弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

<   2019年 09月 ( 30 )   > この月の画像一覧

京田辺市の医院の帝王切開時の麻酔事故,京都地裁で和解(報道)

産経新聞「出産時の麻酔ミスで母子植物状態、夫らと産院が和解 京都地裁」(2019年9月27日)は,次のとおり報じました.
「帝王切開で出産しようとした際に、麻酔のミスで妊婦だった女性(40)と生まれてきた長女(3)がともに寝たきりの植物状態になったとして、女性の夫(39)らが、京都府京田辺市の医院「ふるき産婦人科」(平成29年に休院)に約3億3千万円の損害賠償を求めた訴訟が、京都地裁(藤田昌宏裁判長)で和解が成立したことが27日、分かった。和解は19日付。

 和解内容は非公表だが、原告代理人によると、医院側からの解決金と謝罪が盛り込まれているという。

 訴状などによると、女性は28年5月に同医院に入院。帝王切開での出産のため、医師から硬膜外麻酔を受けたが、直後に意識不明となり、首から下が動かない状態となった。長女も出産直後から意識不明で、脳に回復困難な損傷を受けたと診断され、夫らが損害賠償を求め提訴していた。

 同医院での出産をめぐっては、出産時に麻酔で痛みを和らげる無痛分娩(べん)の際に母子が重度の障害を負ったとして、他に1件の損害賠償請求訴訟が京都地裁で係争中。」



報道の件は私が担当した事件ではありません.
大阪高裁で1件和解が成立していますので,同医院の係争中の分娩時の麻酔事件はあと1件です.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-30 17:16 | 無痛分娩事故

鈴の屋忌(宣長忌)

本居宣長氏は享和元年9月29日(1801年11月5日)に亡くなりました.今日は鈴の屋忌(宣長忌)です
本居宣長氏が開業医(小児科)であったことはよく知られています.開業医として成功をおさめましたが,「医師は男子本懐の仕事ではない」と述べています.
本居宣長氏の25歳のときに14歳の女子をみそめ,後に離婚してまで結婚したのは反儒教的です.その経験が源氏物語の「もののあわれ」を高く評価することにつながっていると思います.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-29 20:02 | 趣味

小倉遊亀「浴女その一」「浴女その二」

『美の巨人たち』で,105歳で鎌倉で亡くなるまで新しい表現に挑戦し続けた小倉遊亀(ゆき)氏の「浴女その一」「浴女その二」」をみました.
昭和13年・43歳の出世作「浴女その一」と翌年の「浴女その二」,そして晩年「聴く」が紹介されていました.
ちなみに,富山県水墨美術館で,2019年9月13日から11月4日まで,休館中の滋賀県立近代美術館の所蔵作品による「小倉遊亀と院展の画家たち展」が開催されています.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-28 23:49 | 趣味

因果関係が立証できない場合の損害賠償

医療過誤に基づく損害賠償請求は,過失,因果関係,損害の要件を立証することが必要です.そのため,過失と損害は立証できるが,因果関係(高度の蓋然性)について立証ができないときがあります。

死亡事案について,最判平12・ 9 ・22(民集54巻7号2574頁)は,「医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。」と判示しました.
また,最判平16・ 1 ・15(集民213号229頁)は,「甲の病状等に照らして化学療法等が奏功する可能性がなかったというのであればともかく,そのような事情の存在がうかがわれない本件では,上記時点で甲のスキルス胃癌が発見され,適時に適切な治療が開始されていれば,甲が死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったものというべきである。」と判示しました.
判例は,過失と損害が高度の蓋然性で立証でき,因果関係について相当程度の可能性の存在が証明されるときは賠償責任を肯定していると言えます.

重度の障害(日常生活全般にわたり常時介護を要する状にあり,精神発育年齢は2歳前後で,言語能力もない)の事案で,最判平15・11 ・11(民集57巻10号1466頁)は ,「本件診療中,点滴を開始したものの,上告人のおう吐の症状が治まらず,上告人に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり,これに不安を覚えた母親から診察を求められた時点で,直ちに上告人を診断した上で,上告人の上記一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る,高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ上告人を転送し,適切な治療を受けさせるべき義務があったものというべきであり,被上告人には,これを怠った過失があるといわざるを得ない。」「その転送義務に違反した行為と患者の上記重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受けていたならば,患者に上記重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う」と判示しました.
大阪地判平19・11・21は両眼失明の事案で,東京地判平20・1・21は左大腿切断の事案で,それぞれ相当程度の可能性を認定し,損害賠償を認めました.

その相当程度の可能性も立証できない場合があります.いわゆる期待権侵害として賠償責任を肯定できるか,が問題になります.
最判平23・2・25は,「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものであるところ,本件は,そのような事案とはいえない。」と判示しました.
「当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまる」ことから,期待権侵害が認められる場合はきわめて限定されることになります.

福岡地判平25・11・1は,「診療契約上の債務不履行があると認められ,それについて責めに帰すべき事由がなかったと認めるに足る証拠はない」と判示し,大腸癌に罹患していることの確認が約半年遅れたのであるから,著しい精神的苦痛を被ったと認定し,精神的苦痛を慰謝するには180万円が相当であるとし,弁護士費用20万円とあわせ,200万円の損害賠償を認めました.最判平23・2・25については,不法行為についてのものと射程を限定しています.

結局,上記判例から, 過失と損害は立証できるが,因果関係(高度の蓋然性)について立証ができないときは,死亡と重度の障害事案であれば,相当程度の可能性を立証すれば,金額は少ないですが,損害賠償が認められる,さらにその相当程度の可能性も立証できない場合は,診療契約上の債務不履行があると認められ,それについて責めに帰すべき事由がなかったと認めるに足る証拠はない場合で,著しい精神的苦痛を被ったことを立証できるときは,損害賠償が認められることになります.

また,不法行為構成と債務不履行構成で実質的な差違は大きくないとされていますが,因果関係が立証できない場合には大きな違いがあると考えられます.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-28 17:10 | 医療事故・医療裁判

定家葛

定家葛(テイカカズラ)は,能楽『定家』に由来する名前です.
能楽『定家』は,式子内親王(1149年生)に藤原定家(1162年生)が執心し,蔦となって墓に絡みつくという内容です.僧侶がお経を読み,いったんは離れるのですが,結局蔦は墓に絡みついて終わります.フィクションとは言え濃厚なホラーです.
定家は, 仁治2年8月20日(1241年9月26日)に亡くなりました.
定家忌は陰暦8月20日で季語になっています.命日は今日9月26日です.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-26 17:12 | 趣味

旭川副腎摘出訴訟第1回期日報道

NHK「副腎摘出手術で提訴 初口頭弁論」(2019年9月24日)は次のとおり報じました.

おととし旭川市の病院で、20代の女性が副腎の摘出手術を受けた際、異常のない左側を摘出されたとして、医師と病院に対し損害賠償を求める裁判を起こしました。病院側は24日の初めての口頭弁論で、適切な検査に基づく手術だったとして訴えを棄却するよう求めました。

訴えを起こしたのは旭川市の20代の女性です。
訴えによりますと、女性はおととし、旭川赤十字病院で副腎の摘出手術を受けた際、医師は事前の検査で右側の副腎に腫瘍があるのを把握していたにもかかわらず、異常のない左側を病巣だとして摘出したとして、医師と病院におよそ6300万円の損害賠償を求めています。
24日、初めての口頭弁論が旭川地方裁判所で開かれ、病院側は、事前の検査で左側の副腎が病巣であると結論づけたことは適切で、その結果に基づいて手術を行った医師に過失はなかったとして、訴えを棄却するよう求めました。
次の裁判は、11月8日に開かれる予定です。」


上記報道の訴訟は私が担当しているものではありません.
副腎摘出の損害額が争われるのかと思いきや,過失自体を否定しています.
事前の検査で左側の副腎が病巣であると結論づけたことは適切という言い方からすると,事後的には左側副腎には病巣がないが,病巣があると術前判断したのは適切だ,という主張のように読めますが,そのようなことはあり得るのでしょうか?

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-25 17:41 | 医療事故・医療裁判

福島県立医科大学附属病院,両下肢麻痺の医療事故を公表

福島県立医科大学附属病院は,201年9月12日,医療事故の発生を公表しました.2019年7月に同院で実施した手術において両下肢麻痺が出現する重篤な医療事故が発生したとのことです.
同院の公表した事実は限定的なため,原因等は分かりません.いずれ調査委員会の報告が公表されると思います.なお,この事故は当職が担当しているものではありません.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-24 02:02 | 医療事故・医療裁判

三夕

b0206085_16484857.jpg

もう秋分です.
秋と言えば夕暮れです.
新古今和歌集の中の「秋の夕暮」を結びとする和歌のなかでもとくに優れた三首の和歌を「三夕」と言います.

「さびしさはその色としもなかりけり 槙立つ山の秋の夕暮」(寂蓮)
「心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮」(西行)
「見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕暮」(定家)


紅葉の美しさは誰もが認めますが,寂蓮は,敢えて常緑樹の山を歌っています.
西行の歌は,旅の途中,今の藤沢市大庭のあたりで詠んだものです.自然な歌です.
寂蓮は「さびしさ」,西行は「あわれ」(心が動くこと)をそれぞれ上の句に詠み込んでいますが,定家は純粋に情景描写に徹しています.「なかりけり」と無いものを際立たせることで,桜,紅葉を想い起こさせる手法はまさしく定家です.

三夕には,従前の歌にはなかった新しい視点,感覚があります.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-23 16:52 | 趣味

医療裁判における「因果関係」

民法第709条は,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています.
最初の「よって」は責任成立要件としての因果関係,次の「よって」は損害賠償の範囲としての因果関係を定めたものです.
つまり,「よって」という文言から,「因果関係」が損害賠償の要件であることが分かります.
医療過誤に基づく損害賠償を請求するためには,単に過失(医療ミス)があるだけでは足りず,「損害」と「因果関係」があることが必要です.

「因果関係」とは,特定の結果が特定の事実によって生じた関係です.原因と結果の関係にあることです.あれなければこれなし,という条件関係は,事実的因果関係そのものではなく,条件関係自体の立証は必要ありません.条件関係の前提となる事実的因果関係の存在を立証することが必要とされています.

医療裁判では,悪しき結果が医師の過失行為(作為ないし不作為)によるものとの帰責判断(これは法的価値評価です)を行う前提として,「因果関係」の立証が求められています.したがって,そのために必要な範囲での経過を主張・立証すれば足ります.一連の因果の経過のすべてを立証することまでは求められていません.医学的なメカニズム・機序と因果関係はイコールではないのです.
医師の原因行為から患者に生じた悪しき結果までの因果の経過について,その基本的な骨格部分を主張・立証すれば足りる,とされています.

損害賠償の要件として求められている「因果関係」は,一般的な言葉では「関連性」とほぼ同じことを意味することになります.
立証責任が原告(患者)側にあることから,関連性は否定できない,というレベルでは立証は十分ではありませんが,自然科学的に関連性を立証することまでは求められていません.

最判昭50・10・24(民集29巻9号1417頁,ルンバール事件)は,「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」と判示しています.
最判昭50・10・24は突然の痙攣を伴う意識混濁で始まった発作とその後の病変が化膿性髄膜炎の再燃ではなくルンバールによって生じたものと認定しました.

ルンバール判決はルンバールという作為の事案ですが,より「因果関係」立証が難しい不作為の事案でも同様に考えられています.
最判平11・ 2 ・25(民集53巻2号235頁,肝細胞癌早期発見義務違反事件)は,最判平11・ 2 ・25を引き,「右は、医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断においても異なるところはなく、経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、医師の右不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると、医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。患者が右時点の後いかほどの期間生存し得たかは、主に得べかりし利益その他の損害の額の算定に当たって考慮されるべき由であり、前記因果関係の存否に関する判断を直ちに左右するものではない。」と判示しました.

医療裁判における「因果関係」立証はとても大変です.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-22 16:41 | 医療事故・医療裁判

宮澤賢治忌

今日9月23日は宮澤賢治忌です.
異常な暑さ,大雨,台風が続いた令和元年ですので

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ


を想起します.

原詩は,

丈夫ナカラダヲモチ

と続くのですが,

総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り

と続けたいところです.


なお,この詩は

北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ


と権利行使である訴訟を喧嘩と同列に扱い,つまらないとして止めさせる点がひっかかります.
しかし,これは父政次郎氏が調停委員を長く務めていたことから,調停をまとめてきた父を理想としたフレーズでしょう.裁判は,ほんとうのみんなの幸いのためにあるものです.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村


by medical-law | 2019-09-21 23:52 | 趣味