS合併,IPI-Highリスク)の基礎疾患があり,PS(パフォーマンス・ステータス)4(身の回りのこともできず,常に介助を要し,終日就床を必要とする状態)と全身状態が極めて不良な状態で,腹腔内出血に至ったために死亡するに至ったものと評価できるとされているところであり,これらに照らすと,上記各証拠はいずれも採用することができず,ほかにA4が肝穿刺による腹腔内出血以外の原
因により死亡したと認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

以上によれば,被告B3が肝穿刺を実施した過失と,A4が3月2日に死亡したこととの間には因果関係があるというべきである。」



谷直樹

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by medical-law | 2015-06-10 01:08 | 医療事故・医療裁判

獨協医科大学越谷病院,肺がん手術の止血の糸が外れ大量出血で死亡した事案で提訴される(報道)

埼玉新聞「「止血の糸外れ死亡」春日部・男性の遺族、独協医大病院を提訴」(2015年6月8日)は,次のとおり報じました.

「2013年に独協医科大学越谷病院で肺がん手術を受けた春日部市の男性=当時(68)=が死亡したのは病院側の医療ミスが原因だったとして、男性の妻らが8日、同病院を運営する学校法人独協学園と担当医を相手取り、約5600万円の損害賠償を求めてさいたま地裁に提訴した。

 訴状によると、男性は13年6月5日、同病院で肺の腫瘍を摘出する手術を受けた。肺の血管を切断する際、止血のために縛った糸が緩んで外れ、肺動脈から大量に出血。翌6日午前に出血性ショックで死亡した。担当医が止血の際に血管を二重に縛らなかったのは、不完全な処理で注意義務を怠ったとしている。

 原告側弁護団の猪股正弁護士によると、病院側は出血性ショックの原因は糸が外れたためとしているものの、血管処理について「判断に落ち度はなく、手技的なミスはなかった」と説明しているという。

 猪股弁護士は「止血するための糸が外れたら患者の命に関わる。肺血管を処理する際に二重、三重に縛らなかったたのは単純なミスで病院側の責任は重い」と主張。その上で、これまで肺動脈の血管処理で同様の方法を施してきたという病院側の説明に対し「標準的な知見から逸脱している。同様の事故が今後、発生する危険があり看過できない」と訴えた。

 同病院の牧尚伸庶務課長は取材に対し「まだ訴状を見ていないのでコメントはできない」としている。病院によると、担当医は14年6月30日付で依願退職しているという。」


産経新聞「肺がん手術で死亡の男性遺族が医師と獨協医大越谷病院提訴」(2015年6月9日)は,つぎのとおり報じました.

「平成25年に獨協医大越谷病院(越谷市南越谷)で肺がん手術を受けた春日部市の男性=当時(68)=が出血性ショックで死亡したのは、医療ミスが原因だったとして、男性の妻らが8日、同院と当時の担当医を相手取り、約5600万円の損害賠償を求める訴えをさいたま地裁に起こした。

 原告側代理人によると、男性は25年6月5日に行われた手術で、肺の血管を切断する際に止血のために縛った糸が緩んで外れ、肺動脈から大量出血。6日に出血性ショックにより死亡した。代理人は「病院は血管の2カ所を縛る方法を採用したが、糸が緩めば大量出血が起こる可能性の高い肺血管の処理については、3カ所を縛る方法で行うべきだった」と主張。病院は「過去にも同様の方法で対応しており問題はなかった」と回答したという。

 遺族らは同日さいたま市内で会見し、男性の長女は「この病院で手術を受けたことを今でも悔やんでいる。父が戻ることはないが、病院はミスを認め真摯(しんし)に再発防止に取り組んでもらいたい」と話した。

 同院の牧尚伸庶務課長は「訴状を見ておらずコメントできない。担当医は26年6月30日付で依願退職したので、病院としてのコメントは出せない」としている。」

この報道の件については私は担当していませんが,以前に私が担当した別の病院の事件と似ています.肺動脈の断端の結紮はしっかり行う必要があります.単結紮は,糸が外れる危険がありますので,動脈の断端の結紮には適しません.二重結紮、三重結紮でも糸が外れることがあります.刺通結紮は,最も糸が外れにくい方法です.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-09 03:00 | 医療事故・医療裁判

日本肝移植研究会、神戸国際フロンティアメディカルセンターの生体肝移植問題について意見書

神戸国際フロンティアメディカルセンターの生体肝移植は、再開後の患者(63歳)も死亡し、これで5人の患者が亡くなったことになります.
執刀した田中紘一理事長は,医療ミスを否定し、移植手術を続けると述べた、と報じられています.

日本肝移植研究会は、神戸国際フロンティアメディカルセンターの生体肝移植患者が他施設の移植患者と比べて状態が悪いとは言えず、難易度が高くない手術で死亡したことが問題だとする意見書をまとめた、とのことです.
日本移植学会は、日本肝移植研究会と合同で中止を求める声明を発表する、とのことです.


谷直樹

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by medical-law | 2015-06-08 01:34 | 医療事故・医療裁判