弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京地裁平成26年12月5日判決,未破裂動脈瘤手術の説明義務違反を認める(報道)

産経新聞「病院の説明不足、賠償命令 手術ミスは認めず」(2014年12月5日)は次のとおり報じました.

「富山県黒部市の黒部市民病院で動脈瘤の手術を受けた女性(68)と家族が「医療ミスで認知症になった」として市に8千万円余りの損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は5日、医師の説明義務違反を認めて220万円の支払いを命じた。手術ミスはないと判断した。

 判決によると、女性は平成21年3月、市民病院での検査で脳動脈瘤と診断され、同年11月に動脈瘤の破裂を防ぐ手術を受けた。術後に意識障害が残り、22年に認知症と診断された。

 森冨義明裁判長は「担当医師が手術の内容や危険性を分かりやすく正確に説明したとはいえない。手術を受けず経過観察を選んでいれば障害が残らなかった可能性もあった」と指摘した。黒部市民病院は「判決が届いておらずコメントできない」としている。」


東京高裁平成11年5月31日判決(判時1733・37)は,「脳AVMのように,保存的療法によるか外科的療法によるか優劣に議論があり,しかも手術により死亡若しくは重大な後遺症の発現する可能性が無視し得ない程度に存在するという場合には,医師において,患者の病状,手術の内容と危険性,保存的療法と手術の特質等について,患者が手術によるか保存的療法によるかを自由かつ真摯に選択できるよう説明をする義務があることはいうまでもなく,とりわけ医師の側において当該施設における同種症例の手術結果について一定の経験と知見を有している場合には,単に手術の危険性について抽象的,一般的な説明に止まることなく,適宜それらの手術実績に基づく知見をも情報として示すなどし,患者が当時における保存的療法と外科的療法双方の予後,危険性等について適切な比較検討をなし得るため,十分な具体的説明を行うべき義務があるというべきである。」と判示しました.

また,東京高裁平成21年6月25日判決(確定)は,人工血管置換手術の事案ですが,「一般に,医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するにあたっては,診療契約にもとづき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,ほかに選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて,説明すべき義務があると解される。この説明は,患者が自らの身に行われようとする療法(術式)につき,その利害得失を理解したうえで,その療法を受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるために行われるものであり,医療水準として確立した療法が複数存在する場合には,患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮のうえ,判断することができるような仕方で,それぞれの療法の違い,利害得失をわかりやすく説明することが求められる(最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。」と最高裁判決を引いて,「患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮のうえ判断することができるような仕方で,それぞれの療法の違い,利害得失をわかりやすく説明する義務」を認めています.

医師が手術の内容や危険性を分かりやすく正確に説明する義務は,このように判例上認められています.

谷直樹

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# by medical-law | 2014-12-08 18:53 | 医療事故・医療裁判